USAIDの年間予算で命に関わる支援活動は5%?人道・健康支援の支出は約4割【ファクトチェック】

USAIDの年間予算で命に関わる支援活動は5%?人道・健康支援の支出は約4割【ファクトチェック】

USAID(アメリカ国際開発庁)の年間予算のうち「命に関わる支援活動はたったの5%」と主張する投稿が拡散しましたが、誤りです。USAID2023会計年度の見積もりによると、人道支援や健康への支出は4割を占めます。

検証対象

2025年2月11日、「USAIDさん、年間予算6兆7000億円のうち、飢餓など命に関わる支援活動はたったの5%で、左翼、ジェンダー政策(LGBT)、共産主義者社会主義者への資金提供が95%だった…」という情報が拡散した。

2025年2月17日現在、この投稿は8800件以上リポストされ、表示回数は136万件を超える。投稿について、「なんとかして」「公金チューチューや!」というコメントの一方で、「USAIDの予算の使い道についてはHPで公開されています」というコミュニティーノートでの指摘もある。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、アメリカ議会調査局(Congressional Research Service, CRS)サイトを確認した。

「USAID Managed Program Funding(USAID資金提供によるプログラム)」で検索すると、「U.S. Agency for International Development: An Overview(USAID:概要)」という文書が検索結果のトップに表示された

2025年1月6日付で更新された文書には、USAID設立背景や、2023会計年度のUSAID管理プログラム資金(分野・地域別)の歳出義務見積もりが記載されている。2025年2月16日現在、これがUSAIDの資金使途に関する全データがそろっている中で最新のデータだ。

図1に、2023会計年度の総額434億ドルの分野別の割合が示されている。額の多い順に、統治(governance)168億、人道支援(Humanitarian)105億、健康(Health)70億、行政(Administrative)35億、その他16億、農業13億などが続く(単位USドル)。ただし、「一部の予算は国務省と一体で編成されるため正確な予算規模の算出は困難」という注がついている。

また、地域別で見ると、2023会計年度において約130か国に支援を提供。USAIDが管理する資金の最大の受給国トップ10は、ウクライナ、エチオピア、ヨルダン、コンゴ民主共和国、ソマリア、イエメン、アフガニスタン、ナイジェリア、南スーダン、シリア だった(資金額の多い順)」。

支援額が最も多いウクライナでは、資金は「直接財政支援、人道支援、農業、ガバナンス、エネルギー分野などの開発支援」に充てられたという。これらはいずれも、拡散した投稿が指摘する「左翼、LGBT、共産・社会主義者への支援」とは異なる。

判定

公開されている最新のUSAIDの会計年度(2023)の分野・地域別の歳出義務見積もりによると、人道支援・健康支援など命に係わる支援活動への資金は全体の4割を超える。また、支援額が最も大きいウクライナの事例を見ても「95%が左翼、LGBT、共産・社会主義者への支援」という主張と矛盾する。よって、誤りと判定した。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

誤情報対策はファクトチェックだけじゃない 信頼性の高い役立つサイト集【#参院選ファクトチェック解説】

誤情報対策はファクトチェックだけじゃない 信頼性の高い役立つサイト集【#参院選ファクトチェック解説】

誤情報対策は、ファクトチェックに限りません。重要なのは、正確で信頼性の高い情報に基づいて判断することです。2025年参院選の投開票日が7月20日に迫る中、誰に投票するかを決めるために役立つ、信頼性の高い情報を提供しているサイトを紹介します。 日本最大の選挙・政治の情報サイト 日本最大の選挙・政治の情報サイトとして知られる選挙ドットコムには、日本のあらゆる選挙や政治家の情報がまとまっています。 候補者一覧の自分の選挙区を選ぶと、候補者のプロフィールや活動記録、動画や政策アンケートの回答などをまとめて確認できます。 選挙ドットコム”第27回 参議院議員通常選挙” https://sangiin.go2senkyo.com/2025 ノーカット演説動画と文字起こし NHKは今回、非常に意欲的な選挙報道に取り組んでいます。その一つが、全候補者を候補者一人ひとりの演説をほぼノーカットで公開し、文字起こしも掲載するという試みです。ほとんどの候補を網羅し、各選挙区のページから探せます。 これまでの選挙報道は、番組の尺や紙面の大きさの制約から、候補者の演説の一部を

