「フーシ派、英貨物船を沈没させた」という動画?【ファクトチェック】

「フーシ派、英貨物船を沈没させた」という動画?【ファクトチェック】

「イエメンフーシ派、英貨物船を沈没させた」とする動画が拡散しましたが誤りです。2020年にブラジル沖で起きた貨物船沈没の動画です。

検証対象

2024年2月20日、「イエメン フーシ派、英貨物船を沈没させたと発表 」という文面に続き、激しい爆発とともに船が沈没している動画の投稿が拡散した。

2024年2月27日現在、このポストは500件以上リポストされ、表示回数は34万件を超える。

2024年2月23日に、ポストの投稿主がリプライに「(上記の)映像は、2022年のブラジル沿岸での貨物船の沈没映像」だと釈明する追記をしている。

検証過程

ポストの動画の左下には、動画の元となったポストのリンクがある。

ポストは2024年2月20日に投稿され、検証対象と同じ動画が見つかる。ここでは「紅海で標的にされた英国船 "Rubimar "の消息は不明」などと述べているが、イエメンの反政府武装組織フーシ派の攻撃によるとは明記していない。

動画の一場面のスクリーンショットを撮影し、Google画像検索すると、フーシ派による紅海での攻撃とする投稿が表示されたが、、中にはそうではない動画もある。

この動画を再生すると0:42ごろから、検証対象と同じ場面になる。

この動画は2020年8月に投稿され、この船は「Stellar Banner」という名前で、韓国企業が所有し、ブラジルの鉱山会社がチャーターしていたと説明が付いてる。

拡散したフーシ派の攻撃によるものという画像で沈没する船の船尾をよく見ると「Stellar Banner」という船名とハングルの文字が見える。

「Stellar Banner NEWS」でGoogle検索すると、Stellar Bannerの事故の調査報告書についての2021年11月のニュースが見つかる。

ニュース内ではYouTubeの動画が埋め込まれ、その動画の0:09ごろに検証対象の動画と類似のものが見つかる。この動画は2020年のブラジル沖での事故の動画だということがわかる。

なお、フーシ派がイギリスの貨物船「Rubymar」を攻撃したというBBCニュースでの画像を見ると船は船尾から傾いている上に、検証対象の動画の貨物船とは異なることがわかる。

この記事では、フーシ派の報道官が貨物船を撃沈したと発表したと伝えている。

BBCのウェブサイトより

AFPも、Xを中心に拡散したRubymarが沈没する様子だとする動画は、過去の別の事故の映像だと検証記事を出している。

イギリスのSky Newsによると2024年2月28日時点でRubymarは海中には没してはいないが、「barely afloat (かろうじて浮いている)」と表現している。

判定

「イエメンフーシ派、英貨物船を沈没させた」として拡散した動画は誤り。動画は2020年のブラジル沖で起きた貨物船沈没事故の映像である。

あとがき

検証対象は沈没する貨物船の動画

今回日本ファクトチェックセンター(JFC)が検証対象にしたのは、貨物船Rubymarがフーシ派のミサイル攻撃を受けて沈没したというテキストと共に貨物船が海中に没する映像でした。

一方、2月18日にRubymarが紅海でミサイルの攻撃を受けたことはBBCなどが報道。現時点(2月28日)で乗組員は退去しているものの、海中には没していないと伝えています(ウォール・ストリートジャーナル)。

JFCは沈没の動画が今回のフーシ派の攻撃によるものでなく、過去の、別の場所の事故のものであるため、誤りと判定しました。

驚くするような画像や動画を見たときは

実際に起きたことだとしても、それとは異なる画像や動画をつけて事実を歪めた情報がたびたび拡散します。

こうした情報を目にしたときは、報道機関がどう伝えているのか調べ、驚くような映像や画像の場合Google画像検索などを使うことで自ら確かめることができます。

JFCのファクトチェック講座を参考にしてください。

これまでもフーシ派の攻撃として関係のない船舶事故の動画が拡散したことがあり、JFCは検証記事を出しています(「フーシ派がイギリスのタンカーを破壊した動画」は不正確 加山氏の炎上した船の動画などが拡散)。

