処理水放出で海の色が変化?【ファクトチェック】

処理水放出で海の色が変化?【ファクトチェック】

福島第一原発の処理水の海洋放出前後で、海の色が変わっているという写真が拡散しましたが、誤りです。海の色の違いは放出開始前からあり、空中写真や衛星写真でも確認できます。

検証対象

「海の色がとんでも無い事になってしまう......」というコメントとともに、処理水放出の有無で海の色が薄い茶色に変化したとする画像が拡散した。8月25日現在、約37万回の表示回数と235件のリツイートを獲得している。

拡散したツイートには、処理水放出と海の色の変化は無関係であると指摘するコミュニティノートが付いている。

検証過程

処理水放出の仕組み
福島第一原発の処理水の海洋放出は、2023年8月24日の午後1時から始まった。処理水(二次処理水)とは、トリチウムを除く62種類の放射性物質を国の安全基準を満たすまで取り除く浄化処理を経た水のこと。処理水については、JFCがファクトチェックまとめで詳しく解説している。

東電が運営する「処理水ポータルサイト」によると、処理水は、トリチウムの濃度が国の安全規制の基準(60,000ベクレル/リットル)および世界保健機関(WHO)の飲料水水質ガイドライン(10,000ベクレル/リットル)を下回る1,500ベクレル/リットル未満となるように海水で希釈している。

希釈後の処理水は、「放水立杭」という設備に溜められ、一定量を超えると放水トンネルを通じて海洋放出するという仕組みだ。東電によると、「放出した水が取水した海水に再循環することを抑制するため」に放出口は沖合1㎞にある。

処理水放出は海の色の変化に関係あるのか
処理水の放出開始を伝えるテレビユー福島の空撮映像を確認すると、拡散した画像と同様に防波堤の外側に茶色い濁りが見られる。

しかし、この茶色い濁りは放出開始後に現れたものではない。

8月24日以前の東京新聞の動画記事でも、同様の濁りは確認できる。

またGoogle Earthで福島第一原発付近の様子を確認すると、この茶色い濁りがわずかにあることがわかる。国土地理院の空中写真(2013年撮影)でも、この濁りに似たものが防波堤付近に見える。

Google Earth(福島第一原発)

国土地理院の空中写真(2013年撮影)

フランスのCGG社のサテライトマッピング・チームが2020年に投稿したブログの衛星写真では、この濁りが、鮮明に写っている。

判定

拡散した画像の海の色の変化は、処理水を放出する以前の空撮写真や衛星写真からも確認することができる。したがって、海の色の変化は処理水放出との関連はないことから、「処理水放出で海の色が変化」したことは誤りだと判定した。

検証:高橋篤史
編集:古田大輔、藤森かもめ

福島第一原発の処理水と汚染水の違いは何?海洋放出は危険?【ファクトチェックまとめ】
日本政府が夏ごろに始める方針を示している福島第一原発の処理水の海洋放出に関して、国内外で不確かな情報が拡散しています。処理水とは何か。環境への影響は。ファクトチェックのポイントをまとめました。 ※新たな誤情報の検証を更新していきます(最終更新2023年12月13日)。 参照資料は、各省庁や東京電力から、また、2023年7月4日に公開された国際原子力機関(IAEA)の「福島第一原子力発電所ALPS処理水の安全審査に関する包括的報告書(以下、IAEA報告書)」などです。 処理水か汚染水か 2011年3月11日の東日本大震災による津波で、福島第一原発ではウラン燃料を冷やすことができなくなる事故が起きました。燃料は格納容器内で溶け、今も温度を下げるための冷却水をかけ続けています。使用された水は放射性物質で汚染され、雨水などと混ざって毎日約90トンずつ増えています。これを「汚染水」と呼びます。 汚染水は原発の施設内に並ぶ1000基を超える巨大タンクに貯められますが、2024年の前半にはタンク容量に限界が来る見込みです。日本政府は、トリチウムを除く62種類の放射性物

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

自民新総裁・高市氏と立民・辻元氏が総裁室で握手? AIによる偽画像【ファクトチェック】

自民新総裁・高市氏と立民・辻元氏が総裁室で握手? AIによる偽画像【ファクトチェック】

自民党・高市早苗新総裁と立憲民主党・辻元清美参議院議員が総裁室で握手する画像が拡散しましたが、AI生成による偽画像です。辻元氏自身が画像をフェイクと指摘しています。拡散した画像の元画像にはAI生成を示す印があり、AI生成検出ツールもAIの可能性が高いと判定しました。 検証対象 2025年10月6日、「お祝いを言えないフェミさん達が多い中、これは辻元さん、素晴らしい、素直にありがとうございます✨」という文言付きの画像がXで拡散した。 10月7日現在、投稿は1000回以上リポストされ、表示は221.3万件を超える。 投稿には「本当に素敵な写真ですね✨」「パフォーマンスであっても祝意をちゃんと伝える辻元清美は偉いと思います」や「AIじゃないの?🙄」などの指摘がある。 検証過程 辻元氏本人が否定 10月6日、辻元清美氏は自身のXアカウントで次のように投稿している。 「総裁席に座る高市さんと私(?)のツーショット合成写真が出回っているようで、新聞社からも問い合わせが来てしまいました! もちろんフェイク。拡大すると全然似ていないのですが、、、もしAIがも

