中国人観光客が金閣寺の金箔を剥がした? 金閣寺も警察も否定【ファクトチェック】

中国人観光客が金閣寺の金箔を剥がした? 金閣寺も警察も否定【ファクトチェック】

「中国人観光客が金閣寺の金箔を剥がし、警察官に連行された」との主張が拡散しましたが、誤りです。金閣寺と京都府警は日本ファクトチェックセンターの取材に対し、いずれも否定しています。

検証対象

2025年3月5日、「中国人観光客が金閣寺の金箔を剥がした結果!!!」という字幕から始まる動画が拡散した。

投稿は3月11日時点で1600件以上のリポストと74万件以上のインプレッションを獲得している。「昔アメリカにあった中国人排斥法を日本も制定すべき」「全く常識無い外国人観光客は 入国禁止で良い」などのコメントが付く一方で、フェイクと疑う声もある。

この「中国人観光客が金閣寺の金箔を剥がした」という内容の動画は、XだけでなくYouTubeやTikTokなど複数のプラットフォームで様々なバージョンのショート動画が繰り返し拡散している(例1例2)。

検証過程

投稿に添付された動画

検証対象の投稿につけられた動画は、1月6日にTikTokに投稿された57秒の動画と全く同じだ。

この動画は、人物や金閣寺の画像などを組み合わせて編集されている。字幕とナレーションで次のように説明している。

「一人の中国人観光客が、金閣寺が本当に金でできているのかを確かめようと立入禁止区域に入り、硬貨で金箔を剥がした。異変に気づいた別の観光客が警備員に伝え、警察に通報、連行された。その後、数百万円の賠償金が請求された」

金閣寺も警察も否定

日本ファクトチェックセンター(JFC)は金閣寺事務所と京都府警察本部、金閣寺周辺を管轄する京都府警北警察署に取材した。

金閣寺の事務所は「そのような事件はない。観光客は金閣の建物のすぐそばには行けず、立入禁止区域に入れば、センサーに加えて警備が見ているのですぐに警備員が駆けつける」と回答した。

京都府警は「報道発表した中にはそのような事案はない」と回答。管轄する北警察署も「『中国人観光客が金閣の金箔を削り取ろうとして傷をつけた』という内容での事件は北警察署として取り扱っていない」と回答した。

なお、金閣寺(鹿苑寺)の舎利殿(金閣)は、3階建てで金箔は2階以上に貼られており、1階部分に金箔はない(京都市「鹿苑寺」)。

判定

「中国人観光客が金閣の金箔を剥がし、警察官に連行された」という情報は誤り。金閣寺の事務所も京都府警もそのような事件の存在を否定している。

検証:リサーチチーム、宮本聖二
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

欧州首脳が米大統領に待たされている? AI生成の画像【ファクトチェック】

欧州首脳が米大統領に待たされている? AI生成の画像【ファクトチェック】

2025年8月18日に欧州首脳が、米ホワイトハウスで、トランプ大統領とウクライナ・ゼレンスキー大統領との会談に参加したことを受け、欧州首脳が大統領の執務室付近で待機しているかのような画像がXで拡散しましたが、実際の写真ではなく、AI生成によるものです。ウクライナ国家安全保障・偽情報対策センターは「ロシアのプロパガンダだ」と注意を呼び掛けています。 検証対象 8月19日、「今年のベストショット!」という英語が添えられた画像がXで拡散した。 投稿は8月20日現在、2600回以上リポストされ、表示は75.6万件を超える。投稿には英語で「まるで校長室の前で待っているよう」や「余計な脚があるからフェイク」などの指摘もある。 同じ画像はフランス語、ドイツ語、日本語など、複数の言語で拡散した(例1、2、3)。 検証過程 AI生成画像に見られる特徴 拡散した画像にはAI特有の特徴が複数みられる。 一番手前の仏マクロン大統領に見える男性と、緑の服のEUフォンデアライエン委員長に見える女性の間に、黒いパンツと黒い靴の脚だけが写っている。上半身は写っていない。 会

