岩手県大槌町の山林火災はレーザーによるもの? 大規模火災のたびに拡散する陰謀論【ファクトチェック】

岩手県大槌町の山林火災はレーザーによるもの? 大規模火災のたびに拡散する陰謀論【ファクトチェック】

2026年4月に岩手県大槌町で発生した山林火災について、レーザーのせいだと主張する投稿が拡散しましたが、誤りです。4月28日現在、出火原因は調査中で、まだ特定されていません。大規模な火災のたびに、国内外で広がる陰謀論です。

検証対象

拡散した言説

2026年4月26日、大槌町の山火事だという山林火災の画像を引用し、「不自然。なぜ一直線?変な燃え方。レーザーでしょ」という文言をつけた投稿が拡散した。

検証する理由

4月28日現在、投稿は2400回以上リポストされ、表示は20.8万件を超える。

投稿には、「風の影響」「山火事ってこういう風に燃え広がるんですよ。少しは調べたら?」などの指摘もあるが、「違和感しかない」や「It could be DEW. Direct Energy Weapon.(指向性兵器DEWの可能性)」など、真に受けた反応も多いため検証する。

検証過程

公式発表では「出火原因は調査中」

総務省消防庁の公式Xアカウントは、大槌町の火災についてこまめに情報発信している。

岩手県大槌町の林野火災による被害及び 消防機関等の対応状況(第12報)」によると、出火原因は、発表時点(4月28日9:00)で「 調査中」だ(4月28日11:00閲覧時点で最新)。

岩手県の「いわて防災情報ポータル」に公開されている最新の資料でも、出火原因は「調査中」だ(岩手県”令和8年4月22日(水) 大槌町林野火災に伴う対応状況”(第12報:令和8年4月28日(火)7時00分現在)、4月28日11:00閲覧)。

地形や気象条件が一因と指摘

日テレNEWSやIBC岩手放送は、今回の火災で現地調査にあたる千葉大学の峠嘉哉准教授が、延焼拡大の原因の一つに三陸地方特有の地形や、燃えやすい針葉樹が多いことなどがあると指摘していると報じている(日テレNEWS”岩手山林火災 三陸地方特有の「地形」も延焼拡大の原因か…専門家が指摘 “雨が鎮圧のカギに””2026年4月28日、IBC岩手放送”「雨を待つしかない」 山林火災専門家が現場を視察 消火活動の難しさを指摘 岩手・大槌町”2026年4月24日)。

朝日新聞は、今回の火災と2025年2月の大船渡市の山林火災を比較し、乾燥や強風という条件が大船渡の火災と一致すると伝えている(朝日新聞”昨年は市面積の1割を焼く 岩手で相次ぐ山林火災、相違点と共通点は”2026年4月24日)。

「レーザーで火災」?

大規模な山林火災が発生すると、「DEW(指向性兵器)による攻撃」という言説や「スマートシティのための土地を確保するために火災が起こされている」などの言説が拡散する。

DEWはDirected Energy Weaponsの略で、レーザーのような動画と共に拡散することが多い。過去にも山火事と関連付ける言説が拡散し、日本ファクトチェックセンター(JFC)でも検証、「誤り」と判定している。

https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/disasters/false_ofunato_wildfire_weapon/

https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/international/maui-island-fire-laser-beam-before-incorrect/

上から下に燃え下がる場合は「直線状」

拡散した投稿は「不自然。なぜ一直線?変な燃え方。レーザーでしょ」と主張している。火の手が直線に伸びている様子を写した画像に、レーザーの影響を示唆する文言をつけた投稿は他にも拡散している(例1)。

公益財団法人国際緑化推進センターが公開する「林野火災の特徴」によると、火災が斜面上を燃え上がる場合には、火先線はほぼ楕円形で拡大する。燃え下がる場合には火先線は直線状に拡大するという。つまり、山の上から燃え下がる場合、線状に燃え広がるのは自然な燃え方だ(公益財団法人国際緑化推進センター”森林再生テクニカルノート 林野火災の特徴”)。

山林火災は増えている?