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
中国人の生活保護が5年で2倍に急増? 増加率は4.5%【#参院選ファクトチェック】

中国人の生活保護が5年で2倍に急増? 増加率は4.5%【#参院選ファクトチェック】

外国人受け入れが参院選の争点の一つとなる中で「中国人の生活保護が5年で2倍に急増」という情報が拡散しましたが、誤りです。5年間で約4.5%増です。 検証対象 2025年7月6日、「中国人の生活保護者5年間で2倍に激増…..」という投稿が拡散した。投稿の動画では「中国人による国内の生活保護者が5年で2倍に激増してる」と語っている。 2025年7月18日現在、この投稿は1400件以上リポストされ、表示回数は2.5万回を超える。投稿について「C国移民は生活保護でウハウハ」「私達は誰の為に税金を払ってるの?」というコメントがついている。 検証過程 5年で増加した中国籍の受給者は約4.5% 生活保護を受給している国籍別の人数や世帯数は、厚生労働省の被保護者調査で確認することができる(厚生労働省”被保護者調査”)。 現在公開されている最新の2023年版を確認すると、中国籍の生活保護受給者は9471人だ(被保護者調査 / 令和5年度被保護者調査 / 年次調査(基礎調査、個別調査)令和5年7月末日現在 確定値)。 2023年の5年前の2018年を確認すると、中

By 木山竣策
トランプ大統領が自公政権を親中と認め、安全保障上の脅威と激怒? 書簡の文言は他国と一緒【#参院選ファクトチェック】

トランプ大統領が自公政権を親中と認め、安全保障上の脅威と激怒? 書簡の文言は他国と一緒【#参院選ファクトチェック】

参院選の争点の一つでもある日米関税交渉について、「トランプ大統領、自公政権が親中とハッキリ認める!!」「『安全保障上の驚異』と激怒。関税25%上乗せへ!!」という投稿がXで拡散しましたが、誤りです。根拠として添付されている画像は、日本に25%の追加関税を課すことを通告する石破茂首相宛ての書簡を写したものですが、内容は関税の数字などを除けば「安全保障上の脅威」という文言も含めて同じ内容のものを各国に送っています。 検証対象 7月8日、「トランプ大統領、自公政権が親中とハッキリ認める!!」「『安全保障上の驚異』と激怒。関税25%上乗せへ!!」という投稿がXで拡散した。 7月18日現在、リポスト数は8600を超え、表示件数は731.3万を超えた。投稿には「敵国と認められたって事ですね!」「トランプ、石破のことめちゃくちゃ嫌いなんだな」というコメントや、「英語くらい読もうよ。関税25%とは言っているけど、それ以外言ってないだろ」「翻訳するリテラシーがあればこんなものに引っ掛からないのに」などの指摘が寄せられている。 検証過程 添付された書簡の内容は 拡散し

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
れいわ・山本代表「外国人犯罪の中で一番多いのは米兵」? 検挙数 の公式データと異なる【#参院選ファクトチェック】

れいわ・山本代表「外国人犯罪の中で一番多いのは米兵」? 検挙数 の公式データと異なる【#参院選ファクトチェック】

れいわ新選組・山本太郎代表が「一番外国人犯罪の中で多いのなんやねん、といったら米兵」と発言し、Xにも投稿しましたが誤りです。最新の白書などで確認すると、2023年の刑法犯検挙数は米軍関係者118件で、国籍別ではベトナムや中国籍が多く、「外国人犯罪で最も多いのが米兵によるもの」とは言えません。 検証対象 2025年7月17日、れいわ新選組・山本代表が「外国人犯罪が多くなってるって言ってるけど、一番外国人犯罪の中で多いのなんやねん、といったら米兵じゃねぇかよ」と発言する動画がれいわ新選組の公式Xに投稿された。 投稿には7月13日の池袋での演説の動画が添付され、動画でも同様の発言をしている。2025年7月17日現在、この投稿は1400件以上リポストされ、表示回数は24.8万回を超える。投稿について「応援しています」「天才だ」というコメントの一方で「デマ」という指摘もある。 検証過程 警察庁は、毎年、犯罪に関する統計や対策などをまとめた「警察白書」を公開している。現時点の最新版(2024年版)を確認すると、2014年~2023年の主な国籍別検挙数がまとめられて

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は8月23日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0823.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)