富山県知事が「県民をインド人に置き換える」と発表? そのような発表はない【ファクトチェック】
「富山県知事が、県民をインド人に置き換えると発表した」「義務を課し権利を制限する『多文化共生条例』でがんじがらめにした上で、外国人を受け入れる」と主張する投稿が拡散しましたが、誤りです。富山県・新田八朗知事はそのような発表をしていません。県の多文化共生条例の素案には、「県民は、多文化共生推進に協力するよう努めるものとする」とありますが、努力規定で、義務を課したり権利を制限する内容ではありません。
検証対象
拡散した言説
2026年10月24日、「【悲報】県民をインド人に置き換えると発表した富山県知事」「義務を課し権利を制限する『多文化共生条例』でがんじがらめにした上で、外国人を受け入れる」などと主張する投稿がXで拡散した。
同一のアカウントが新田知事の10月19日の投稿写真を一部加工したうえで引用し、批判を繰り返している(例1,2)。

検証する理由
11月5日現在、投稿は多いもので7900回以上リポストされ、表示は159万件を超える。
投稿には「堂々の売国奴宣言、恐れ入る…」「つまり日本人差別をし、富山県知事は日本を売り渡す気なんだね」など、真に受けた反応が多いため検証する。
検証過程
「県民をインド人に置き換える」と発表?
新田知事の発言をもとにGoogleで検索すると、2025年9月2日の富山県の定例記者会見の記録が見つかる。
9月2日の会見は、2025年8月30日にインド・モディ首相と全国の知事が懇談会をし、新田知事も出席したことを受けたものだ。9月2日の会見で記者が「この後どういう風な交流につなげていきたいか」と質問した。知事は、県とインドのこれまでの交流に触れたうえで、以下のように回答している。
(以下引用)
「県内企業がインドに進出する、あるいはインドの高度人材を中心に人材を富山県に呼び寄せる、そのようなことの橋渡しをするというふうに、できることになると思います。より両国の、富山県とインド、富山県とアンドラプラデシュ州などの関係を深めることができるというふうに考えています。
人口が世界一、そして、それも平均年齢が若い人たちが、平均年齢が20代という大変若い国なので、ちょうど高齢化が進み人口減少局面に入った富山県とは、いい補完関係になるというふうに思います。それをこれから具体的な、どう補完し合うかということを、制度設計などをしていくことが大切だというふうに考えています」(引用以上)
(富山県”定例記者会見[令和7年9月2日(火曜日)]”)
「県民をインド人に置き換える」という趣旨の発言はない。他の場面でそのような発言をしたという情報も報道もない。
「義務を課し権利を制限する多文化共生条例」?
2026年10月24日に拡散した投稿は、富山県知事が「日本人ファーストを事前に防ぎながら外国人の方々を受け入れていく」と述べたかのように主張し、2025年7月25日の知事定例記者会見の動画のリンクと、会見の書き起こし(抜粋)のスクリーンショットを添付している。
動画の22:36~24:03が、書き起こしのスクリーンショットの該当部分と一致する。
元動画では、2025年7月の参院選で「日本人ファースト」を掲げた参政党が躍進したことを受けて、記者が知事に「富山県では外国人材の受け入れや条例の制定など積極的に進めている印象だが、日本人ファースト的な主張が支持を集めている現状についてどう思うか」と質問した。
これに対し、知事は以下のように回答している。
「仮称ですけども、在留外国人との共生のための条例ということで、検討を開始しているところであります。なぜこの条例を必要だと私が判断したかというと、まさに、今回一つの争点にはなりましたけども、日本人ファーストあるいは排外主義、排他主義、このようなことを事前に防ぎながら、外国人の方々を受け入れていきたいという、そのベースを作っておきたいという思いからです」
(富山県公式チャンネル”【令和7年7月25日(金曜日)13時00分〜】知事定例記者会見”)
県は2026年9月、外国人との共生などを含む「富山県多文化共生の地域づくりの推進に関する条例(仮称)」と「とやま多文化共生推進基本計画(仮称)」の素案を公表し、一般からの意見を公募していた(日経新聞”富山県の多文化共生条例策定への意見 県内外から1万1500件”2026年10月13日、富山県”「富山県多文化共生の地域づくりの推進に関する条例(仮称)」素案及び「とやま多文化共生推進基本計画(仮称)」素案に対する意見募集について”更新日:2026年10月8日)。
