JFCは政府からカネをもらってる?/処理水放出が水産業を崩壊させた?/EU議会選挙を巡る偽情報、中央ヨーロッパが標的に【注目のファクトチェック】

JFCは政府からカネをもらってる?/処理水放出が水産業を崩壊させた?/EU議会選挙を巡る偽情報、中央ヨーロッパが標的に【注目のファクトチェック】

✉️
日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら

イランのライシ大統領らが乗ったヘリコプターの墜落事故では、直後からライシ氏が生存しているなど誤った情報が拡散。福島第一原発事故の処理水の海洋放出をめぐって、日本の水産業が崩壊しつつあるといった動画が中国で100万を超える閲覧がありました。欧州議会選挙が迫って、チェコやポーランドなど中央ヨーロッパの国々へのロシアによる影響工作が問題になっています。また、ファクトチェックではないですが、JFCが政府からカネをもらっていると印象付けるような指摘が一部でありました。

JFCは政府からカネをもらっている?

日本ファクトチェックセンター(JFC)は日本政府から資金援助を受けているのではないか、または、受けようとしているのではないか、というような印象を持たせる内容の指摘が一部の記事でありました。

JFCはファクトチェック機関としての透明性とあらゆる組織からの独立が重要であるということをこれまでにも説明し、そのための組織体制ファクトチェック指針、また、会計についても公開しています。編集長の古田大輔も多くの講演や政府の有識者会議などでその旨を発言してきました。改めて明言しますが、政府からの資金援助は受けていませんし、受ける予定もありません

一部の記事において、独立性や透明性に関して、匿名の「ファクトチェック関係者」から疑義を持たれたことに関しては謙虚に受け止め、より一層の透明性の向上に向けて努力を続けたいと思います。この件については、組織としての対応を協議中ですので、改めて情報発信をしたいと思います。

JFCのファクトチェック記事

キッチンのカレンダーが燃えた画像?

「キッチンで調理中にカレンダーに引火した」という画像が拡散しましたが、誤りです。投稿者が次の日に「AIで生成したもので火災は起きていません」と投稿しています。

キッチンのカレンダーが燃えた画像?【ファクトチェック】
「キッチンで調理中にカレンダーに引火した」という画像が拡散しましたが、誤りです。投稿者が次の日に「AIで生成したもので火災は起きていません」と投稿しています。 検証対象 2024年5月12日、「カレンダーに引火してオッペンハイマーしてもうた」「皆んなもくれぐれも火のそばに可燃物は置かないように気をつけようね」という画像付きの言説が拡散した。画像は、コンロやカレンダーの周りに煤のようなクロっぽい汚れがある。 この投稿は7000件以上リポストされ、表示回数は1900万件を超える。5月16日現在、投稿は削除されている。投稿について「火事にならなくて良かった」「大丈夫」というコメントの一方で「AIって分かんない人こんなに居るんだな」という投稿もある。 検証過程 燃えた後の画像と寸分たがわぬ元画像 このアカウントは拡散した投稿の前に同じレイアウトのキッチンの画像をあげていた。 画像左下の洗剤は実際に発売されている商品だ。燃えたとするカレンダーも大成建設から同じレイアウトの2024年版カレンダーが制作されている。 画像の基本的なレイアウトが同じことから、拡

イランのヘリ事故でライシ大統領は無事?

イランのライシ大統領らが乗るヘリコプターが墜落した事故をめぐって、大統領がヘリコプターから降りる画像を添付して「大統領は無事だ」と主張する言説が拡散しました。しかし、拡散した画像は、2022年7月にライシ大統領が豪雨の被災地を視察した際のもので、誤りです。

