偽・誤情報への危機感は高まっても ファクトチェックの経験は4人に1人、リテラシーの基礎の理解は1割未満【情報インテグリティ】

偽・誤情報への危機感は高まっても ファクトチェックの経験は4人に1人、リテラシーの基礎の理解は1割未満【情報インテグリティ】

日本ファクトチェックセンター(JFC)と電通総研は「情報インテグリティ調査2026」を実施しました。昨年に続いて2回目。日本における偽・誤情報やメディア情報リテラシーの現状を把握し、今後の対策に資するための調査となっています。

4月2日に共催した情報インテグリティシンポジウムの基調講演1では「信頼できるデジタル情報空間の構築に向けて」と題し、株式会社電通総研 Quality of Society センターの鷲見圭祐研究員が調査概要を発表しました。

偽・誤情報への関心が高まり、情報検証の必要性を理解している人は増える一方で、実践する人は4人に1人、「確かめたいと思わない」という人も3割に上ります。現代の情報環境を理解するために必須の知識の普及も1割に届かず、厳しい状況が浮き彫りです。

情報インテグリティとは「正確性・一貫性・信頼性」

ただいまご紹介にあずかりました、電通総研の鷲見と申します。私からは今年の1月から2月にかけて、日本ファクトチェックセンターと電通総研で行った「情報インテグリティ調査2026」について、「信頼できるデジタル情報空間の構築に向けて」というテーマでお話しいたします。

調査の名前にもあります「情報インテグリティ(Information Integrity)」という言葉ですが、こちらは国連の報告書によりますと「情報の正確性・一貫性・信頼性」を指す言葉になっております。日々の暮らしから国の安全保障に至るまで、あらゆる領域に関わる重要な課題のひとつであり、国際的にこの情報インテグリティを確保するための取り組みが進められています。

私たちが日々接しているニュースやSNSを含むデジタル空間には、どれだけ正しく信頼できる情報が存在していると言えるでしょうか。最近では、国際イベントや選挙の場面でも、多くの偽情報や誤情報、差別的な表現、誹謗中傷等が見受けられています。本日は、我々の行った調査結果から、信頼できるデジタル情報空間の構築という観点で、主なポイントをご紹介いたします。

全国5000人に調査

こちらが調査概要です。調査手法はインターネット調査、対象者は全国の15歳から69歳の男女5,000名で、性年代別の人口構成比に合わせて調査を実施しております。また、今回の調査では国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)の山口真一教授に監修をいただいております。私からの発表の後には、最後に山口先生からのコメント動画をご紹介いたします。

情報が正しいか疑うことも必要 71.5%

本題に入りますが、まず、私たちが日々情報を取得しているデジタル情報空間について、人々はどのように思っているかを見ていきます。

「得られた情報が正しい内容なのか疑うことも必要」と感じていると回答した方、「そう思う」「ややそう思う」の合計が71.5%。「複数の情報源から入手することが必要」と回答した人が合計で67.8%という結果になりました。得た情報は鵜呑みにしてはいけないと認識している人が多いことが、この結果から読み取れると思います。

また、「自分は偽誤情報に騙されることはない」と回答した人は合計で24.7%に留まり、自信を持っている人は少数という結果になりました。

一方で、「そう思わない」と回答したのが35.2%で、「どちらともいえない」を含めると7割以上の人が確信を持ちきれていない状況になってます。精巧な偽・誤情報が増えていることを背景に、自分も騙される可能性があると感じている人が一定数いると考えられます。

安心できるデジタル環境づくりへの期待は分散

では、そうした偽情報がはらんでいるデジタル情報空間の環境づくりは、一体誰が担うべきでしょうか。

安心できるデジタル情報空間の環境づくりを担うべき主体について尋ねた質問がこちらです。回答は「政府・自治体などの公的機関」が33.5%、「マスメディア」が30.4%、「デジタルプラットフォーマー」が28.1%と続きました。

公的機関やマスメディアへの期待は一定程度あるものの、その割合は決して高いわけではありません。回答が特定の組織に偏るのではなく、複数の組織に分散している点もこの結果の特徴だと読み取れます。

回答が分散している背景には、どこかひとつの組織だけに任せることへのためらいであったり、あるいは公平性や透明性の観点での懸念が背景にあると考えられます。

一方で、「わからない・あてはまるものはない」が最多で35.7%という結果になりました。こちらは排他項目で、他の主体を選んでいない場合にのみ回答できる選択肢ですが、これが一番多い結果になりました。

ここからは、環境づくりを担うべき主体について社会的合意がなされていないということがうかがえます。デジタル情報空間はひとつの組織だけで守れるものではありません。複数の組織が一体となって協力していくことが重要だと考えております。

