総理大臣が高市氏に代わるからトランプ政権が態度を変えた? 軽減措置など総裁選前から報道【ファクトチェック】

総理大臣が高市氏に代わるからトランプ政権が態度を変えた? 軽減措置など総裁選前から報道【ファクトチェック】

自民党総裁選で高市早苗氏が選ばれたことを受けて、米トランプ政権が関税の軽減措置を決めたという主張が拡散しましたが、誤りです。トランプ政権が軽減措置を検討していることは総裁選の前から報じられており、高市氏の選出とは無関係です。

検証対象

2025年10月5日、「あれだけ苦労した関税交渉。総理が高市早苗氏に代わるだけで軽減措置決定」「おまけにトランプ大統領自らが来日」という投稿がXで拡散した。

10月10日現在、投稿は1.3万回以上リポストされ、表示は718万件を超える。

投稿には「すごい👍すでに高市早苗効果が現れる✌️」などの反応の一方で、「最初にロイターが報じたのは日本時間早朝5:51です 総裁選の前です」などの指摘もある。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は時系列を確認した。下記の通りだ。

関税軽減措置は総裁選投開票前に報じられた

拡散した投稿は、毎日新聞が10月4日午後0時34分に配信した「トランプ政権、トヨタ・ホンダなどへの関税軽減措置を決定へ 米報道」という記事を引用している。

記事は、ロイター通信が10月3日に、トランプ米政権が米国で自動車を生産する大手企業に対し、更なる関税負担の軽減措置を近く決定する見通しだと報じたと伝えている。

自民党総裁選の投開票は10月4日で、午後2時半に始まった決選投票で小泉進次郎氏を破って高市氏が総裁に選ばれたのは、午後3時前。ロイター通信の報道よりも後だ。

つまり、「総理が高市早苗氏に代わるだけで軽減措置決定」というのは誤りだ。

関税軽減措置は日本以外にも

ロイター通信は、軽減措置の対象企業としてトヨタとホンダのほか、米自動車大手のフォードとゼネラル・モーターズ(GM)、電気自動車(EV)大手テスラを挙げている(ロイター通信”トランプ氏、国内自動車生産の関税相殺措置拡充を検討 共和党上院議員が示唆”2025年10月4日午前 5:51)。

日本企業だけでなく米企業も対象であることからも、日本の総裁選の結果とは無関係であると分かる。

トランプ氏の来日予定も総裁選前に報じられている

毎日新聞は9月26日配信の記事で、トランプ米大統領が10月に日本を訪問する方向で調整しているとロイター通信が報じたことを伝えている(毎日新聞”<1分で解説>トランプ米大統領が10月来日 会談する日本側要人は?”)。

朝日新聞は、10月2日の記事で「日米両政府が、トランプ大統領が今月27日に訪日する方向で調整していることがわかった」と伝えている(朝日新聞”トランプ米大統領、27日訪日へ 新首相の指名は15日で調整”)。

つまり、トランプ氏の来日は高市氏が自民党の新総裁に選出されたこととは無関係だ。

トランプ政権の動きと総裁選の時系列は

時系列を整理すると、下記の通りだ。

9月26日 毎日新聞がトランプ氏は10月の訪日を調整中と報道

10月2日 朝日新聞がトランプ氏は10月27日の訪日で調整中と報道

10月4日

  午前 5:51 ロイター通信が、トランプ米大統領がトヨタやホンダを含む自動車大手について国内の自動車生産に対する関税相殺措置の拡充と延長を検討していると配信(ロイター通信”トランプ氏、国内自動車生産の関税相殺措置拡充を検討 共和党上院議員が示唆”)。

 午後0:34(最終更新 10/4 21:02) 毎日新聞が記事「トランプ政権、トヨタ・ホンダなどへの関税軽減措置を決定へ 米報道」を配信

 午後3:00頃 自民党総裁選で、高市氏が新総裁に選出(自民党広報X 2025年10月4日午後2:58

 午後6:31 投稿主が「総理が高市早苗氏に代わるだけで軽減措置決定」と投稿

判定

「総理が高市早苗氏に代わるだけで軽減措置決定」「おまけにトランプ大統領自らが来日」という投稿が拡散した。しかし、軽減措置の検討も、トランプ氏の来日見込みも、自民党総裁選の前にメディアが報じている。高市氏が総裁に選出されるのとは無関係だ。よって、誤りと判定する。