今回の火災を受け、SNSには「こんなに山火事が多いのはおかしい」という投稿も拡散している(例2例3)。

山林火災は増えているのか。林野庁のサイトによると、1960~70年代と比較すると、山林火災は減る傾向にある。2020~24年は年間平均で約1200件発生し、焼損面積は約800ヘクタール、損害額は約3.2億円。1日あたりにすると、全国で毎日約3件の山火事が発生し、約2ヘクタールの森林が燃え、約90万円の損害が生じているという(林野庁”日本では山火事はどの位発生しているの?”更新日2026年1月27日)。

しかし、2025年は東北を中心に大規模な山林火災が相次いだ。世界的にも、温暖化による高温・乾燥化を背景に、山林火災が大規模化しやすくなっている。一度火がつくと消火が追いつかず、被害が広がる傾向がある。2025年1月には米ロサンゼルス、3月には韓国で過去最悪と呼ばれる大規模な火災が発生している。

海外でも拡散する典型的な陰謀論

大規模な火災が起きるたびに、「レーザーによる火災だ」などという投稿が拡散するのは日本だけではない。

AP通信は、2023年8月のハワイの山火事の際に拡散した「空から放射されたレーザー光線がハワイの山火事を引き起こした」という言説を検証し、根拠として提示された動画は無関係の爆発の映像だったことなどを理由に「誤り」と判定している(AP”A video doesn’t show a laser beam igniting Maui’s wildfires. It’s a transformer explosion in Chile”2023年8月15日)。

ロイター通信は、2025年1月のロサンゼルスの火災の際に拡散した「火災後に木々が残っていることは、レーザー攻撃の証拠だ」という言説を検証。「生木は水分があり燃えにくいため、木が立ったままなのはレーザー攻撃の根拠にはならない」という専門家の判定を報じている(Reuters”Fact Check: Standing trees after LA fires are not evidence of laser attack”2025年1月15日)。

判定

岩手県大槌町の山林火災について、レーザーのせいだと主張する投稿が拡散した。4月28日11時現在、出火原因は調査中で、まだ特定されていない。条件によっては直線状に燃え広がることは不自然ではなく、「レーザーによるもの」というのは山林火災で拡散しがちな陰謀論だ。よって、誤りと判定する。

出典・参考

消防庁災害対策本部.”岩手県大槌町の林野火災による被害及び 消防機関等の対応状況(第12報)”.https://www.fdma.go.jp/disaster/info/items/20260422_ootuchi12.pdf,

岩手県.”令和8年4月22日(水) 大槌町林野火災に伴う対応状況”(第12報:令和8年4月28日(火)7時00分現在).https://iwate-bousai.my.salesforce-sites.com/servlet/servlet.FileDownload?file=00PRC00002KZOfe2AH,

日テレNEWS.”岩手山林火災 三陸地方特有の「地形」も延焼拡大の原因か…専門家が指摘 “雨が鎮圧のカギに””2026年4月28日.https://news.ntv.co.jp/category/society/86689c1cc34942b0951b8f8f83447ee7 

IBC岩手放送.”「雨を待つしかない」 山林火災専門家が現場を視察 消火活動の難しさを指摘 岩手・大槌町”2026年4月24日.https://newsdig.tbs.co.jp/articles/ibc/2623503?display=1

朝日新聞.”昨年は市面積の1割を焼く 岩手で相次ぐ山林火災、相違点と共通点は”2026年4月24日.https://digital.asahi.com/articles/ASV4R3G3CV4RUTIL02LM.html,

公益財団法人国際緑化推進センター.”森林再生テクニカルノート 林野火災の特徴”.https://jifpro.or.jp/tpps/conditions/conditions-cat04/f06/ 

AP.”A video doesn’t show a laser beam igniting Maui’s wildfires. It’s a transformer explosion in Chile”.2023年8月15日.https://apnews.com/article/fact-check-hawaii-maui-wildfires-chile-DEW-434395550756

Reuters”.Fact Check: Standing trees after LA fires are not evidence of laser attack”.2025年1月15日.https://www.reuters.com/fact-check/standing-trees-after-la-fires-are-not-evidence-laser-attack-2025-01-14/ 

検証:根津綾子
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

外国人が日本で昼間に強盗? クウェートで起きた事件の動画【ファクトチェック】

外国人が日本で昼間に強盗? クウェートで起きた事件の動画【ファクトチェック】

日本で外国人が昼間に強盗をしている様子だと示唆する動画が拡散しましたが、誤りです。動画は6月上旬にクウェートの両替所で起きた強盗事件のもので、撮影場所は日本ではありません。 検証対象 拡散した言説 2026年6月5日、「今、日本で始まってます💦」「白昼に強盗…」「外国人は何でもあり。」などという文言とともに、店に銃のようなものを持った男が押し入る動画がXで拡散した。 検証する理由 6月10日現在、投稿は3100回以上リポストされ、表示は19.3万件を超える。 投稿には「デマはいかん 2026年6月3日、クウェート・アルシャアブ地区の両替所で起きた武装強盗の防犯カメラ映像だ」という指摘もあるが、「他国でこんな事をする野郎は即日死刑でいい」「受入推進派は全員日本の敵です」など、日本で起きた事件だと受け止めている反応も多いため検証する。 検証過程 動画の内容は 添付動画は21秒。屋内に銃のようなものを持った人が押し入り、中にいる人達を殴りつけて物色し、紙幣のような物を袋に詰めて持ち去る様子が映っている。 BGMはあるが、声は入っていない。