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
国民民主党は誰も靖国参拝しなかった? まとめサイトによる誤り【ファクトチェック】

国民民主党は誰も靖国参拝しなかった? まとめサイトによる誤り【ファクトチェック】

東京・九段北の靖国神社参拝をめぐって、国民民主党は一人も参拝していないかのような情報が拡散しましたが、誤りです。「靖国参拝、0人です」はまとめサイトのスレッドタイトルで、実際には、少なくとも国民民主党の衆議院議員3人が8月15日に、1人はその前日に参拝したことを自身のXアカウントで報告しています。 検証対象 8月17日、Xで「【超絶悲報】国民民主党『靖国参拝、0人です😁』保守『国民民主党はやはり左翼だったのか』」という投稿があった。 投稿は8月20日時点で6100回以上リポストされ、表示は108万回を超える。 投稿には「国民民主を保守と思う方がちょっと…」「玉木は連合のパシリですから」や「いや、前日に、愛知の丹野みどりさんが、参拝してるぞ!」「ちなみに嘘です」などの指摘もある。 検証過程 投稿はまとめサイト 検証対象のリンクはまとめサイト「Tweeter Breaking News-ツイッ速!」の記事だ。タイトルは掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「【超絶悲報】国民民主党『靖国参拝、0人です😁』保守『国民民主党はやはり左翼だったのか』」で、Y

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
日航123便墜落事故で機長が「被弾したぞ」と発言? 記録も音声も根拠もなし【ファクトチェック】

日航123便墜落事故で機長が「被弾したぞ」と発言? 記録も音声も根拠もなし【ファクトチェック】

1985年に起きた日本航空123便墜落事故について、「完全版ボイスレコーダー」と称する動画がXやYouTubeで拡散しています。機長が「2機の戦闘機が追い抜いていったぞ!」「被弾したぞ」「本当に撃ちやがった」などと発言したと主張していますが、根拠不明です。国の航空事故調査委員会がまとめ、全文を公開している事故報告書にそのような発言はなく、拡散した音声でも聞き取れません。根拠なく赤字のテロップが追加されているだけです。 検証対象 2025年8月13日、「凄いです、コレ。このVer. は初めて見ました。知らぬ間にここまでボイスレコーダー暴いていたのか」という投稿が拡散した。 8月18日現在、この投稿は2500件以上リポストされ、表示回数は601万回を超える。投稿について「やっと暴かれた」「国は絶対に真実を明らかにしなくてはならない」というコメントの一方で「無音部分に赤字で妄想書いただけ」という指摘もある。 投稿は「【40年追悼】封印された言葉を解き放つ─40年目の真実【日本航空123便御巣鷹山墜落事件】」というYouTube動画を添付している。8月18日現在、

By 木山竣策
被害が拡大するオンライン詐欺、対策はファクトチェックと共通/JFC検証8本、動画など【今週のファクトチェック】

被害が拡大するオンライン詐欺、対策はファクトチェックと共通/JFC検証8本、動画など【今週のファクトチェック】

「ファクトチェック」とは印象が異なるかもしれませんが、オンライン詐欺の問題にも世界の多くのファクトチェック機関が取り組んでいます。 著名人を騙るアカウントを使い、架空の投資話などで資金を振り込ませる。世界中で被害が広がっている手口です。偽アカウントの見分け方、オンラインで見の安全を守るメディア情報リテラシーなど、対策はファクトチェックと共通します。 日本ファクトチェックセンター(JFC)でも、たびたび具体的な事例を挙げて注意を呼びかけていますが、被害額は増える一方です。 法的な取り締まりも必要ですが、まずは身を守るために自衛策を学び、家族や知人にも注意を呼びかけましょう。(古田大輔) ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのお知らせ JFCファクトチェック講師養成講座はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は9月20日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0920.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどの

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)