欧州で移民が暴れる動画? ネパールの宮殿【ファクトチェック】

欧州で移民による暴動が起きているかのような動画が拡散しましたが、誤りです。動画はネパールの宮殿で撮影されたもので、2025年9月の政府に対する抗議行動と見られます。
検証対象
2025年10月6日、「他国の文化への不寛容が止まらない 果たして、いつ日本は欧州のようになるのか」という文言付きの動画がXで拡散した。動画には、シャンデリアや大きな鏡のある洋風の広間のような部屋で、若者達が暴れている様子が映っている。

10月9日現在、投稿は940回以上リポストされ、表示は37.6万件を超える。
投稿には「欧州の人は何故怒らないの?」「えっどこ、パリ?ベルサイユ宮殿じゃないよね。噓でしょ。もうこんな奴らのその国のモスク全部破壊すべき」など、移民が建物を壊す様子だととらえた反応がある。
一方で、「ネパール旧首相官邸らしいです。2025年9月の抗議デモでの破壊映像。他国の文化に対してじゃなくて自国の政府に対して抗議してるようです」などのコメントもある。
日本保守党・北村晴男参議院議員が、この投稿を引用して「今ならギリギリ間に合います」と投稿したことで、動画はさらに拡散した。
検証過程
撮影場所はネパールのシンハ・ダルバール宮殿
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、拡散した動画の撮影場所を調べた。動画をGoogleレンズで検索すると、拡散した動画に似た建物の投稿がInstagramなどで大量に見つかる。
そのうちの一つのブログの記事に、拡散した動画とよく似た内装の画像が複数掲載されている。

この画像をGoogleレンズで検索すると複数の画像が表示される。その中に2021年2月21日付のインスタグラムの投稿がある。
インスタグラムの投稿には、英語で「Singha Durbarで進行中の耐震補強、再建、修復プロジェクト」という文言があり、映っているオブジェの形が拡散した動画と一致する。

Singha Durbar(シンハ・ダルバール)は、ネパール・カトマンズにある宮殿だ。ニューヨーク・タイムズ(NYT)などの報道によると、現在は約20のネパール政府機関が入っており、2025年9月の暴動で建物の一部が破壊されたという(NYT‘We Are in a Zero State’: Scenes From the Ashes of Nepal’s Capital.2025年9月17日)。
拡散した動画には大広間らしき映像が映っている。YouTubeで「Singha Durbar State Hall」で検索すると、ネパールのメディアImage Khabarの公式チャンネルが2018年8月3日に配信した動画が表示される(Image Khabar”State Hall of Singha Durbar/ स्टेट हलको दुर्दशा”)。

部屋の中央にある、植物をかたどったようなオブジェの形が一致している。

壁に貼られた大きな鏡の形も一致している。
これらの一致から、拡散した動画が撮影された場所は、ネパールのシンハ・ダルバール宮殿内の一室である可能性が高く、この動画を欧州における移民の暴動とするのは誤りだ。
2025年9月「ネパールの宮殿で若者が抗議活動」と報道
拡散した動画は、抗議行動や暴動の様子を映している。NYTの記事にある9月の暴動の映像の可能性がある。
Googleで「ネパール 暴動」で検索すると、BBCや時事通信の記事などが表示される(BBC News japan”「裕福な政治家の子ども」への不満、首相の辞任……ネパールの反汚職抗議はどう展開したのか”、時事通信”ネパールで反政府デモ 写真特集”)。
BBCの記事は9月11日付で配信されており、ネパールで9月8日、国民がソーシャルメディアを使用することを禁止する措置に端を発した抗議行動が起き、抗議者と警察の衝突に発展したことを伝えている。
時事通信は9月9日、ネパール政府の主要行政庁舎があるカトマンズのシンハ・ダルバール宮殿で、抗議者が敷地内に押し入った後、火と煙が上がったと伝えている。
拡散した動画の一番古い日付は9月9日の可能性
拡散した動画から比較的画質が良く、特徴的なキーフレームを抽出してGoogle画像検索にかけると、インスタグラムやTikTokで拡散している検証対象と同じ動画が複数表示される。
2025年9月8日以前(before:2025-09-09)と指定して対象を絞ると、シンハ・ダルバール宮殿と思われる動画や画像は表示されるが、暴動の様子が映ったものは表示されない。
つまり、拡散した動画は9月9日以降に撮影された可能性が高く、ネパール・カトマンズの暴動の映像である可能性が高い。
判定
欧州で移民による暴動が頻発しているかのように示唆する動画が拡散した。動画は、2025年9月にネパール・カトマンズで起きた暴動の際、シンハ・ダルバール宮殿の一室で撮影されたものである可能性が高い。よって誤りと判定する。
出典・参考
なんJ PRIDE.https://nanjpride.blog.jp/archives/5625968.html, 2025年09月10日.(閲覧日2025年10月9日).
_gaatha_.2021年2月21日.https://www.instagram.com/p/CLi2BSOBerX/?img_index=2,(閲覧日2025年10月9日).
The New York Times.‘We Are in a Zero State’: Scenes From the Ashes of Nepal’s Capital.2025年9月17日.https://www.nytimes.com/2025/09/17/world/asia/nepal-protests-arson-singha-durbar.html,(閲覧日2025年10月9日).
Image Khabar.”State Hall of Singha Durbar/ स्टेट हलको दुर्दशा”.2018年8月3日.
https://youtu.be/4hxhUsom6dY?si=J67vAzv_kakMfbvN, (閲覧日2025年10月9日).
BBC News japan.”「裕福な政治家の子ども」への不満、首相の辞任……ネパールの反汚職抗議はどう展開したのか”.2025年9月11日.
https://www.bbc.com/japanese/articles/c237n10v981o,(閲覧日2025年10月9日).
時事通信”ネパールで反政府デモ 写真特集”.2025年9月9日.
https://www.jiji.com/jc/d4?p=npl909-jpp087057266&d=d4_demo,(閲覧日2025年10月9日).
検証:根津綾子
編集:古田大輔
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら。