「陰謀論」と「批判的思考」は紙一重――Z世代が考える楽しくて伝わるリテラシー教育とは【情報インテグリティ】

「陰謀論」と「批判的思考」は紙一重――Z世代が考える楽しくて伝わるリテラシー教育とは【情報インテグリティ】

大量拡散する偽・誤情報にどう対応するか。一人ひとりが抵抗力を身につけるメディア情報リテラシーの普及は遅れています。どこに課題があるのか。Z世代が考えた革新的な手法は。日本ファクトチェックセンター(JFC)と電通総研が4月2日に共催した情報インテグリティシンポジウムで議論しました。

パネル討論「メディアリテラシーを広げるには:革新的な取り組みの現在地」に登壇したのは、ファクトチェック団体、メディア情報リテラシー教育に取り組む学生スタートアップ、新聞社、研究者。話題は教育にとどまらず、メディアの役割や情報の信頼性、必要とされる「批判的思考」が実は「陰謀論」と紙一重という話題にも広がりました。

※シンポの議論を文字起こししたものですが、読みやすさを考慮して一部修正を加えています。

登壇者

モデレーター:古田 大輔
今井 善太郎氏(株式会社Classroom Adventure 代表取締役)
坂本 旬氏(法政大学総合情報センター 所長)
仲村 和代氏(朝日新聞東京本社 ゼネラルエディター補佐)

Z世代が考えるゲーム形式のリテラシー教育

今井:株式会社Classroom Adventureの今井と申します。僕たちはメディアリテラシーをもっと楽しく伝えられないかという取り組みをやっています。一つは「レイのブログ」という、ファクトチェックとかメディアリテラシーを学ぶゲームです。

僕もちょっと前まで高校生だったんですけども、体育館に集められて「Wikipediaに嘘しか書いてない」とか「SNSは君たちにはまだ早い」とか言われても、居眠りの時間になっちゃう感じだったので、もっと楽しくできないかと作った「レイのブログ」というゲームです。これは今、英語版と、台湾でも台湾市の図書館と一緒にやっています。

それ以外にも、それを競技にしちゃえというところで「ユースファクトチェック選手権」というファクトチェックの世界大会。古田さんがGoogleにいらっしゃった時に僕らが大学1年生で参加し、日本で優勝して面白いなと言っていたら、Googleがやめちゃうということで引き継がせてくださいと言って、今JFCと僕らでやっています。

これもモンゴルからいっぱい人が来たりとか、盛り上がりつつあって、去年は北海道の学生さんが優勝しました。

先ほども話があった総務省の技術開発は僕らもやっています。

プレバンキングのアプローチを活用し、偽情報を自分で作ってみる。見抜く技術ってそんなに身につけられるもんじゃないんですけども、感覚的に「偽情報ってこんなもんだよね」とか「AIってこんなもの作るよね」みたいなのを、自分で安全に作ることができるサンドボックス的な技術を開発しています。

僕らみたいな不真面目な学生とかが聞いてくれるものは…、あ、僕、学生なんです。本当は卒業しなきゃいけなかったんですけど、こないだの卒業式、留年して出れずに、大学院の入学も取り消しになったんですけども(笑)。

でも、こういう会に出れるのであればいいかなという感じでやっております。楽しくこういうことが学べるものを色々作っております。

古田:Classroom Adventureは日本だけではなく、世界でも色んな賞を獲っていますね。

今井:そうですね。例えば国連がやっている情報サミットの賞を日本で唯一受賞したり、世界のEdTechスタートアップが集まるコンペでも、R&Dの賞をいただいたり。

日本発の文化としての謎解きとかアニメとかって受けが良くて、偽情報・誤情報はご存知の通り世界中の課題なので、日本らしく解決していきたいという思いでやっています。

古田:メディアリテラシーの世界で、いわゆるゲーミフィケーション、ゲーム化して学んでもらおうというのは、前からあります。ただ、ゲームとしてはあまり面白くない。「レイのブログ」はゲームとして夢中になれるのが本当にすごい。学生に提供して、手応えはどうですか?

