ネパールの洪水で象が人を助ける? 洪水の前から投稿されていた動画【ファクトチェック】

ネパールの洪水で象が人を助ける? 洪水の前から投稿されていた動画【ファクトチェック】

2026年8月26日にネパールと中国の国境地帯で大規模な土石流が発生したことを受けて、洪水から象が人を助けているという動画が拡散しましたが、誤りです。今回拡散したのと同じ動画は、少なくとも今回の洪水が起きる前の2026年8月9日に、すでに公開されています。

検証対象

拡散した言説

2026年8月26日以降、「ネパールの洪水から象が人を助けている」という動画がSNSで多数拡散した(例1,2)。

検証する理由

「動画はフェイクです」「別の動画」などの指摘もあるが、「このぞうさんすごいね」など真に受けた反応も多いため、検証する。

検証過程

拡散した動画の内容

拡散した複数の動画は、どれも濁流で動けなくなっている人に象が近づいていき、人が象の頭によじ登って助かる様子が映っている(例1,2)。動画の編集やテロップは異なるが、象が人を助ける映像部分は同一だ。

元動画は今回の洪水以前のもの

この動画をGoogleレンズで検索すると、多数の動画が表示される。その中には、公開日が今回のネパールの土石流発生以前のものもある。

例3はバングラデシュのメディアNagorik Protidinが、YouTubeチャンネルに2026年8月9日に公開した動画で、概要欄には外国語で説明が書いてある。

「বন্যার মাঝে মালিককে বাঁচালো পোষা হাতি | Nagorik Protidin.

ভয়াবহ বন্যার পানিতে বিপদে পড়েছিলেন এক ব্যক্তি। সেই মুহূর্তে নিজের মালিককে বাঁচাতে এগিয়ে আসে তার পোষা হাতি। বন্যার পানির মধ্যে হাতিটির অসাধারণ ভূমিকার দৃশ্য ছড়িয়ে পড়েছে সামাজিক যোগাযোগমাধ্যমে। কীভাবে মালিককে বিপদ থেকে উদ্ধার করল হাতিটি—দেখুন বিস্তারিত।

সর্বশেষ দেশ-বিদেশের খবর, ভাইরাল ভিডিও, মানবিক গল্প, প্রাণীজগতের ঘটনা ও গুরুত্বপূর্ণ সংবাদ পেতে সাবস্ক্রাইব করুন নাগরিক প্রতিদিন।」 (বন্যার মাঝে মালিককে বাঁচালো পোষা হাতি | Nagorik Protidin.2026年8月9日)

Geminiなど複数のAIで翻訳したところ、いずれもベンガル語で以下のような意味だった。

タイトル:『洪水の中、飼い主を救ったペットの象』

本文:深刻な洪水の中で危険な状況に陥った人物を、飼っていた象が助けに来た。この象の活躍の様子がSNSで拡散された。象がどのように飼い主を危機から救ったか、詳細をご覧ください。

例4はインドのメディアSanjay Pera NewsがFacebookに2026年8月9日に公開した動画だ。概要欄には英語で次のように書いてある。

「アッサム州の洪水で、象が男性の救助の協力

アッサム州で、激しい洪水に巻き込まれた男性を象が助けたと報じられており、人間と野生動物の絆を感じる感動的な瞬間が生まれた」(Sanjay Pera News”Elephant Helps Save Man During Assam Floods”2026年8月9日)

インドのアッサム州では、2026年7月に大規模な洪水が起き、多くの被害が出ている(BBC”'It took everything from us': India's Assam faces worst floods in years”2026年7月27日、AP”At least 50 people killed and 700,000 displaced by India floods after monsoon rains”2026年7月24日)。

米ファクトチェック組織Snopesや英Full Factも、この動画を「今回のネパールの洪水の動画ではない」と判定している。

Full Factは、バングラデシュのニュースサイトNagorik Protidinがこの動画を8月9日にYouTubeに公開しており、テロップにベンガル語で「ペットの象が飼い主を洪水から救助」と書いてあると伝えている(Full Fact”Clip of elephant rescuing man does not show this week’s flood in Nepal”2026年8月27日)。

Snopesは、この動画に、AI生成特有の不自然な点が複数見られると指摘している。複数のスクリーンショットを分析すると、細部の不足、不自然で極端な影、肌の色や質感の不整合、画質の劣化、輪郭のにじみ、四肢の歪みがあったという(Snopes”Does video show elephant rescuing man from Nepal floods?”2026年9月1日)。

日本ファクトチェックセンターでも動画を精査したが、AI生成だという確証は得られなかった。

判定

ネパールの洪水から象が人を助けているという動画が拡散した。しかし、今回拡散したのと同じ動画が、洪水が起きる前の少なくとも8月9日には公開されているため、誤りと判定する。

出典・参考

Nagorik Protidin.বন্যার মাঝে মালিককে বাঁচালো পোষা হাতি | Nagorik Protidin. 2026年8月9日.https://megalodon.jp/2026-0902-1020-53/https://youtu.be:443/xRO5GvmU8Fg?si=z3yeQsTYvhpfAx8v,(閲覧日2026年9月3日).

Sanjay Pera News.”Elephant Helps Save Man During Assam Floods”2026年8月9日.https://megalodon.jp/2026-0902-1203-11/https://www.facebook.com:443/Sanjayperanews/videos/1249955130522992/,(閲覧日2026年9月3日).

BBC.”'It took everything from us': India's Assam faces worst floods in years”2026年7月27日.https://www.bbc.com/news/articles/cqlx61p3wz0o,(閲覧日2026年9月3日).

