普及が進まないのは鳥に襲われるから?動画は警察による犯罪対策の訓練【ファクトチェック】(訂正あり)

普及が進まないのは鳥に襲われるから?動画は警察による犯罪対策の訓練【ファクトチェック】(訂正あり)

ドローン配送の普及が進まないのは鳥に襲われるからとする言説が拡散しましたが、これは不正確です。鳥がドローンを捕まえる添付動画は、オランダ警察がドローン犯罪の対策として鳥を訓練する様子を紹介したものです。鳥がドローンを襲う事例はありますが、配送用のドローンは大型で安定性が高く、安全がより確保されています。

追記:当初の検証記事では、動画が文脈と異なることと、配送用ドローンが襲われた事例について国内の確認例がなかったことなどから「誤り」と判定しました。しかし、検証記事への指摘を受けて再検証し、検証結果を「不正確」に訂正しました。詳細は文末に掲載しています。

検証対象

「ドローン配送がなかなか普及しない理由がこちら」との記述とともに、猛禽類が小型のドローンを捕獲する様子の動画を埋め込んだツイートが拡散した。6月7日現在、表示回数が414万回以上、リツイート件数が5700件以上となっている。

ドローンを捕まえる鳥をめぐっては、AFP Fact Checkの記事やSnopesの記事でもファクトチェックをされている。

検証過程

動画は誰が撮影したのか

Google検索で「bird capturing drone」と検索すると、鳥がドローンを捕まえる動画がいくつも見つかる。ツイートが紹介した動画もその中にあり、こちらの記事から見ることができる。

動画自体はオランダ警察が2016年に公開したものだった。上記の記事の中で紹介されているBBCの記事によると、オランダ警察は世界初の取り組みとして2016年から、飛行禁止区域を飛ぶ不審なドローンに対抗して猛禽類のワシのヒナを購入し、訓練を開始したという。なお、オランダDutchNews.nlの記事によると、出動機会の少なさを理由に、オランダ警察はワシの活用を2017年に中止した。

配送用ドローンは鳥に襲われるのか

ドローンが鳥に襲われたという事例は、ネット上で多数確認できる。では、公的な記録ではどうか。

日本では航空法(132条の90など)や航空法施行規則(236条の85など)の定めで、ドローンを含む無人航空機の操縦者は、事故や重大インシデントが発生した場合に国交大臣に報告しなければならない。国交省のページで確認すると、2022年度の報告一覧(改正航空法に伴い、事故等の報告受付を始めた2022年12月5日以降の報告)には鳥との接触例はなかったが、2021年度の報告一覧には「鳥に接触して河川に墜落し、機体を紛失した」などという鳥との接触事例が139件中2件あった。

配送用のドローンの場合はどうか。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、2017年からドローン配送事業化に取り組む日本郵便に問い合わせた。日本郵便によると、これまでの実証実験で猛禽類を含めた鳥がドローンを襲う事例はなかったという。

鳥がドローンを襲うことを想定したり、対策を講じたりしたことがあるかについて、日本郵便は「実証を行ってきた物流用途の機体は鳥類よりも大きく、飛行音もあるため動物の方が避けていきます」と回答した。また、計画や実験の過程で鳥による影響を検討したことがあるのかについては「検討していません」とのことだった。

オーストラリアでは配送用ドローンが襲われた事例も

ただし、一般のドローンと比較すると確認されることは少ないものの、配送用ドローンが襲われた事例はある。2021年9月にオーストラリアABC NewsがYouTubeにアップした動画では、豪キャンベラで大型の配送用ドローンがコーヒーを運んでいる最中にカラスに襲われる様子が映っている。

ABC Newsによると、鳥の襲撃を受けた配送用ドローンを運営していたWing社は、周辺でのドローン運用を一時休止したという

救急医療へのドローン活用の普及に取り組み、noteなどで情報発信する岩堀利樹さんは、こう指摘する。

「配送用ドローンは、動画のようにVTOL固定翼タイプが主流となる傾向にあり、そうでない場合も比較的大型でローター(回転翼)数の多い機体を使用するので、動画を見てもわかるように鳥に襲撃されたとしても簡単には墜落しません。ですが、鳥の襲撃の危険性への配慮はドローン事業の運営者には当然のことです」