素案第6条の2には「県民は、多文化共生の推進に関する施策に協力するよう努めるものとする」と書かれており、これに対して「なぜ強制されないといけないのか」「なぜ県民側に協力を求めるのか」など、反発や不安の声が多数寄せられた(チューリップテレビ”多文化共生の条例案に反発と不安の声「分断が広がっている印象」パブリックコメント7日締切 富山県”2026年10月6日、KNB”県の多文化共生条例 素案にさまざまな意見”2026年9月30日)。
拡散した投稿の「例1」にある「義務を課し権利を制限する『多文化共生条例』で がんじがらめにした上で、外国人を受け入れる」も、素案に対する反発と考えられる。
ただ、素案は「県民の役割」「努めるものとする」と述べており、県民に義務を課したり、権利を制限する内容ではない(富山県”富山県多文化共生の地域づくりの推進に関する条例(仮称)素案”)。
判定
「富山県知事が、県民をインド人に置き換えると発表した」「義務を課し権利を制限する『多文化共生条例』でがんじがらめにした上で、外国人を受け入れる」と主張する投稿が拡散した。知事はそのような発表をしていない。多文化共生条例の議論が進んでおり、反対の声が出ているのは事実だ。しかし、素案で提示されたのは「努力規定」で、県民に義務を課したり権利を制限する内容ではない。よって、誤りと判定する。
あとがき
判定をめぐり、編集部内では「多文化共生条例の素案自体はあり、努力規定だとしても反発の声が広がっているのは事実だ。『投稿の一部は正確』と捉えて『不正確』と判定すべきでは」という意見がありました。
今回の検証対象のポイントは「富山県知事が県民をインド人に置き換えると発表」「(県民に)義務を課して権利を制限する『多文化共生条例』でがんじがらめにした上で、外国人を受け入れる」の二つです。
前半の「インド人に置き換える」という主張は、仮にインド人が大規模に流入すると捉えたとしても、明らかに誤りです。後半の多文化共生条例に関しては、条例制定に向けた議論が進んでいるのは事実ですが、「義務を課し、権利を制限する」という部分が事実ではありません。
判定で議論になったのは、「義務が課されるように受け取る人もいる」ことを、どこまで判定の考慮に入れるべきか、でした。ファクトチェックは客観的・科学的な事実に関して検証するもので、意見や未来の予測などは対象としません。その点で「義務が課されるように受け取る人がいる」ことは理解しつつも、事実関係だけをみて、今回は「誤り」と判定しました。
出典・参考
富山県”定例記者会見[令和7年9月2日(火曜日)]”,https://www.pref.toyama.jp/kensei/governor/kishakaiken/r07nendo/070902.html,(閲覧日2026年10月30日)
富山県公式チャンネル”【令和7年7月25日(金曜日)13時00分〜】知事定例記者会見”https://youtu.be/DcBWM2zZBqg?si=Kf17TktewGvj7QmO,(閲覧日2026年10月30日)
日経新聞”富山県の多文化共生条例策定への意見 県内外から1万1500件”2026年10月13日.https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC135PC0T11C26A0000000/,(閲覧日2026年10月30日)
富山県”「富山県多文化共生の地域づくりの推進に関する条例(仮称)」素案及び「とやま多文化共生推進基本計画(仮称)」素案に対する意見募集について”更新日:2026年10月8日.https://www.pref.toyama.jp/140631/comment/publiccomment.html,(閲覧日2026年10月30日)
チューリップテレビ”多文化共生の条例案に反発と不安の声「分断が広がっている印象」パブリックコメント7日締切 富山県”2026年10月6日,https://news.yahoo.co.jp/articles/5de40fd51d5a2f3139c285d223b8e77c4feb07ed,(閲覧日2026年10月30日)
KNB”県の多文化共生条例 素案にさまざまな意見”2026年9月30日.https://news.ntv.co.jp/n/knb/category/society/kn5de2a27ec7eb4fd8975fce37950b5c5e,(閲覧日2026年10月30日)
富山県”富山県多文化共生の地域づくりの推進に関する条例(仮称)素案”.https://www.pref.toyama.jp/documents/57058/zyoureisoan.pdf,(閲覧日2026年10月30日)
検証:根津綾子
編集:松田史朗、古田大輔
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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