高市発言後に急増した日中めぐる偽情報 動画を改ざんして「琉球独立」煽る認知戦

高市発言後に急増した日中めぐる偽情報 動画を改ざんして「琉球独立」煽る認知戦

高市早苗首相の台湾有事に関する発言が中国政府の反発を招いて以降、日本をめぐる偽・誤情報が急増しました。動画を歪曲して琉球独立を煽る事例など「認知戦」が広がっています。

高市首相や日本にネガティブな偽・誤情報

高市発言と中国政府の抗議

2025年10月21日に就任した高市首相が、台湾情勢に関して「存立危機事態になり得る」との見解を国会で示したのは11月7日でした。

11月8日には中国の薛剣駐大阪総領事が「汚い首は一瞬の躊躇もなく斬ってやるしかない」とXに投稿。激しい言葉に、日本で批判が広がりました。中国政府としては、週が明けた11月10日月曜日、外務省定例記者会見で「内政干渉であり、『一つの中国』原則に反する」と強く抗議しました。

これに並行して、日本に関する偽・誤情報や悪意のある情報が増えていきました。

「琉球は日本の一部ではない」投稿が激増

一つは、沖縄をめぐる情報です。19世紀まで琉球王国として存在した沖縄をあえて「琉球」と呼び、「琉球は日本の一部ではない」「琉球は独立を望んでいる」というような投稿が増えています。

メルトウォーターのSNS分析ツールで調べると、「琉球 独立」「琉球 日本ではない」という文言を含むネットへの投稿は、高市首相就任後1日100件ほどでしたが、発言翌日の11月8日以降に急激に増えました。

特に急増した11月19日には、投稿数が1万件超に。中国メディアChina Dailyの「琉球人へのインタビュー:琉球は日本ではない」という記事を引用する投稿が増えたからです。

この記事に対しては、日本語で批判する投稿が広がったことも件数増加の一因です。

日本の動画を改ざんして中国寄りに見せかける

あからさまに情報を改ざんして拡散させている事例もあります。

米NewsGuardの調査によれば、日本のインフルエンサーが日本語でライフスタイルについて話す動画114本に「琉球は日本の一部ではない」などと中国語の偽の字幕が追加され、中国版TikTokなどで拡散しています。

あるアカウントの事例では「琉球林小雅」を名乗り、群馬県出身の女性の動画を転載して「日本人ではなくて琉球出身」と自称しているように装い、「琉球や釣魚島(尖閣諸島の中国名)、台湾は中国に属する」と中国寄りの主張で10万超のフォロワーを集めています。(以上、NewsGuard”Chinese Sources Push Territorial Claims With Mistranslations”)

台湾で拡散した高市首相の「賄賂疑惑」

高市首相の信頼を失墜させようとする、根拠不明な情報や加工された画像も拡散しています。

台湾のFacebookでは「高市首相に謝長廷・元駐日代表が賄賂を贈っていた証拠」とされる画像付きの投稿が拡散しました。

台湾ファクトチェックセンターが検証し、この情報が海外の匿名フォーラムで3日前に作成されたアカウントが投稿したもので、証拠とされたメールに不自然な日本語が多数含まれていることなどから、捏造文書と判定しています(台湾ファクトチェックセンター”網傳「暗網洩露郵件,日本首相高市早苗出任總務大臣期間收受謝長廷數百萬珠寶賄賂,以影響日本對台政策」?”)。

同様の情報は日本語でもXに投稿されましたが、拡散は一部にとどまっていたためにJFCは検証を見送りました。

国境を超える「認知戦」と対策

中国政府の発信と日本政府からの反論

「認知戦」という言葉があります。情報を武器に、相手の考えや行動を操る戦いです。認知戦はネット上で拡散する言説にとどまりません。中国政府の公式の発信に対して、日本政府が反論した事例もあります。

中国政府は高市首相の発言に対し、11月14日に中国人旅行者の安全確保を理由に、日本への渡航自粛を呼びかけました。

日本の外務省は11月21日、「中国政府による発表において、あたかも今年に入って日本国内における中国国籍者に対する犯罪事件が多発しており、安全に対するリスクが高まっているかのような言及がありますが、そのような指摘は当たりません」と声明を出しました。

添付された警察庁のデータでは、過去2年間と比較して、被害者が中国籍の凶悪事件(殺人・強盗・放火)の合計が過去2年と比べて減っていると示しました(以上、外務省”日本国内における中国国籍者に対する犯罪の認知件数”)。

また、11月21日に駐日中国大使館が「国連憲章の『敵国条項』に基づいて、日本などの軍国主義国家が侵略政策に向けた行動を取った場合、中・仏・ソ・英・米など国連創設国は直接軍事行動を取る権利を有する」などとXに投稿

これに対して、日本の外務省は11月23日、「『旧敵国条項』については、1995年の国連総会で既に死文化したとの決議が、圧倒的多数の賛成で採択され、中国自身も賛成した」と投稿しました。

日本語にとどまらない認知戦

メルトウォーターのSNS分析ツールで調べると、高市発言後のソーシャルメディア上の投稿では、日本語環境においては、日本に関する偽・誤情報が一方的に拡散しているわけではなく、それらに反論する投稿も広く拡散していることがわかります。

例えば、「琉球独立」に関連する投稿では「琉球独立を主張するアカウントは中国系のものが多い」と指摘する投稿の方が、より強く拡散する傾向があります。

主要なメディアの世論調査を見ると、高市政権は日中関係が悪化した11月中旬以降も高い支持率を維持しています。日経・テレ東75%、産経・FNN75.2%、読売72%などです。

鶏と卵のようですが、支持率が高いからこそ、高市政権を擁護する投稿が日本では広がりやすいと言えるでしょう。

一方で、NewsGuardや台湾ファクトチェックセンターの記事の例で見られるように、日本語環境ではそれほど広がっていないが、中国語圏を中心とした海外では影響力を持っているアカウントや投稿が存在します。

筆者(古田)は、台湾で中国語圏のソーシャルメディアを調査しているグループから、高市発言後の偽・誤情報の拡散に関する情報が届きました。

認知戦に関しては、ロシアからの影響を受けてきた欧州で、FIMI対策が進んでいます。FIMIとは「Foreign Information Manipulation and Interference(外国による情報操作と干渉)」です。

欧州連合(EU)はファクトチェック組織、市民社会、メディア、アカデミアと協力し、テクノロジーを活用した重層的な対策を進めています。日本でも、同様の対策が必要です(欧州委員会”Cooperating with fact-checkers, civil society, media and academia”)。

出典・参考

NewsGuard”Chinese Sources Push Territorial Claims With Mistranslations”https://www.newsguardrealitycheck.com/p/chinese-sources-push-territorial

台湾ファクトチェックセンター”網傳「暗網洩露郵件,日本首相高市早苗出任總務大臣期間收受謝長廷數百萬珠寶賄賂,以影響日本對台政策」?”https://tfc-taiwan.org.tw/fact-check-reports/false-claim-hsieh-chang-ting-bribery-rumor-from-anonymous-forum-2/

外務省”日本国内における中国国籍者に対する犯罪の認知件数”https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_02997.html

欧州委員会”Cooperating with fact-checkers, civil society, media and academia”https://commission.europa.eu/topics/countering-information-manipulation/cooperating-fact-checkers-civil-society-media-and-academia_en


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

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