今井:僕が開成の授業行った時に、生徒たちから「今学期に入って初めて内職しなかった」というコメントをもらいました。学期のだいぶ最後だったんですけども(笑)。

楽しい授業として聞いてもらって、その裏に実はこんなことがあったんだよと伝わるところで良いと思います。ユースファクトチェック選手権も、ただ賞金に釣られてきた子とか、参加者募集のインスタのリールで釣られてきた子とかもいるんですけども、気軽な入り口になれるのがゲームのいいところだと思っています。

リテラシー教育研究は「ニッチな分野」

坂本:法政大学の坂本旬と申します。去年の情報インテグリティシンポジウムで、メディアリテラシー教育の研究者が参加してないのはどうかってFacebookで書いたら、今年はということで呼んでいただいてどうもありがとうございます。

古田:去年は選挙やプラットフォームや、政治の世界からどうアプローチをするかみたいな話が中心だったんです。それでメディアリテラシーの話ができなかったんですけど、そうしたら坂本さんがFacebookに書いてるのを見てすぐにメッセージを送りました(笑)。

坂本:ありがとうございます。ユネスコの「メディア情報リテラシーと異文化対話大学ネットワーク」という大きな組織があるんですけども、私がいる法政大学は2014年にそこに加盟したんですね。東アジアで加盟してるのは、法政大学と中国の清華大学だけです。

そういう意味ではとても重い役を持ちつつ、担当者が僕しかいないけれど、僕も数年で退職してしまうので、このあとどうなるんだろうという不安を持ちながらこういう仕事をやっております。

実は日本でメディアリテラシー教育を研究してる人は本当に少ないんですね。ニッチな分野と言っていいと思います。僕の頭の中で描いてたのが20人から40人ぐらい、AIに聞いたらやっぱり同じ数字を出してきたので、多分それぐらいしかいないんだと思います。

教育学の中のテーマとしては非常に狭い。にもかかわらず、メディアリテラシー教育がこんなに大事だと言われてる時もない。研究と現実とのギャップが大きいと思っております。そういう意味で色んなところに教育学の研究者が来て議論することがとても大事だと思ってます。

ファクトチェックとリテラシーの遅れに同じ構造

古田:メディアリテラシーに対する需要はどんどん大きくなってきていて、国連なども盛んにその重要性に触れています。なぜ、日本ではそれほど広がってこなかったんでしょうか。

坂本:僕は(2001年の)9.11の直後にニューヨークに行ってメディアリテラシー教育に関心を持ちました。トランプが2016年に当選した頃から、フェイクニュースがバーッと出てきた。問題になってすごい議論になったんだけど、日本では当時フェイクニュースという言葉自体がなかったですね。報道もされなかった。アメリカでは学校図書館の司書の団体がフェイクニュース対策の教育を始めたんです。すごく早かった。びっくりするぐらい。

僕はそのことを2017年に論文に書いたんですけども、その時にはフェイクニュースがまだ報じられてなかったので、なんて日本語にしたらいいのか「虚偽ニュース」っていう風に僕はその時訳したんですけども。その時に毎日新聞に「これ記事にしてくれ」って頼んだんですよね。「絶対大事だから」って。それが多分日本で初めて報じられたフェイクニュース対策のメディアリテラシーの記事だと思います。

その後、朝日でも取り上げてもらったし、色んなところで取り上げてもらったんですけども、そのぐらいつい最近のことだと言えるわけです。

それまではメディアリテラシーというのは、メディアを活用する教育だと思われていました。メディアというのは要するにメディアツールです。デジタル端末がメディア。それをどう活用するかという発想と、新聞活用、NIEですね。そういう活用教育が主だった。

活用教育が主だとすると、どうしても社会との関係が頭の中で浮かばないので、議論としてはなかなかできなかったということがあったという風に言えると思います。

古田:僕のプレゼンの時に、ファクトチェックが日本で広がるのが8年間遅れたと話しました。世界で議論が活発になった2016年の段階では、日本における見方は「あれはアメリカやイギリスの問題」でした。まさにそれがメディアリテラシー教育の広がりにも壁になったのかなと感じました。

