イスラエル国防相、世界中のハマスを支援する者は全員死ぬべきだと発言?【ファクトチェック】

イスラエル国防相、世界中のハマスを支援する者は全員死ぬべきだと発言?【ファクトチェック】

イスラエル・パレスチナでの武力衝突に関連し、イスラエル国防相が「世界中のハマスを支援する者は全員死ぬべき」と発言したとする動画の付いた言説が拡散しましたが、誤りです。動画での発言を誤って翻訳したものです。

検証対象

2023年11月29日、X(旧Twitter)上でイスラエル国防相の発言とする動画つき投稿が拡散した。投稿は大臣が「世界中のすべてのパレスチナ・ハマスの支持者は、たとえ武器を持たず『スーツを着ている』人であっても全員死ぬべきだ」と語ったと指摘した。

動画ではイスラエルのガラント国防相の演説に英語通訳の音声が入っている。このポストは1100件以上リポストされ、表示回数は21万件を超える。

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検証過程

実際に動画内でイスラエルのヨアブ・ガラント国防相が「世界中のハマスを支援する者は全員死ぬべき」と発言しているかを確認した。

拡散した投稿は、海外で拡散した英語の投稿から動画を引用している。英語の投稿には「BREAKING: ISRAELI DEFENSE MINISTER SAYS ALL PEOPLE WHO SUPPORT HAMAS SHOULD ALL DIE(速報:イスラエル国防相、ハマス支持者は全員死ぬべきだと発言)」と書かれている。このテキストと動画を元に作成された投稿が日本で拡散した形だ。

しかし動画を確認すると、国防相の発言を通訳は以下のように英語に訳して話している。

For me, against Hamas is a comprehensive all-out war until a full victory and it includes all Hamas operatives from the very senior ones to the very lowest level ones.
For me, there is no difference between a terrorist with AK-47 and fatigues and a terrorist who wears a three-piece suit and travels elsewhere in the world. They should all die.

この発言を日本語に翻訳すると、国防相は「全員死ぬべきだ」という対象として「全てのハマス工作員」や「テロリスト」を挙げている。拡散した投稿にある「ハマスの支持者」とは言っていない。

また、動画の左側にある「i24」のロゴは、イスラエルの国際ニュースチャンネルのもの。英語で発信するXアカウントで、2023年11月19日、今回拡散した投稿と同じ演説の動画を投稿している。投稿は英語でガラント国防相の発言としてこう記している。

「私にとっては、AK-47(自動小銃)を手にした戦闘服を着たハマスのテロリストも、世界中を移動するスリーピースのスーツを着たテロリストも、違いはない。彼らは全員死ぬべきだ」

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判定

動画と引用元である「i24」の投稿に「全ての支援者」という発言は存在しない。実際は「全ての工作員、テロリスト」という発言であることから誤りと判定した。

検証:木山竣策
編集:宮本聖二、古田大輔​

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イスラエル・パレスチナ情勢をめぐり大量の誤情報/偽情報 検証方法を解説【ファクトチェックまとめ】
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JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

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