フェイクニュースは口コミで広がって半数が信じる 【JFCファクトチェック講座 理論編1】

フェイクニュースは口コミで広がって半数が信じる 【JFCファクトチェック講座 理論編1】

日本ファクトチェックセンター(JFC)による動画で学ぶファクトチェック講座、理論編1です。

ファクトチェックを学ぶ前に、検証する対象について理解する必要があります。ここではフェイクニュースの定義や実態について説明します。

(本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています)

拡散する偽・誤情報、51.5%が正しいと信じる

日本ファクトチェックセンターとGLOCOMが共同で実施した国内の2万人を対象とした調査で、日本で実際に拡散した15の偽情報・誤情報のうち37%の人が一つ以上を見たことがあると答えました。

たった15の情報で37%ということは、実際には無数の偽・誤情報が拡散していることを考えると、ほぼ全ての人が日常的に目にしていると考えて良いでしょう。そのうち、51.5%の人がその情報を正しいと信じており、34%が判断できず、14.5%のみが誤情報と認識していました。

偽情報・誤情報・悪意ある情報

偽情報や誤情報は、一般的にフェイクニュースと呼ばれますが、専門家の間では次の3つに分類されます。

まず誤情報は単純な誤りを含む情報、次に偽情報は意図的に捏造された情報、そして悪意のある情報は正確であっても悪意を持って拡散される情報です。例えば、特定のグループを攻撃する目的で流される情報がこれに該当します。

故意犯・確信犯・愉快犯

偽・誤情報を拡散する人々は、故意犯、確信犯、愉快犯に分類されます。

故意犯は利益を得るために意図的に偽情報を流す人々で、確信犯は誤った情報を正しいと信じて拡散する人々です。愉快犯は嘘を広めて楽しむ人々です。これらの分類により、情報拡散の背後にある動機や手法が明らかになります。

作成者と拡散者で分類すると

米国の公衆衛生オフィスによる分類では、偽・誤情報を積極的に作成する人は、偽情報作成者(ディスインフォーマー)、愉快犯(ミスチーフメーカー)、詐欺師(ホークスター)がいます。

拡散者には、気軽にシェアする人(カジュアルシェアラー)、検証せずにシェアする人(オーバーシェアラー)が含まれます。中間には、熱狂家(インシュジアスト)、信者(ビリーバー)が存在します。

国家レベルの情報工作と日本での影響

国家レベルの情報工作もあり、ロシアのウクライナ侵略、中国の台湾への情報工作がその例です。

日本でも福島第一原発処理水の放出に関して、中国語で大量に偽情報が拡散しまし、日本語にも翻訳されていました。イギリスを拠点に偽情報対策に取り組むLogically.は「中国の組織的なキャンペーンが日本の原発処理水を標的にしている」と分析しています

SNS以上に口コミで拡散

2万人調査では、偽情報を見たことがある人のうち、17.3%がそれを拡散しました。医療健康系の情報は特に拡散されやすく、年代別では10代20代が多く拡散しています。

また、情報はネットよりも直接の会話で共有されることが多い(48.1%)という意外な結果も出ています。

シェアする動機は善意

偽情報をシェアする人々の動機は、情報が興味深い、重要だと思ったからという理由が多いです。これらの人々は善意でシェアしていますが、検証せずにシェアすることが問題です。

偽情報をシェアすると、自分が被害者であると同時に加害者にもなり得るため、慎重になる必要があります。

まずは立ち止まるPauseとPRISM

国連は「Pause」という運動を提唱しています。これは情報をシェアする前に一時停止し、自己点検、検証を行うことを推奨しています。

香港大学の鍛冶本正人教授はさらに「PRISM」という行動を提唱しています。Pause(停止)、Reflect(自己点検)、Investigate(検証)、Share(シェア)、Monitor(観察)の頭文字を取ったものです。これらのステップを踏むことで、偽情報の拡散を防ぐことができます。

次回は 認知バイアス

次回は、全ての人が持つ認知バイアスについて解説します。自分自身の考え方や物の見方の癖を知ることが重要です。

アンケートにご協力を

動画を見た方は、ぜひ簡単なアンケートにご協力ください。 https://forms.gle/QdVa9A5v3RDnfBW59


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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大地震の前にトカラ地方で群発地震が発生する「トカラの法則」? 科学的根拠なし【ファクトチェック】

