日本の4市がアフリカ諸国のものになり、移民が流入? 「ホームタウン」制度への誤解 【ファクトチェック】

山形県長井市など日本の4市がアフリカ諸国の「ホームタウン」に認定され、海外でも報道されたことをきっかけに「日本は山形県長井市をタンザニアに与える」「アフリカからの移民を日本に定住させるための特別ビザ制度を創設」などの情報が拡散しましたが、誤りです。「ホームタウン」認定は、交流強化を目指すものですが、特別にビザを発行したり、日本の土地や権利を譲渡したりするものではありません。
検証対象
8月24日、「日本は、山形県長井市をタンザニアに与える」「外務省は、長井市ほか3つの市をアフリカ人に与えることを提案」という投稿が拡散した。
投稿には「THE TANZANIA TIMES」「Japan Dedicates Nagai City To Tanzania」と書かれたスクリーンショットが添付されている。
8月25日現在、この投稿は2万件以上リポストされ、表示回数は403万回を超える。投稿について「外国人に譲らないで頂きたい」「本当にふざけている」というコメントの一方で「長井市がタンザニアになるわけないでしょ」という指摘もある。
千葉県木更津市についても、BBCの記事を引用して「海外報道『日本はアフリカからの移民を日本に定住させるため』の特別ビザ制度を創設」「特別ビザプログラムを開始だって」などの情報が拡散している(例1、例2)。
Youtubeでも同様の内容が拡散し、「石破茂、日本の地方をアフリカにプレゼントしてしまう」「この国がアフリカになる件」といった情報が拡散している(例3、例4)。
検証過程
拡散した記事の内容は
拡散した投稿に添付された記事は「THE TANZANIA TIMES」のもので、サイトによると、アフリカのメディアネットワークに所属しているという(THE TANZANIA TIMES.”Contacts – The Tanzania Times”)。
記事のタイトルは「Japan Dedicates Nagai City To Tanzania」。直訳すると「日本は長井市をタンザニアに寄贈する」と読める。本文には、日本の都市が人材育成などを目的とするアフリカの「ホームタウン」に認定されたと書かれている(The Tanzania Times. “Japan dedicates Nagai City to Tanzania”)。
BBCの記事にはホームタウン認定された木更津市が「ナイジェリアの若者のために特別なビザを創設する予定」とも書かれている(BBC News Pidgin. “Kisarazu: Why Japan name am as di hometown for Nigerians and which visa dem wan give dem”)。
これらの記事が「日本の4市がアフリカに与えられる」「移民が増える」などの情報が拡散するきっかけとなった。
「ホームタウン」認定とは
そもそも「ホームタウン」認定とは何か。日本政府が国連などと共催する第9回アフリカ開発会議(TICAD9)が8月20-22日に横浜市で開かれる中で、独立行政法人「国際協力機構(JICA)」が発表したものだ。
JICAは「日本の4市がアフリカに与えられた」などの情報が拡散したことを受け、8月25日に声明を発表した。以下のような内容だ。
(以下、引用)
「JICAアフリカ・ホームタウン」は、これまでに各自治体が築いてきたアフリカ諸国との関係をさらに強化することで、アフリカの課題解決と日本の地方活性化に貢献することを目的としています。JICAは、8月21日(木) のイベントで、愛媛県今治市とモザンビーク、千葉県木更津市とナイジェリア、新潟県三条市とガーナ、山形県長井市とタンザニアのそれぞれの交流を促進するため、各市を「JICAアフリカ・ホームタウン」として認定しました。JICAは、人材交流や連携イベントの支援などを通じて、各市の国際交流を後押しします。
現地の報道等の「JICAアフリカ・ホームタウン」のもとで山形県長井市がタンザニアの国の一部になると誤解を与えるような記載や、移民の受け入れ促進、日本と当該諸国との往来のための特別な査証の発給等の記載は、いずれも事実に反します。
(以上、JICA.”「JICAアフリカ・ホームタウン」に関する報道について”)
つまり、「ホームタウン」認定は国際交流を強化する目的のものだが、拡散したような「日本の自治体をアフリカに与える」「特別なビザを発行する」というものではない。
JICAは声明で「現地の報道等について、内容の訂正を速やかに行うよう、申し入れを進めています」とも明らかにしている。
