日本のスーパーでムスリムが小便をまき散らす? 海外で何度も拡散している偽動画【ファクトチェック】

日本のスーパーでムスリムが小便をまき散らす? 海外で何度も拡散している偽動画【ファクトチェック】

日本のスーパーの精肉売り場で小便をまき散らすムスリムがいたと主張する動画投稿が拡散しましたが、誤りです。動画の撮影場所はヨーロッパで、日本ではありません。制作者が偽動画と認めたという報道もあります。この動画は2023年から、欧州の極右政党の政治家らによって、反イスラムや反移民の文脈で投稿されています。

検証対象

拡散した言説

2026年3月12日、「日本のスーパー 食肉店に 小便を撒き散らす イスラム人」という投稿がXで拡散した。

検証する理由

3月17日現在、投稿は2800回以上リポストされ、表示は46.7万件を超える。

投稿には「日本じゃないだろ」などの指摘もあるが、「捕まえて強制送還して下さい」や「店はこれで堂々とイスラム出禁にできるわけだね」など真に受けたコメントも多いため、検証する。

検証過程

動画の撮影地は欧州

拡散した投稿には、スーパーの精肉売り場で商品に放尿しているように見える男性の後ろ姿が映った9秒の動画が付いている。

動画では、撮影者と見られる男性が、オランダ語と英語で「おい、お前ちょっと過激すぎるだろ。豚肉を食べたくないってだけで?おい、マジかよ!俺たちは豚肉は食べない」と言っている。

画面中央にはオランダ語で「Albert Heijnの警備員はどこだ?🤣🤣」というテロップが入っている。

左上にはDUMPERTという緑のロゴがある。DUMPERTはオランダの動画共有サイトだ。サイトには、テロップなども含めて拡散した動画と全く同じ動画が、2023年12月17日に公開されている。

拡散した動画をGoogleレンズで検索すると、最も古い日付のものは、buurtwachttというアカウントが2023年12月14日にInstagramへ投稿した動画だ。投稿者はコメント欄にオランダ語で「やりすぎることもあるよね..@albertheijn」と書いている。

Albert Heijn(アルバート・ハイン) はオランダやベルギーに展開する大手スーパーマーケットチェーンで、日本には店舗が無い。

コメント欄には「アルバート・ハインさん、この人の正体を明かしたほうがいいですよ」「そいつを殴れ」や「礼儀をわきまえろ」など、多数のオランダ語のコメントがついている。

つまり、拡散した動画は2023年12月以前にオランダのスーパー、アルバート・ハインの店内で撮影された可能性が高い。

欧州の極右政治家の投稿で拡散

この動画は、欧州の著名な極右政治家らが反イスラム的な文脈で投稿したことで拡散した。

2023年12月17日、英国極右政党「ブリテン・ファースト」のポール・ゴールディング党首が「オランダのムスリム移民がスーパーマーケットの豚肉コーナーで放尿、別の人物が『俺たちは豚肉を食べない』と言いながら撮影」というコメント付きで投稿して拡散した。

翌18日には、オランダの極右政党「自由党」のヘルト・ウィルダース党首がこの動画に「また10議席増えた」という言葉をつけて投稿し、現在までに3000回以上リポストされ、200万件以上表示されている。

海外のファクトチェック機関も「やらせ動画」と判定

米ファクトチェック団体「LeadStories」は「彼らが実際に排尿しているかどうかや、イスラム教徒や移民であるという証拠は一切提示されていない」と説明。同じアカウントが、別の場所でも、同じ服を着て放尿するふりをする複数の動画を投稿していることなどを理由に、この動画を「いたずら動画」と判定している。(Lead Stories”Fact Check: Video Does NOT Show Muslim Immigrant Urinating On Pork In Dutch Supermarket -- Creator Has Posted Similar Staged Scenes Before”2023年12月19日)

AFPは動画制作者に取材し、制作者が、動画は2023年12月13日にオランダ・ザーンダムのアルバートハインで撮影した完全なフェイク動画であると認めたと報じている(AFP”Staged video of man urinating on meat in a supermarket falsely shared with anti-Muslim claim”2024年2月13日)。

判定

日本のスーパーで小便をまき散らしているムスリムがいたと主張する動画付きの投稿が拡散した。この動画は2023年12月、欧州の政治家らによって反イスラム的な文脈で投稿されたもので撮影場所はヨーロッパだ。また、動画の男が放尿したかどうかや移民であるという証拠も無い。海外の報道でも、偽動画であると判定されている。よって、総合的に誤りと判定する。

出典・参考

Albert Heijn.
https://over.ah.nl/overzicht/geschiedenis,(閲覧日2026年3月18日).
Lead Stories.Fact Check: Video Does NOT Show Muslim Immigrant Urinating On Pork In Dutch Supermarket – Creator Has Posted Similar Staged Scenes Before”
2023年12月19日.
https://leadstories.com/hoax-alert/2023/12/fact-check-video-does-not-show-muslim-immigrant-urinating-on-pork-in-dutch-supermarket-creator-has-posted-several-similar.html,(閲覧日2026年3月18日).
AFP.”Staged video of man urinating on meat in a supermarket falsely shared with anti-Muslim claim”.2024年2月13日.
https://factcheck.afp.com/doc.afp.com.349832Q,(閲覧日2026年3月18日).

検証:根津綾子
編集:藤森かもめ、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

世界のファクトチェッカーが集結/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

世界のファクトチェッカーが集結/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

6月17-19日の3日間、リトアニアの首都ビリニュスで、世界中のファクトチェッカーが集まる毎年恒例の「GlobalFact」が開催され、日本ファクトチェックセンターからも私を含む2人が参加しました。 対面の参加者は、昨年のリオデジャネイロに続いて約300人。2年前のサラエボ、3年前のソウルの500人規模と比べると減っています。ファクトチェックを支える資金援助が世界的に減っているからです。 ファクトチェックが盛んな欧州で開催されたにも関わらず、参加者が南米開催の昨年と同規模だったということは、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)に加盟している約170団体の経済的な苦境が、さらに深刻になっていることを示しています。 3日間で開催された全体会合や分科会では、リトアニアの地政学的な背景から、ロシアからの影響工作に関する議論が盛んでした。また、年々増加しているAIにうよるディープフェイクにどう対抗するか。逆にAIをどのようにファクトチェックに活用するかも、昨年に続いて人気のセッションとなっていました。 具体的な内容については、順次記事にしていきたいと思います(古田大輔

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
高市首相が英国でサッチャー元首相の写真を見せながら歩いた? 写真は英首相官邸の名物ネコ【ファクトチェック】

高市首相が英国でサッチャー元首相の写真を見せながら歩いた? 写真は英首相官邸の名物ネコ【ファクトチェック】

高市早苗首相が「クリアファイルにサッチャー元首相の写真を入れて歩いていた」という投稿がXで拡散しましたが、誤りです。高市首相が持っていた写真は、サッチャー氏ではなく、英国首相官邸の名物猫です。 検証対象 拡散した投稿 2026年6月16日、「イギリスの方々がドン引きな理由が分かりましたよ!何と高市早苗はクリアファイルにサッチャーの写真を入れてわざと見せてアピールして歩いていたんですよ!イギリスの首相スターマーはサッチャー嫌いで有名なのにクリアファイルにサッチャーの写真を入れて謎の1人行進をして歩いてるんですよ」という画像付き投稿がXで拡散した。 画像には、四角い写真のようなものを手に持ってアピールする高市首相の姿が添付されている。 検証する理由 この投稿は1万件以上リポストされ、表示回数は139万回を超えている。「ウソ情報はいけません」という指摘もあるが、「非常識」「トップと会う時に使うのは不適切」というコメントもあるため検証する。 検証過程 高市首相の英国訪問 高市首相は英国を訪問し、6月14日、スターマー首相と首相官邸で会談した(日テ

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
偽・誤情報対策だけにとどまらない世界の議論/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

偽・誤情報対策だけにとどまらない世界の議論/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

ドイツ出張から帰国したばかりでしたが、今度はフィンランドに来ています(その関係で今週もニュースレターの配信が一日遅れてしまいました)。 水曜日から3日間、リトアニアで開催されるGlobal Fact2026に参加するためです。Global Factは年に1回、世界中のファクトチェッカーが集まり、偽・誤情報対策を議論する場です。 近年は影響工作やナラティブ分析など、単純な偽・誤情報を超えて、どのように対処すべきか世界各国の状況を共有する場ともなっています。 長年、ロシア帝国とソ連の支配下にあったバルト3国の一つ、リトアニアはロシアからの影響工作に対して、国を挙げて対応しています。Global Factでは重要な論点となるでしょう。 フィンランドも状況は似ています。世界最高水準のメディアリテラシー教育の状況も首都ヘルシンキで取材する予定です (古田大輔)。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
国連が「気候変動はなかった」と発表? 該当するものはなく、国連担当者も否定【ファクトチェック】

国連が「気候変動はなかった」と発表? 該当するものはなく、国連担当者も否定【ファクトチェック】

国連が「気候変動はなかった」と公表したかのような投稿が拡散しましたが、誤りです。そのような発表はなく、国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局は、日本ファクトチェックセンター(JFC)の取材に対して「国連はそのような主張をしたことは一度もありません」と回答しています。 検証対象 拡散した言説 2026年6月4日、「国連 気候変動が無かったと公に発表した」と主張する動画付きの投稿がXで拡散した。 検証する理由 6月11日現在、投稿は1.1万回以上リポストされ、表示は65.4万件を超える。 投稿には「実際は2026年5月のIPCC関連で最悪シナリオ(RCP8.5)の撤回を指す」「フェイク(誤情報)です」などの指摘もあるが、「新たな利権が見つかったということでしょうかね」「気候変動に関しては、ズバリ嘘です」など真に受けた反応も多いため、検証する。 検証過程 拡散した動画の内容は 拡散した動画は別の日本語アカウントの動画を引用ポストしている。動画は1分18秒で、英語の番組に日本語字幕が付いている。司会とゲスト出演者と見られる2人の男性が国連の気

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は6月27日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0627.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)