「選挙不正」投稿はなぜ2.5倍に跳ね上がったのか 確証バイアスで「チームみらい」が標的に【ファクトチェック解説】

「選挙不正」投稿はなぜ2.5倍に跳ね上がったのか 確証バイアスで「チームみらい」が標的に【ファクトチェック解説】

2026年の衆院選では、これまで以上に「不正選挙があった」と主張する偽・誤情報が拡散しました。日本ファクトチェックセンター(JFC)がSNS分析ツールMeltwaterで調べたところ、2025年の参院選に比べて約2.5倍に増えました。どのような投稿が、なぜ拡散したのかを解説します。(古田大輔)

衆院選では投開票日の翌日から急増

JFCは、選挙期間中から選挙後1週間までの間に、どれぐらい「票のすり替え」や「替え玉」などの選挙不正を主張する投稿が増えたかを調べました。

2025年の参院選(7月3日公示・7月20日投票)では、選挙後の7日間も含めた25日間で、記事や投稿は約106万件ありました。これに対して、2026年の衆院選(1月27日公示・2月8日投開票)は、選挙後の7日間も含めた20日間で262万件と、約2.5倍に増えました。

Meltwaterより2025年参院選での選挙不正に関する記事や投稿数
Meltwaterより2026年の衆院選での選挙不正に関する記事や投稿数

グラフを見ると、投稿量だけでなく、拡散のタイミングにもやや違いがあることがわかります。

不正選挙の指摘が増えやすいのは、選挙戦の後半、特に投開票日と結果が確定する翌日です。開票率が0%なのに続々と「当選確実」が報じられると「選挙不正があって、もともと勝敗が決まっていたのではないか」などの陰謀論が拡散し、その後、選挙結果への関心の低下と共に急速に減ります。

2025年の参院選でも同じような傾向がありました。2026年の衆院選が異なるのは、投開票日の翌日以降も投稿が続いたことです。

チームみらいを名指しする投稿が拡散

2026年衆院選では、開票後、11議席を獲得して躍進した政党「チームみらい」に対して、名指しで選挙不正をしたのではないかと批判する投稿が多数拡散しました。

衆院選で拡散した不正選挙を指摘する投稿に、頻繁に含まれていた文言をワードクラウドで可視化すると、以下のようになります。目立つのは「チームみらい」「みらい」という文言です。

Metwaterで作成した不正選挙に関する投稿に頻出する文言のワードクラウド

JFCは衆院選後に、「チームみらい」を名指しした3つの投稿を検証し、「誤り」「不正確」「根拠不明」と判定しています。これらは数多く拡散した投稿の一部に過ぎません。

誤り:衆院選でチームみらいが不正? 無関係の事例【ファクトチェック】
不正確チームみらいが政党支持率0.1%で11議席獲得はおかしい? 画像は選挙前の調査【ファクトチェック】
根拠不明:チームみらいの票が極めて不自然? 事前の報道でも予測されていた【ファクトチェック】

議席の急増で「疑惑」の標的に

「不正確」と判定した記事にもあるように、選挙不正を主張する投稿の根拠とされたのは、チームみらいの躍進それ自体でした。

チームみらいの前身は2024年都知事選に立候補したAIエンジニアでSF作家の安野貴博氏を支えた「チームあんの」です。

都知事選では、安野氏は政治活動の経験がゼロながら、AIを活用して市民の意見を双方向に取り入れながら政策をまとめていく斬新な手法で、テクノロジーに関心が高い層から徐々に支援の輪を広げました。新聞やテレビが報じない「泡沫候補」扱いだったにも関わらず、15万票超を獲得して5位に入り、注目を集めました。

