関東大震災、朝鮮人6000人虐殺は『100%嘘』? NHK朝ドラ「虎に翼」をきっかけに拡散【ファクトチェック】

関東大震災、朝鮮人6000人虐殺は『100%嘘』? NHK朝ドラ「虎に翼」をきっかけに拡散【ファクトチェック】

1923年に発生した関東大震災で発生した朝鮮人虐殺に関して「6000人虐殺は『100%嘘』で確定」という言説が拡散しましたが、根拠不明です。犠牲者数の調査は複数あり、朝鮮人死者数を6000人以上とするものもあります。内閣府の公表資料は、朝鮮人虐殺の犠牲者は最低でも1000人だと説明しています。

検証対象

2024年7月30日、「朝鮮人6000人虐殺は「100%嘘」で確定してる。/嘘がバレたからって/「6000人じゃないけど!一人でも虐殺!」/じゃねぇんだわ」などの投稿が拡散した。この投稿は、8月7日までに214.2万回の閲覧回数と4100件以上のリポストを獲得している。

検証過程

朝ドラ「虎に翼」で関東大震災後の朝鮮人虐殺に言及

現在放送中のNHK朝の連続テレビ小説「虎に翼」で、関東大震災での朝鮮人虐殺に言及する場面があった。7月30日放送第87話の一場面だ(NHK)。

主人公の佐田寅子(演:伊藤沙莉)とともに放火事件を審理する裁判長の星航一(演:岡田将生)が関東大震災での朝鮮人をめぐる流言飛語や朝鮮人虐殺に言及した。

星の発言は、事件の審理に参加する裁判官の入倉始(演:岡部ひろき)が放火事件の被告である金顕洙(演:許秀哲)に疑念の目を向けながら「火のないところに煙は立たずですよ」と発言したことを受けてのものだった。

関東大震災後の朝鮮人虐殺

関東大震災は1923年9月1日 に発生した巨大地震。東京府(当時)を含む関東地方は最大震度7の地震に襲われ、死者10万5000人超、家屋全半壊21万1000棟以上、地震関連の家屋焼失21万2000棟以上を記録した(内閣府・専門調査会報告書 災害概略シート)

地震発生後に「朝鮮人が暴動を起こす」「井戸に毒を入れる」といった流言飛語が拡散し、自警団や警察などによる朝鮮人の虐殺が発生した。

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、過去に関東大震災と震災後の朝鮮人虐殺をめぐる偽情報を検証している(関東大震災をめぐる「朝鮮人が暴動を起こした」「虐殺はなかった」などの言説を検証 【ファクトチェックまとめ】)。

犠牲者数の調査は複数存在

震災による混乱や記録の消失などのため、朝鮮人虐殺の犠牲者数は調査によって異なる。

内閣府が2009年3月に公表した「災害教訓の継承に関する専門調査会報告書」(以下、専門調査会報告書)」は、「殺傷事件による犠牲者の正確な数は掴めないが、震災による全死者数の1〜数%」と説明する(第4章「混乱による被害の拡大」)。震災の死者数が10万5000人超であることを踏まえると、虐殺の被害者数は最低でも約1000人にのぼることになる。

司法省や旧日本軍の記録(専門調査会報告書・第4章「混乱による被害の拡大」)によると、震災から3か月経った1923年11月30日時点での殺傷事件による死者は日本人、朝鮮人、中国人合計で約578人。また、朝鮮総督府による調査では、朝鮮人の死者・行方不明者を832人としている(1924年12月朝鮮総督府警務局、「関東地方震災の朝鮮ニ及ホシタル影響」)。

他方、在日留学生を中心に組織された「在日本関東地方罹災朝鮮同胞慰問班」の調査では、朝鮮人死者数は6661人。朝鮮の民間新聞「独立新聞」は1923年12月5日付の記事で、死者のうち3240人は「屍体さえも探せなかった同胞」と報じた。

この調査では官憲の協力が得られなかったといい(専門調査会報告書「コラム8 殺傷事件の検証」)、警察によって遺体の隠匿や火葬がなされたために多数の遺体が行方不明になったという(「報知新聞」1923年10月14日夕刊)。

専門調査会報告書では、旧日本軍や警察関係者が関与した震災後の朝鮮人殺傷事例が確認できる(「関東戒厳司令部詳報」の「震災警備ノ為兵器ヲ使用セル事件調査表(東京都公文書館所蔵)」)。

この資料は、旧日本軍による朝鮮人の殺害例が11件53人であると記している。ただし、この殺害件数は旧日本軍が関与したものに限られる。

判定

関東大震災後に発生した朝鮮人虐殺の犠牲者数は、調査によってその数が数百人単位から6000人余りの幅があり、確定的な数は不明瞭だ。ただし、6000人余りの調査を否定する資料もない。したがって、「朝鮮人6000人虐殺は『100%嘘』で確定」したという言説は根拠不明と判定する。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔、宮本聖二


