習近平国家主席が脳卒中で倒れた? 椅子から転げ落ちたという画像が拡散【ファクトチェック】

習近平国家主席が脳卒中で倒れた? 椅子から転げ落ちたという画像が拡散【ファクトチェック】

中国の習近平国家主席が「中国共産党の会議で椅子から転げ落ちた。脳卒中だ」などという言説が画像とともに拡散しましたが、根拠不明です。拡散した画像は2024年3月の全国人民代表大会のもので、その後も公務の様子がたびたび報じられています。2024年7月25日時点で習主席が重篤な状態だという信頼性のある情報はありません。

検証対象

2024年7月18日、「中国共産党の全体会議の写真に、習近平が突然、痛みに震えて椅子から転げ落ちる様子が写っている。 おそらく脳卒中だったのだろう」「衰弱の発作だったのかもしれない」という投稿が拡散した。

添付された画像にはドイツ語で、「習近平は脳卒中を患ったのか?」という題名の後に、「中国共産党本会議の写真には、習近平氏が突然痛みでけいれんし、椅子から転げ落ちる様子が映っている。おそらく脳卒中を起こしたのだろう」などと書かれている。3枚の画像には顔をしかめる習主席や、習主席の机を確認する女性が写っている。

2024年7月25日時点で1800件以上リポストされ、表示回数は117万回を超える。投稿について「どくさつ」「おそらく脳卒中」などといったコメントがつく一方で、「画像は過去のもの」という指摘もある。

検証過程

添付画像の出典はドイツのサイト

拡散した画像に書かれている「Hatte Xi Jinping einen Schlaganfall?」でGoogle検索すると、「DIE FREIE WELT(自由な世界)」というサイトの記事が見つかる。

「DIE FREIE WELT」は「市民社会のためのインターネット・ブログサイト」と自称するドイツのサイト。記事は英語の記事やYouTube動画を引用して、「習主席が中国共産党本会議の最中に脳卒中で倒れたと中国で噂になっている」と主張している。

習主席の写真

添付画像のうち、顔をしかめる習主席の画像をGoogle画像検索で調べると、2024年3月11日に英メディア「デイリーメール」が公開した記事の画像が見つかる。

記事には「机を横切ってカップに手を伸ばした後、一口飲もうとした習近平は、思いがけない表情を浮かべた。まるで飲み物が冷めるのを待たずに一口飲んでしまったかのように顔がこわばった」と書かれている。

つまり、画像は2024年3月の全人代で撮影されたもので、7月の会議で撮影されたものではない。

女性たちの画像

写真素材、動画素材などを配信しているウェブサイト「Aflo」で「Xi Jinping」と検索すると、2024年3月11日に撮影された「习近平(習近平)」と名札のある机をのぞき込んでいる女性たちの画像が見つかる。拡散した画像と同じものだ。

習主席の画像と同じく、7月の会議で撮影されたものではない。

全人代以降の習主席の動向

習主席は脳卒中で倒れた根拠とされるこの写真が撮影された全人代の3月11日以降にも公務についている様子が報じられている。

例えば、3月27日には北京の人民大会堂でアメリカから来た投資会社や半導体メーカーのトップと会談している(NHK)。また、5月には北京を訪れたプーチン大統領と会談している(BBC)。

海外でのファクトチェック

顔をしかめる習主席の画像を根拠に「習主席が全人代で脳卒中を起こした」と主張する言説は英語や中国語でも拡散し、複数メディアが既にファクトチェックしている(ロイターLead Stories)。

どちらの記事も、顔をしかめる習主席の画像はAP通信が報道向けにストックフォトとして公開しているものだと指摘。ロイターは「キャプションの誤り(Miscaptioned)」と判定し、「7月18日現在、信頼性のある情報源が確認できない」としている。米国のファクトチェック組織「Lead Stories」は「古い画像(Old Photo)」と判定している。

判定

脳卒中の根拠とされた写真は3月の全人代で撮影されたもので、その後も公務についていることが報じられている。このファクトチェック記事執筆時点で習主席が脳卒中で倒れたという信頼に足る情報はなく、根拠不明と判定する。

検証:木山竣策、リサーチチーム
編集:藤森かもめ、宮本聖二、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

