トランプ前大統領「ハイチ移民がペットを食べている」? 当局の否定相次ぐ【ファクトチェック】

トランプ前大統領「ハイチ移民がペットを食べている」? 当局の否定相次ぐ【ファクトチェック】
画像は米ABC newsサイトの動画の発言部分より

2024年9月10日の米大統領選テレビ討論会で、共和党候補ドナルド・トランプ前大統領が「オハイオ州に流入してきた連中が(州内のスプリングフィールド市で)犬や猫などのペットを食べている」と発言しました。トランプ氏の発言は誤りです。市の担当者は「移民コミュニティがペットを傷つけた情報はない」と否定。市警も「ペットが盗まれたり食べられたりしたという報告はない」としています。

検証対象

2024年9月10日の大統領選テレビ討論会で、共和党候補のトランプ氏は次のように発言した(発言部分は動画1動画2)。

「スプリングフィールドにやってくる連中(ハイチ系の移民)は犬や猫を食べている。そこに住む人たちのペットを食べている」

その情報を即座に否定した討論会の司会者に対し、「テレビに映った人々が『私の犬が盗まれて食料にされた』と話していた」とも発言した。

トランプ氏の発言は波紋を広げ、オハイオ州の市庁舎に爆破予告が届くという事態にまで発展した。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、トランプ氏の発言を検証した。

この発言は米メディアを中心にABCBBCCNN米公共放送PBSPolitiFactなどがすでに検証し、いずれもトランプ氏の発言を誤りと判定している。

ハイチ暫定政府はトランプ前大統領の発言を「差別的だ」とし、「同胞の尊厳を毀損し、命の危険にさらすこのような発言を我々は断固として拒否する」と非難した(FRANCE24NHK)。

検証過程

「ペットを食べている」という言説はテレビ討論会前から

ハイチ系の移民が「ペットを食べている」という言説は、9月10日のテレビ討論会の前から拡散していた。

8月27日、スプリングフィールド市の委員会では市内在住のインフルエンサーを自称する男性が、ハイチ移民に関する苦情を述べていた(動画)。その中でこの男性は、移民らが食料目的で公園のアヒルを殺していたと発言。しかし、男性は発言にかかわる証拠は示さなかった(BBC)。

また、スプリングフィールド市内の犯罪について発信するFacebookアカウントの投稿も拡散した。この投稿は地元住民を自称する人物によるもので、ペットの猫が殺されたという隣人の娘の友人の話を紹介していた(ABC)。

この言説は政治家や著名人によっても拡散された。

トランプ氏とともに大統領選に臨む共和党のJ・D・バンス副大統領候補は9月9日、Xに次のように投稿し、13日までに1135.6万件以上の表示回数と3万回以上のリポストを得た。

「数か月前、私はハイチからの不法移民が、スプリングフィールド(オハイオ州)全域で社会サービスを食いつぶし、混乱を引き起こしているという問題を提起した」「報告によると、今では彼らがペットを誘拐し、食べてしまうという事態も発生している。私たちのborder czar(国境問題の第一の担当者を意味し、ここではカマラ・ハリス副大統領を指している)はどこにいるのだろうか?」

また、トランプ氏を支持するイーロン・マスク氏も9月10日に生成AIで作成したとみられる子猫とアヒルの子どもの画像とともに「Save them!(彼らを助けて!)😢」と投稿。この投稿は13日現在、9335.3万件の表示回数と8.2万回以上のリポストを得ている。

スプリングフィールド市や市警察は否定

トランプ氏の発言について、スプリングフィールド市や市警察は否定している。

スプリングフィールド市の担当者は、言説について、「これまでに移民コミュニティによってペットが傷つけられたり、怪我させられたり、虐待されたりしたという信頼できる情報はない」とコメントしている(ABCCNN)。

地元紙のスプリングフィールド・ニュース・サンも「市内のペットが盗まれたり食べられたりした報告はない」という市警察の話を報じている。

また、スプリングフィールド市のあるオハイオ州のマイク・デワイン知事は、CBSの取材に「(この言説は)インターネット上で持ちあがったもので、インターネットは、時折、かなりおかしくなる」としながら、「スプリングフィールド市の担当者の発言を信頼している」とコメントしている(CBS)。

判定

トランプ氏の「移民がペットを食べている」という発言内容は、誤り。スプリングフィールド市の担当者や市警察は、「市内のペットがケガをしたり、食料目的で盗難されたりした報告はない」と言説を否定している。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