あとがき

検証対象の投稿者は、誤っているという指摘にこう反論していました。

「『時系列がおかしい』『ニュースを見てないのか』とツッコミが入ってますが、トランプ大統領が高市総理になることを見越して予定を入れていた説をなぜ排除する。トランプ大統領なら小泉氏が総理になった場合、会談を取りやめることくらい容易にやるだろう」

総裁選は当初、小泉氏のリードが報じられるなど接戦でした。議員投票の1回目は4日午後から。それまでには軽減措置決定も来日予定も報じられていました。日本国内でも誰が勝つかわからないと言われていた段階から、トランプ大統領が高市氏の勝利を見越していたとは考えがたいでしょう。

また、検証対象となった投稿が最初から「高市氏の勝利を見越して、早い段階からトランプ大統領が動いていた可能性がある」という内容だったとしたら、JFCは検証対象としませんでした。それは推測であり、ファクトチェックの対象となる「事実の提示」ではないからです(JFC”JFCファクトチェック指針”)。

今回は「総理が高市早苗氏に代わるだけで軽減措置決定」と断定的に書かれており、それが事実であると受け止めた人たちも多かったことがリプライなどで確認できたことから検証対象としました。

出典・参考

毎日新聞.”トランプ政権、トヨタ・ホンダなどへの関税軽減措置を決定へ 米報道”.2025年10月4日.https://mainichi.jp/articles/20251004/k00/00m/030/063000c, (閲覧日2025年10月10日).

ロイター通信.”トランプ氏、国内自動車生産の関税相殺措置拡充を検討 共和党上院議員が示唆”2025年10月4日.https://jp.reuters.com/world/us/ZDKZYL4RNBJ5BPSAYCIUZXRHDM-2025-10-03/,(閲覧日2025年10月10日).

毎日新聞.”トランプ米大統領が10月、日本を訪問する方向で調整している”. 2025年9月26日.https://mainichi.jp/articles/20250926/k00/00m/030/092000c, (閲覧日2025年10月10日).

朝日新聞.”トランプ米大統領、27日訪日へ 新首相の指名は15日で調整”.2025年10月2日.https://digital.asahi.com/articles/ASTB23PH6TB2UTFK02WM.html, (閲覧日2025年10月10日).

自民党広報X 2025年10月4日午後2:58.https://x.com/jimin_koho/status/1974353518019661889,(閲覧日2025年10月10日).

検証:根津綾子
編集:藤森かもめ、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

Temuの倉庫が炎上したけど被害額7000円? 何度も拡散するAI画像【ファクトチェック】

Temuの倉庫が炎上したけど被害額7000円? 何度も拡散するAI画像【ファクトチェック】

中国発のECサイト「Temu」の倉庫が炎上したが被害額は7000円という投稿が拡散しましたが、事実ではありません。画像はAIで生成され、低価格をネタにした風刺として拡散しているものです。 検証対象 拡散した言説 2025年11月25日、「Temu倉庫が炎上したけど被害総額7000円らしい」という文言とともに倉庫のような建物が燃えている画像が拡散した。 画像には「TEMU」と書かれた建物が燃える様子が写っている。 検証する理由 11月27日現在、この投稿は4300件以上リポストされ、表示回数は1123万回を超える。投稿について「明らかにAIってわかって、かつgrokのロゴも書いてある」というコメントもある一方で、「倉庫燃えたか」「Is this real?」など、日本だけではなく外国からも注目を集めている。 検証過程 画像の文字は崩壊 画像を確認すると、燃えている建物に描かれている「TEMU」の文字のうち、オレンジ色 の文字が崩れて「TEHU」と読める。また、オレンジと白の四角いロゴのような看板も写っているが、模様が形をなしていない。 画