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
外国人に日本の国政選挙権? 在日韓国人の韓国の投票権【ファクトチェック】

外国人に日本の国政選挙権? 在日韓国人の韓国の投票権【ファクトチェック】

外国人に日本の国政への選挙権が与えられたかのような投稿が拡散しましたが、誤りです。拡散した動画は、在日韓国人が韓国の総選挙に投票できるようになったことを伝える2012年4月のニュース動画の一部を切りだしたものです。外国人に日本の国政選挙の選挙権が与えられたわけではありません。 検証対象 2025年10月2日、「日本の国政に なぜ 外国人に選挙権を与えるのか」という文言付きの動画がXで拡散した。 10月6日現在、投稿は3100回以上リポストされ、表示は59万件を超える。 投稿には「こんなん許したら日本駄目になるって!」「ダメだろ。どう考えても」や「これは 日本での選挙風景ではありません」などの指摘もある。 検証過程 拡散した動画「在日韓国人が韓国の総選挙に投票できるように」 拡散した動画は31秒で、別の投稿者が拡散した動画を引用ポストしている。動画の冒頭に「韓国総選挙 在日韓国人が初の投票」というテロップと、左上にANN NEWSのロゴがある。 YouTubeで「ANN NEWS 韓国総選挙 在日韓国人が初の投票」と検索すると、ANN News公

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
自民・高市新総裁が「所得税一律10%に下げ累進課税廃止」と表明? まとめサイトによる誤り【ファクトチェック】

自民・高市新総裁が「所得税一律10%に下げ累進課税廃止」と表明? まとめサイトによる誤り【ファクトチェック】

自民党・高市早苗新総裁が、所得税を一律10%に下げて累進課税を廃止すると表明したかのような投稿が拡散しましたが、誤りです。高市氏は10月4日の記者会見で、所得税の減税と給付を組み合わせる「給付付き税額控除」の制度設計について「しっかりと自民党の政調会で議論していただきたい」などと述べましたが、所得税の累進課税を廃止するとは言っていません。 検証対象 2025年10月5日、「【朗報】高市早苗『所得税を一律10%に下げて累進課税を廃止する』」という投稿がXで拡散した。 10月6日現在、投稿は6200回以上リポストされ、表示は1,043.3万件を超える。 投稿には「これしちゃうと、貧富の差がとんでもないことになるかも」「一律は低所得者を苦しめるだけだろ!」や「ツイッター速報って信憑性がゼロなんだよ」などの指摘もある。 検証過程 投稿はまとめサイトによるもので参照記事には発言なし 検証対象のリンクは、まとめサイト「Tweeter Breaking News —ツイッ速!」の記事だ。タイトルは掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「【朗報】高市早苗『所得税を一

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
高市氏が自民総裁に、誤情報の標的となるのか?/JFC検証など9本【今週のファクトチェック】

高市氏が自民総裁に、誤情報の標的となるのか?/JFC検証など9本【今週のファクトチェック】

自民党総裁選は高市早苗氏の勝利に終わりました。候補者をめぐる誤情報はありましたが、日々ソーシャルメディアをチェックして感じるのは、2024年の総裁選や2025年の参院選ほどではなかった、ということです。 総裁選に関して大きな話題になっていたのは、個々の候補者に関する誤情報というよりは、小泉進次郎陣営の「やらせコメント」や高市氏の「シカ」「外国人不起訴」発言でした。 候補者討論会のAI分析も含めた解説記事「自民党総裁選とファクトチェック 討論会発言はほぼ「正確」、話題のシカと外国人不起訴は」を出しているので、ぜひ読んでみてください。 誤情報は注目を集める人やトピックが対象になりがちです。今後は総裁に選ばれた高市さんに関するものが増えるでしょう。ただ一点、これまでと異なるのは、高市氏はネット上でも人気が高かった安倍元首相の系譜に連なる保守政治家ということです。 政治に関する誤情報はかつてはリベラル系の政治家を揶揄するものが多く、安倍元首相の2度目の退陣後に、徐々に自民党を標的とするものが増えてきました。 そのため、日本ファクトチェックセンター(JFC)が検証する政治関

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は10月18日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1018.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)