坂本:そうですね。実はフェイクニュース問題が大きくなった時に教育界の反応が「あれはアメリカの問題」という感覚だった。今はもうさすがにそんなこと誰も言わないですけども、やはりタイムラグがあると思います。

メディア不信の時代の新聞社の取り組み

仲村:朝日新聞の仲村と申します。マスゴミと言われて久しいですし、「オールドメディア」という言い方をされる辛さは感じながらやっています。先ほど、調査の発表でもあったように、一方でマスメディアにちゃんと役割を果たしてほしいという声もあります。

そういう視点で私たちがメディアやメディアリテラシーを振り返った時に、報道機関がやるべきだと思ってしっかりやってきたところが、むしろ裏目に出ているというところがあると思います。

例えば、しっかり裏を取ろうとか、分かりやすく表現しようとか、批判的な視点を持とう。これはジャーナリズムにとってはすごく大事なことですけれど、しっかり裏を取るということは時間がかかってしまう。SNSにバーッと情報が出てきた時にタイムラグが生じる。そうすると「何か隠しているんじゃないか」「わざと取り上げていないんじゃないか」みたいなことが出てくる。

端的に表現をしようとしてるんだけど、かえって分かりづらくて伝わっていない。さらに、批判的な視点で書くことが、今の時代、逆に「偏向だ」「切り取りだ」「上から目線だ」みたいなところに繋がっていってしまっているのを感じてます。そこで私たちが何ができるか。日々の報道の中で、どう変えていけるかが大事だと思っています。

もともとマスメディアは普通の人が発信できない時代は、情報を発信する数少ない機関の一つだったと思います。そうすると、起きたことをいち早く伝えるとか、埋もれた事実を掘り起こす、権力監視する、議論の場を作る。これらが報道機関の役割として今も大事だと思っているんですけども、誰もが発信できるようになった時に、溢れている情報をどう整理するのかも、ものすごく大事になってきている。

反省を込めて言うと、事件報道の事例が分かりやすいんですけれど、最初の一報が出て、事件の記者クラブの中で争いになっていく。都度わかった新しい事実を、昔で言えば夕刊・朝刊で書き分けて出すことをやっていた。大きな事件であればあるほど続報を求められる。だんだん、どこがニュースなのかわからないニッチなものが続報として出ていく。社内で読んでいても「これって結局何の話だっけ」みたいな争いを、報道機関同士の中でやってきたところがあります。競争も大事なんですけれど、分かりやすい報道に繋がっていなかったという反省があります。

なので今、私たちが日々取り組み始めているのが、本当に「分かる報道」。今だったらイラン攻撃があれば「なぜそれが起きているのか」。「もう書きました」「いついつ書きました」みたいなことを社内で言われることがあるんだけど、伝わってないからちゃんと出そうとか、分かりやすくしましょうということに力を入れ始めています。

もう一つは「何を言ったか」もですけど「誰が言ったか」ということが大事です。報道機関がどんなに一生懸命頑張って記事を出しても「オールドメディアでしょ」「都合のいいことだけ言ってるんでしょ」と言われている状況では伝わっていかない。なので、私たちがどんなプロセスで何をしているのか、記者はどういう仕事をしているのか、ちゃんと見せていこうということを重視しています。

ファクトチェックもですね、判定で白黒つけて何か成敗するというより、どう取材し、どう考えたらいいかを考えてもらうということを大事にしています。

私がショックを受けたのが、偽情報に関わるシンクタンクの方からヒアリングを受けた時に「SNSで偽情報・誤情報がたくさん出てマスコミの方、困ってますよね」という質問があって、私たちが情報があってもそのまま書くことは基本的にはない。必ず確認することをご存知なかった。そうなんですかと言われて「この立場の人でもそうなのか」と思い、だとすると「普通の人はどうなのか」と。そういうことも含めてちゃんと見せていかなければならないと思ってます。

