76%が資金難で「脆弱・危機的」、それでも広がる読者とコラボ IFCN報告書から見える世界のファクトチェックの現状【解説】
国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)が、業界の現状をまとめた「ファクトチェッカー実態レポート」2025年版を公開しました。
IFCNの加盟団体を対象に2026年2月にアンケート、71カ国141団体から回答を得ました。回答率はIFCN加盟団体の77.5%。毎年恒例の公開で、過去分は2024年版で解説しています。
2025年は、多くのファクトチェック団体の資金源となっていたMetaの第三者ファクトチェックプログラムのアメリカでの廃止、米国際開発庁(USAID)の閉鎖など、業界を揺るがす出来事が相次ぎました。レポートからは、資金難がさらに深刻化し、スタッフを減らさざるを得ない団体が増えた一方、読者層は広がり、他団体との協力やAIの活用は加速している複雑な姿が浮かび上がります。

76%の団体が「財務的に脆弱か危機的」
最も深刻なのは、各団体の財務状況です。「持続可能」と答えたのは22.6%、67.2%が「脆弱」、8.8%が「危機的」と回答しました。合わせて76%の団体が、財政的に厳しい状況にあると自己評価しています。
「脆弱」と回答した団体は運営を続けているものの、単一の資金源や短期の助成金頼みで、構造的な弱さを抱えています。「危機的」は、給与支払いに支障が出ている、大幅な赤字、半年以内の閉鎖の可能性があるといった、より切迫した状況を指します。
2024年には約半数の団体が収入の増加を報告しましたが、2025年は45.3%が収入の減少を報告しました。ファクトチェックに対して否定的なトランプ政権の誕生によって予想された「逆風」が現実となりました。
「資金と経済的な継続性」を最大の課題として挙げた団体は89.1%。前年の89.3%からほぼ横ばいです。ソーシャルメディア上で大量に拡散する偽・誤情報に対応するために記事や動画を無料で公開する非営利団体が多く、ファクトチェック業界には確固たるビジネスモデルが存在しませんでした。その構造的な課題にトランプ政権による逆風が直撃した形です。

Metaからの収入は3分の1以下に、助成金が新たな柱に
収入源の内訳にも大きな変化が起きました。
2024年版のレポートで最大の収入源だった「Metaの第三者ファクトチェックプログラム」は、
2025年には平均34.3%にまで減少(前年45.5%)しました。アメリカでの廃止など縮小傾向が鮮明です。代わって「助成金」が46.2%(前年45.3%)で、最大の収入源となりました。
Metaのプログラムに参加している団体は、61.4%から56.2%に減少したものの、依然として大きな存在です。参加団体の21.2%が収入の76〜100%をMetaに依存しており、16.5%が51〜75%を依存しています。米国での廃止がアジア・欧州・中南米に拡大すれば、影響はさらに大きくなります。
Metaに代わる収入源としての期待もあった、TikTokのファクトチェックプログラムからの収入も11.9%から5.1%へとほぼ半減しています。
34.3%の団体が「単一の収入源が総収入の75〜100%を占める」と回答。22.6%は「50〜74%を占める」と答え、合わせて56.9%の団体が、ひとつの資金源に収入の半分以上を依存しています。「単一の資金源が収入の24%を超えない」団体は10.9%にすぎません。
新たな収入源が広がらないままに、現在の収入の柱が細っています。

スタッフ削減が広がるなか、安定した団体は成長
人員面の変化も顕著です。2024年には42.6%の団体が「フルタイム職員が増加した」と回答していましたが、2025年は23.4%に半減。逆に「削減した」は14.9%から38.3%へと大幅に増えました。
ファクトチェック団体は収入不足のため、30人以下の組織が全体の8割を超えています。ただし、31人以上の組織は昨年の15.6%で前年から倍増しました。比較的大きくて安定した団体ほど、引き続き成長していることを示しています。

読者は6割以上が増加、動画や多言語化に活路
明るい話題としては、62%の団体が「2025年の読者層は前年より拡大した」と回答しました。「縮小した」は13.9%、「変わらない」は19%にとどまります。
成長を支えたのは映像です。「最も効果的なフォーマット」として72.3%の団体がショート動画を挙げ、映像を用いた解説は39.3%から44.5%に上昇しました。一方、「短いファクトチェック記事」は35%から29.9%、「長文の調査記事」は24.3%から18.2%、「ニュースレター」は20.7%から14.6%と、テキスト形式はいずれも存在感を落としています。
「2025年に新しく試した、または大幅に拡大したフォーマット」としては、ショート動画が54.7%で最多。次いでWhatsAppチャンネル27.7%、ポッドキャストや音声コンテンツ19%、Bluesky 14.6%、インタラクティブツール11.7%と続きます。
多言語化も進んでおり、複数言語で発信している団体は52.5%から60.6%に増えました。ファクトチェックコンテンツを有料の壁の向こうに置かず、無料で提供している団体は96.4%に上ります。
JFCもショート動画、音声や英語のコンテンツを増やしています。AIによる作業効率化もこの流れを後押ししています。

