「偽情報の源はテレビ」は本当か? 批判の根拠となった調査を実施した小笠原教授とデータを読み解く【ファクトチェック解説】

「偽情報の源はテレビ」は本当か? 批判の根拠となった調査を実施した小笠原教授とデータを読み解く【ファクトチェック解説】

「偽・誤情報の発信源はテレビが最多」という趣旨の投稿が多数拡散しました。きっかけは、衆院選期間中の有権者の偽・誤情報の接触状況を調べた東洋大の小笠原盛浩教授(情報社会学)による調査です。ただし、小笠原教授は調査データの読み解き方に、慎重さが必要だと説明します。(古田大輔)

調査の内容と拡散したテレビ批判

小笠原教授による調査は、2026年の衆院選期間中(1月27日〜2月7日)に有権者が接触した偽・誤情報に関して、2月8〜10日にインターネットモニター調査(有効回答者数1793)をしたもの。選挙期間中にファクトチェック機関やメディアが検証して「誤り」と判定されている偽・誤情報の中から5つを選び、テレビ、新聞、SNSなど、「どこでその情報と接触したか」「事実と認識したか」などを聞きました。

回答者の51.4%が選挙期間中に偽・誤情報に接触したと答え、しかも、接触した偽・誤情報1585件の79.9%を事実だと誤認識していました。中でも、最も注目を集めたのは、偽・誤情報の接触経路として「テレビ」と答えた人が最も多く32.7%を占めたことです。

この調査を紹介した時事通信の記事「偽情報、8割を「事実」と誤認識 情報源「テレビ」が最多―衆院選で東洋大調査」が2月18日に配信されると、テレビを批判する形で情報が拡散しました。

日本ファクトチェックセンター(JFC)がソーシャルメディア分析ツールのMeltwaterで調べたところ、記事の配信直後から「フェイクニュースの主な源はテレビ」「テレビを規制すべき」「『偽情報を駆逐すべくSNSを規制しろ!』とテレビで騒いでいた方々いましたが」などの投稿が、記事を引用する形で広く拡散しました。

ただ、記事で紹介されていたのは調査データの一部です。詳しく見ていくと、違う側面も見えてきます。JFCは調査データの提供を受けて、改めて小笠原教授に話を聞きました。


「偽・誤情報の発信源はテレビが最多」とは言えない

古田:この調査の狙いを教えて下さい。

小笠原:国政選挙で、有権者がどれだけ偽・誤情報の影響を受けたかを調べました。2025年の参院選で同様の調査をしたら、テレビを経由して偽・誤情報を見聞きしたという人が最も多かった。それが参院選に限ったものなのかを調べる意図がありました。結果として、衆院選でもテレビ経由で偽・誤情報を見聞きした人が最も多かったです。

古田:「偽・誤情報の発信源はテレビが最多」と言えるのでしょうか。

小笠原:今回の調査結果から主に読み取れるのは「回答者の半数以上が偽・誤情報に接触」「その8割程度が偽・誤情報を事実と誤認識していた」「テレビを経路として偽・誤情報に接触した人が多かった」ということです。「テレビが偽・誤情報の発信源である」ではありません。

また、接触経路としてテレビが最も多いというのも「この5つの選択肢に関して」ということです。全ての偽・誤情報に関してそう言えるわけではありません。

すべての偽・誤情報についてアンケートをとることはできないため、選挙期間中にファクトチェック機関やメディアが検証して「誤り」と判定されている偽・誤情報の中から5つを選んで、それについて回答してもらいました。

「選択肢として選んだ5つの偽・誤情報については、接触源としてテレビが最多だった」とは言えます。

 調査対象の偽・誤情報と接触率・誤認識率(N=1,793)
情報源種類別の偽・誤情報の情報源率・誤認識率(対象:偽・誤情報5件)

「マンション価格の高騰は外国人の投機のせい」という項目の特殊性

古田:この5つの選択肢の合計で見た場合は、たしかに偽・誤情報の接触源としてテレビが最多ですね。でも、違和感があります。

日本ファクトチェックセンター(JFC)では過去3年間で約1000本のファクトチェックをしてきました。その多くは、新聞やテレビが取り扱わないような、あからさまなデマです。

例えば、選択肢2つ目の「中道の斉藤共同代表が『人間より他にもっと大事なものがある』と発言」は発言の切り取り、4つ目の「こども家庭庁を廃止すれば減税分の財源をまかなえる」は事実とかけ離れており、新聞やテレビはあまり取り上げない内容です。