イランのヘリ事故でライシ大統領は無事?【ファクトチェック】
イランのライシ大統領らが乗るヘリコプターが墜落した事故をめぐって、大統領がヘリコプターから降りる画像を添付して「大統領は無事だ」と主張する言説が拡散しました。しかし、拡散した画像は、2022年7月にライシ大統領が豪雨の被災地を視察した際のもので、誤りです。 検証対象 2024年5月19日午後、イラン・イスラム共和国のライシ大統領が搭乗していたヘリコプターがイラン北西部の山中に墜落する事故があり、大統領とアブドラヒアン外相が死亡したとイランの国営通信が伝えた(NHK)。 事故発生後、安否が確認できない段階で、X(旧Twitter)でヘリコプターから降りるライシ大統領の画像を添付して「ライシ大統領が生存していた」と主張するポストが日本でも拡散した。 このポストは5月20日現在3万7000回以上Xで表示され、200件以上のリポストがあった。リプライや引用リポストには「良かった、安心しました」「ライシ大統領、無事で何よりです」といった声が寄せられた一方で、情報の信憑性を疑う意見もあった。 検証過程 添付されている画像を「Google画像検索」で検索すると、2

処理水の放出で「日本の水産業は崩壊寸前」?

福島第一原発からの処理水の海洋放出をめぐり、「日本の水産業は崩壊寸前」などと指摘する動画が中国語圏を中心に拡散しましたが、内容に多数の誤りがあります。日本の水揚げ量は長期的に減少傾向にありますが、処理水の放出や動画が指摘する中国の輸入停止措置が理由ではありません。

処理水の放出で「日本の水産業は崩壊寸前」?【ファクトチェック】
福島第一原発からの処理水の海洋放出をめぐり、「日本の水産業は崩壊寸前」などと指摘する動画が中国語圏を中心に拡散しましたが、内容に多数の誤りがあります。日本の水揚げ量は長期的に減少傾向にありますが、処理水の放出や動画が指摘する中国の輸入停止措置が理由ではありません。 検証対象 2023年8月に福島第一原発で始まった処理水の海洋放出をめぐり、中国語圏で「日本の水産業は崩壊寸前」「売れなくなったことで水揚げ量が1000万トンから300万トン台に急減した」などと主張する動画が拡散している。 動画は「日本终于为他们的行为付出了惨重的代价(日本はついに大きな代償を払うことになった)」というタイトルで、男性が2分45秒にわたって福島第一原発事故の処理水(排汚水と表現している)の海洋放出で日本の水産業が大きく影響を受けているなどと語っている。 この動画は、「日本は大きな代償を払うことになった」という言葉で始まる。主な内容は以下の通りだ。 ・放出を始めてから日本の水産業が崩壊寸前になっている ・1000万トンあった水産物の水揚げは300万トンに減った ・減少の理由は、

山本太郎氏がつばさの党を応援し、「相手の選挙区に乗り込め」とアドバイスした?

れいわ新選組の山本太郎氏が「つばさの党を応援し、相手の選挙区に乗り込めとアドバイス 逃げる奴は政治家失格」という投稿が拡散しましたが誤りです。投稿は引用元の記事から山本氏の発言以外の部分も切り取って作ったものです。

山本太郎氏がつばさの党を応援し、「相手の選挙区に乗り込め」とアドバイスした?【ファクトチェック】
れいわ新選組の山本太郎氏が「つばさの党を応援し、相手の選挙区に乗り込めとアドバイス 逃げる奴は政治家失格」という投稿が拡散しましたが誤りです。投稿は引用元の記事から山本氏の発言以外の部分も切り取って作ったものです。 検証対象 2024年5月19日、れいわ新選組の山本太郎氏が「つばさの党を応援し、相手の選挙区に乗り込めとアドバイスした。逃げる奴は政治家失格」と発言したとする投稿が拡散した。 2024年5月21日現在、このポストは1100件以上リポストされ、表示回数は23万件を超える。投稿について「仲間だから」というコメントの一方で「印象操作」と指摘する声もある。 検証過程 つばさの党の代表ら3人は、2024年4月の衆院東京15区補選でほかの陣営の演説を妨害したとして逮捕されている(NHK)。 投稿はまとめサイト「ツイッター速報」による投稿だ。リンク先を確認すると、東スポWEBがlivedoorニュースに掲載した「山本太郎氏が「つばさの党」に言及 黒川敦彦氏から逃げた陣営を批判」という記事を引用している。 「逃げる奴は政治家失格」は? 記事は、山