公共性の高いネットサービスが必要 57.7%

ここで、関連する別の調査結果もご紹介いたします。

「政府・自治体や市民団体による公共性の高いネットサービスも必要だと思うか」と尋ねたところ、過半数の57.7%の方が「そう思う」と回答しました。

この質問では設問文に「政府・自治体」と「市民団体」を合わせて尋ねているため、どちらに期待が寄せられているかはこの質問からは読み取れませんが、ただ、先ほどの結果と合わせると公的機関に対しては一定の期待があることがうかがえます。

「特に真偽を確かめたいとは思わない」が最多

続いて、デジタル情報空間における偽情報・誤情報の検証について見ていきます。

社会で広まっている情報やニュースの真偽について、どの主体が検証した内容を確認したいかを尋ねたところ、「政府・自治体などの公的機関」「検索サービスを提供する企業」「テレビ局」の順となりました。

一方で、これらよりも多い31.9%の方が「特に情報・ニュースの真偽を確かめたいとは思わない」と回答してます。こちらも先ほどと同じ排他項目なのですが、この結果からは偽情報を検証することへの関心度は必ずしも高くないことがうかがえます。

ファクトチェック経験 4人に1人

続いて、組織から個人に目を向けてみます。

客観的な証拠に基づいて主張の真偽を判定するプロセスを「ファクトチェック」と言います。そのファクトチェックを実際にしたことはありますかと尋ねたところ、「おこなったことがある」と回答したのが26.0%で、およそ4人に1人の割合になっております。

これは決して多いとは言えない数字だと思います。取得した情報に対して不信感を抱いている人は一定数いるものの、実際に自ら行動している人はまだ少ないという状況がうかがえます。

メディア情報リテラシーの基礎知識は広がらず

続いてこちらが、情報インテグリティに関わる用語や概念についてどの程度知っているか、理解しているかについて尋ねた質問の結果になっております。

グラフの一番濃い青と次に濃い青の「人に説明できる程度に詳しく知っている」と「人に説明できないが概念を理解している」のふたつを「理解度」と定義しています。まず一番上の「フェイクニュース」と「偽情報」については、それぞれ66.2%、50.1%と過半数が理解されていることが分かりました。

一方で、デジタル情報空間の特徴や構造に関わる「エコーチェンバー」や「フィルターバブル」については、それぞれ10%を下回るという結果になっております。

デジタル情報空間にはそれ特有の仕組みが存在しますが、それを知った上で情報を取得するのか、知らないで取得するかによって情報の受け止め方は大きく異なると考えられます。ですので、もう少しこの値が高くなることを期待したいです。

生成AIに関わる概念の理解も進まず

続いて、生成AIに関わる用語についても見てみます。

まず、芸能人やスポーツ選手、政治家などの著名な方が標的となりやすい「ディープフェイク」ですが、こちらは31.6%に留まっています。また、生成AIの特徴である、もっともらしい誤った情報をまるで事実かのように出力してしまう「ハルシネーション」については、理解度が8%と非常に低い結果となりました。

ディープフェイクは有名人がよく標的になりやすいというお話をしましたけれども、我々も他人事ではありません。

生成AIによる偽情報への対応 「わからない・あてはまるものはない」

他に、生成AIで生まれる被害には、生成AIで作られる偽情報が挙げられます。

今回の調査では、そうした生成AIで作られた悪意ある偽情報の拡散抑止について、作成者以外では誰が責任を負うべきかと尋ねました。「情報を拡散したユーザー」が35.1%で、次いで「SNSなど情報が拡散されるプラットフォーム」「生成AIを提供している企業」という結果となりました。

この結果からも、偽情報の拡散を防ぐためには利用者一人ひとりの情報に対する慎重さが大切、求められていると考えます。

一方で、こちらも同じ排他項目なのですが、「わからない・あてはまるものはない」が36.8%と最も多く、実行力のある具体的な担い手が見つかっていないこともうかがえます。

生成AIによる偽情報の見極める力を養うべき 68.6%

そのような中で、生成AIで生成された悪意ある偽情報について、「利用者自らが正しい情報を見極める力を養うべきですか」と尋ねたところ、68.6%の方が「そう思う」「ややそう思う」と答えました。

生成AIによる偽情報への危機感は高まっていると読み取れます。

今後に向けて:情報活用能力の習得

今後に向けて、情報空間で得たニュースの読み方やSNSの使い方など、情報を適切に活用できる能力をどこで身につけるべきかについても尋ねました。「学校教育で教えるべきだ」と回答した人は62.3%で、「家庭で学ぶべきだ」と回答した人は50.7%でした。

