(動画)アイヌの踊りが1919年に撮影された?【ファクトチェック】

(動画)アイヌの踊りが1919年に撮影された?【ファクトチェック】

「1919年に撮影された本物のアイヌの踊り」というカラーの動画が拡散し、本物の映像かどうかを疑う声がありましたが、ほぼ正確です。「オーストラリア国立フィルム&サウンド・アーカイブ」に保管されている映像の一部で、オリジナル版は白黒です。

検証対象

「1919年に撮影された 本物のアイヌの踊り」という文章と共に、人々が踊る動画が拡散した。投稿は2023年10月26日時点で160万回以上表示され、3300リポストを超えている。

画像

コメント欄には「アイヌ館で演じられる踊りはこんな感じ。」や「さすが本物👍」という意見の一方で、「カラー!?」などの反応もある。

リプライや引用ポストなどをたどると、「この踊りすらやらせと聞いた事がある🤔」「本物なのかな?」など、動画の真偽を疑う声もある(例1例2)。

検証過程

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、この動画が「1919年に撮影されたアイヌの踊り」かどうかを検証した。

動画の一部のスクリーンショットでGoogle画像検索をすると、「1919年に撮影された楽しそうにノリノリで踊るアイヌの人々」として検証対象と同じ動画を載せているポストが見つかる。

画像
画像

ポストにあるYouTubeのリンクをみると、「カラー化映像でよみがえる1919年の日本の生活」と題した動画が見つかる。

この動画を投稿した匿名アカウントは「このチャンネルでは昔の白黒フィルムをAIで自動的にカラー化した動画をアップしています」と説明している。元の動画は「A Trip through Japan with the YWCA」だとも書いている。

「A Trip through Japan with the YWCA」はアメリカのNational Film Preservation Foundation(NFPF)のウェブサイトで公開されている。YouTubeのリンクにある9分45秒の動画はカラーであることを除くと、この動画と全く同じだった。

検証対象の踊りの動画は4分42秒以降で、「The ceremonial dance. “take your partners”...」という字幕が入る。車座に座っている10人ほどが立ち上がり、輪になりながら、手拍子やジャンプ、立った状態での前屈と後屈を繰り返す50秒ほどの白黒動画だ。

画像

次に、この踊りを含む動画が、アイヌの人々の映像かどうかを検証した。

「A Trip through Japan with the YWCA」の4分頃には、「アイヌは日本の北方先住民だ。彼らは白人と近縁である(The Anus are the aboriginal people of north Japan. They are related to the white race.)」という字幕が出る。

映像には、村の外観や車座になった人々が手を叩く姿、検証対象の人々が輪になって踊る様子などが映っている。4分17秒には「年に一度の熊祭りを祝うアイヌ」という字幕が入り、5分55秒ごろから熊の首に紐を付けて、人々の前を歩かせる場面が始まる。「人の手で3年間育てられた若いクマは、宴会や踊りの最中に何度も引き回される」という字幕も入る。

画像
字幕に「人の手で育てられた子熊を歩かせる」と書かれている(「A Trip through Japan with the YWCA」より)
画像
字幕には「The three wise men…(三人の賢人・長老)」と書かれている(「A Trip through Japan with the YWCA」より)
画像
字幕で「結婚した女性は口に入れ墨を施した」と紹介している(「A Trip through Japan with the YWCA」より)

NFPFは、この映像について「YWCAと行く日本の旅 (1919年頃)」「上映時間:10分(サイレント、音楽なし)」などと説明。「YWCAが日本への奉仕活動15周年を記念して製作したドキュメンタリー映画から引用したものである」と述べている。制作者は、ロシア生まれの実業家Benjamin Brodskyだという。

また、動画の元になったフィルムはオーストラリアの国立フィルム&サウンド・アーカイブ(NFSA)が保管しているという。NFSAも、この動画について、フィルムは白黒で、日本の風景を納めたものだと書いている。

JFCが、国立アイヌ民族博物館の森岡健治教育普及室長に取材したところ、「この動画に映っているのは、当時の白老のアイヌの人々であることは信頼できる」との回答も得た。