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鹿児島県・トカラ列島付近で群発している地震は大地震の予兆の「トカラの法則」だという情報がYouTubeなどで拡散していますが、誤りです。群発地震が大地震の予兆だという科学的根拠はありません。 検証対象 2025年6月∼7月、トカラ列島付近で地震が群発していることに関連して「トカラ列島の地震には『トカラの法則』というものがある」「トカラ列島で群発地震があった後、日本で巨大地震が起きる」という情報が複数のプラットフォームで大量に拡散している(例1,2,3,4)。 投稿について「とても勉強になります」「参考になりますね」などのコメントの一方で「恐怖を煽るのは、止めなさい」などの指摘もある。 検証過程 トカラ列島での群発地震 鹿児島県のトカラ列島では、2025年6月21日から7月1日までに700回を超える震度1以上の地震が群発的に続いている。(朝日新聞"トカラ列島の地震700回超す 悪石島では崖から砂煙も、男性が撮影”)。 この群発地震にあわせて、ネット上では大地震の予兆であるかのような情報が拡散した。 動画の内容と「トカラの法則」 トカラ列島で群

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小泉進次郎氏が選挙期間ではないのにシートベルトなしで箱乗り?  動画は2024年の選挙期間のもの【ファクトチェック】

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自民党の小泉進次郎氏が選挙期間中ではないのにシートベルトをせずに車に乗っていたという動画が拡散しましたが、誤りです。動画は2024年の衆議院議員選挙中に撮影されたもので、選挙期間中、候補者はシートベルトを着用する義務が免除されるので違法にはなりません。ただし、車から体を乗り出す行為については危険視する自治体もあります。 検証対象 2025年7月1日、「小泉進次郎氏が選挙期間でもないのにシートベルトなしで箱乗りしている」と主張する動画つき投稿が拡散した。 動画には、小泉氏が車の後部座席の窓から上半身を出し、手を降る姿が映っている。 2025年7月1日現在、この投稿は1100件以上リポストされ、表示回数は120万回を超える。投稿について「ルール守れや」「牢屋行き」というコメントの一方で「まずいつの動画なのかを調べよう」という指摘もある。 検証過程 動画は2024年の選挙中に撮影 拡散した動画をGoogleレンズで検索すると、2024年10月19日にXに投稿された同じ動画が見つかる。2024年には衆議院議員選挙があり、10月15日に公示、27日が投開票

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日本政府が75歳以上の中国人観光客に対するビザ申請要件を撤廃? 緩和の発表はあったが撤廃していない【ファクトチェック】

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2025年6月30日、「日本政府が中国人観光客に対する75歳以上のビザ申請要件を撤廃した」という投稿がXで拡散しましたが、誤りです。2024年12月、岩屋毅外務大臣が、中国人の観光ビザに関する発給要件を緩和すると発表したのは事実ですが、撤廃ではありません。また、2025年7月1日現在、緩和は始まっていません。 検証対象 2025年6月30日、「日本政府が中国人観光客に対する75歳以上のビザ申請要件を撤廃した」「従来は、75歳を超えると同行者の同伴や追加の健康診断書が必要でしたが、それらがすべて撤廃されました」という情報がXで拡散した。 2025年7月1日現在、リポストは1.9万回、表示回数は874万件を超える。投稿には「迷惑でしかない」「どういう大義でその判断がなされてるのか全く理解できない」などのコメントや、「外務省が6月26日に公開している件でしょうか。『75歳以上』はどこに記載があるのでしょうか」という指摘も寄せられている。 検証過程 中国人の訪日にはビザが必要 外国籍の人が日本を訪れる場合、日本のビザを取得する必要がある。中国はビザ免除国で

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万博を訪れた子どもたち、肺炎で学級閉鎖が相次ぐ? そのような事実は確認できない【ファクトチェック】

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「大阪万博の会場でレジオネラ菌入り殺虫剤をまいたため、子どもたちに肺炎の症状が出て学級閉鎖が相次いでいる」という情報が拡散しましたが、根拠不明です。会場で使われた殺虫剤にレジオネラ菌は含まれていません。また、体調不良を引き起こすほどのレジオネラ属菌は検出されておらず、大阪の学校で例年より多い学級閉鎖が起きているという事実も確認できません。 検証対象 2025年6月6日、「大阪の小中学校で学級閉鎖が流行っているらしい。 それも、万博に行った子どもたちが体調不良が続出しているらしい」「暑さ対策のため地面から吹き上がるミストやウォータープラザの海水などから殺虫剤の成分(レジオネラ菌)が噴出→子どもたちが暑さ対策のミスト(殺虫剤成分含む)を浴びて後日肺炎の症状を発症」などと記した投稿が拡散した。 この投稿は2025年7月1日現在、149万回以上の閲覧回数と2700件以上のリポストを獲得している。 投稿について「後先考えずやった結果が未来の子供達にツケを負わせるとはな」「万博へ行く方は殺虫剤ミストにお気をつけて」というコメントの一方で「これはデマです」という指摘もあ

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ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は7月22日(火)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0722.peatix.com/ 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的に

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理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

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JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

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日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

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