JICAと三条市が外国人定住の協定? 対象は日本人の協力隊員【ファクトチェック】

JICAと三条市が外国人定住の協定? 対象は日本人の協力隊員【ファクトチェック】

国際協力機構(JICA)が日本の4市をアフリカの「ホームタウン」に認定した件をめぐって、新潟県三条市とJICAが外国人を定住させる協定を結んだと思わせるような主張が拡散しましたが、誤りです。拡散した投稿に添付されている画像は別の事業の資料で、定住促進の対象は日本人の地域おこし協力隊員です。

検証対象

三条市を含む4市とアフリカ諸国の「ホームタウン」認定をめぐって、外国人の移住が増えるのかと話題になる中、2025年8月26日、「三条市とJICAで『定住と定着の促進』ってハッキリ書いてあります」という投稿が資料のスクリーンショットと共に拡散した。

添付画像のタイトルは「三条市・国際協力機構・慶應義塾大学SFC研究所が 『地域おこしと国際協力の研究開発と推進に関する連携協定』を締結」。協定の概要6には「三条市の地域資源を活用した地域活性化を図るとともに、三条市への定住・定着の促進に関すること」と書かれている。

8月29日現在、投稿は3.2万件以上リポストされ、表示回数は1267万回を超える。反応には「どう考えても外患誘致だろ」や「アフリカ移民の故郷になって、地元民が地獄絵図」などと、「ホームタウン」認定の資料だと誤解した反応が多く、コミュニティノートもついている。

検証過程

ホームタウン認定と外国人移住の誤情報

8月20-22日に横浜市で、第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が開かれ、JICAが愛媛県今治市をモザンビーク、千葉県木更津市をナイジェリア、新潟県三条市をガーナ、山形県長井市をタンザニアの「ホームタウン」に認定したと発表した。

これを受けて、SNSでは「日本は、山形県長井市をタンザニアに与える」「この国がアフリカになる」「特別なビザで移民が増える」など情報が拡散。日本ファクトチェックセンター(JFC)も検証し、誤りと判定した。

拡散したJICAと三条市の資料は

ホームタウン認定で外国人移住が増えるという批判が出ると、JICAや三条市など各市は否定する声明を出した。今回拡散した投稿は「すぐ嘘がバレました」と指摘し、移住が増えることが資料によって裏づけられていると主張する内容だ。

拡散した投稿の添付画像と同じ資料は慶應義塾大学のSFC研究所のサイトで確認できる。捏造ではなく本物で、三条市がガーナの「ホームタウン」に認定される1年前の2024年7月に公開されている。

三条市とJICAと慶應義塾大学SFC研究所が連携して、地域おこしと国際協力を推進する内容になっている。協定の概要6には「三条市の地域資源を活用した地域活性化を図るとともに、三条市への定住・定着の促進に関すること」と書かれており、これが「外国人の定住・定着」と解釈されて批判が広がった。

「定住・定着」の対象は日本人の地域おこし研究員

この資料にあるプログラムの「JICA地域おこし研究員」の募集要項には「日本国籍を有する方」とある(SMOUT. “全国初!JICA地域おこし研究員募集”)。

JICAも8月27日、公式Xアカウントで「『アフリカ・ホームタウン』に関し、新潟県三条市・慶応義塾大学SFC研究所・JICAの覚書は、元JICA 海外協力隊(日本人)が三条市での地域おこし協力隊の活動をした後も三条市に定住・定着することを促進するもので、外国人移住を促進するものではありません」と注意喚起している。

判定

拡散した資料は、2024年7月に公開された三条市・JICA・慶應大SFC研究所の連携協定の説明で、「定住・定着の促進」の対象は日本国籍を有するJICA地域おこし研究員を指している。外国人の定住・定着を促進するものではない。よって、誤りと判定した。

出典・参考

慶應義塾大学SFC研究所. “地域おこしと国際協力の研究開発と推進に関する連携協定”. 公開日 2024年7月26日.https://www.kri.sfc.keio.ac.jp/ja/wp/wp-content/uploads/2024/07/SANJO_JICA_SFC.pdf , (閲覧日 2025年8月29日).

SMOUT. “全国初!JICA地域おこし研究員募集”.公開日 2024年11月27日. https://www.smout.jp/plans/18353 , (閲覧日 2025年8月29日).

検証:木山竣策
編集:藤森かもめ、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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