自治体レベルで拡散する局地的な偽・誤情報にどう対応するか 鍵を握る地元メディア/JFC検証など10本【今週のファクトチェック】

自治体レベルで拡散する局地的な偽・誤情報にどう対応するか 鍵を握る地元メディア/JFC検証など10本【今週のファクトチェック】

宮城県知事選(10月26日投開票)でも、誤情報や真偽不明の情報が拡散しました。その多くは現職の知事で再選された村井嘉浩氏を攻撃する内容でした。 本人が反対を表明していたメガソーラーを「大歓迎している」。撤回すると明言していた土葬可能な墓地の検討も「推進している」。こういった投稿がX、TikTok、YouTube、Instagramなど、複数のプラットフォームで引用を繰り返す形で広がっていきました。 日本ファクトチェックセンターでも、特に拡散していた情報を2つ検証し、「不正確」「根拠不明」と判定しました。新聞社やテレビ局なども、真偽不明情報の拡散を報じましたが、特に目立ったのは地元の河北新報の報道です。 ネット情報の真偽を調べる「かほQチェック」のコーナーで、選挙戦中盤の10月18〜19日に以下の3つの記事を公開しています。 宮城県知事選挙の期日前投票が開始3日間で前回の31倍 なぜ急増? 宮城県知事選挙で再び争点「水道みやぎ」導入の経緯って? 宮城県知事選挙で話題「土葬墓地」検討撤回の経緯って? いずれも「誤り」「不正確」などと判定を下す形ではなく、真偽不明の情報

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
TikTokで拡散するAI生成によるクマ被害の偽動画に注意【ファクトチェック】

TikTokで拡散するAI生成によるクマ被害の偽動画に注意【ファクトチェック】

日本のクマ被害が深刻化していることをうけ、熊による被害を映した動画がTikTokで多数拡散しています。しかし、その中にはAIで生成された現実のものではない映像が多数混じっています。 熊が人を襲う動画が多数拡散 2025年10月、TikTokで「クマが柴犬くわえ逃走 どう対策」という動画が拡散した。 TikTokには、ほかにも「熊vsアルファード」などクマによる被害を撮影したような動画が複数拡散している(例1、例2、例3)。 動画には「熊射殺すべき」「怖い」というコメントの一方で「いくらAIでもやっていいことと悪いことがある」という指摘もある。 クマ被害の増加 近年、日本各地で深刻なクマ被害が相次いでいる。2025年度、クマに襲われて死亡した人は2025年10月30日現在で全国で12人にのぼり、過去最多の被害となっている(時事通信.”相次ぐクマ被害、対応限界も 市街地出没急増で苦慮―自治体”、環境省”クマに関する各種情報・取組”)。 被害の拡大に伴って、ソーシャルメディアにクマ関連の動画をアップする人が増えている。 AI生成のウォーターマーク

By 木山竣策
米トランプ大統領「サナエをイジメた奴はアメリカを敵に回す」と野党に警告? まとめサイトによる誤り【ファクトチェック】

米トランプ大統領「サナエをイジメた奴はアメリカを敵に回す」と野党に警告? まとめサイトによる誤り【ファクトチェック】

米トランプ大統領が「サナエをイジメた奴はアメリカ合衆国を敵に回すという事だ」と日本の野党に警告したかのような投稿が拡散しましたが、誤りです。トランプ氏がそのような発言をしたという情報も報道もありません。 検証対象 拡散した言説 2025年10月28日、「トランプ大統領 日本の野党に警告『サナエをイジメた奴はアメリカ合衆国を敵に回すという事だ』」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 10月31日現在、この投稿は4900回以上リポストされ、表示は147万件を超える。 投稿には「これ本当ですか❓」等の指摘もあるが、「高市首相自体高支持率 更にトランプ大統領のバック 鬼に金棒」「素晴らしい👍正直トランプはジャイアンかよってずっと思ってたけど、弁えてたんだと見直した」など同調のコメントも多い。 検証過程 投稿はまとめサイトによるもの 参照記事に該当する記述なし 検証対象のリンクは、まとめサイト「Tweeter Breaking News —ツイッ速!」の記事だ。タイトルは掲示板サイト2ちゃんねるのスレッド「トランプ大統領 日本の野党に警告『サ

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
宮城県知事選、期日前投票数が前回の31倍なのに投票率が低いのは不正? 「衆院とのダブル選」という特殊事情【ファクトチェック】

宮城県知事選、期日前投票数が前回の31倍なのに投票率が低いのは不正? 「衆院とのダブル選」という特殊事情【ファクトチェック】

宮城県知事選について「期日前投票が前回の31倍だったのに、当日の投票率の低さは不自然」「不正選挙」などの言説が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。期日前投票の最初の3日間に投票した有権者数は前回の31倍でしたが、前回は投票日が衆院選と重なるダブル選挙でした。知事選は選挙期間が17日間、衆院選は12日間。「31倍」だったのは、知事選のみの投票期間である最初の3日間のデータで、今回とは比較条件が大きく異なります。期日前投票の総数は、前回の約1割増にとどまっており、不正選挙を示すデータとは言えません。 検証対象 拡散した言説 2025年10月26日から27日頃にかけて、26日投開票の宮城県知事選で、「期日前投票が前回の31倍だったのに、当日の投票率の低さは不自然ではないか」と、選挙で不正があったのではないかと示唆する趣旨の言説が拡散した(例1,2,3)。 検証する理由 選挙で不正があったのではという指摘は国政選挙のたびに拡散する。今回の宮城県知事選は異例の注目を集めたことで、不正選挙の指摘も出た。 検証過程 期日前投票最初の3日で「前回の31倍

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)