(動画)遺体が動いてる?気候変動デモの映像に、ウクライナ侵攻のテロップを被せたもの【ファクトチェック】

(動画)遺体が動いてる?気候変動デモの映像に、ウクライナ侵攻のテロップを被せたもの【ファクトチェック】

ロシアのウクライナ侵攻を報じるニュースのように見える映像の背後の「遺体が動いている」という動画が拡散していますが、誤った内容です。元になった映像は、オーストリア・ウィーンであった気候変動対策についてのデモを撮影したもので、ウクライナ侵攻とは関係ありません。

検証対象

「遺体が後ろで動いてる」という文言とともにTwitterで動画が拡散した。Twitterは、動画の中で記者らしき人が、黒い布のようなもので覆われた多くの遺体のようなものをリポートしているが、その最中に後ろで「遺体」が動いている、と指摘している。

画像

ツイートのリプライ欄には「日本のテレビでは、間違っても放送されない事実」「茶番さっさとやめてくれ」などという反応がある。一方で「この映像はウィーンの気候政策のデモ」と指摘する声もあった。

検証過程

動画を右クリックして、動画のアドレスをコピーする。Google Chromeの拡張機能InVIDのVideo analysisでこのURLを調べると、動画から画像が切り出され、その画像をGoogle画像検索にかけることができる。

画像
InVIDの画面

画像検索の結果から、アメリカのファクトチェック機関Snopesの記事「Climate Protest Miscaptioned as War Footage」が見つかり、ここに元動画「Wien: Demo gegen Klimapolitik(ウィーン:気候政策に反対するデモ)」が紹介されている。

デモの映像は、ロシアのウクライナ侵攻が始まる約2週間前の2022年2月にオーストリア・ウィーンで撮影されたもので、気候変動に対する抗議のパフォーマンスだ。マスクに覆われてリポーターの口元は見えないが、テロップにはドイツ語で"DEMO GEGEN KLIMAPOLITIK(気候政策に反対するデモ)"と書かれている。

検証対象の動画はこの動画の30秒過ぎからの一部を切り取り、かつ映像の一部を拡大している。さらに音声も本来のものとは違う、ロシアのウクライナ侵攻に関するリポートの音声を被せている。

これと同様の動画はロシアのウクライナ侵攻をめぐり、「犠牲者のニュースはデマ」などと主張する人達によって国内外で何度も拡散されてきた。日本でもすでにBuzzFeed Japanが2022年3月にファクトチェックしている

判定

この動画は、気候変動で犠牲になる人たちをイメージして遺体役となって横たわる人達を取材しているもので、ロシアのウクライナ侵攻を報じる映像がねつ造されたかのように見せている投稿は誤り。

あとがき

誤情報や偽情報は、同じ内容のものが何度も利用され、拡散する傾向があります。過去に検証された情報でも、検証記事を見ていなければ、誤った情報を信じてしまう人も少なくありません。

偽情報や誤情報は刺激的で人を驚かせ、感情を掻き立てるものが多い分、正確な情報よりも拡散しやすいという特徴があります。今回、Twitter上で、BuzzFeed Japanの検証記事をリプライにつけて、「この動画は誤っている」と指摘する人がいたように、検証記事を広める努力が欠かせません。

検証:古田大輔
編集:藤森かもめ

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第8回は、よく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いについてでした。第9回は世界のファクトチェック事例や新手法を解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックの多様な事例 ファクトチェックには原則がありますが、同時に、検証対象の選び方や組織のあり方などは多様です。国内外の事例を紹介します。 Factchek.org ファクトチェック団体としては老舗のFactchek.orgはアメリカ政治に関する偽情報に対応するために、「有権者のための消費者保護センター」を目指して2003年に設立されました。 そのため、主なトピックに並ぶのは「バイデン大統領」「トランプ前大統領」、そして「その他の大統領候補」などアメリカ政治中心です(2024年7月27日現在)。 例えば、「バイデンが不法移民に家賃を支払っているという根拠のない主張」という記事には、見出しに検証対象と検証結果=根拠なしが記され、記事内では検証過程が詳細に記述されていま

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

「外国人による農地取得が全体の3分の2」という言説が拡散しましたが、誤りです。新聞記事を誤読した投稿が拡散しました。 検証対象 2024年7月20日、日本農業新聞の記事を引用して「これやばいだろ?なんで国は規制しない? 外国人による農地取得が全体の3分の2を占めたらしい」という言説が拡散した。 この投稿は43万以上の閲覧と6900のリポストがある。「農地って簡単に買えるの?」「自国の国民のために農地を開拓しているのかもしれない」というコメントのほか、「記事をちゃんと読みましたか」「日本であっても規制はありますよー」といった指摘もある。 「外国人による農地取得が3分の2を占めた」という言説を検証する。 検証過程 言説に添付されたのは、日本農業新聞が2024年7月20日に配信した記事だ。拡散したスクショは「外国人の農地取得 23年は90ヘクタールに 3分の2が国内在住」という見出しで、7月26日朝の時点では「3分の2」が「国内在住の個人・法人中心」に変わっている。 外国資本が「全体の3分の2」ではない 記事の内容は「外国人もしくはその関係法人が2

By 宮本聖二
最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード」という言説が拡散しましたが誤りです。言説に表示された数字は世論調査の数字ではありません。2024年7月26日現在、最新の世論調査では、両氏の支持率は拮抗しています。 検証対象 2024年7月23日、「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード/NHKは『僅差』と報道」という言説が拡散した。言説にはまとめサイト「トータルニュースワールド」のリンクが添付されている。 2024年7月26日現在、投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は31万件を超える。投稿について「当たり前」「妥当」というコメントがある。 検証過程 数字は予測市場プラットフォームの数字 拡散した言説にはまとめサイト「トータルニュース」のリンクが添付され、「64% Trump」「36% Kamala」と書かれたサムネイルが表示されている。リンク先を確認すると、根拠として「PolyMarket」の数字を集計した一般ユーザーのX投稿を複数取り上げている。 Polymarket(ポリマーケット)は、仮想通

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第7回は、ファクトチェックに役立つサイトやツールについてでした。第8回はよく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いを解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックと調査報道の違い 「ファクトチェックは事実を確かめることだから、報道機関は当然どこでもやっているのではないか」とよく聞かれます。 半分正解で半分間違いと言えます。何が共通していて、何が異なるのかを解説していきます。 ファクトチェックとオンライン調査 検証の根拠を公開し、可能な限りユーザーにもアクセス可能にすることが原則のファクトチェックでは、オンライン調査の手法を活用します。 誰でもアクセスできるオープンソースを使うOSINTの重要性は実践編6でも説明した通りです。 OSINTでファクトチェック 公開データを使い真偽を判別する【JFC講座 実践編6】日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第5回は、生成AIで作られる画像

By 古田大輔(Daisuke Furuta)