自民党が圧勝した衆院選、最も検証された政党も自民党 参院選から何が変わったのか【#衆院選ファクトチェック 解説】

自民党が圧勝した衆院選、最も検証された政党も自民党 参院選から何が変わったのか【#衆院選ファクトチェック 解説】

AIによる捏造動画など偽・誤情報がますます拡散する中で、衆院選をめぐり、対策としてのファクトチェックはどれだけ実践されたのか。日本ファクトチェックセンター(JFC)では、ファクトチェック組織や新聞やテレビなどの報道機関が発信した検証記事を収集し、分析しました。

ファクトチェック96本、短期決戦で対応に苦心

ファクトチェックとは、政治家など著名人や影響力の大きな組織の発信、ネット上で拡散する不確かな情報の真偽を検証する活動です。何を検証するか、検証過程や根拠、判定を明示するのが一般的なルールですが、今回収集したのは、情報を検証しているものの判定の明示がないものなど「広い意味での検証記事」も含みます。一方で、偽・誤情報に関する解説記事や紹介記事は除外しました。

JFCが収集したのは96件。複数の情報をまとめて検証している記事は1件とカウントしています。また、その場合、検証対象やトピックは複数ある中で主なものを抽出しています。

複数検証の事例:
JFC”各党党首の発言の真偽は 討論会をまとめて検証
JFC”「期日前投票はすり替えられる」「鉛筆で書かせるのは消すため」「開票システムに仕掛けがある」 繰り返される不正選挙疑惑を検証

ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)も検証記事を収集しており、92件のリストを公開しています(2月9日現在、FIJ”衆院選2026ファクトチェック”)。FIJは2025年の参院選でも同様のリストを公開しており、236件の記事を紹介しています(FIJ”参院選2025ファクトチェック”)。

FIJの集計で比較すると、ファクトチェック記事は半分以下に急減したことになります。これは偽・誤情報が減ったことを意味するわけではありません。衆院選は12日間、参院選17日間より短いこともありますが、「突然の解散で検証体制が十分に整わない」という声が多くの報道機関から聞かれました。

検証最多はJFC、琉球新報、朝日、NHKが続く

そんな超短期決戦の中で、検証記事を最も多く出したメディアはどこか。2025年参院選に続いて、JFCが25本で最多でした。続いたのが琉球新報11本、朝日新聞とNHK各6本、InFactと毎日新聞各5本です。

2025年参院選では、神戸新聞16本、琉球新報15本、東京新聞12本、毎日新聞11本など、10本以上出す新聞社が相次ぎましたが、各社とも本数を減らしました。ファクトチェックに力を入れる琉球新報、朝日新聞、NHKは短期決戦の中でも持ちこたえ、前回2本だった読売新聞は逆に増やしました

参考記事:
JFC”5倍に増えた日本のファクトチェック、最も誤りを指摘されたのは参政党 誰の何が検証されたのか【参院選ファクトチェック解説】

各社のファクトチェックまとめページ:
日本ファクトチェックセンター(JFC)”ファクトチェック一覧
琉球新報”ファクトチェック 記事一覧
朝日新聞”ファクトチェック
NHK”「フェイク対策」ニュース一覧
読売新聞”ファクトチェック 情報が本当か嘘かを検証
InFact”ファクトチェック
毎日新聞”ファクトチェック

検証対象は

検証の約半分にあたる52件はXやYouTubeなどネットで拡散した情報を対象にしていました。残りの半分が政党や候補者からの発信、著名人や総務省の発信を検証した記事もありました。

政党や候補者の中で最も検証されたのは自民党で14件。特に、高市早苗首相の党首討論会での発言に関する検証をJFCなど各社が発信しました。

高市首相の発言に関するファクトチェック例:
朝日新聞”高市首相「日本はこれからレアアースに困らない」→「ミスリード」
琉球新報”首相「消費減税、2026年度実現」は本当か?
北海道新聞”首相「選挙と物価高対策 実施は別の部局」と発言 小規模自治体、役場総出が実情<イチから!検証