それらに比べると、選択肢1の「マンション価格の高騰は外国人が投機目的で購入しているからだ」に関する話題は、ここ数年、テレビも盛んに取り上げた話題です。正確に言えば、「マンション価格の高騰」に関する話題で、その一因として「外国人を含む投機目的での購入があるからだ」と紹介するような内容でした。

つまり、「マンション価格の高騰は外国人が投機目的で購入しているからだ」とストレートに伝えるというよりは、要因の一つとして発信する番組が多かったように思います。そのような発信は、間違いとまでは言えないのでは。

小笠原:そうですね。調査は事後的なものですから、どうしても、視聴者がどう受け取ったかを後から思い出してもらって回答する形になります。結果として「マンション価格の高騰は外国人が投機目的で購入しているからだ」という風に思い出され、こういう回答になっているかもしれません。

また、この5つの選択肢が必ずしも選挙期間中に流布した偽・誤情報を代表するものではない、という課題もあります。選挙期間中に流れていた情報で、ファクトチェック組織や大手メディアが検証をして「誤り」と判定したものをNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」が公開しているリストから選ばなければならなかったので、選べる本数がもともと限られていました。

5つの選択肢の中で、接触経路としてテレビが最多だったのは、「マンション価格の高騰は外国人が投機目的で購入しているからだ」(41.7%)と「高市首相の街頭演説に集まった聴衆の写真は、2025年大みそかの渋谷カウントダウン映像」(26.4%)の2件でした。

「マンション価格」について、テレビでの接触数が796件と突出して多かったため、全体で見てもテレビでの偽・誤情報接触率を引き上げる形になりました。

「マンション価格」を除いて他の4件で見ると、偽誤情報の情報源率はSNS(政党・候補者を除く)が1位(25.7%)、ニュースサイト・アプリが2位(24.8%)、テレビが3位(23.6%)となります。

情報源種類別の偽・誤情報の情報源率・誤認識率(対象:偽・誤情報4件)

各政党の主張をテレビはどのように伝えたか

古田:もう一つ、テレビが「マンション価格の高騰は外国人が投機目的で購入しているからだ」という情報を広く拡散させる要因となったものとして、党首討論や各党の主張を伝える報道の影響もあるのではないでしょうか。

例えば、参政党の「外国人による住宅購入に制限を設けて価格高騰を抑制する」という主張や、日本保守党の「外国勢力による不動産買収の禁止」などの政策をテレビは報じました。結果として「マンション価格の高騰は外国人が投機目的で購入しているからだ」という情報をテレビで見たという認識に繋がったのでは。

小笠原:その可能性も十分にあります。党首討論などでは各党の主張をそのまま伝えますが、その主張が事実に基づいているのかどうかの検証はされていません。そういった報道で、この情報を知った人もいるでしょう。

間違っているのに、その情報が事実だと受け取る誤認識率について、5つの偽・誤情報全体では84.9%とテレビが最も高かった。これも「外国人による住宅購入に制限を設けて価格高騰を抑制する」の誤認識率がテレビが93.1%と非常に高かったからです。

この項目については、ニュースサイト・アプリが89.0%、SNS(候補者・政党を除く)が88.6%と、いずれも誤認識率が非常に高いです。これを除いた4件の偽・誤情報で見てみると、テレビの誤認識率は66.1%。その他75%、SNS72.9%、ニュースサイト・アプリ72.5%よりも低い数字です。これはこの選択肢について、他とは違う傾向があった証とも言えます。

「伝え方」の課題とは

古田:今回の調査結果からは、一般論として「テレビが偽・誤情報の接触源として最多」とは言えないにしても、テレビの報道が「誤った情報」と接触する、もしくは、事後的にでも影響を受ける契機となっているとは言えそうです。

誤認識率にしても、66.1%でも非常に高いと言えます。どのような対策が望ましいでしょうか。

小笠原:選挙期間は短く、偽・誤情報が一度広がってしまうと、期間内に検証をすることが非常に難しい。各党の主張を伝えるにしても、その各党の主張を伝える段階でファクトチェックをしたり、注釈をつけたりするべきでしょう。

また、ファクトチェックをする場合、偽・誤情報だけを見出しやキャプションにすると、そちらの印象が残って、検証部分が十分伝わらない恐れもあります。テレビは番組の一場面だけが切り取られて拡散することも多いです。画面上には、正しい情報をテロップで表示し続けるなど、様々な工夫が考えられると思います。

個人の判断能力だけで情報の真偽を見極めることは困難になっているため、個人の判断能力に過度な負担をかけなくても信頼できる情報にアクセスできるよう、情報環境を改善していくことが重要と考えます。

