プーチン大統領が日本市民に「あなた方の問題は自国の支配エリートによる行動の結果」? 実際には「西側諸国の一般市民」に【ファクトチェック】

プーチン大統領が日本市民に「あなた方の問題は自国の支配エリートによる行動の結果」? 実際には「西側諸国の一般市民」に【ファクトチェック】

2026年9月23日、ロシアのプーチン大統領が「日本の一般市民は私の声を聞いてほしい」「あなた方が今直面している問題は、自国の支配エリートによる何年もの行動の結果であるということ」と発言したとする投稿がXで拡散しましたが、不正確です。この発言は4年前の2022年3月にクレムリンが公開したプーチン氏のビデオ会議でのスピーチの一部で、プーチン氏が呼びかけたのは「日本の一般市民」ではなく「西側諸国の一般市民」です。

検証対象

拡散した投稿

2026年9月23日、「速報:プーチン『日本の一般市民は、私の声を聞いてほしい。あなた方が今直面している問題は、自国の支配エリートによる何年もの行動の結果であるということ』」という動画付き投稿がXで拡散した。

検証する理由

この投稿は4400件以上リポストされ、表示回数は88万回を超えている。「プーチン大統領、知恵ある国民は知っています。助けてください」「ほんとその通りだわ」というコメントが多数あるため検証する。

検証過程

動画は約46秒。プーチン大統領とみられる人物が、ロシア国旗などを背に机の前でロシア語で話している。画面左上には「@RussiaIsntEnemy」というXアカウントのロゴが表示されている。

発言は2022年3月のスピーチ

動画に映る英語字幕("I want ordinary citizens of Western countries to hear me")をもとに原文を調べると、この発言はプーチン大統領が2022年3月、モスクワ市長らとビデオ会議を開いた際のスピーチの一部だ(Kremlin.ru."Meeting on socioeconomic support for regions • President of Russia" )。

ロシア大統領府が運営する公式ウェブサイト「クレムリン」の英語版に掲載されたスピーチのタイトルは「地域への社会経済的支援に関する会議」。拡散した動画の該当の原文は以下の通りだ。

「I want ordinary Western people hear me, too.(西側諸国の一般市民にも私の話を聞いてほしい)」

「The truth is that the problems faced by millions of people in the West are the result of many years of actions by the ruling elite of your respective countries,(真実は、西側の何百万もの人々が直面している現在の問題は、各国の支配エリートによる何年もの行動の結果だということだ)」

拡散した動画には英語の字幕が付いており、字幕は原文の「Western countries」を正しく表示している。しかし、投稿に付けたコメントには「Western countries(西側諸国)」ではなく、「日本の一般市民」と書いてある。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、Geminiを使って拡散した動画のロシア語音声を文字起こしした。結果は以下の通りだ。

「Хочу, чтобы меня услышали и простые граждане западных государств.(西側諸国の一般市民にも私の声を聞いてほしい)」

「А правда в том, что текущие проблемы, с которыми сталкиваются миллионы людей на Западе, стали результатом многолетних действий правящих элит их государств.(真実は、西側で何百万もの人々が直面している現在の問題が、各国の支配エリートによる何年もの行動の結果だということだ)」

クレムリン公式サイトのロシア語版テキストと一致した(Kremlin.ru."Совещание о мерах социально-экономической поддержки регионов • Президент России")。

動画の音声も、クレムリン公式サイトのスピーチも、「西側諸国」と発言しており、「日本の一般市民」と、日本人に限定しているわけではない。 

判定

拡散した動画は2022年3月にプーチン氏がビデオ会議でしたスピーチの一部だ。「西側諸国の一般市民」と呼びかけており、「日本」と限定したものではない。よって不正確と判定した。

出典・参考

Kremlin.ru."Meeting on socioeconomic support for regions • President of Russia " .http://en.kremlin.ru/events/president/news/67996   ,(閲覧日2026年9月29日)

Kremlin.ru."Совещание о мерах социально-экономической поддержки регионов • Президент России”.http://kremlin.ru/events/president/news/67996  ,(閲覧日2026年9月29日)

検証:木山竣策
編集:藤森かもめ、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら。

もっと見る

毎年拡散するインフルエンザ誤情報/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

毎年拡散するインフルエンザ誤情報/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

あるニュースが注目を集めると、それにまつわる偽・誤情報が必ず拡散します。地震、台風、インフルエンザもその一つです。季節の話題のように、毎年、流行のタイミングで、手口が似通った偽情報が拡散する。プレバンキング記事で予習をしておくと良いでしょう。 今週のファクトチェックまとめです。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 今週のお知らせ JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は10月24日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 日本ファクトチェックセンター(JFC) ファクトチェック講師養成講座 10月24日(土)開催分日本ファク