国内で配送用ドローンに対する襲撃の記録がないことについては、次のようす推測する。

「このオーストラリアのような事例は確かに国内外で記憶にない珍しいものです。しかし、国内に関してはまだまだ実証実験がほとんどで、圧倒的にサンプル数が不足しているという側面も否めません。配送用ドローンはそもそもペイロードと安定性が重視された機体であるだけに、鳥に襲われても墜落に至っていないケースでは事故として記録に残りにくいという事情もあるかもしれません」

配送用ドローンに対して、鳥が襲撃とまではいかなかったものの、機体周辺を飛び回る事案があったことは読売新聞も記事にしている。ただし、普及が進まない要因が鳥かという点については、岩堀さんは疑問を呈する。

「ドローンを飛行させるうえで鳥の危険性は大前提。故にドローン配送にとっても鳥の影響は無視できるものではありません。しかしだからこそ鳥に襲われて墜落という事態にならないようドローン事業者は留意しており、今のところ配送用ドローンが鳥に襲われて墜落という事故は避けられています」

「旅客機のバードストライク対策と同様で100%安全と言い切ることはできませんが、100%に少しでも近付くよう創意工夫が続けられている状況です。従って、普及を阻む主要因とまでは言えないのでは。むしろ、規制の存在が普及を阻んでいると言えます」

ドローン配送の実用化は進んでいるのか

日本ではドローン配送の実用化に向けた取り組みが進む。市街地を含んだ地域(有人地帯)でもドローンを操縦者が目視しないで飛ばすことができるように、航空法が2022年に改正されたためだ。

時事通信の記事によると、運輸大手のセイノーホールディングスや航空大手の日本航空全日本空輸が配送用ドローンの活用に取り組む。佐川急便や楽天グループのRakuten Droneも、ドローンを用いた配送に意欲を見せる。また、通信大手のKDDIは東京都と協定を結び、ドローン配送を災害地域の支援に活かす予定だ。

判定(訂正あり)

拡散した動画は「ドローン配送が鳥に襲われる」というものではない。国内の事故記録や実際にドローン配送を実証実験している日本郵便にも配送用ドローンが襲われたという事例は確認できなかった。そのため、判定を「誤り」としていたが、オーストラリアのような事例もあるとの指摘を受け、「ドローン配送の普及が進まないのは鳥に襲われるから」という言説は不正確と訂正する。

検証:高橋篤史、宮本聖二
編集:古田大輔、藤森かもめ

訂正についての説明

2023年6月7日にJFCが検証記事を配信した後、岩堀さんが「【ファクトチェック】日本ファクトチェックセンターによる『「(動画)ドローン配送の普及が進まないのは鳥に襲われるから」は誤り』判定を検証」という記事を公開したことをきっかけに、岩堀さんにも取材し、再検証しました。

オーストラリアの事例があることなどを踏まえて、判定を「不正確」に訂正し、オーストラリアの事故に関する項目を付加するなど、本文を修正しました。(2023年6月22日)


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

「フランス入国の際の優先レーンから日本が外されたようだ」という情報が拡散しましたが、誤りです。2025年4月30日現在、日本は優先レーンの対象国です。 検証対象 2025年4月19日、埼玉県戸田市議・河合ゆうすけ氏が「フランスに入国する際、イミグレーションの優先レーンから日本が外されたようだ。日本のパスポートを持った中国人(帰化した人)が増えたからではないかと言われている」などと主張する投稿がXで拡散した。投稿には、フランス・パリの空港と思われる画像が添付されている。 投稿は4月30日現在、3700回以上リポストされ、表示回数は112万を超える。投稿には「治安だけは良かったのにその治安もパァ」「自公政権のお陰ですね」などのコメントのほか、「根拠がない」というコミュニティーノートの指摘もある。 検証対象の投稿が拡散するひと月ほど前にも、同様の投稿があった(2025年3月19日)。「フランスに入国しようとしたら優先自動ゲートが開かず、担当者に文句を言ったら『日本だけ撤廃した。向こうの中国人の列に並んで』と言われた」などという内容で「虚偽のポストの疑い」というコ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
超高齢者の社会保障不正、戸籍制度がある日本ではあり得ない? 問題は日本でも【ファクトチェック】