AP.”At least 50 people killed and 700,000 displaced by India floods after monsoon rains”2026年7月24日.https://apnews.com/article/india-floods-monsoon-assam-brahmaputra-river-042b23c3945161454c0d836439124d9c,(閲覧日2026年9月3日).

Full Fact.”Clip of elephant rescuing man does not show this week’s flood in Nepal”.2026年8月27日.https://fullfact.org/world/elephant-video-not-nepal-flooding/,(閲覧日2026年9月3日).

Snopes.”Does video show elephant rescuing man from Nepal floods?”2026年9月1日.https://www.snopes.com/fact-check/video-man-elephant-nepal-floods/,(閲覧日2026年9月3日).

検証:根津綾子
編集:古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら。

もっと見る

毎年拡散するインフルエンザ誤情報/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

毎年拡散するインフルエンザ誤情報/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

あるニュースが注目を集めると、それにまつわる偽・誤情報が必ず拡散します。地震、台風、インフルエンザもその一つです。季節の話題のように、毎年、流行のタイミングで、手口が似通った偽情報が拡散する。プレバンキング記事で予習をしておくと良いでしょう。 今週のファクトチェックまとめです。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 今週のお知らせ JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は10月24日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 日本ファクトチェックセンター(JFC) ファクトチェック講師養成講座 10月24日(土)開催分日本ファク

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日高村がバングラデシュ人を1000人受け入れる? 村は否定【ファクトチェック】

日高村がバングラデシュ人を1000人受け入れる? 村は否定【ファクトチェック】

高知県日高村が「バングラデシュ人1000人を受け入れる」という投稿が拡散しましたが、誤りです。日高村は「特定の国籍の方を対象とした集団的な移住事業や計画は行っていない」と公式に否定しています。民間の交流団体の会長は「1000人」と話していますが、村の施策とは無関係です。 検証対象 拡散した言説 2026年10月1日、「高知県の日高村という人口4577人の村で、バングラデシュ人1000人受け入れるみたいだが…」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 この投稿は9000件以上リポストされ、表示回数は839万回を超えている。「地元の人達は知ってるの?」「5人に1人がバングラデシュ人になってしまう!」というコメントがあるため検証する。 検証過程 出入国在留管理庁のウェブサイトによると、2025年末現在、高知県に住むバングラデシュ人は107人だ(出入国在留管理庁”令和7年末現在における在留外国人数について”)。 「1000人受け入れ」は村の計画ではなく民間団体の発言 「バングラデシュ人を1000人受け入れ」はどこからの情報か。Meltwaterで

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
インフルエンザの偽・誤情報は毎年、形を変えて広がる 国内外の検証に見る5つの手口【プレバンキング】

インフルエンザの偽・誤情報は毎年、形を変えて広がる 国内外の検証に見る5つの手口【プレバンキング】

秋が深まり、インフルエンザワクチンの接種シーズンが始まりました。この時期は、ワクチンや流行をめぐる偽・誤情報も毎年のように広がります。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、インフルエンザワクチンに関する投稿を繰り返し検証してきました。似たような主張は、海外でも拡散しています。今回は、海外の事例も合わせて、5つの「手口」を紹介します。 この記事は、偽・誤情報の手口を知ることで、同様の情報を目にしたときに騙されにくくする「プレバンキング」という予防的な取り組みです。詳しくは、JFC用語解説「プレバンキング」をご覧ください。 広がりやすい5つの手口 1. 本物の資料の一部分を切り出して「危険」と主張 本物の医薬品の添付文書や研究論文の一部を切り取って、「危険だ」と主張する投稿です。 2025年9月、点鼻ワクチン「フルミスト」の添付文書に「劇薬」「ミトコンドリア脳筋症の症状悪化」と書かれていることを根拠に、「子供の命が危険」だという主張が拡散しました。記載は事実ですが、そもそもワクチンは原則「劇薬」に指定されています。「劇薬は用法・用量に注意が必要だ」とい

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
大谷翔平選手に関するニュースを装った偽サイトが拡散 投資に勧誘【詐欺注意】

大谷翔平選手に関するニュースを装った偽サイトが拡散 投資に勧誘【詐欺注意】

2026年10月ごろから、「大谷翔平氏がシカゴでのカブス戦後に片山さつき財務相との握手を拒否した」とするNHK風の偽記事がインターネット上で拡散しています。リンクをクリックすると投資サービスの宣伝に誘導されるので注意が必要です。 2026年10月ごろから、ドジャースの大谷選手の写真とともに「先日の出来事は、日本中に衝撃を与えました」「最新情報はWebサイトに掲載しています」などと書かれたリンクが添付された投稿が多数投稿されている(例1、例2)。 10月5日現在、投稿したアカウントの一部は凍結されている。 リンク先に飛ぶと(現在は削除済み)、NHKのロゴがある記事のようなページが表示される。見出しは「大谷翔平、シカゴでのカブス戦後に片山氏との握手を拒否。その背後にある驚くべき理由とは — NHK」。ロゴやレイアウトなどは、実際のNHKのニュースサイトに似せて作られている。 しかしページのURLは「affectmeridian.world」で、NHK(https://www.nhk.or.jp/)とは関係のないドメインだ。NHKのサイトには同じ記事が存在しない。

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は10月24日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 日本ファクトチェックセンター(JFC) ファクトチェック講師養成講座 10月24日(日)開催分日本ファクトチェックセンター(JFC)による講師養成講座です。 講師養成講座(オンラインで90分)を受講いただいた後、修了課題を提出された方には、教室や職場などで利用可能な教材の提... powered by Peatix : More than a ticket.Peatix 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤っ

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や騙されない人の行動

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)