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日高村がバングラデシュ人を1000人受け入れる? 村は否定【ファクトチェック】

日高村がバングラデシュ人を1000人受け入れる? 村は否定【ファクトチェック】

高知県日高村が「バングラデシュ人1000人を受け入れる」という投稿が拡散しましたが、誤りです。日高村は「特定の国籍の方を対象とした集団的な移住事業や計画は行っていない」と公式に否定しています。民間の交流団体の会長は「1000人」と話していますが、村の施策とは無関係です。 検証対象 拡散した言説 2026年10月1日、「高知県の日高村という人口4577人の村で、バングラデシュ人1000人受け入れるみたいだが…」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 この投稿は9000件以上リポストされ、表示回数は839万回を超えている。「地元の人達は知ってるの?」「5人に1人がバングラデシュ人になってしまう!」というコメントがあるため検証する。 検証過程 出入国在留管理庁のウェブサイトによると、2025年末現在、高知県に住むバングラデシュ人は107人だ(出入国在留管理庁”令和7年末現在における在留外国人数について”)。 「1000人受け入れ」は村の計画ではなく民間団体の発言 「バングラデシュ人を1000人受け入れ」はどこからの情報か。Meltwaterで

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
インフルエンザの偽・誤情報は毎年、形を変えて広がる 国内外の検証に見る5つの手口【プレバンキング】

インフルエンザの偽・誤情報は毎年、形を変えて広がる 国内外の検証に見る5つの手口【プレバンキング】

秋が深まり、インフルエンザワクチンの接種シーズンが始まりました。この時期は、ワクチンや流行をめぐる偽・誤情報も毎年のように広がります。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、インフルエンザワクチンに関する投稿を繰り返し検証してきました。似たような主張は、海外でも拡散しています。今回は、海外の事例も合わせて、5つの「手口」を紹介します。 この記事は、偽・誤情報の手口を知ることで、同様の情報を目にしたときに騙されにくくする「プレバンキング」という予防的な取り組みです。詳しくは、JFC用語解説「プレバンキング」をご覧ください。 広がりやすい5つの手口 1. 本物の資料の一部分を切り出して「危険」と主張 本物の医薬品の添付文書や研究論文の一部を切り取って、「危険だ」と主張する投稿です。 2025年9月、点鼻ワクチン「フルミスト」の添付文書に「劇薬」「ミトコンドリア脳筋症の症状悪化」と書かれていることを根拠に、「子供の命が危険」だという主張が拡散しました。記載は事実ですが、そもそもワクチンは原則「劇薬」に指定されています。「劇薬は用法・用量に注意が必要だ」とい

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
大谷翔平選手に関するニュースを装った偽サイトが拡散 投資に勧誘【詐欺注意】

大谷翔平選手に関するニュースを装った偽サイトが拡散 投資に勧誘【詐欺注意】

2026年10月ごろから、「大谷翔平氏がシカゴでのカブス戦後に片山さつき財務相との握手を拒否した」とするNHK風の偽記事がインターネット上で拡散しています。リンクをクリックすると投資サービスの宣伝に誘導されるので注意が必要です。 2026年10月ごろから、ドジャースの大谷選手の写真とともに「先日の出来事は、日本中に衝撃を与えました」「最新情報はWebサイトに掲載しています」などと書かれたリンクが添付された投稿が多数投稿されている(例1、例2)。 10月5日現在、投稿したアカウントの一部は凍結されている。 リンク先に飛ぶと(現在は削除済み)、NHKのロゴがある記事のようなページが表示される。見出しは「大谷翔平、シカゴでのカブス戦後に片山氏との握手を拒否。その背後にある驚くべき理由とは — NHK」。ロゴやレイアウトなどは、実際のNHKのニュースサイトに似せて作られている。 しかしページのURLは「affectmeridian.world」で、NHK(https://www.nhk.or.jp/)とは関係のないドメインだ。NHKのサイトには同じ記事が存在しない。

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は10月24日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 日本ファクトチェックセンター(JFC) ファクトチェック講師養成講座 10月24日(日)開催分日本ファクトチェックセンター(JFC)による講師養成講座です。 講師養成講座(オンラインで90分)を受講いただいた後、修了課題を提出された方には、教室や職場などで利用可能な教材の提... powered by Peatix : More than a ticket.Peatix 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤っ

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や騙されない人の行動

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)