ロシアの戦闘機が米軍機を追い払う映像?【ファクトチェック】

ロシアの戦闘機が米軍機を追い払う映像?【ファクトチェック】

「米空軍のSR-71ブラックバードを追い払うロシアのSu-27戦闘機2機」という動画が拡散しましたが誤りです。動画はゲームをもとに作成されたものです。

検証対象

2024年5月、「米空軍のSR-71ブラックバードを追い払うロシアのSu-27戦闘機2機」という動画が拡散した。動画には米空軍の偵察機SR-71にロシアの戦闘機2機が接近する様子が映っている。

拡散した言説はロシアの外務省情報局長を名乗る人物のアカウントがXに投稿し、現在は削除されている。その後、別のアカウントから同じ文言と動画を使った言説が投稿されている。

検証過程

拡散した言説にある戦闘機の名称「SR-71」と「Su-27」でGoogle検索すると、2024年5月7日に投稿されたYouTubeの動画がヒットする。Xで拡散した動画と同じものだ。

動画の概要欄には「Created with DCS」と明記されている。DCSとは、ロシア人が設立したソフトウェア会社「Eagle Dynamics」のDigital Combat Simulatorというフライトシミュレーションゲームの略称だ。拡散した動画はこのゲームを元に作られている。公式サイトには「このソフトウェアは娯楽のみを目的としています」とある。

米空軍博物館のウェブサイトによると、米空軍のSR-71、通称・ブラックバードは、高いところを飛んで地上を偵察するための軍用機。高度80,000フィートから、1時間に10万平方マイルの地表を調査することができた。米国内や沖縄・嘉手納基地で運用されていたが、1990年に退役した。

アメリカのファクトチェック団体「CHECKYOURFACT」もこの映像を検証して、誤りだという記事を出している。

判定

(動画)「米空軍機を追い払うロシアのSu-27戦闘機」は誤り。動画はシミュレーションゲームで作成されたもので、実際に撮影されたものではない。

あとがき

戦争や武力衝突をめぐって、過去の関係ない映像やゲームの動画などを利用した情報が拡散します。そうした映像の拡散は憎悪を煽ったり、分断を深めたりすることになりかねません。注意が必要です。

日本ファクトチェックセンター(JFC)では、イスラエルとハマスの武力衝突をめぐって拡散した、ゲーム映像を利用した動画の検証もしています。

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検証:木山竣策
編集:宮本聖二、野上英文、古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月18日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

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