あとは「わからないことをわからないと書く」。私たちはわかったことを書くのが得意なんですけど「わからないこと」「何がわかっていないか」をアウトプットしてこなかったという反省がある。書き方を変えることも大事だと思っています。

それと、SNSがどういう仕組みになっているか。今、偽情報は単に普通の人が流すだけではなくて、一定の勢力が意図を持って流すことも起きているので、そういう仕組みを報道のど真ん中の仕事として調査報道をしていく。そういう取り組みをやっております。

「正しい情報を入手しよう」は響かない

古田:マスコミ批判は非常に多くて、私自身は朝日新聞をもう10年前に辞めましたけども、いまだによく「あいつは元朝日だから何々に違いない」と毎日のように言われます。記者の姿やプロセスを見せるという話について、私が辞めた10年前と比べると随分進んだと思います。それでも足りないという批判があるのはわかるんですけど、それでも見せるようになってきてたというのは感じます。

ただ、問題は「敵対的メディア認知」です。あるメディアに対して「ここは怪しいぞ」「気に食わない」と思うと、そのメディアが発信するあらゆる情報に対して敵対的に接してしまう。説明しようとしても、聞いてもらえないという非常に難しい問題があります。

今井さんは活動を始めてまだ数年。どうやって信頼を獲得してきたんですか?

今井:え、信頼……されてるんですかね(笑)。

古田:今井さんは、新聞やテレビのこと信頼してます?

今井:僕は、中学の時から6紙ぐらい取ってました。家にテレビがなくて、新聞しかなかったので、僕的には信頼はあります。色んなものを読んで「こう書くんだな」と感じてます。今の若い世代は、新聞読む人なんて聞いたことないです。日経新聞を就活時に読む子がちょっといるぐらいで、それ以外は……。

聞いてて思ったのは、若い世代とかネットで情報を得ている人たちが真実であるとか正しい情報であることに、どれぐらいこだわってるんだろうということです。僕たちとすれば、正しい情報とか正しく集められた情報を見てほしい。けれど、見てる側はそんなに深く考えていないし、耳障りのいい情報の方が楽しく過ごせるんじゃないかみたいな。

古田:情報インテグリティ調査の中にもあったように、危ないっていう危機意識とか、ファクトチェックしないといけないっていう必要性は感じてるけれど、実際にやってる人は4人に1人しかいないというのが、今井さんが話してくれたことを裏打ちしてるデータだと思います

そんな中でClassroom Adventureは何を伝えてるんですか。

今井:そういう課題があること自体を伝えたい。あとはメタ的になっちゃうんですけど、そういうことに若い世代でもトライしてる人がいるみたいなメッセージもあります。

僕は「レイのブログ」の授業をした後、最後に「隣の人を見てみて。今まで3年間過ごしてきたけど、本当のこと言ってたと思う?」みたいな話をします。でも、会う人全員を疑うのはすごく疲れちゃう。ある程度信頼できるものを自分の中で持っておくのも大事だよね、みたいな話です。

いっぱい情報があって「判断しなさい」と言われても、若い子からすると「めんどくさい」みたいな感覚もあるだろうし、そういうところをもう少し寄り添ってあげる視点が必要だと思います。「正しい情報を手に入れましょう」だけだと、若い世代に響かない感じもします。

マスメディアの重要性と対話の学び

古田:メディアリテラシーの中でよく言われるのがクリティカルシンキングの重要性です。でも、クリティカルシンキングとはつまり、色んなものを吟味、検証、批判的に見ないといけない。これは非常に疲れる。

坂本先生、どうやったらクリティカルシンキングという非常に疲れる物事の見方を教育で広げていくことができるんでしょう。それにこういう話題で講演をするとよく聞かれる「では何を信じればいいんですか」という質問にはどう答えればいいんでしょう。

坂本:その話をする前に、簡単に解説をします。ユネスコはメディア情報リテラシーと呼んでますけど、メディアリテラシーと情報リテラシーを足したものです。情報に関するスキルは情報リテラシー、メディアリテラシーはそれとは別です。

