グレタ・トゥンベリさんが「化石燃料を使い続ければ5年後に人類は死滅する」というツイートを削除した?【ファクトチェック】

グレタ・トゥンベリさんが「化石燃料を使い続ければ5年後に人類は死滅する」というツイートを削除した?【ファクトチェック】

スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさんが「『化石燃料を使い続ければ5年後に人類は死滅する』というツイートを削除した」という言説が拡散しましたが、これは不正確です。グレタさんが、指摘された日時のツイートを削除したのは事実ですが、「5年後に人類は死滅」という文言は誤訳です。

検証対象

グレタ・トゥンベリさんが「『化石燃料を使い続ければ5年後に人類は死滅する』というツイートを削除した」という言説が拡散した(例1例2)。例1は、表示回数が1,900万以上、リツイートが9,000件以上となっている(4月6日現在)。

この言説に対してはAP通信Newsweek紙Snopesがファクトチェックをし、それぞれ「不正確」や「誤り」といった判定を出した。一方、FOX News、ロシアの国営テレビRTSky News Australiaなどのメディアは、グレタさんによるツイート削除を批判的に報じた。

検証過程

拡散した言説は、グレタ・トゥンベリさんの2018年6月21日のツイートを引用している。このツイートはすでに削除されており、Wayback Machineのアーカイブで確認できる。

いつツイートが消されたのかはわからないものの、2023年3月7日時点では存在していた。そのため、グレタさんがツイートを削除したという部分は事実だ。

しかし、グレタさんはツイートで「化石燃料を使い続ければ5年後に人類は死滅する」とは主張していない。ツイートの内容は以下の通り。

"A top climate scientist is warning that climate change will wipe out all of humanity unless we stop using fossil fuels over the next five years.(向こう5年のうちに化石燃料の使用を止めなければ、気候変動によって人類が滅亡すると気候学者が警告している)”

拡散した例1は、ツイート本文では「『化石燃料を使い続ければ5年後に人類は死滅する』というツイートをひっそりと削除」と書いている。しかし、添付している画像(以下の写真)は、グレタさんのツイートを正しく翻訳している。

グレタさんが言う「高名な気候学者による警告」とは、ツイート上のリンクから、gritpost.comというサイトの"Top Climate Scientist: Humans Will Go Extinct if We Don't Fix Climate Change by 2023."という記事(現在は削除され、アーカイブに残っている)を元にしているようだ。

記事は、ハーバード大学のジェームズ・アンダーソン教授が2018年にシカゴ大学で講演した内容を報じるFobesの2018年1月の記事を元にしていると見られる。

元になったForbesの記事を読むと、アンダーソン教授は、温室効果ガスによる気候変動で地球の気候が、今から3900万年以上前の状態に逆戻りし始めていると危惧している。5年以内に温室効果ガスの排出量を減らすべく全世界的に取り組む必要があると指摘したという。アンダーソン教授が、気候変動によって人類が滅亡する旨の発言をしたかどうかは、この記事では確認できなかった。

またAP通信の記事によると、アンダーソン氏はAP通信の取材に対して「講演中にそのような発言はしていない」「(5年以内に人類は滅亡するとアンダーソン氏が述べたという主張は)完全なでっち上げだ」と答えている。

判定

グレタさんの2018年6月21日のツイートが削除されたことは事実だが、拡散したツイートでは「気候学者が、5年以内に化石燃料の使用を止めないと、気候変動で人類は死滅する」と表現した部分を「人類が5年以内に滅亡する」と誤訳しており、不正確だと判定した。

検証:高橋篤史
編集:藤森かもめ、古田大輔

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第8回は、よく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いについてでした。第9回は世界のファクトチェック事例や新手法を解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックの多様な事例 ファクトチェックには原則がありますが、同時に、検証対象の選び方や組織のあり方などは多様です。国内外の事例を紹介します。 Factchek.org ファクトチェック団体としては老舗のFactchek.orgはアメリカ政治に関する偽情報に対応するために、「有権者のための消費者保護センター」を目指して2003年に設立されました。 そのため、主なトピックに並ぶのは「バイデン大統領」「トランプ前大統領」、そして「その他の大統領候補」などアメリカ政治中心です(2024年7月27日現在)。 例えば、「バイデンが不法移民に家賃を支払っているという根拠のない主張」という記事には、見出しに検証対象と検証結果=根拠なしが記され、記事内では検証過程が詳細に記述されていま

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

「外国人による農地取得が全体の3分の2」という言説が拡散しましたが、誤りです。新聞記事を誤読した投稿が拡散しました。 検証対象 2024年7月20日、日本農業新聞の記事を引用して「これやばいだろ?なんで国は規制しない? 外国人による農地取得が全体の3分の2を占めたらしい」という言説が拡散した。 この投稿は43万以上の閲覧と6900のリポストがある。「農地って簡単に買えるの?」「自国の国民のために農地を開拓しているのかもしれない」というコメントのほか、「記事をちゃんと読みましたか」「日本であっても規制はありますよー」といった指摘もある。 「外国人による農地取得が3分の2を占めた」という言説を検証する。 検証過程 言説に添付されたのは、日本農業新聞が2024年7月20日に配信した記事だ。拡散したスクショは「外国人の農地取得 23年は90ヘクタールに 3分の2が国内在住」という見出しで、7月26日朝の時点では「3分の2」が「国内在住の個人・法人中心」に変わっている。 外国資本が「全体の3分の2」ではない 記事の内容は「外国人もしくはその関係法人が2

By 宮本聖二
最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード」という言説が拡散しましたが誤りです。言説に表示された数字は世論調査の数字ではありません。2024年7月26日現在、最新の世論調査では、両氏の支持率は拮抗しています。 検証対象 2024年7月23日、「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード/NHKは『僅差』と報道」という言説が拡散した。言説にはまとめサイト「トータルニュースワールド」のリンクが添付されている。 2024年7月26日現在、投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は31万件を超える。投稿について「当たり前」「妥当」というコメントがある。 検証過程 数字は予測市場プラットフォームの数字 拡散した言説にはまとめサイト「トータルニュース」のリンクが添付され、「64% Trump」「36% Kamala」と書かれたサムネイルが表示されている。リンク先を確認すると、根拠として「PolyMarket」の数字を集計した一般ユーザーのX投稿を複数取り上げている。 Polymarket(ポリマーケット)は、仮想通

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第7回は、ファクトチェックに役立つサイトやツールについてでした。第8回はよく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いを解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックと調査報道の違い 「ファクトチェックは事実を確かめることだから、報道機関は当然どこでもやっているのではないか」とよく聞かれます。 半分正解で半分間違いと言えます。何が共通していて、何が異なるのかを解説していきます。 ファクトチェックとオンライン調査 検証の根拠を公開し、可能な限りユーザーにもアクセス可能にすることが原則のファクトチェックでは、オンライン調査の手法を活用します。 誰でもアクセスできるオープンソースを使うOSINTの重要性は実践編6でも説明した通りです。 OSINTでファクトチェック 公開データを使い真偽を判別する【JFC講座 実践編6】日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第5回は、生成AIで作られる画像

By 古田大輔(Daisuke Furuta)