宮城県知事選で投票用紙が盗まれる?選挙不正? 選挙経費の紛失と誤認か【ファクトチェック】

宮城県知事選で投票用紙が盗まれる?選挙不正? 選挙経費の紛失と誤認か【ファクトチェック】

2025年10月26日に投開票された宮城県知事選について「投票用紙が盗難」「期日前投票が30倍と言われる選挙で10ポイント程度も下がるなんて統計的にもおかしい」などと選挙不正を示唆する投稿がThreadsで拡散しましたが、誤りです。県選挙管理委員会は日本ファクトチェックセンター(JFC)の取材に「投票用紙の盗難はなかった」と答えています。

検証対象

拡散した言説

2025年11月3日、「宮城県民は和田さんを当選させていた」「投票用紙が盗難」「期日前投票が30倍と言われる選挙で10ポイント程度も下がるなんて統計的にもおかしい」などと、選挙で不正があったかのような投稿がThreadsで拡散した。

検証する理由

11月10日現在、投稿には4900を超えるいいねがつき、表示は4万回を超える。

投稿には「投票用紙が盗難て事実ですか!?」という指摘の一方で、「投票用紙盗難はやり直しすべき!」や「絶対不正。間違いない。盗難の捜査は?これだけ不正あるんだから選挙のやり方変えるべき!!」など、同調するコメントが多い。

検証過程

宮城県選管「投票用紙の盗難は認識していない」

JFCは、県選管に投票用紙の盗難があったかを取材した。担当者の回答は次の通りだ。

「選挙の際に管理執行上の問題が生じたら、市町村の選管から県の選管に報告が入る体制になっている。名取市以外の市町村から県選管にそのような報告はなく、報告がないという事実を持って(投票用紙の盗難という)問題はなかったと認識している」

つまり、拡散した投稿のいう「投票用紙の盗難」は誤りだ。

名取市で知事選経費の71万円が紛失

では、投票用紙が盗まれたという情報はどこから出てきたのか。

宮城県名取市選挙管理委員会は、今回の知事選の経費として保管していた公金約71万円を紛失したと、10月27日発表した。市は窃盗の疑いで警察に被害届を出している(朝日新聞”宮城知事選の経費71万円紛失 転出者に誤通知も 名取市ミス相次ぐ”、河北新報”投開票所経費の一部71万円を紛失 宮城県知事選挙で名取市 岩沼署に被害届”)。

お金の紛失については各社が報じているが、「投票用紙の盗難」とは報じられていない。

だが、選挙に関する「紛失」の事案として、これが投票用紙の盗難と誤解された可能性はある。JFCが県選管に取材した際に、名取市の件も聞いた。「名取市には県選管から直接確認し、投票用紙の枚数が適正であったことを確認している」という回答だった。

「期日前投票が30倍なのに統計的におかしい」?

拡散した投稿は「期日前投票が30倍と言われる選挙で、10ポイント程度も下がるなんて統計的にもおかしい」とも述べている。

この情報はこれまでにも拡散しており、JFCではすでに「ミスリードで不正確」と判定している。

期日前投票の最初の3日間に投票した有権者数は前回の31倍だったが、前回は投票日が衆院選と重なるダブル選挙だった。知事選は選挙期間が17日間、衆院選は12日間。「31倍」だったのは、知事選のみの投票期間である最初の3日間のデータで、今回とは比較条件が大きく異なる。

期日前投票の総数は、前回の約1割増にとどまっており、不正選挙を示すデータとは言えない(以上、JFC”宮城県知事選、期日前投票数が前回の31倍なのに投票率が低いのは不正? 「衆院とのダブル選」という特殊事情【ファクトチェック】”)。

県知事選の結果

拡散した投稿は「宮城県民は和田さんを当選させていた」と主張しているが、実際には現職の村井嘉浩氏が340,190票、自民党・前参院議員の和田政宗氏は324,375票で、村井氏が当選している(宮城県”宮城県知事選挙 総括表”)。

判定

10月26日の宮城県知事選について「投票用紙が盗難」「期日前投票が30倍と言われる選挙で10ポイント程度も下がるなんて統計的にもおかしい」と、選挙で不正があったと示唆する投稿がThreadsで拡散した。今回の選挙に関連して、名取市で知事選経費の紛失はあったが、県選管によると、投票用紙の盗難はなかった。期日前の投票率なども不正を示すデータはない。よって、誤りと判定する。

出典・参考

朝日新聞.”宮城知事選の経費71万円紛失 転出者に誤通知も 名取市ミス相次ぐ”.https://digital.asahi.com/articles/ASTBX315STBXUNHB00ZM.html,(閲覧日2025年11月10日).

河北新報.”投開票所経費の一部71万円を紛失 宮城県知事選挙で名取市 岩沼署に被害届”.https://kahoku.news/articles/20251027khn000078.html,(閲覧日2025年11月10日).

JFC.”宮城県知事選、期日前投票数が前回の31倍なのに投票率が低いのは不正? 「衆院とのダブル選」という特殊事情【ファクトチェック】”.https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/politics/inaccurate-election-fraud-in-miyagi/,(閲覧日2025年11月10日).

宮城県.”宮城県知事選挙 総括表”.https://senkyo-sokuhou.pref.miyagi.jp/chiji-koukai/HTML/soukatsu_chi.html,(閲覧日2025年11月10日).

検証:根津綾子
編集:古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

「陰謀論」と「批判的思考」は紙一重――Z世代が考える楽しくて伝わるリテラシー教育とは【情報インテグリティ】

「陰謀論」と「批判的思考」は紙一重――Z世代が考える楽しくて伝わるリテラシー教育とは【情報インテグリティ】

大量拡散する偽・誤情報にどう対応するか。一人ひとりが抵抗力を身につけるメディア情報リテラシーの普及は遅れています。どこに課題があるのか。Z世代が考えた革新的な手法は。日本ファクトチェックセンター(JFC)と電通総研が4月2日に共催した情報インテグリティシンポジウムで議論しました。 パネル討論「メディアリテラシーを広げるには:革新的な取り組みの現在地」に登壇したのは、ファクトチェック団体、メディア情報リテラシー教育に取り組む学生スタートアップ、新聞社、研究者。話題は教育にとどまらず、メディアの役割や情報の信頼性、必要とされる「批判的思考」が実は「陰謀論」と紙一重という話題にも広がりました。 ※シンポの議論を文字起こししたものですが、読みやすさを考慮して一部修正を加えています。 登壇者 モデレーター:古田 大輔 今井 善太郎氏(株式会社Classroom Adventure 代表取締役) 坂本 旬氏(法政大学総合情報センター 所長) 仲村 和代氏(朝日新聞東京本社 ゼネラルエディター補佐) Z世代が考えるゲーム形式のリテラシー教育 今井:株式会社Clas

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
AIディープフェイク氾濫の年、真実を守るテクノロジーとコラボの現状【情報インテグリティ】

AIディープフェイク氾濫の年、真実を守るテクノロジーとコラボの現状【情報インテグリティ】

偽・誤情報の拡散は選挙にも影響を与えています。対策としてのファクトチェックやテクノロジー活用はどこまで広がっているのか。日本ファクトチェックセンター(JFC)と電通総研が4月2日に共催した情報インテグリティシンポジウムで議論しました。 パネル討論「選挙とAIとファクトチェック:ディープフェイクへの対抗策」に登壇したのは、ファクトチェック団体、新聞社、研究者、シビックテックという異なる業界で偽情報対策に取り組む担当者。情報環境の現状から今後まで、それぞれの立場で語っています。 ※シンポの議論を文字起こししたものですが、読みやすさを考慮して一部修正を加えています。 登壇者 モデレーター:古田 大輔(日本ファクトチェックセンター編集長) 工藤 淳氏(読売新聞 政治部デスク) 陣内 一樹氏(一般社団法人コード・フォー・ジャパン 副代表理事) 越前 功氏(国立情報学研究所 情報社会相関研究系 研究主幹・教授) 読売新聞が始めたファクトチェックのコラボ 工藤:昨年8月からファクトチェックの担当をしています。 新聞社やテレビ局としてもSNSの大きな影響を無視でき

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
京都・男児不明事件で「犯人逮捕」とYahoo!ニュースを装った詐欺投稿 別リンクへの誘導に注意を

京都・男児不明事件で「犯人逮捕」とYahoo!ニュースを装った詐欺投稿 別リンクへの誘導に注意を

2026年3月に京都府南丹市で男児が行方不明になった事件に関連して、Xで「犯人が逮捕された」などと、Yahoo!ニュースの記事を装ったリンクを埋め込み、全く別のウェブサイトへ誘導する投稿が確認されています。クリックすると全く関係ないサイトに誘導されるため、注意が必要です。 Yahoo!ニュースを装った投稿 4月14日、「京都男児行方不明事件の犯人逮捕される!!陳 宇軒 (チェン・ユーシュエン )容疑者を死体遺棄容疑で逮捕」という投稿がXに投稿された。 投稿には、Yahoo!ニュースのリンクを投稿に添付した場合に表示される「Yahoo!ニュース」と書かれたプレビュー画像と共に「momentary.link」と書かれたリンクが添付されている。 容疑者逮捕の情報は4月14日時点でなし 3月下旬、京都府南丹市の市立園部小学校に通う安達結希さん(11)が行方不明になった。4月13日、園部小から約2キロ離れた山中で子どもとみられる遺体があおむけに倒れている状態で見つかった(時事通信.”司法解剖し、身元特定へ 発見の遺体、京都男児不明―府警”)。 拡散している

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
イラン戦争の偽・誤情報まとめ:知っておけば対策できる典型的な6つの手口と確認のポイント

イラン戦争の偽・誤情報まとめ:知っておけば対策できる典型的な6つの手口と確認のポイント

アメリカ・イスラエルによる攻撃で始まったイラン戦争では、これまで以上に大量の偽・誤情報が氾濫しています。中でもショート動画は生成AIの発達と普及で現実と見分けがつかない「ディープフェイク(AI製の偽画像・動画)」が無数に拡散し、検証が追いつかない状況です。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は個別の検証をしていますが、それだけでは偽・誤情報の拡散を止められません。一人ひとりが、予備知識を持ち、耐性をつけることが大切です。偽・誤情報の典型的な手口と、簡単に実践できる確認のポイントについて解説します。 情報開示:世界中で拡散する膨大な偽・誤情報の分類と分析には、AI「Claude」を活用しました。記事にする際には、実際の検証事例を集め、その内容は全て人間のファクトチェッカーが確認しています。 手口① 生成AIによるディープフェイク画像・動画 生成AIツールを使い、現実ではない画像や動画=ディープフェイクを作る手口です。かつては「指が6本ある」「背景が歪んでいる」といった画像の不自然さで見分けがつきましたが、今や専門家でも、目視での判別が難しいレベルに達して

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は4月25日(土)午前10時~11時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0425.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)