そこが日本だけではなく世界中で混同されるんです。情報の信頼性を見極める力は本当はメディアリテラシーではない。むしろ、情報リテラシーと言います。最近、新聞社もそれは情報リテラシーと書くところが増えてきた。それとは違うメディアリテラシーとは何か。その中の批判的思考(クリティカルシンキング)は何かと考えると、実は結論がでません。

メディアリテラシーは考え方として、構造・制度レベルと個人・コミュニティレベルを分けて考えます。一番重要なのは、メディアリテラシーは規制の代わりではないということです。よく、規制をする代わりにメディアリテラシーを強めればいいという議論があります。そうではなくて、両方が必要です。

例えば、バッキンガムというイギリスのメディアリテラシーの有名な研究者が、新しい本を出します。「The End of Information(情報の終焉)」。リテラシー教育だけでは駄目だとはっきり言っています。リテラシーとは個人のものだと捉えられがちだけど、それで対応できるような状況ではない。

一番問題なのは、若者の中で新聞もテレビも見ない人が増えている。そうすると、何を信じていいかわからないのが現状。1週間ぐらい前にカリフォルニアのチャップマン大学というところが「市民の言論」というプログラムの調査報告書を出したばかりです。

ショート動画がどんどん出てくる環境の中で、情報の真偽を見極めようと思っても追いつかない。その中で何が大事か。彼らが言っているのは「真実について議論する対話の場を作ること」です。米国の場合は政治的な対立が激しい。だけど、学校の中は守られている。真偽検証を議論する場として、自分と意見が違う人と対話する場として大事だと言っている。この感覚を僕たちも持たないといけない。

メディアリテラシーは信頼できるメディアであるべき伝統的なマスメディア、新聞社やテレビ局で、ジャーナリズムやニュースがどのようにできているのかという基本を学ぶこと。つまり、アメリカでは批判的メディアリテラシーと呼びますが、実際に若者が街に出て調査して調べる。ジャーナリズム教育をやる。それを通じて、ニュースとはこのように出来ているということを実感できる学びを学校教育でやっている。

だから2つあります。信頼できるソースとしてマスメディアの重要性を学ぶことと、意見の違う人との対話を学ぶ。まさにこれはシティズンシップ教育です。これがメディアリテラシーではとても重要です。これが情報リテラシーとセットでなくてはいけないという発想です。

「批判的思考」と「陰謀論」は紙一重

古田:私のプレゼンでも指摘したファクトチェックだけでも、メディアリテラシー教育だけでも駄目、法的な規制など、包括的で重層的な対策が必要という話にも通じると思います。

そのうえで、もう一度、僕の質問に戻りたいんですが、クリティカルシンキング(批判的思考)を広めるのは本当に難しい。知識だけではなく実践してもらわないといけない。私自身は、情報を見て「これはいいな」と思ったときに「なぜ自分はこの情報をいいと捉えたのか」と問い直すようにしています。

しかし、これはめんどくさい。このめんどくさい作業をどう広げることができるんでしょう。

坂本:批判的思考というのは抽象的な思考ではありません。1年ぐらい前に「陰謀論的思考を乗り越えるためのメディアリテラシー教育原則」という論文を書きました。陰謀論的思考と批判的思考は似てるんです。兵庫県の知事選の時に批判的思考をやったのかと聞くと、多くの人たちは「SNSで調べた」と言って陰謀論にはまる。そういう人がたくさんいるわけです。自分が調べて、自分の思考パターンに合う情報だけを探してくるからそうなっちゃう。

つまり、社会的な文脈と批判的思考は切り離せないんです。その中核にあるのは、社会的な文脈にある様々な差別の問題であったり、格差の問題であったり、こういった社会そのものの問題をちゃんと理解しておかなければ、批判的思考は意味がないわけです。本当の意味で働かない。陰謀論に陥ってしまうから。