情報環境を改善するための総合的な対策

古田:「情報環境の改善」にはファクトチェックだけでなく、より総合的な対策も必要になってきます。

小笠原:ファクトチェックに関して言えば、重要な話題に関する検証のスピードアップと体制構築が重要です。

メディア環境全般で言えば、信憑性の高いニュース情報源としての伝統的メディアの役割の再構築。そして、プラットフォームがルールに則って不適切なコンテンツに対処できるようにするための法環境の整備も必要だと考えています。


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

GlobalFact:AIにどう対処し、活用するか/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

GlobalFact:AIにどう対処し、活用するか/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

6月に開催された国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の年次総会GlobalFact2026について、報告記事の第2,3弾を公開しました。AIは情報環境に取って、毒にも薬にもなります。具体的な活用法や問題について、ご覧ください。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 今週のお知らせ JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は7月25日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 日本ファクトチェックセンター(JFC) ファクトチェック講師養成講座 7月25日(土)開催分日本ファクトチェックセンター(JFC)による講師養成講座です

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
AIの「回答のばらつき」と「政治的バイアス」をどう防ぐ? 【GlobalFact2026報告③】

AIの「回答のばらつき」と「政治的バイアス」をどう防ぐ? 【GlobalFact2026報告③】

国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の「グローバル・ファクト2026」では、ファクトチェックへのAIの活用やリスクについて、多くのパネル討論が開かれました。中でも、AIの信頼性に関する議論は、ファクトチェッカーたちが最も危機感を募らせたテーマの一つです。AIはどの程度信用できるのか。登壇者たちが報告したAIの問題点と、改善に向けた取り組みを紹介します。 世界最大のファクトチェッカー「AI」を監視せよ 同一プロンプトなのに、日によって変わる回答 英国のファクトチェック団体Full Factは、AIが提示する情報の信頼性について、独自に分析した結果を発表しました。登壇したのは、団体のCEO・Chris Morris氏と、AI部門責任者Andrew Dudfield氏です。 Full Factは2009年創設。2025年の総収入305万ポンド(約6億円)規模の非営利団体で、活動資金は個人の寄付や財団、テック企業などからの資金でまかなっています。政治家の発言やネット上の誤情報を多数検証してきた実績がありますが、2025年、主要な資金源の一つだったGoog

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
詐欺対策ボットからディープフェイク判定まで、偽・誤情報対策におけるAI活用【GlobalFact2026報告②】

詐欺対策ボットからディープフェイク判定まで、偽・誤情報対策におけるAI活用【GlobalFact2026報告②】

国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の「グローバル・ファクト2026」で、注目を集めたテーマの一つがAIです。偽情報を大量に生み出す「脅威」であると同時に、ファクトチェックを支える「味方」にもなる。そうしたAIの二面性を象徴するような報告や議論が、随所で交わされました。 詐欺対策からヘイトスピーチ監視まで、現場で進むAI活用 3日間にわたる会議の中で、初日から、AIを活用した成功例が次々と報告されました。特に印象的だった3つの事例を紹介します。  オンライン詐欺対策にAIチャットボット インドのファクトチェック団体The Quintからは、オンライン詐欺対策用に開発したAIチャットボット「Scamguard」の紹介がありました。 The Quintは、インドで発生しているオンライン詐欺の手口をまとめたデータベースをつくり、そのデータベースとWhatsAppなどのメッセージアプリをつないだチャットボットを作成。不審なメッセージを受け取ったユーザーが、アプリのチャットボットに転送すると、ボットが詐欺の見分け方や政府の窓口の情報などを案内する仕組みを

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
GlobalFact報告記事1/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

GlobalFact報告記事1/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

6月に開催された国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の年次総会GlobalFact2026について、報告記事の第一弾を公開しました。 ファクトチェックや情報環境を取り巻く問題の全体的な状況について、登壇者らの声を引用しています。今後、AIや認知戦など個別のトピックについても報告記事を書いていきます。ご期待ください。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 今週のお知らせ JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は7月25日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 日本ファクトチェックセンター(JFC) ファクトチェック講師

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は7月25日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 日本ファクトチェックセンター(JFC) ファクトチェック講師養成講座 7月25日(土)開催分日本ファクトチェックセンター(JFC)による講師養成講座です。 講師養成講座(オンラインで90分)を受講いただいた後、修了課題を提出された方には、教室や職場などで利用可能な教材の提... powered by Peatix : More than a ticket.Peatix 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や騙されない人の行動

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)