在留外国人の検挙割合は日本人の約2倍? 元資料の注釈を省略【ファクトチェック】

在留外国人の検挙割合は日本人の約2倍? 元資料の注釈を省略【ファクトチェック】

参政党の神谷宗幣代表が「在留外国人の検挙割合は日本人の約2倍だ」とする画像をXに投稿して拡散しましたが、ミスリードで不正確です。画像は警察庁の資料をもとにしていますが、警察庁は日本ファクトチェックセンター(JFC)の取材に「外国人と日本人を正確に比較できる統計の特定は困難」と説明しています。警察庁は神谷氏から求めがあったため、注釈付きで「統計を便宜的に分母・分子に当てはめて算出した数値を提供した」と話しています。拡散した画像は、そういった注釈を省き、単純に比較できないデータを並べています。 検証対象 拡散した言説 2025年9月20日、神谷氏が「大量の移民の受け入れは治安の維持にも影響します。警察や入管の体制ももっと強化せねば、今のやり方は必ず問題を大きくします」という文言とともに、「外国人の検挙割合は、日本人の約2倍」と書かれた画像を投稿した。 検証する理由 政党代表の投稿であり、2025年10月16日現在、この投稿は1.2万回以上リポストされ、表示回数は238万回を超える。投稿について「ほんとこれ」「移民はいったんストップして欲しい」というコメン

By 木山竣策
自民・高市早苗総裁の支持率が80%? 「女性首相誕生」に関する設問【ファクトチェック】

自民・高市早苗総裁の支持率が80%? 「女性首相誕生」に関する設問【ファクトチェック】

自民・高市早苗総裁の支持率が80%であるかのような投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。10月4-6日の共同通信による世論調査で、高市氏が首相に就けば史上初となる女性首相の誕生は「望ましい」が「どちらかといえば」を合わせて86.5%でしたが、これは「女性首相の誕生」に関する設問です。公明党連立離脱後の10日に実施された各社の世論調査は、高市氏が首相になった場合の支持率が40-50%ほどでした。 検証対象 拡散した言説 2025年10月14日、「【報道しない自由】高市さん支持率、脅威の80%」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 10月16日現在、投稿は1.5万回以上リポストされ、表示は379.6万件を超える。 投稿には「ないない・80もあったら議員会館に引きこもりはしません」「私も高市さん支持してるけど、この数字の妥当性は低そう」などの指摘の一方で、「メディアが叩けば叩くほど、国民は高市さんが国民側の人間だという事の証明となる」「民意が反映されない おかしい日本」など同調するコメントが多数ある。 検証過程 投稿はまとめサイトによ

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
岸田前首相が国民・玉木代表を「首相候補の一人」と発言? 5か月前で別の文脈【ファクトチェック】

岸田前首相が国民・玉木代表を「首相候補の一人」と発言? 5か月前で別の文脈【ファクトチェック】

岸田文雄前首相が国民民主党・玉木雄一郎代表を「首相候補の一人」と発言したかのような投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。岸田氏は確かにそのような発言をしていますが、2025年5月のことで、首班指名を間近に控えた2025年10月現在の発言とは文脈が異なります。 検証対象 拡散した言説 2025年10月13日、「【悲報】岸田文雄!何故か!玉木雄一郎を首相候補の一人だと言い出してしまう!」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 10月16日現在、投稿は1万回以上リポストされ、表示は322.4万件を超える。 投稿には「5月の話です意味合いが異なると思います」などの指摘の一方、「こういう内なる癌を自民党はいかにして自浄するか」「国民を苦しめた親中売国奴」など同調するコメントが多数ある。 検証過程 岸田前首相が発言したのは5月 岸田氏が2025年5月9日のTBSのCS番組で、国民民主党の玉木雄一郎代表について「いろいろな世論を聞くたびに、首相候補の一人だと思う」と語ったことを複数のメディアが伝えている(日経新聞2025年5月9日、毎日新聞2

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
国際法廷がコロナワクチンを大量破壊兵器と認定? 認定したのは「国際先住民族同盟」の法廷【ファクトチェック】

国際法廷がコロナワクチンを大量破壊兵器と認定? 認定したのは「国際先住民族同盟」の法廷【ファクトチェック】

新型コロナワクチンを国際的な法廷が大量破壊兵器と認定したかのような投稿が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。新型コロナワクチンを大量破壊兵器と認定したのはカナダなどで活動する「国際先住民族同盟の国際法廷」で、国際司法裁判所や国際刑事裁判所とはまったく別の組織です。 検証対象 拡散した言説 2025年10月11日、「国際法廷、コロナワクチンを国際法の下で『大量破壊兵器』と認定」という記事のスクリーンショットがXで拡散した。 検証する理由 10月16日現在、投稿は6100件以上リポストされ、表示は76.8万件を超える。 投稿には「信じる前に、自分でファクトチェックする習慣を」などの指摘の一方で、「安全性十分に確認できない状態で使ったらそういう判断下されるわな。日本ではいつ取りやめになるんだろう」「反ワクの私をクビにした社長に見せたいくらいだ」など、同調するコメントが多数ある。 検証過程 投稿は信頼度の低い「Slay News」の記事を引用 拡散した投稿の添付画像に「slaynews.com」という文字がある。slaynews.comのサイ

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)