陰謀論思考を避けるためのもう一つの原則が、ニュースの作り方がちゃんと理解できたかどうか。陰謀論思考にはまってる人を調査すると、ほとんどの人がニュースの作り方を知らない。どのように調査し、どのようにニュースになっていくのかを知らない限り、「SNSで調べたから本当に違いない」と思い込むような陰謀論的思考にはまってしまう。

先ほどのチャップマン大学のプログラムの中でも、事実に則ったディスカッションと対話が必要という話があった。対話していくことが必ず必要なんです。学校教育も、抽象的な思考として批判的思考を捉えるんじゃなくて、現実の問題をちゃんと扱わないといけないことになるわけです。

信頼性のある情報源を知る

古田:今まさに教育で、現場でやっていらっしゃる今井さんはどう考えますか。

今井:難しいですね。疑う、ちょっと疑うとかになると陰謀論に行っちゃう。

坂本:疑うだけじゃダメなんです。

今井:そういうことですよね。全く疑わない人がいる時代は逆に新聞とかをちゃんと信じて……。

坂本:何が信じられるのか分からない状況にいる中で、信頼性のある情報源は何かを知らないといけないじゃないですか。先ほどの調査の中でも一番上にあるのが政府と自治体の情報だった。そのあとに新聞社やマスコミが出てくるんですけども、そこが若い人になると信頼度がドーンと下がっちゃうわけです。そこが問題ですよね。

彼らはマスメディアがどのように情報を作ってるのかを知らない。そこに根本的な問題があって、日本の社会科の授業の中ではマスメディアのことは説明して教えてるんだけど、ジャーナリズムについては教えてない。ジャーナリズム教育は日本の社会科教育の中になかった。今こそ必要だと言えます。

今井:「レイのブログ」の一番の要素は自分で騙されてみる経験を作るところです。普通にゲームで遊んで、全部の情報を信じてやっていくとクリアできない。しっかり疑って、それをチェックしていくとだんだん真実に近づいていく。

「普段情報疑いますか?」とアンケートを取ると、ほとんどが疑ったことがないと答えます。大人が言っているよりもマスメディアを信頼してないとか、そういうことも別にないと思うんです。ただ色んな情報が入ってくるようになったというだけ。若者の思考が変わったというよりは、取り巻く環境が変わって、信じられないものもあるのに適応できてないというイメージなのかなと思います。

メディアのことが知られていないこともメディアの責任

古田:残り時間が8分なので、最後皆さんに今の厳しい現状も踏まえた上で、自分たちはどうやっていきたいか、社会的にはどうなっていけばいいのかというところをお一人ずつお話ししていただきたいと思います。それを皆さんが考えている間に、僕がちょっとだけ話をします。

僕はClassroom Adventureの取り組みは素晴らしいと思っています。同時に、アルゴリズムの働きとかフィルターバブルとかエコーチェンバーとか、概念を詳しく説明しようと思ったらどうしてもお勉強っぽくなってしまう。ちょっと騙されてみるとか、謎解きをしながら社会問題があることとその対策に気づけるという作り自体は素晴らしいと思うんです。

同時に情報リテラシーとかメディアリテラシーをより概念的に学んで、より包括的に対応できるようにすることを両立させることってできるのかなというのを、問題意識として持っています。

今回は仲村さんから順番にお願いします。

仲村:メディアのことが知られていないことも含めて、メディアの責任がやっぱり大きいと思いながら聞いてました。新聞社はデジタルで動画もポッドキャストなども含めて急速に変革を進めています。

メディアの置かれている環境も非常に厳しくなって生き残りをどうするかという話はしてますけど、何のために生き残るのかと言ったら、それは私たちが食べていきたいからじゃないです。公正取引委員会のレポートでも書いていただいた「民主主義の社会基盤を作るために報道機関、ジャーナリズム」というものが社会に必要であるという前提を、私たちがちゃんと自覚していることがすごく大事です。

社内もかつてないほど自覚を持って、そこに向けて変革していかなければいけないんだということをやっています。簡単な道ではないですけども、若い記者たち、今若い人は志がないと新聞社なんか入ってこないので、社会のためにやりたいということで、すごい思いを持ってやってくれています。