2025年参院選では、比例区で安野氏が初当選し、得票率が2%を超えたことで政党要件も獲得。2026年衆院選には14人の候補者を出し、11人が当選しました。

これに対し、他党の支持者らから「おかしい」「不正だ」などの指摘が相次ぎました。

チームみらいの躍進は予想されていた

ただし、それらの指摘の主な根拠は「躍進したこと」で、明確に不正を示す証拠はありませんでした。

例えば、JFCも検証した「政党支持率0.1%だった」という主張は、選挙の2週間以上前の調査結果でした。実際にはチームみらいは消費減税を訴える他党とは異なる立ち位置で、急速に支持を広げました。

「候補者がいなかった」「活動していなかった」など、様々な指摘がありましたが、チームみらいの躍進は、選挙終盤の新聞社やテレビ局の調査で予測されていたものでした。

衆院選後の各社の世論調査も、チームみらいへの支持を裏付けています。例えば、読売新聞が2月9,10日に実施した世論調査では、チームみらいへの支持率は4%でした。

28議席(小選挙区8,比例区20)を得た国民民主党、比例区で15議席を得た参政党がそれぞれ5%であることを考えると、実力通りの結果だったととらえることもできます。

読売新聞による2月9,10日の世論調査よりJFC作成

「選挙不正疑惑」は必ず拡散する

「票が書き換えられる」「投票箱ごとすり替えられる」「開票システム『ムサシ』に仕掛けがある」「替え玉投票が可能だ」などの選挙不正疑惑は、選挙のたびに必ず拡散します。

JFCでは、選挙前に定番の不正疑惑について、選挙管理委員会への取材も交えて、解説記事を発信しました。

JFC”「期日前投票はすり替えられる」「鉛筆で書かせるのは消すため」「開票システムに仕掛けがある」 繰り返される不正選挙疑惑を検証【#衆院選ファクトチェック】

選管が公正な選挙の維持に努めているにもかかわらず、不正だという主張が尽きないのは、いくつか理由があります。一つは、自分が支持する政党が苦戦した際に「不正があったからではないか」と考える人がいることです。

そう考える人は「不正が存在した」という自分の考えを裏付けてくれそうな情報を積極的に拡散し、躍進した政党と結びつけがちです。これが確証バイアスです。

実際に、不正疑惑を投稿していたアカウントの多くは、衆院選で苦戦した政党の支持者でした。

投票・開票に関わる問題が発生することは事実

一方で、選挙のたびに、投票用紙の交付の誤り、開票速報の誤りなど、投開票をめぐる問題が発生していることも事実です。

2026年衆院選でも、兵庫県西宮市選挙管理委員会が兵庫7区で開票数より投票者数より118票多くなるミスがあったと発表しました。記入ミスが原因で、当落には影響しなかったといいます(読売新聞”小選挙区の票数が投票者総数より118票上回るトラブル、原因は「実際の投票者数を過少報告」した選管ミス”)。

また、東京都大田区では2025年参院選で、投票者総数の選挙区と比例区での2重計上のミスを誤魔化すために無効票を大量に水増ししたとして、2026年3月2日、男性職員3人が公職選挙法違反容疑で書類送検されました。こちらも選挙の当落に影響はありませんでした(朝日新聞”午前3時に分かった「誤差」、明け方の水増し 大田区公選法違反事件”)。

こういったミスが報じられることも不正選挙を疑う人が生まれる理由となっています。

今後もミスや不正が明らかになる事例は起きるでしょう。だからといって、特定の候補者や政党が躍進するほどの大規模な不正は非常に困難です。

支持する候補者が苦戦すると、「不正があるのでは」と疑いたくなる気持ちもわかりますが、自分の考えに同調してくれるから、その情報を信じるのではなくて、情報の発信源や根拠を確認し、信頼性を見極めることが大切です。