超高齢者の社会保障不正、戸籍制度がある日本ではあり得ない? 問題は日本でも【ファクトチェック】

「トランプ政権が社会福祉コストを精査したら、記録上で200歳以上が数万人もいた。戸籍制度が完備してる日本ではあり得ない」などという言説がXで拡散しましたが、不正確です。トランプ氏が演説でふれた200超歳の高齢者の記録は1041人分。また、亡くなった人が戸籍上生存したままになっている「高齢者所在不明問題」は日本でも起きています。 検証対象 2025年4月24日、「トランプ政権でDOGEが社会福祉コストの精査を行ったら、記録上で200歳以上が数万人もいたという話は、戸籍制度が完備してる日本ではあり得ないこと」という投稿がXで拡散した。 投稿は2025年4月28日現在、1万回以上リポストされ、表示は308万件を超える。投稿には「母が亡くなった時戸籍を取り寄せたら、江戸時代末期まで遡った記録が送られてきて驚いた」「ほんと、そう。無くすべきではない」などのコメントのほか、「日本でも何年か前にそういう事ありましたよ」という指摘もある。 検証過程 トランプ氏「220~229歳が1039人」 第2次トランプ政権は、財政赤字の削減を目指し、社会保障費の削減に取り組ん

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
文京区の中学校はクラスの半分が中国人? 外国籍の生徒割合は約4%【ファクトチェック】

文京区の中学校はクラスの半分が中国人? 外国籍の生徒割合は約4%【ファクトチェック】

東京都文京区では中学校のクラスの半分が中国人だという情報が拡散していますが、誤りです。文京区教育委員会によると、文京区立中学校の外国籍生徒の割合は約4%です。 検証対象 2025年4月19日、「文京区では中学校のクラスの半分が中国人」という投稿が拡散した。 この投稿は1万件以上リポストされ、表示回数は124万回を超える。投稿について「都内は恐ろしい状況なんだ」「マジでやばいでしょ」というコメントの一方で「どこの中学校の話をされてるんですか?」という指摘もある。 検証過程 東京都文京区の人口は2025年4月1日現在、23万5380人(前月比298人増)。そのうち中国人を含む外国人全体の人口は1万5821人(前月比17人減)で6.7%だ(文京区「人口統計資料」)。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、文京区教育委員会学務課に取材した。 文京区内に10ある区立中学校の外国籍の生徒について、学務課学事係は「国別の人数は把握しておりません。外国籍生徒の総数は104人で、これは全生徒2,341人の約4%です(令和6年5月1日現在)。そのため、特定の国籍の

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
維新の会が大阪万博跡地の使用権を中国に売った? 跡地の開発事業者は未定【ファクトチェック】

維新の会が大阪万博跡地の使用権を中国に売った? 跡地の開発事業者は未定【ファクトチェック】

元プロレスラーの前田日明氏が「維新の会が大阪万博の跡地の使用権を中国に売った」と話す動画が拡散しましたが、誤りです。万博終了後の跡地利用の開発事業者はまだ決まっておらず、現在提案のある企業は「中国ではない」と吉村洋文大阪府知事が否定しています。前田氏のチャンネルの動画は削除されましたが、切り出し動画の拡散が続いています。 検証対象 2025年3月、元プロレスラーの前田日明氏が「維新の会が大阪万博の跡地の使用権を中国に売った」と語る動画が拡散した(例1、例2、例3)。 これらの動画は、前田氏が自身のYouTubeチャンネルで公開した動画から切り出したものだ。元動画は2025年4月24日現在、削除されている。 前田氏が「大阪の維新の党が中国に万博の跡地の使用権を今後60年間売ってお金にした」などと語る部分が切り出されたショート動画は、YouTubeだけでなくTikTokやXなどで拡散を続けている。 検証過程 現在は削除されている前田氏の元動画は3月23日に投稿され、タイトルは「万博の跡地は中国のものになる」だった。以下のように語っていた。 「ある仕事で

By 宮本聖二

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)