ウクライナに支援してもゼレンスキーの別荘になるだけ? 再拡散

ゼレンスキー大統領が英国王室の別荘を購入したとする言説が拡散しましたが、誤りです。この言説は以前にも検証し、誤りだと判定しています。

ウクライナに支援してもゼレンスキーの別荘になるだけ? 再拡散【ファクトチェック】
ゼレンスキー大統領が英国王室の別荘を購入したとする言説が拡散しましたが、誤りです。この言説は以前にも検証し、誤りだと判定しています。 検証対象 2024年5月15日、「ウクライナに支援してもゼレンスキーの別荘になるだけ」という文言と邸宅の空撮画像をのせたポスト①が拡散した。「ゼレンスキー夫人の名義で英国王室から邸宅を購入した」と主張するポスト②のスクリーンショットもポスト③されている。 5月23日時点で、ポスト①は75万回以上の表示回数と2300件以上のリポストを獲得。同様に、ポスト②は67万回以上の表示回数と4200件以上のリポストを獲得し、ポスト③は1.4万回以上の表示回数を獲得している。 検証過程 日本ファクトチェックセンター(JFC)は今回拡散した言説と類似する言説を過去にも検証し、「誤り」と判定している。再度の拡散に合わせて再び検証した。 英国王邸、売却の形跡なし 邸宅の空撮画像をGoogle画像検索したところ、英国南西部のグロスターシャー州にあるチャールズ国王所有のハイグローブ邸(Highgrove House)という結果が出た。

今週のJFC動画

トランプ前大統領が「岸田首相はグローバリストの操り人形でビジョンもリーダーシップもない」と発言している動画が拡散しましたが、AIによって作られた音声と映像でした。

その他の関連記事

イラン大統領ヘリ墜落事故 偽情報や根拠不明の情報に注意を

イランでヘリコプターが墜落し、搭乗していたライシ大統領らが死亡した事故について、過去の写真を使って「大統領は無事だ」「暗殺だ」などという真偽不確かな情報が拡散したとNHKも報道しました。

イラン大統領ヘリ墜落事故 偽情報や根拠不明の情報に注意を | NHK
【NHK】中東のイランでヘリコプターが墜落し、搭乗していたライシ大統領らが死亡した事故について、SNSでは、過去の写真を使って「大…

Innovation Nippon 2024「生成AIと日本」

国際大学グローバル・コミュニケーションセンターが日本における生成AIの現況と今後の可能性などについて調査研究を発表しました。

Innovation Nippon 2024「生成AIと日本」
Innovation Nippon 2024 報告書「生成AIと日本」 報告書(PDF) 概要版(PDF) 近年のAI技術の進歩により、生成AIは文書作成、画像生成、音楽制作など、あらゆる分野で実用化の閾値を超えてきてお […]

EU選挙を前に、フェイクニュースを見分ける方法

欧州議会選挙を前に偽情報や影響工作が増えています。ドイツの放送局「ドイチェ・ヴェレ」はフェイクニュースの見分け方という記事を特集しました。

How to spot fake content online – DW – 12/15/2023
Fake news spreads six times faster than facts on social media. But how can you recognize and verify fake news when you see them? Here are some tips from the DW fact check team.

EUで「AI規制法」が成立

世界で初めてAIを規制することを進めてきたAI法案(EU AI Act)が21日、EU加盟国に承認され、成立しました。一部のAIの利用を禁止したり利用に厳しいリスク管理を求めたりする内容で、2年後の2026年に規制が本格的に適用される見通しだとNHKが報じています。

EU Artificial Intelligence Act | Up-to-date developments and analyses of the EU AI Act

インドの総選挙とAIによるディープフェイク

現在インドでは総選挙の真っ最中、ディープフェイクの動画が選挙に悪影響を及ぼしているとBBCが報じています。

AI and deepfakes blur reality in India elections
As deepfakes and AI-manipulated content circulate in India, experts worry about their implications.