判定

動画は、1910年代に公開されたアイヌの人々の姿である。ただし、オリジナルの白黒映像がカラー化されていたことから、「正確」ではなく「ほぼ正確」と判定した。

検証:鈴木刀磨
編集:宮本聖二、藤森かもめ、野上英文

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

ファクトチェックと「プリバンキング」 “情報の空白”を埋める注目の手法【JFC講座 実践編9】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第8回は、よく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いについてでした。第9回は世界のファクトチェック事例や新手法を解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックの多様な事例 ファクトチェックには原則がありますが、同時に、検証対象の選び方や組織のあり方などは多様です。国内外の事例を紹介します。 Factchek.org ファクトチェック団体としては老舗のFactchek.orgはアメリカ政治に関する偽情報に対応するために、「有権者のための消費者保護センター」を目指して2003年に設立されました。 そのため、主なトピックに並ぶのは「バイデン大統領」「トランプ前大統領」、そして「その他の大統領候補」などアメリカ政治中心です(2024年7月27日現在)。 例えば、「バイデンが不法移民に家賃を支払っているという根拠のない主張」という記事には、見出しに検証対象と検証結果=根拠なしが記され、記事内では検証過程が詳細に記述されていま

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

日本での農地取得、外国人が3分の2? 新聞記事の誤読が拡散【ファクトチェック】

「外国人による農地取得が全体の3分の2」という言説が拡散しましたが、誤りです。新聞記事を誤読した投稿が拡散しました。 検証対象 2024年7月20日、日本農業新聞の記事を引用して「これやばいだろ?なんで国は規制しない? 外国人による農地取得が全体の3分の2を占めたらしい」という言説が拡散した。 この投稿は43万以上の閲覧と6900のリポストがある。「農地って簡単に買えるの?」「自国の国民のために農地を開拓しているのかもしれない」というコメントのほか、「記事をちゃんと読みましたか」「日本であっても規制はありますよー」といった指摘もある。 「外国人による農地取得が3分の2を占めた」という言説を検証する。 検証過程 言説に添付されたのは、日本農業新聞が2024年7月20日に配信した記事だ。拡散したスクショは「外国人の農地取得 23年は90ヘクタールに 3分の2が国内在住」という見出しで、7月26日朝の時点では「3分の2」が「国内在住の個人・法人中心」に変わっている。 外国資本が「全体の3分の2」ではない 記事の内容は「外国人もしくはその関係法人が2

By 宮本聖二
最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

最新の複数世論調査でトランプ前大統領がハリス副大統領を大幅リード? 拡散したのは予想サイトの数字【ファクトチェック】

「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード」という言説が拡散しましたが誤りです。言説に表示された数字は世論調査の数字ではありません。2024年7月26日現在、最新の世論調査では、両氏の支持率は拮抗しています。 検証対象 2024年7月23日、「最新の複数世論調査でトランプ大統領がカマラ・ハリスを大幅リード/NHKは『僅差』と報道」という言説が拡散した。言説にはまとめサイト「トータルニュースワールド」のリンクが添付されている。 2024年7月26日現在、投稿は1700件以上リポストされ、表示回数は31万件を超える。投稿について「当たり前」「妥当」というコメントがある。 検証過程 数字は予測市場プラットフォームの数字 拡散した言説にはまとめサイト「トータルニュース」のリンクが添付され、「64% Trump」「36% Kamala」と書かれたサムネイルが表示されている。リンク先を確認すると、根拠として「PolyMarket」の数字を集計した一般ユーザーのX投稿を複数取り上げている。 Polymarket(ポリマーケット)は、仮想通

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

ファクトチェックと調査報道 共通する手法と異なる方法論【JFC講座 実践編8】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第7回は、ファクトチェックに役立つサイトやツールについてでした。第8回はよく質問されるファクトチェックと調査報道や裏取りとの違いを解説します。 (本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています) ファクトチェックと調査報道の違い 「ファクトチェックは事実を確かめることだから、報道機関は当然どこでもやっているのではないか」とよく聞かれます。 半分正解で半分間違いと言えます。何が共通していて、何が異なるのかを解説していきます。 ファクトチェックとオンライン調査 検証の根拠を公開し、可能な限りユーザーにもアクセス可能にすることが原則のファクトチェックでは、オンライン調査の手法を活用します。 誰でもアクセスできるオープンソースを使うOSINTの重要性は実践編6でも説明した通りです。 OSINTでファクトチェック 公開データを使い真偽を判別する【JFC講座 実践編6】日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。 実践編第5回は、生成AIで作られる画像

By 古田大輔(Daisuke Furuta)