コラボレーションは「月1回以上」が過半数に
資金と人員が縮小するなか、団体間の連携はむしろ深まっています。
「何らかの他団体と協力している」団体は94.9%(前年92.9%)。注目すべきは頻度で「月に1回以上協力している」団体が35.3%から58.4%へと大幅に増えました。「年に2〜5回」は46%から29.9%に減り、「たまの連携」が「日常の連携」に変わりつつあります。
協力相手の構成にも変化が見られます。「他のファクトチェッカー」は81%(前年79.4%)と引き続き首位。NGO・市民社会団体は52.5%から70.8%、学術・研究機関は56.7%から65%へと増えた一方、メディアは70.9%から65.7%に減少しました。テック企業は46%で、ほぼ横ばいです。
JFCもコラボを広げています。国際的には台湾・タイ・インドネシア・インドのファクトチェック団体と共同でユースファクトチェック選手権を開催したり、ファクトチェックで相互協力したり、国内では、新聞協会有志社によるファクトチェックへの協力や電通総研との情報インテグリティ調査とシンポジウムなどを続けています。

訴訟と政府圧力、ハラスメントの実態
ファクトチェッカーが直面する法的・政治的な圧力についても、レポートは具体的な数字で示しています。訴訟を起こされた団体は16.4%から20.4%に増加。政府当局からの「圧力・制限・干渉」を受けたと回答した団体は29.2%に上りました(この項目は今回新設)。
ハラスメント被害は全体としては78%から65%に減少したものの、回答団体全体の24.1%が「ハラスメントの頻度は前年より増えた」と答えています。被害を受けた団体の80.2%は個人スタッフが、79.1%は組織自体が標的になったと回答。主な経路はFacebook 58.7%、メール 52.2%、X 47.8%でした。
AI導入は53.3%、半数が「ガイドライン策定済み」
生成AIの業務への統合も、2025年は一段進みました。「AIツールをワークフローに組み込んでいる」と答えた団体は53.3%。「試したが採用していない」が27.7%で、「全く使っていない」は20%から5.1%に減りました。
用途は「リサーチ・情報収集」が77.4%で最多、次いで「翻訳」が55.5%、「画像・動画・音声の制作」が37.2%、「執筆・編集」が30.7%です。
AI利用の「正式なガイドラインがある」団体は32%から50.4%へと上昇し、「策定中」を含めると77.4%に達します。ガイドラインを持つ団体のうち79.8%は、開示方針などの倫理基準を含めています。
一方、AIが生み出す脅威も深刻化しています。「ディープフェイクや合成メディアはファクトチェック業務にとってどの程度の課題か」という質問に、49.6%が「重大な課題」、42.3%が「中程度の課題」と回答。9割以上の団体が、AI生成コンテンツを現実の脅威として認識していることになります。
AI企業との正式な契約を結んでいる団体はわずか2.9%で、前年の5%から減少。AIクローラーによる自社コンテンツのスクレイピングをブロックしている団体も14.6%にとどまります。プラットフォーマーとAI企業に対して、ファクトチェック業界としてどう関係を設計するかは、引き続き未解決の課題です。

情報空間を守るには、持続可能な仕組みが必要
レポートが示すのは、ファクトチェック業界が「より多くの人に届く力」を高めた一方で、それを支える財務基盤は著しく脆くなっている、という構造的な矛盾です。
JFCも2024年度の収支報告で示した通り、プラットフォームからの寄付が大きな割合を占める資金構造にあり、世界の同業団体と同じ課題に直面しています。そのため、ファクトチェッカー認定試験や講師養成講座などの事業収入、メディア・企業とのパートナーシップ、研究開発への協力など、収入源の多様化に取り組んでいます。
ファクトチェックは、誤情報に無料で対抗するための公共財です。誤情報が無料で拡散する環境で、その誤りを指摘する検証記事が有料では、そもそも勝負になりません。しかし、無料で届け続けるためには、活動を支える仕組みが不可欠です。
情報環境の悪化に対して、ファクトチェック団体だけで対抗することはできません。メディア、学術機関、NGO、テック企業、政府、そして情報の受け手である一人ひとりの市民が、それぞれの立場でこの課題に向き合うことが求められています。IFCNのレポートが示す世界の動向は、日本の情報空間を考えるうえでも重要な参照点になります。

参考資料
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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