なぜ中欧でフェイクニュースの危機が高まっているのか

欧州議会選挙が迫る中、チェコやポーランドなど中央ヨーロッパの国々へのロシアの影響工作が深刻で、特にスロバキアでは国民の58%が偽情報に晒されているとユーロニュースが伝えています。

Why is Central Europe prone to fake news ahead of European elections?
Recent statistics show that at least half of the population in countries such as Slovakia, Poland and the Czech Republic are exposed to misinformation online. #TheCube

検証手法や判定基準については、JFCファクトチェック指針をご参照ください。検証記事を広げるため、SNSでの拡散にご協力ください。

XFacebookYouTubeInstagramのフォローもお願いします。毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録はこちらからどうぞ。また、こちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第8回は、よく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いについてでした。第9回は世界のファクトチェック事例や新手法を解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックの多様な事例 ファクトチェックには原則がありますが、同時に、検証対象の選び方や組織のあり方などは多様です。国内外の事例を紹介します。 Factchek.org ファクトチェック団体としては老舗のFactchek.orgはアメリカ政治に関する偽情報に対応するために、「有権者のための消費者保護センター」を目指して2003年に設立されました。 そのため、主なトピックに並ぶのは「バイデン大統領」「トランプ前大統領」、そして「その他の大統領候補」などアメリカ政治中心です(2024年7月27日現在)。 例えば、「バイデンが不法移民に家賃を支払っているという根拠のない主張」という記事には、見出しに検証対象と検証結果=根拠なしが記され、記事内では検証過程が詳細に記述されていま

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

「外国人による農地取得が全体の3分の2」という言説が拡散しましたが、誤りです。新聞記事を誤読した投稿が拡散しました。 検証対象 2024年7月20日、日本農業新聞の記事を引用して「これやばいだろ?なんで国は規制しない? 外国人による農地取得が全体の3分の2を占めたらしい」という言説が拡散した。 この投稿は43万以上の閲覧と6900のリポストがある。「農地って簡単に買えるの?」「自国の国民のために農地を開拓しているのかもしれない」というコメントのほか、「記事をちゃんと読みましたか」「日本であっても規制はありますよー」といった指摘もある。 「外国人による農地取得が3分の2を占めた」という言説を検証する。 検証過程 言説に添付されたのは、日本農業新聞が2024年7月20日に配信した記事だ。拡散したスクショは「外国人の農地取得 23年は90ヘクタールに 3分の2が国内在住」という見出しで、7月26日朝の時点では「3分の2」が「国内在住の個人・法人中心」に変わっている。 外国資本が「全体の3分の2」ではない 記事の内容は「外国人もしくはその関係法人が2

By 宮本聖二
最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード」という言説が拡散しましたが誤りです。言説に表示された数字は世論調査の数字ではありません。2024年7月26日現在、最新の世論調査では、両氏の支持率は拮抗しています。 検証対象 2024年7月23日、「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード/NHKは『僅差』と報道」という言説が拡散した。言説にはまとめサイト「トータルニュースワールド」のリンクが添付されている。 2024年7月26日現在、投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は31万件を超える。投稿について「当たり前」「妥当」というコメントがある。 検証過程 数字は予測市場プラットフォームの数字 拡散した言説にはまとめサイト「トータルニュース」のリンクが添付され、「64% Trump」「36% Kamala」と書かれたサムネイルが表示されている。リンク先を確認すると、根拠として「PolyMarket」の数字を集計した一般ユーザーのX投稿を複数取り上げている。 Polymarket(ポリマーケット)は、仮想通

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第7回は、ファクトチェックに役立つサイトやツールについてでした。第8回はよく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いを解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックと調査報道の違い 「ファクトチェックは事実を確かめることだから、報道機関は当然どこでもやっているのではないか」とよく聞かれます。 半分正解で半分間違いと言えます。何が共通していて、何が異なるのかを解説していきます。 ファクトチェックとオンライン調査 検証の根拠を公開し、可能な限りユーザーにもアクセス可能にすることが原則のファクトチェックでは、オンライン調査の手法を活用します。 誰でもアクセスできるオープンソースを使うOSINTの重要性は実践編6でも説明した通りです。 OSINTでファクトチェック 公開データを使い真偽を判別する【JFC講座 実践編6】日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第5回は、生成AIで作られる画像

By 古田大輔(Daisuke Furuta)