余談ですが、先週の水曜日に文科省が2025年度の教科書検定の結果を公表したというニュースがありました。その中では、ある国語の教科書のコラムには「教科書に載っている文章はすべて正しいわけではない」という言葉で始まるコラムが掲載されていると紹介されてました。

普段はあまり疑うことのない教科書にそうした記述を入れることで、情報の真偽を確かめることの大切さを伝えようとしている点は、とても意義深い取り組みであると感じております。

調査結果サマリー

こちらが調査結果のサマリーになります。

今回重点的にお話ししたのはこの赤線の部分です。主に1番から3番では、公的機関に対して一定程度の期待が寄せられていたこと。4番からはデジタル情報空間の特徴や構造に関わる概念の理解は限定的であったこと。生成AIによる偽情報への対応や、情報活用能力の習得方法についてお話をしました。

浮き彫りになった「抵抗力の弱さ」

最後に、全体のまとめです。

今回の調査では、偽誤情報に対する私たちの「抵抗力の弱さ」が改めて浮き彫りになりました。偽誤情報が蔓延しやすい仕組みについての理解が十分でなく、情報の真偽は疑うべきと分かっていながらも、実際の行動との間には未だ大きな隔たりがあります。

さらに、情報空間の複雑化は急速に進んでおり、情報を見極める負担は個人に重くのしかかっています。そのため、安心して利用できる情報空間の構築が急務となっております。特に今回の調査では、公共性の高いデジタル情報空間の整備が求められていることが分かりました。

情報の摂取は日々これからも続いていきます。利用者個人が情報インテグリティの力を身につけて、組織と力を合わせて信頼できる情報空間を作っていく。それがこの調査を行った私たちの願いです。

本日お話しした内容は、すでにプレスリリースとして公表しております。また、すべての設問内容と回答についても全体レポートとして公表しておりますので、ぜひこちらも合わせてご覧ください。

全体レポートへのリンク

全体レポートへのリンクはこちら。

電通総研と日本ファクトチェックセンター、「電通総研コンパス vol.17 情報インテグリティ調査2026」結果を発表 | ニュース | 電通総研
電通総研のプレスリリースです。

山口教授「単一主体による統治は現実的ではない」

現在、私たちを取り巻く情報環境は非常に速いスピードで変化しています。特にAI技術の進展によって、誰もが簡単に画像や動画を生成できるようになり、いわゆる「ディープフェイクの大衆化」という現象が進んでいます。今年の衆議院選挙では、関連するYouTube動画の再生回数が2年前の衆議院選挙と比べ、およそ10倍に増えたとも言われています。

そのように、インターネットが選挙に大きな影響を与える中、街頭インタビューのように見えるAI動画や、ニュース番組風に編集されたAI動画など、一見すると信じてしまいそうなコンテンツも多く含まれていました。

私たちは2016年からフェイクと共に生きる時代、いわば「withフェイク」時代を生きてきました。それから約10年が経ち、生成AIの普及によって今やその次の段階に入ったと考えており、私はこれを「withフェイク2.0時代」と呼んでいます。

そのような中で、今回のような情報インテグリティに関する調査は現在の社会の実態をデータに基づいて明らかにするという点で、非常に重要な意義を持っています。例えば、社会に流通している情報やニュースについて「真偽を確かめたいとは思わない」という回答が最も多いという結果が示されました。情報が溢れる現代社会において、フェイク情報が蔓延する中で、情報の真偽そのものへの関心が低下している可能性が伺えます。

また、「安心できるデジタル空間を誰が担うべきか」という問いに対しても、政府、メディア、プラットフォーム事業者など様々な主体が挙げられる一方で「わからない」「あてはまるものはない」という回答が最も多いという結果でした。

これは情報インテグリティの重要性が認識されつつも、特定の主体に期待が集中していない、あるいは責任の所在が見えにくくなっている状況を示しています。言い換えれば、もはや単一の主体によって情報空間を統治することは現実的ではなく、多様な主体が関与する新たな枠組みが求められているということだと言えます。

生成AI時代においては、政府、自治体、企業、メディア、教育機関、そして市民を含めた多様なステークホルダーが協働しながら、「制度の整備」「技術の進展」「教育の充実」という3つの取り組みをバランスよく進めていくことが不可欠です。

その意味でも、エビデンスを着実に蓄積していくこと、そして本日のように多様な立場の方が一同に介し、議論を行う場が継続していくことは非常に大きな意義があります。

本日の取り組みが今後も継続し、より良い情報社会の実現に向けた具体的な連携へと繋がっていくことを心より期待しております。

情報インテグリティシンポ「基調講演1」動画


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

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日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

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