2025年参院選ではファクトチェック対象となった政党は参政党が45件で突出して多く、続いて自民党14件でした。今回は参政党は8件に減りました。次の項目で触れますが、外国人犯罪に関わる発信が相対的に減ったことが影響していると言えるでしょう。

参政党関連のファクトチェック例:
JFC”「スウェーデンは刑務所の囚人の98%が移民」? 2024年10月時点で21%
神戸新聞”参政・神谷氏「日本人雇用に補助金ない。外国人には出る」→誤り 日本人の雇用支援が多数
神奈川新聞”参政党の先沖氏、自閉症巡り根拠欠く発言 専門家は批判「差別意識が根底」

検証された話題は

2025年参院選で検証された話題で最も多かったものは「外国人」に関する情報で、59件ありました。特に外国人と治安に関係する発信が参政党やその支持者を中心に拡散し、多くのメディアが検証しました。

2026年に最も多く検証対象となったのは、政党や候補者個人に関するものです。本人の発言の検証もありますが、それ以上に多かったのは、政治的なテーマや政策というよりも、政党や候補者そのものを批判したり、揶揄したりするものでした。

これは生成AIの発展と普及で、画像や動画を捏造したり、改変したりすることが簡単になったことが理由として挙げられます。政見放送の改ざんや支持者へのインタビューの捏造など、様々な「ディープフェイク(AIによる偽情報)」が拡散しました。

政党・候補者に関する情報や発言の検証事例:
JFC"2026年元日の高市内閣支持率は3.6%? ネットのアンケート結果"
読売新聞"減税ゆうこく・原口一博共同代表「外国からの献金」発言動画が拡散、本人は「趣旨が曲がっている」と指摘"
リトマス"中道・斉藤氏発言切り取りが拡散「人間の幸せ以上に大事なものある」 実際は逆の内容"

検証対象の選定は各社独自の基準

ファクトチェックは、拡散している言説について、客観的な事実の部分を検証する取り組みです。その意見や政策が正しいかどうかではなく、客観的・科学的な事実に基づいているかどうかをチェックします。

参考:
JFC”ファクトチェックとは 定義・ルール・手法を解説
JFC”JFCファクトチェック指針

しかし、ある情報が「意見」か「検証対象となる事実の提示」かは、組織によって判断が分かれます。例えば、党首討論の記事で筆者(古田)が書いたように、琉球新報は検証した高市首相の発言を、JFCは政策論争であり、ファクトチェックになじまないと判断して検証を見送りました。

参考:
JFC”各党党首の発言の真偽は 討論会をまとめて検証

ただし、政策論争であっても、発言が二転三転している、実現可能性がない、などの根拠を十分に提示できれば、検証は可能です。琉球新報の検証が間違っているというわけではなく、JFCとは判断基準が異なったということになります。

このような判断の違いが、各組織の検証対象の選定基準の違いを生んでいます。JFCは明確に判定を下しやすい「画像や動画の捏造」「客観的・科学的なデータとの矛盾」に関する検証が多い傾向があります。

ファクトチェッカーが何を検証対象にすべきかについては、他国でも議論されています。例えば、ファクトチェックがいち早く普及したアメリカでは、大統領選に関して「ときには、ファクトチェッカーは一歩引いて、政治家と評論家が激論を戦わせるのに任せるのが最善だ」という意見も聞かれました。

参考:
JFC”ファクトチェックが対象とする「客観的に検証可能な事実」とは何か【解説】

次回の選挙ファクトチェック解説は

JFCでは衆院選をめぐる偽・誤情報やファクトチェックについて解説する記事を連続で公開していきます。次回はAIによるディープフェイクの問題について、さらに細かく見ていきます。

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判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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地域で拡散する偽・誤情報に地域で対抗する/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

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土曜日に日本メディア学会と情報通信学会に登壇しました。テーマは「宮城県知事選挙における偽情報拡散への対応に関するローカルメディアの取り組み」と「SNS選挙・偽情報問題から問う2026年衆院選と民主主義の行方」でした。 前者については私から「地域で拡散する偽・誤情報を素早く検知・検証できるのは地域のメディアや組織だけ」であり、「By the community, for the community(地域コミュニティが地域コミュニティのために)」が重要だと指摘しました。 後者については、生成AIによるディープフェイクが2025年から激増しており、すでに「AI氾濫」とでも呼ぶべき状況になっていると説明し、ファクトチェックだけでなくメディアリテラシーの普及や、根本的な法制度の整備などが必要だと訴えました。 ファクトチェッカーやメディアがアカデミアの方々と交流し、協力していく「越境」「コラボ」も重要なキーワードです。宮城県でのローカルメディアの取り組みに関しては、河北新報での勉強会や宮城県の有識者委員会などにも参加しています。 組織や業界を超えた、民主主義を守るための協力を日

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
ベネズエラの地震で発生した津波? 2011年の東日本大震災の動画【ファクトチェック】

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南米ベネズエラで起きた地震に関連して「ベネズエラのラ・グアイラで津波が発生した」という文言とともに、津波の動画が拡散しましたが、誤りです。動画は2011年の東日本大震災の津波を撮影したものです。 検証対象 拡散した投稿 2026年6月25日、「Tsunami en La Guaira, Venezuela tras los terremotos ocurridos hoy de 7.1 y 7.5 grados.(ベネズエラのラ・グアイラで津波、今日発生したマグニチュード7.1および7.5の地震に続く)」というスペイン語の投稿が、Xの自動翻訳機能による日本語訳とともに、動画付きで拡散した。 動画は1分25秒間で、警報の音や、船や岸を波が襲う様子が映っている。 検証する理由 この投稿は1300件以上リポストされ、表示回数は99万回を超える。「そのシーンは日本の津波」という指摘もある一方で、「ベネズエラは今日大打撃を受けた」「残酷」と事実として受け止められているようなコメントもあるため、検証する。 検証過程 24日にベネズエラで大規模な地震

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
G7サミットの集合写真に高市首相が不在? 加工された画像【ファクトチェック】

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2026年6月17日に閉幕したフランスでのG7サミット(主要7か国首脳会議 )をめぐって、「高市外しがミエミエのG7記念撮影。馬鹿が見当たりません」と主張し、高市早苗首相が集合写真に入っていない画像が拡散しましたが、加工されています。元の画像には高市首相が映っています。 検証対象 拡散した投稿 6月18日、「高市外しがミエミエのG7記念撮影。馬鹿が見当たりません」という投稿が、G7サミットの集合写真とともにXで拡散した。 画像には米国のトランプ大統領、フランスのマクロン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領などが映っているが、高市首相の姿はない。 検証する理由 この投稿は800件以上リポストされ、表示回数は123万回を超えている。「元々日本は影薄いよなぁ」「途中退場?」というコメントの一方で「合成ですか」という指摘もあるため検証する。 検証過程 G7サミットはフランス東部の保養地エビアンで2026年6月15日(日本時間16日)から3日間開かれた。 トランプ米大統領や、サミット初参加の高市首相らは、イラン情勢など国際的な主要課題について意見を

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
世界のファクトチェッカーが集結/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

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6月17-19日の3日間、リトアニアの首都ビリニュスで、世界中のファクトチェッカーが集まる毎年恒例の「GlobalFact」が開催され、日本ファクトチェックセンターからも私を含む2人が参加しました。 対面の参加者は、昨年のリオデジャネイロに続いて約300人。2年前のサラエボ、3年前のソウルの500人規模と比べると減っています。ファクトチェックを支える資金援助が世界的に減っているからです。 ファクトチェックが盛んな欧州で開催されたにも関わらず、参加者が南米開催の昨年と同規模だったということは、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)に加盟している約170団体の経済的な苦境が、さらに深刻になっていることを示しています。 3日間で開催された全体会合や分科会では、リトアニアの地政学的な背景から、ロシアからの影響工作に関する議論が盛んでした。また、年々増加しているAIにうよるディープフェイクにどう対抗するか。逆にAIをどのようにファクトチェックに活用するかも、昨年に続いて人気のセッションとなっていました。 具体的な内容については、順次記事にしていきたいと思います(古田大輔

By 古田大輔(Daisuke Furuta)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は6月27日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0627.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)