WHO事務局長「ハンタウイルスで死者が出たのはアルゼンチンがWHOを脱退したから」と発言? そのような発言はない【ファクトチェック】

WHO事務局長「ハンタウイルスで死者が出たのはアルゼンチンがWHOを脱退したから」と発言? そのような発言はない【ファクトチェック】

クルーズ船でハンタウイルスの集団感染が疑われている問題で、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長が「アルゼンチンから出航した船でハンタウィルス感染症が起きたのは、アルゼンチンがWHOを脱退したから」と発言したかのような投稿が拡散しましたが、誤りです。テドロス氏は記者会見で「ウィルス対策には世界的な連帯が必要」という趣旨の発言をしていますが、拡散した投稿のような発言はしていません。

検証対象

拡散した言説

2026年5月10日、「【全てシナリオ通り】2026年3月、アルゼンチンは正式にWHOから脱退。その2ヶ月後にアルゼンチンから出航した船がハンタウイルスに感染し3人が死亡した。そしてWHOの事務局長が『WHOから脱退したから』と声明を出すカオス」という文章が付いた動画がXで拡散した。

検証する理由

5月11日現在、投稿は3300回以上リポストされ、表示は43.6万件を超える。

投稿には「なんて馬鹿げた話だ。船はオランダのものだ」などの指摘もあるが、「まじでシナリオ通りすぎて逆に怖い」「タイミング良すぎて完全に怪しいわ。WHOの圧力丸出し」など真に受けた反応も多いため検証する。

検証過程

クルーズ船でのハンタウイルス感染の疑い

WHOは2026年5月4日、大西洋を航行中のクルーズ船で、ネズミなどのげっ歯類が媒介する「ハンタウイルス」への感染が疑われる事例が相次ぎ、乗客3人が死亡したと発表した。

クルーズ船はオランダ船籍で、4月1日に南米アルゼンチンを出港し、南大西洋を横断していた(以上、読売新聞”クルーズ船で「ハンタウイルス」集団感染か、3人死亡…乗客150人の中に日本人1人”2026年5月5日、朝日新聞”大西洋のクルーズ船で3人死亡、ハンタウイルス感染か 日本人も乗船”2026年5月5日)。

拡散した投稿は

拡散した投稿には1分8秒の動画が添付されている。テドロス事務局長が会見しているもので、以下のような内容だ。

(以下、動画から引用)
健康安全保障には「普遍性」が必要です。いかなる空白も、対策が及んでいないいかなる場所も、ウイルスを利することになります。そして、私たちが持つ最高の免疫とは「連帯」です。

現在起きている事態によって、アルゼンチンとアメリカの双方が影響を受けています。それゆえ、彼らは自らの決定を再考するだろうと私は考えています。健康安全保障において、普遍性がいかに重要であるかを理解できるからです。

なぜなら、ウイルスは私たちの政治など気にしないからです。国境も気にしません。いかなる「言い訳」も、ウイルスには通用しないのです。ですから、これが全世界にとって良い教訓となることを願っています。繰り返しますが、連帯こそが私たちの最高の免疫なのです。
(引用、ここまで)

つまり、「ウィルスとの戦いには世界的な連帯が必要だ」という内容で、拡散した投稿に書かれている「(感染は)WHOから脱退したから」のような発言はない。

会見の詳細は

拡散した動画に関して「WHO hantavirus Tedros」などと検索すると、WHOが5月7日に開いたハンタウイルス集団感染に関する記者会見のYouTube動画が見つかる。内容を確認すると、拡散した動画はこの会見動画の一部を切り抜いたものとわかる(WHO”LIVE | Media briefing on #hantavirus hosted by Dr Tedros”2026年5月7日)。

YouTube動画で前後を確認すると、テドロス氏の発言は、会見に参加した記者の質問に対する回答であることが分かる。記者の質問は次の通りだ。

「このアウトブレイクは、米国がもはや自国をWHOの一員とはみなしていない時期に起きています。その船には米国人の乗客が乗っていますし、すでに下船した人々の中にも米国人がいたはずです。このような状況において、WHOと米国の間のやり取りはどのようなものなのでしょうか?他の国々との関係と同じようなものなのか、それとも米国がWHOを脱退した結果として、情報の流れが少なくなっているのでしょうか?」

米国は2026年1月、アルゼンチンは2026年3月にWHO脱退を完了していた(時事通信”米、WHO脱退手続き完了 感染症対策で大きな転機”2026年1月23日、TBS News Dig”アルゼンチン WHO脱退を発表 アメリカに追随した格好 コロナ対策が不十分だったことを理由に”2026年3月18日)。

つまり、テドロス氏の「彼らは自らの決定を再考するだろう」という発言は、「米国とアルゼンチンはWHOを脱退したことについて再考するだろう」という意味だ。

拡散した投稿が主張する「アルゼンチンがWHOを脱退したから今回の感染が起きた」という趣旨の発言はない。そのような発言をしたという発表や報道もない。

判定

クルーズ船でハンタウイルスの感染が相次いでいる問題をめぐり、WHOのテドロス氏が「アルゼンチンがWHOを脱退したから」と発言したかのような投稿が拡散した。テドロス氏は「ウィルス対策には世界的な連帯が必要」などと述べているが、拡散した投稿のような発言はしていない。よって、誤りと判定する。

あとがき

ハンタウイルスは世界中で話題となり、すでに多数の偽・誤情報が流れています。健康・医療・ライフサイエンス分野に特化した米国メディアの記事「I'm fighting misinformation online. False hantavirus claims follow a now-familiar playbook(オンラインで誤情報と闘う:ハンタウイルスをめぐる虚偽の主張は見慣れたパターンを辿る)」は、ハンタウイルスに関する偽・誤情報が、新型コロナウイルスのときに拡散したものに似ていると指摘しています。

偽・誤情報は新型コロナのときにも拡散しました。まだ詳しく状況がわからないうちに根拠のない主張をするものもあれば、科学的に間違えている主張もあります。

偽・誤情報は、あっという間に大量に拡散するため、一つずつファクトチェックしても間に合いません。事前に「情報のワクチン」を接種しておくと、自分自身が偽・誤情報を拡散させるリスクを減らせます(JFC”話題の書『フェイクニュースの免疫学』から学ぶ情報のワクチンの重要性 ファクトチェックだけではなぜ足りないのか”)。

出典・参考

WHO.”LIVE | Media briefing on #hantavirus hosted by Dr Tedros”2026年5月7日.https://www.youtube.com/live/ksOTrl0zM5A?si=hOdcFjEB_G9Hbi6u,(閲覧日2026年5月11日).

時事通信.”米、WHO脱退手続き完了 感染症対策で大きな転機”.2026年1月23日.https://www.jiji.com/jc/article?k=2026012300531&g=int,(閲覧日2026年5月11日).

TBS News Dig.”アルゼンチン WHO脱退を発表 アメリカに追随した格好 コロナ対策が不十分だったことを理由に”.2026年3月18日.https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2539058,(閲覧日2026年5月11日).

検証:根津綾子
編集:藤森かもめ、古田大輔


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