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

「フランス入国の際の優先レーンから日本が外されたようだ」という情報が拡散しましたが、誤りです。2025年4月30日現在、日本は優先レーンの対象国です。 検証対象 2025年4月19日、埼玉県戸田市議・河合ゆうすけ氏が「フランスに入国する際、イミグレーションの優先レーンから日本が外されたようだ。日本のパスポートを持った中国人(帰化した人)が増えたからではないかと言われている」などと主張する投稿がXで拡散した。投稿には、フランス・パリの空港と思われる画像が添付されている。 投稿は4月30日現在、3700回以上リポストされ、表示回数は112万を超える。投稿には「治安だけは良かったのにその治安もパァ」「自公政権のお陰ですね」などのコメントのほか、「根拠がない」というコミュニティーノートの指摘もある。 検証対象の投稿が拡散するひと月ほど前にも、同様の投稿があった(2025年3月19日)。「フランスに入国しようとしたら優先自動ゲートが開かず、担当者に文句を言ったら『日本だけ撤廃した。向こうの中国人の列に並んで』と言われた」などという内容で「虚偽のポストの疑い」というコ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
超高齢者の社会保障不正、戸籍制度がある日本ではあり得ない? 問題は日本でも【ファクトチェック】

超高齢者の社会保障不正、戸籍制度がある日本ではあり得ない? 問題は日本でも【ファクトチェック】

「トランプ政権が社会福祉コストを精査したら、記録上で200歳以上が数万人もいた。戸籍制度が完備してる日本ではあり得ない」などという言説がXで拡散しましたが、不正確です。トランプ氏が演説でふれた200超歳の高齢者の記録は1041人分。また、亡くなった人が戸籍上生存したままになっている「高齢者所在不明問題」は日本でも起きています。 検証対象 2025年4月24日、「トランプ政権でDOGEが社会福祉コストの精査を行ったら、記録上で200歳以上が数万人もいたという話は、戸籍制度が完備してる日本ではあり得ないこと」という投稿がXで拡散した。 投稿は2025年4月28日現在、1万回以上リポストされ、表示は308万件を超える。投稿には「母が亡くなった時戸籍を取り寄せたら、江戸時代末期まで遡った記録が送られてきて驚いた」「ほんと、そう。無くすべきではない」などのコメントのほか、「日本でも何年か前にそういう事ありましたよ」という指摘もある。 検証過程 トランプ氏「220~229歳が1039人」 第2次トランプ政権は、財政赤字の削減を目指し、社会保障費の削減に取り組ん

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
文京区の中学校はクラスの半分が中国人? 外国籍の生徒割合は約4%【ファクトチェック】

文京区の中学校はクラスの半分が中国人? 外国籍の生徒割合は約4%【ファクトチェック】

東京都文京区では中学校のクラスの半分が中国人だという情報が拡散していますが、誤りです。文京区教育委員会によると、文京区立中学校の外国籍生徒の割合は約4%です。 検証対象 2025年4月19日、「文京区では中学校のクラスの半分が中国人」という投稿が拡散した。 この投稿は1万件以上リポストされ、表示回数は124万回を超える。投稿について「都内は恐ろしい状況なんだ」「マジでやばいでしょ」というコメントの一方で「どこの中学校の話をされてるんですか?」という指摘もある。 検証過程 東京都文京区の人口は2025年4月1日現在、23万5380人(前月比298人増)。そのうち中国人を含む外国人全体の人口は1万5821人(前月比17人減)で6.7%だ(文京区「人口統計資料」)。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、文京区教育委員会学務課に取材した。 文京区内に10ある区立中学校の外国籍の生徒について、学務課学事係は「国別の人数は把握しておりません。外国籍生徒の総数は104人で、これは全生徒2,341人の約4%です(令和6年5月1日現在)。そのため、特定の国籍の

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
維新の会が大阪万博跡地の使用権を中国に売った? 跡地の開発事業者は未定【ファクトチェック】

維新の会が大阪万博跡地の使用権を中国に売った? 跡地の開発事業者は未定【ファクトチェック】

元プロレスラーの前田日明氏が「維新の会が大阪万博の跡地の使用権を中国に売った」と話す動画が拡散しましたが、誤りです。万博終了後の跡地利用の開発事業者はまだ決まっておらず、現在提案のある企業は「中国ではない」と吉村洋文大阪府知事が否定しています。前田氏のチャンネルの動画は削除されましたが、切り出し動画の拡散が続いています。 検証対象 2025年3月、元プロレスラーの前田日明氏が「維新の会が大阪万博の跡地の使用権を中国に売った」と語る動画が拡散した(例1、例2、例3)。 これらの動画は、前田氏が自身のYouTubeチャンネルで公開した動画から切り出したものだ。元動画は2025年4月24日現在、削除されている。 前田氏が「大阪の維新の党が中国に万博の跡地の使用権を今後60年間売ってお金にした」などと語る部分が切り出されたショート動画は、YouTubeだけでなくTikTokやXなどで拡散を続けている。 検証過程 現在は削除されている前田氏の元動画は3月23日に投稿され、タイトルは「万博の跡地は中国のものになる」だった。以下のように語っていた。 「ある仕事で

By 宮本聖二

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)