検証:鈴木刀磨
編集:宮本聖二、野上英文、藤森かもめ

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。検証記事を広げるため、XFacebookYouTubeInstagramでのフォロー・拡散をよろしくお願いします。毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンからどうぞ。

また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第8回は、よく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いについてでした。第9回は世界のファクトチェック事例や新手法を解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックの多様な事例 ファクトチェックには原則がありますが、同時に、検証対象の選び方や組織のあり方などは多様です。国内外の事例を紹介します。 Factchek.org ファクトチェック団体としては老舗のFactchek.orgはアメリカ政治に関する偽情報に対応するために、「有権者のための消費者保護センター」を目指して2003年に設立されました。 そのため、主なトピックに並ぶのは「バイデン大統領」「トランプ前大統領」、そして「その他の大統領候補」などアメリカ政治中心です(2024年7月27日現在)。 例えば、「バイデンが不法移民に家賃を支払っているという根拠のない主張」という記事には、見出しに検証対象と検証結果=根拠なしが記され、記事内では検証過程が詳細に記述されていま

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

「外国人による農地取得が全体の3分の2」という言説が拡散しましたが、誤りです。新聞記事を誤読した投稿が拡散しました。 検証対象 2024年7月20日、日本農業新聞の記事を引用して「これやばいだろ?なんで国は規制しない? 外国人による農地取得が全体の3分の2を占めたらしい」という言説が拡散した。 この投稿は43万以上の閲覧と6900のリポストがある。「農地って簡単に買えるの?」「自国の国民のために農地を開拓しているのかもしれない」というコメントのほか、「記事をちゃんと読みましたか」「日本であっても規制はありますよー」といった指摘もある。 「外国人による農地取得が3分の2を占めた」という言説を検証する。 検証過程 言説に添付されたのは、日本農業新聞が2024年7月20日に配信した記事だ。拡散したスクショは「外国人の農地取得 23年は90ヘクタールに 3分の2が国内在住」という見出しで、7月26日朝の時点では「3分の2」が「国内在住の個人・法人中心」に変わっている。 外国資本が「全体の3分の2」ではない 記事の内容は「外国人もしくはその関係法人が2

By 宮本聖二
最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード」という言説が拡散しましたが誤りです。言説に表示された数字は世論調査の数字ではありません。2024年7月26日現在、最新の世論調査では、両氏の支持率は拮抗しています。 検証対象 2024年7月23日、「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード/NHKは『僅差』と報道」という言説が拡散した。言説にはまとめサイト「トータルニュースワールド」のリンクが添付されている。 2024年7月26日現在、投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は31万件を超える。投稿について「当たり前」「妥当」というコメントがある。 検証過程 数字は予測市場プラットフォームの数字 拡散した言説にはまとめサイト「トータルニュース」のリンクが添付され、「64% Trump」「36% Kamala」と書かれたサムネイルが表示されている。リンク先を確認すると、根拠として「PolyMarket」の数字を集計した一般ユーザーのX投稿を複数取り上げている。 Polymarket(ポリマーケット)は、仮想通

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第7回は、ファクトチェックに役立つサイトやツールについてでした。第8回はよく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いを解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックと調査報道の違い 「ファクトチェックは事実を確かめることだから、報道機関は当然どこでもやっているのではないか」とよく聞かれます。 半分正解で半分間違いと言えます。何が共通していて、何が異なるのかを解説していきます。 ファクトチェックとオンライン調査 検証の根拠を公開し、可能な限りユーザーにもアクセス可能にすることが原則のファクトチェックでは、オンライン調査の手法を活用します。 誰でもアクセスできるオープンソースを使うOSINTの重要性は実践編6でも説明した通りです。 OSINTでファクトチェック 公開データを使い真偽を判別する【JFC講座 実践編6】日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第5回は、生成AIで作られる画像

By 古田大輔(Daisuke Furuta)