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
「初詣に行くことは差別につながる」というニュース? AIで作成【ファクトチェック】

「初詣に行くことは差別につながる」というニュース? AIで作成【ファクトチェック】

「ムスリムによる日本への侵略もついにここまで来たか」という文言とともに、「#初詣に行くことは差別につながる」「初詣に行くことは、絶対ダメです」というテロップが入ったニュース番組風の画像がXで拡散しましたが、AIで生成されたものです。画像にはOpenAIのツールで生成されたことを示すSynthID(電子透かし)が含まれています。 検証対象 拡散した投稿 2026年5月22日、「ムスリムによる日本への侵略もついにここまで来たか」「日本人全員で声をあげないと自分達の文化が根こそぎ消されるよ」という投稿が画像とともにXで拡散した。 画像には外国人風の男性と共に「#初詣に行くことは差別につながる」「神社に初詣に行くと行かれない人が出てくる。可哀そうだ。差別だ」「初詣に行くことは、絶対ダメです。一人ひとりの配慮が、誰も傷つけない社会をつくります」などと書かれている。 この投稿は、6月10日時点で非公開にされた。 検証する理由 この投稿は1600件リポストされ、表示回数は111万回を超えている。「意味が全く理解できない」「単純に日本を潰しに来ただけだろう」とい

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
パリで移民2世、3世が暴動? 連覇を祝うサッカーファンの動画【ファクトチェック】

パリで移民2世、3世が暴動? 連覇を祝うサッカーファンの動画【ファクトチェック】

「パリのいま 移民の2世、3世による暴動 移民国家の末路を見る」という投稿がThreadsで拡散しましたが、誤りです。映像は2026年5月にフランスのサッカーチームが欧州のチャンピオンズリーグで連覇を果たした際のファンの様子を撮影したものです。 検証対象 拡散した投稿 2026年5月31日、「パリのいま 移民の2世、3世による暴動 移民はもういらん」という動画付き投稿がThreadsで拡散した。 動画には興奮した人々が、花火をあげたり信号に登ったりする様子が映っている。 検証する理由 この投稿は1万件以上いいねがあり、1200件ほどリポストされている。「パリサンジェルマンが勝っての騒ぎでしょ。移民関係ないから」「サッカーの盛り上がりですよね」というコメントの一方で、「世界中で国文化を壊した移民ビジネス」「誰もとめる人もいない。狂ってますね」と誤解したコメントもあるため検証する。 検証過程 動画には広場のような場所に集まった人々が花火を打ち上げる様子が映っている。Googleレンズで検索すると、5月31日にYouTubeやXに投稿された動画が見

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
スイスが世界で初めてマンモグラフィを禁止? 該当する発表はなく、当局は否定【ファクトチェック】

スイスが世界で初めてマンモグラフィを禁止? 該当する発表はなく、当局は否定【ファクトチェック】

乳房X線検査マンモグラフィを、スイスが世界で初めて禁止したと主張する投稿が拡散しましたが、誤りです。そのような発表はなく、スイス当局はJFCの取材に対して「50歳以上の女性に対し推奨している」と述べています。 検証対象 拡散した言説 2026年6月3日、「速報:スイスが世界で初めてマンモグラフィ禁止の国になった―世界的な医療スキャンダルが白日の下にさらされた!」などと主張する英語の投稿がXで拡散した。 検証する理由 6月8日現在、投稿は7500回以上リポストされ、表示は59.4万件を超える。 投稿には「出典は?」や「スイスはマンモグラフィを禁止していません」などの指摘もあるが「神に感謝します。私は何年も前からこう言ってきました」「サーモグラムはマモグラムよりもはるかに安全」など真に受けた反応も多い。 同様の主張は、日本語でも拡散している(例1、2、3)ため検証する。 検証過程 拡散した投稿は 拡散した投稿の自動和訳は次の通りだ。 「🚨 速報: スイスがマンモグラフィを禁止する世界初の国に — 暴露されたグローバルな医療スキャンダル!

By 根津 綾子(Ayako Nezu)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は6月27日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0627.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)