各市が移民受け入れを否定
長井市は8月25日、市のサイトで「一部SNS等で報じられているような、本市がタンザニア連合共和国の一部になるであるとか、移民を積極的に受け入れるといった事実は一切ございません」と発表している(長井市.”長井市の国際交流に関する報道について”)。
木更津市の渡辺芳邦市長は8月25日、「一部のSNS等で報じられている移住・移民の受け入れやナイジェリア国における特別就労ビザ等の発給要件の緩和措置などの事実は、本市から何ら要請した事実はなく、また、一切承知しておらず、SNS等で報じられている事実もございません」と見解を示した(木更津市.”JICA アフリカ・ホームタウン認定状交付に係る木更津市の見解”)。
三条市も8月26日、市のサイトで「移住や移民の受け入れにつながるような取り組みではございません」と書いている(三条市.”三条市の国際交流に関する報道に関しまして”)。
今治市はNHKの取材に対し「移民政策を進めるものではなく、文化交流や人材の育成、産業の連携が目的」と回答している(NHK.”ホームタウン”で問い合わせ 今治市「正確な情報入手を」”)。
判定
「ホームタウン」認定と海外の報道をきっかけに「日本は山形県長井市をタンザニアに与える」「アフリカからの移民を日本に定住させるための特別ビザ制度を創設」などの情報が拡散したが、いずれも誤り。ホームタウン制度は交流強化を目指すためのもので、拡散した情報の内容については認定を主導したJICAも各市も内容を否定している。よって、誤りと判定した。
出典・参考
The Tanzania Times. “Japan dedicates Nagai City to Tanzania”. https://tanzaniatimes.net/japan-dedicates-nagai-city-to-tanzania/ , (閲覧日 2025年8月25日).
NHK. “JICA 国内自治体をアフリカ各国の『ホームタウン』に認定へ”. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250817/k10014895941000.html , (閲覧日 2025年8月25日).
産経新聞. “アフリカの「ホームタウン」に長井、木更津、三条、今治の4市 「移住先では」と懸念の声”https://www.sankei.com/article/20250825-E7T73HKQIFFEDI7P2U7QHSYSEU/ , (閲覧日 2025年8月25日).
独立行政法人国際協力機構 (JICA). “「JICAアフリカ・ホームタウン」に関する報道について”. JICA ニュース・広報. 公開日 2025年8月25日. https://www.jica.go.jp/information/notice/2025/1572980_66416.html , (閲覧日 2025年8月25日).
BBC News Pidgin. “Kisarazu: Why Japan name am as di hometown for Nigerians and which visa dem wan give dem”. BBC News Pidgin.https://www.bbc.com/pidgin/articles/cgm2p4d8m9mo , (閲覧日 2025年8月25日).
長井市. “長井市の国際交流に関する報道について(市長コメント)”. 長井市. 公開日 2025年8月25日. https://www.city.nagai.yamagata.jp/soshiki/sougoseisaku/106/208/15393.html (閲覧日 2025年8月25日).
木更津市. “JICA アフリカ・ホームタウン認定状交付に係る木更津市の見解(市長コメント)”. 更新日 2025年8月25日. https://www.city.kisarazu.lg.jp/soshiki/kikaku/organiccity/5/12925.html , (閲覧日 2025年8月25日).
NHK. “「ホームタウン」で問い合わせ 今治市「正確な情報入手を」”. https://www3.nhk.or.jp/matsuyama-news/20250825/8000022733.html , (閲覧日 2025年8月26 日).
検証:木山竣策
編集:古田大輔
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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