2025年の偽・誤情報、ファクトチェック、認知戦 何がどのように広がったか
1年前に2024年のファクトチェックの状況を振り返る記事を書いた際に「2024年はこれまで以上に大量の誤情報/偽情報が拡散した」と述べました。残念ながら、2025年は状況の悪化がさらに加速しました。
全体状況や2025年に特に注目すべきテーマを解説します。
偽・誤情報の増加とファクトチェック
「偽・誤情報は実際にどれだけ拡散しているのか」という問いに直接答えるのは困難です。
真偽不明の情報は、YouTube、TikTok、X、Instagram、LINEオープンチャット、Telegramなど多数のプラットフォームにまたがって無数に広がっています。しかし、それらが本当に偽・誤情報かは検証しなければ確認できません。すべての情報を検証することは不可能なため、偽・誤情報の総量を掴むことも不可能です。
確実に言えるのは、日本ファクトチェックセンター(JFC)が2025年の1年間で公開したファクトチェック記事は365本で、2023年173件、2024年330本から右肩上がりが続いているということ。
これはJFCが体制を強化したというだけでなく、JFCが目にする怪しい情報が、飛躍的に増えているからです。

政治系動画の急増
検証対象となった話題として、もっとも多かったのは政治で42.5%に及びました。東京都知事選、総選挙、兵庫県知事選と注目の選挙が続いた2024年の32.1%を超えています。

これは2024年に選挙でのYouTube活用が広がったことで、ソーシャルメディアで選挙や政治に関する投稿を見る人が増え、それによって政治系動画を作る人も増えたことが理由と考えられます。
JFCではこれまで検証の対象となるのはXの投稿が中心でした。しかし、2025年に入って、TikTokやYouTube発祥の言説を検証することが増えています。
今年の参院選でも、政党や候補者や報道機関だけでなく、多くの独立系YouTuberが動画を配信し、視聴数上位はそれら独立系の動画が多くを占めていました。

参院選でのファクトチェックの増加
2025年の参院選で注目すべきは、偽・誤情報の拡散だけでなく、それらを検証するファクトチェック記事の増加でした。
NPO「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」のまとめによると、180件を超える検証記事がファクトチェック組織だけでなく、全国の新聞社やテレビ局などから発信されました。これは2024年衆院選の5倍を超えます。
2024年11月の兵庫県知事選で大量の偽・誤情報が飛び交い、報道機関が批判にさらされ、選挙の結果にも大きな影響を与えたことが、これまでファクトチェックに消極的だった日本の報道を変えました。
参院選で誰が、そして、誰の何が検証されたのか、詳細はこちらで解説しています。

同時に選挙でのファクトチェックに関して、「偏っている」「効果は限定的」などの批判もありました。批判に関する解説や対策についてはこちらで解説しています。

自民党総裁選での話題は
参院選に続く自民党総裁選では、ファクトチェック記事は一気に減りました。各社とも参院選ほどの体制は整えておらず、候補者の発言で検証対象になるような明らかに間違った発言は少なかったと言えます。
それでも、ファクトチェックが全く無かったわけではありません。候補者を貶めるような内容の投稿や、候補者だった高市早苗氏自身の外国人に関する発言(「シカを蹴り上げる」「通訳の手配が間に合わなくて不起訴になる」)などの根拠不明な発言が検証対象となりました。

宮城県知事選の混乱
選挙関連で2025年に最も注目を集めたのは、宮城県知事選でした。知事選はたった1人が勝者となる大統領選型の選挙で、候補者が多い国政選挙よりも対決構図や「悪者」を描きやすくなります。
今回は現職だった村井嘉浩氏が標的となり、政策や実績に関して明らかに間違った情報や根拠不明の情報などが多数拡散しました。

地方選では、全国メディアの動きが鈍くなりがちです。現地の支局は東京よりも遥かに人数が少なく、偽・誤情報の検証に関する経験も乏しいのが現状です。JFCも人数の制約から、地方の情報に関する対応は遅れがちになります。
その点、地元メディアの河北新報はこれまでの取材の蓄積も活かし、素早く検証に取り組んで効果を発揮していました。今後の地方選で各地のメディアの参考になる事例でした。
ディープフェイクの氾濫
政治や選挙に限らず、偽・誤情報問題で2025年に大きく変化したのは、AIで作られた画像や動画、いわゆる「ディープフェイク」の急増です。
生成AIの進化で、誰でも簡単に現実のものではない画像や動画を作ることができるようになり数年が立ちますが、日本でディープフェイク問題が本格化したのは2025年と言えるでしょう。生成AIのさらなる進化でいよいよ本物と見分けがつかないディープフェイクが作成可能になったことが背景にあります。
まずは熊の被害の急増とともに熊が人を襲ったり、建物に侵入したりするディープフェイク動画が次々と作られ、拡散しました。

さらに12月には青森県八戸市で震度6強を観測した地震で、国内外から多数のディープフェイク動画が投稿され、拡散しました。

災害や事件や選挙など、人の注目が集まる事象に関しては、必ずディープフェイクが拡散するという心構えが今後は必要です。画像や動画や音声を見聞きしても、それが現実とは限りません。
細部を見れば、映像の中に破綻が見つかることもあります。破綻が見つからなくても、精巧なディープフェイクかもしれません。発信源・根拠・関連情報は必ず確認しましょう。
その人物が本当にそういう言動をするのか、その地域でそのような災害は起こりうるのか、公的機関や専門機関や報道機関はどんな情報を発信しているのか、など見破るヒントはたくさんあります。
高市発言後の影響工作
もう一つ、2025年に注目を集めたのが、海外からの影響工作です。情報を用いて標的国の世論に影響を与える手法で「認知戦」とも呼ばれます。参院選ではロシアの影響があったのではないかという議論が広がりました。
世界的に見ると、欧州ではロシアの、台湾では中国の影響工作に対する研究や対策が早くから進んでいます。日本でも広範な情報収集と対策の議論が必要です。
一つの事例としてJFCが注目したのは、高市首相の台湾に関する発言後の日本と中国に関わる偽・誤情報や日本や高市政権に対して批判的な投稿の急増です。

ソーシャルリスニングツール「Meltwater」で調べると、日本を軍国主義と結びつける発言、日本への旅行を控える発言、沖縄の独立を主張する発言などは、高市首相の発言前後に急増しています。12月下旬には落ち着いていますが、それでも発言前に比べると多くなっています。

これらの投稿の急増のうち、どれだけが自然な増加で、どれが影響工作と呼べるものなのかは精査が必要です。しかし、上記の記事でも示したように、中国語圏のソーシャルメディアでの日本の動画の改ざんなど、意図的な捏造も見られます。2026年は、こういった活動にもより注意を払うべきでしょう。
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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