By 木山竣策
AIを活用し、監視する世界の調査報道/JFC検証など5本【今週のファクトチェック】

AIを活用し、監視する世界の調査報道/JFC検証など5本【今週のファクトチェック】

世界中から調査報道記者が集まるGlobal Investigative Journalist Canferenseがマレーシア・クアラルンプールで開かれています。5日間にわたって、様々な社会問題に関する、多種多様な取材手法や成果などを共有する調査報道の祭典。日本ファクトチェックセンターから筆者(古田)が参加しています。 特に目立つのはAIを活用した報道、逆にAIの問題点を指摘する取材です。AIを活用した調査や分析はすでに報道に欠かせなくなっています。同時に、世界で注目を集める「Empire of AI(AIの帝国)」の著者Karen Haoは、現在のAI開発が社会、経済、環境など地球規模の問題を引き起こしていることを鋭く指摘しました。 ファクトチェックの分野では、個々の偽・誤情報の検証にとどまらず、なぜ、どのように拡散しているのか、いわゆる影響工作に関する調査報道のセッションに大勢の記者が詰めかけました。 GIJC2025の内容については、帰国後に改めて記事を書く予定です。(古田大輔) ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
日本人の93.5%が台湾有事をめぐる高市首相の発言を「問題なし。野党や中国が悪い」と回答? 統計的な信頼性が低いデータ【ファクトチェック】

日本人の93.5%が台湾有事をめぐる高市首相の発言を「問題なし。野党や中国が悪い」と回答? 統計的な信頼性が低いデータ【ファクトチェック】

高市早苗首相の台湾有事に関する国会答弁に中国が反発している問題で、日本人の93.5%が、高市首相の発言を「問題なし」と考えているという投稿がXで拡散しましたが、ミスリードで不正確です。拡散した投稿が引用しているデータは、「産経ニュースの1コーナー」という週刊フジが、Xで実施したアンケート結果で、統計的に正確な調査とは言えません。同じ質問ではないですが、この話題に関する世論調査では、賛否が分かれています。 検証対象 拡散した言説 2025年11月19日、「【朗報】日本人の93.5%『高市発言は問題なし。野党や中国が悪い』」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 11月21日現在、投稿は2.2万回以上リポストされ、表示は392.2万件を超える。 投稿には「日本人の93%ってどこから?」「この数字でハッキリしました。この手のプロパガンダ世論調査はデタラメってね」という指摘もあるが「要するに高市やめろとか発言撤回しろとか言っている日本人の左翼は6.5%しかいないという事ですね」や「そりゃそうだ。ヤクザの要求飲み続けたら、終わりなくエスカレートする。それを

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
新型コロナワクチンは人類に対する犯罪? 米トランプ政権がその被害を認めた? 接種の推奨範囲を縮小【ファクトチェック】

新型コロナワクチンは人類に対する犯罪? 米トランプ政権がその被害を認めた? 接種の推奨範囲を縮小【ファクトチェック】

新型コロナウィルスについて、ワクチン接種が「人類に対する犯罪」で、米トランプ政権がその被害を認めたという趣旨の投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。米疾病対策センターが、2025年10月6日付でウェブサイトに「接種は個別判断に切り替えた」と掲載したことは事実ですが、米政府がワクチン被害を犯罪だと認めたわけではありません。またトランプ大統領は、10月に新型コロナウィルスワクチンの追加接種を受けています。 検証対象 拡散した言説 2025年11月7日、「コロナワクチン接種は、人類に対する犯罪。米国もトランプ政権がその被害を認めている」などという投稿がXで拡散した。 検証する理由 2025年11月17日現在、投稿は530回リポストされ、表示は30.8万件を超える。 投稿には「つい先日、トランプ大統領はファイザーを讃えて、自身もブースターを接種したばかりですよ」「デマはやめましょう」などの指摘もあるが、「あれだけの甚大な薬害が生じているにも関わらず、それを認めず、未だ接種を中止しないというのは、高市さんが所詮グローバリストだということを如実に表して

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は12月20日(土)午後2時~3時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1220.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)