私たちの世代はそれをどういう風に社会の中で生き残らせていくかという課題を持っていると思って、日々、いい仲間とやらせていただいています。そこをぜひ外の方にも知っていただきたいですし、いい意味での批判をいただきながら社会のためになるような会社として生き残っていけたらと思っています。朝日新聞のコンテンツは日々変わってますので、ぜひ覗きに来ていただけると嬉しいです。

全国の社会教育施設を活用する

坂本:ユネスコも若者向けの活動をとても重視してるんです。今井さんのように若い人たちの力によると思うんです。海外の実践事例の話ですけども、若い人たちが自分たちで取材していくことを日本でもやってるわけです。京都での実践だったり。

それを今の情報環境に合わせた形で作っていくことがとても大事です。こないだ地方紙から取材があったので、大人と子供の対話が必要ですという話をしました。新聞社も若い人たちと対話しなければいけないと思いますと言ったら「やってなかった」と言うんです。

対話はお互いが対等であることを前提でなければ対話にならない。「教えてやろう」という気持ちで話をしたら対話にならないですよね。教師と子供の関係もそうです。デジタル・シティズンシップの原則はまさにそこにある。

学校であったり、家庭と学校教育があったのに社会教育施設が出てこなかったんですよね。総務省の議論の中では社会教育が大事だという話をしてるので、図書館であったり公民館であったり生涯学習センターであったり、全国津々浦々存在する社会教育施設がそういう議論の場になることがとても大事だと思ってます。

研究者の立場でそういうことをやるためには、こういう場に僕だけじゃなくて他の教育関係者がいっぱい来るようになってほしいと思います。

広く、深く、継続する学びを

今井:僕らは一貫して、楽しくこの問題を解決していきたいっていうのがあります。僕らみたいな世代は常に色んなゲームもありますし、YouTubeもありますし、TikTokもある。楽しくないと時間を使ってくれないし、頭のスペースも使ってくれない。「レイのブログ」とか大会みたいな感じでやっていくところから継続的な学びに繋げるのがすごく課題だし、チャレンジしなきゃいけないところです。

そこは僕らだけじゃなくて、ジャーナリズムの分野で活躍されている方々の協力も必要です。何よりも僕は今、大学卒業してこのClassroom Adventureを続けるんですけど、続けるために食っていかなきゃいけないところもあります。お金にするのもすごく難しいので、頑張っていきたいなと思いつつ、応援してくれてる方が見てくださってると思うので、もしよければお話ししましょう。

古田:今井さんがされた「稼いでいかないといけない」という話の中で、Classroom Adventureが立ち上がる時に「素晴らしい」と思ったのは、NPOじゃなくて株式会社にしたのが英断だと思いました。寄付ではなくビジネスとしての道を目指したことに刺激を受けました。

私たちが考えないといけないのは、情報インテグリティ調査の中から示したこの数字です。結局学びが広がっていませんよ。今の情報環境を理解しようと思ったらこれぐらいは知っておかないとダメでしょうという知識が2年努力しても全然広がってない。ここをしっかりと考える必要があると思っております。

今日も答えは出てないわけです。いい取り組みは増えています。朝日新聞さんがヤフーさんとやってる「ニュース検定」もそうですし、僕自身監修させていただいた「フェイクニュースモンスターズ」みたいな分かりやすく親しんでもらい、知識を楽しく学んでもらう取り組み。

YouTubeやTikTokもクリエイターの方々、いわゆるインフルエンサーの方々と組んでより多くの人に知識を届けることをやっている。それなりに成果も出てる。ただし、難しいのは、我々が真面目にやると圧倒的にリーチが少ない。プラットフォームが手を変え品を変え面白く楽しくやろうとするとリーチは伸びるけれど、深みのある学びを継続的にやることが難しい。

この二律背反を克服して、どう継続的にやっていけるのか。我々はこれからも考えていかないといけないと、お三方の話を聞きながら考えてました。後半もありがとうございました。

情報インテグリティシンポ「パネル討論2」動画


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理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)