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

日本が外国人観光客や不法移民を「寿司のように」簀巻きにして強制送還? 国籍を問わず使うシート【ファクトチェック】

日本が外国人観光客や不法移民を「寿司のように」簀巻きにして強制送還? 国籍を問わず使うシート【ファクトチェック】

日本政府が、迷惑行為をした外国人観光客や不法移民を「寿司のように」シートで簀巻きにして国外退去させていると主張する動画が英語やスペイン語で拡散しましたが、不正確です。警察は、動画に映っているシートを国籍を問わずに使用しています。国外退去目的ではありません。 検証対象 拡散した言説 2026年2月9日、「日本は、迷惑な観光客の『寿司化』プロセスを開始しました。もしあなたが問題を起こしているところを見られたら、彼らはあなたを巻いて強制送還のために送り出します。笑」という英語の投稿がXで拡散した。 投稿には動画が添付されている。街中で「警視庁」という文字の入った制服姿の男性数人が、黒人男性を緑色のシートでくるんでパトカーに乗せる様子が映っている。 検証する理由 4月6日現在、投稿は1.5万回以上リポストされ、表示は455.2万件を超える。 投稿には「天才的な判断だ――無礼は一切許さない」や「観光客は、訪れる国の文化を尊重することを学ぶべきだ」など真に受けたコメントも多い。 スペイン語で「高市政権は不法移民たちを寿司のようにくるんで強制送還する」という

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
キアヌ・リーブスが「ハリウッドスターは赤ちゃんの血を飲んでいる」と暴露? 何度も拡散する偽情報【ファクトチェック】

キアヌ・リーブスが「ハリウッドスターは赤ちゃんの血を飲んでいる」と暴露? 何度も拡散する偽情報【ファクトチェック】

俳優のキアヌ・リーブス氏が「ハリウッドスターは赤ちゃんの血を飲んでいる」と暴露したという動画付き投稿が拡散しましたが、誤りです。そのような発言はしていません。2017年ごろから何度も拡散している偽情報です。 検証対象 拡散した投稿 2026年3月30日、「キアヌ・リーブスが内部告発:『ハリウッドスターはハイになるために赤ちゃんの血を飲んでいる』衝撃的な映像が流出した」という投稿が拡散した。 投稿は英語の投稿を引用しており、引用元には15分の動画が添付されている。動画ではニュースキャスター風の人物が、「キアヌの新番組『フーリガンズ』のプロモーション中、彼はファンに対して爆弾発言をしました」などと話しており、キアヌ・リーブス氏がインタビューに答える画像が挿入されている。 検証する理由 4月7日現在、この投稿は4300件以上リポストされ、表示回数は46万回を超える。投稿について「キアヌ・リーブスが嘘つくとは思えないから本当なんだろう」「キアヌ、こんな発言して大丈夫かな」というコメントの一方で「悪質なフェイクニュース」という指摘もある。 検証過程

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
高市首相が「移民より出産増で人口減対策」と演説? 出生率向上重視しつつ、外国人労働力も否定せず【ファクトチェック】

高市首相が「移民より出産増で人口減対策」と演説? 出生率向上重視しつつ、外国人労働力も否定せず【ファクトチェック】

高市早苗首相が、2025年10月24日の所信表明演説で「移民を増やすのではなく、子供を多く持つことが日本の人口減少を解決する」と述べたと主張する投稿が拡散しましたが、不正確です。高市首相は「子供・子育て政策を含む人口減少対策を検討していく」と述べるとともに、「人手不足の状況において、外国人材を必要とする分野があることは事実です」とも発言しています。 検証対象 拡散した言説 2026年4月1日、「高市首相は移民を増やすのではなく、子供を多く持つことが日本の人口減少を解決すると述べた」と主張する投稿がXで拡散した。 検証する理由 4月6日現在、投稿は1900回以上リポストされ、表示は15.5万件を超える。 投稿には「真っ赤な嘘。高市は、そんな事ひとことも言ってない」や「情報を都合良く解釈して賛美。アホらし」などの指摘もあるが、「自慢の総理が世界でも認められて飛び上がるぐらい嬉しい」や「悪さをするのは男が多い、移民は40歳以下の女性限定にしましょう」など真に受けた反応も多いため、検証する。 検証過程 添付動画は2025年10月の演説 拡散した投

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は4月25日(土)午前10時~11時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0425.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)