気候変動は疑似科学で危機は存在しない?  全く同じ記事が再拡散【ファクトチェック】

気候変動は疑似科学で危機は存在しない?  全く同じ記事が再拡散【ファクトチェック】

「気候変動は疑似科学で危機は存在しない」という言説が拡散しました。以前、日本ファクトチェックセンター(JFC)が誤りだと検証した内容と全く同じ記事が、別のサイトから発信されています。

検証対象

2024年1月30日、ネットメディアJAPAN NEWS NAVIが「ノーベル物理学賞受賞者含む300人の学者が『気候変動の緊急事態など存在しない。科学の危険な腐敗だ』と宣言/『風力、太陽光は完全な失敗で環境を破壊しているだけだ』」という記事を配信した。

記事は2023年7月に海外のネットメディアThe Daily Scepticの英文記事をもとにして作られている。2022年ノーベル物理学賞の共同受賞者ジョン・クラウザー博士が「気候危機など存在しない」と発言している上に、同調する宣言に科学者300人が署名しており、人間による気候変動への影響を信じることは「明白な誤り」だという内容だ。

この記事は見出しも内容も、JFCが2023年8月21日に検証し、誤りと判定したものと同じだ。前回はTotal News Worldというサイトから発信されていた。

検証過程

気候変動に関する人間の影響はよりはっきりと

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書は、世界中の気候の専門家たちがまとめている。第6次評価報告書は2023年3月に統合報告書が公表された

「人間活動が主に温室効果ガスの排出を通して地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がなく、1850〜1900年を基準とした世界平均気温は2011~2020年に1.1℃の温暖化に達した。世界全体の温室効果ガス排出量は増加し続けており、持続可能でないエネルギー利用、土地利用及び土地利用変化、生活様式及び消費と生産のパターンは、過去から現在において、地域間にわたって、国家間及び国内で、並びに個人の間で不均衡に寄与している(確信度が高い)」(政策決定者向け要約

このように人間活動の地球温暖化への影響が「疑う余地がない」と明言されている。

以下、検証対処の言説については、前回のJFCの検証を再掲する。

ジョン・クラウザー博士とは

ジョン・クラウザー博士は検証対象の記事にもあるように、2022年にノーベル物理学賞を受賞したアメリカの物理学者。これまでにも同様の発言を繰り返しており、気候変動に否定的な主張をしている団体CO2 Coalitionの役員としても名前が挙げられている。

記事で引用されている「世界気候宣言」とは、英文の元記事を見ると「World Climate Declaration」のことだ。「気候変動は存在しない」と主張する内容で元々は2000年に公表され、研究者1200人以上が署名したとして世界中で拡散した(例1,例2)

気候変動を否定しているのは気候の専門家か

クラウザー博士は世界的にも有名な量子力学の専門家で、2022年に量子情報科学への貢献でノーベル物理学賞を受賞している。ただし、気候変動の専門家ではない。

学術情報検索ツールGoogle Scholarで検索しても、クラウザー博士による気候変動に関する論文は出てこない。AFP Fact Checkによると、世界気候宣言に関しても、署名者の中で気候学者や気候科学者と明言しているのは10人ほどで全体の1%にも満たなかったという。

圧倒的多数の研究が気候変動とその原因で一致している

コーネル大学が2021年に発表した報告書によると、8万8125件の気候関連の研究を対象とした調査で、査読を受けた科学論文の99.9%以上が気候変動は主に人間によって引き起こされるという説で同意している。この調査は2013年の同様の報告書を更新するもので、前回、1991~2012年に発表された研究を調査した結果は97%が同意。今回、新たに2012〜2020年11月までの研究を調査したところ、同意する割合はさらに高まっていた。

つまり、たとえ量子力学の専門家やその他の研究者が多数署名した宣言があったにしても、8万件を超える科学的な研究においては、人間活動によって気候変動がもたらされている点ではほぼ完全に一致している。

CO2 Coalitionの信頼性

CO2 Coalitionのメンバーによる、気候変動を否定する言説はこれまでにも繰り返し、ファクトチェックされ、誤りやミスリードを指摘されている。

2019年、メンバー二人が書いた記事 「The great failure of the climate models(気候モデルの大きな失敗)」は、気候変動をシミュレートする手法の問題を指摘した。しかし、「事実と異なる主張が多く」「気候モデルの性能を客観的かつ厳密な方法で評価していない」などと検証されている(Climate Feedback)。これ以外にもFox Newsでの「国連の地球温暖化モデルは間違っている」という発言や「気候変動は嘘だ」という記事などもファクトチェックされている(例1,例2)。

判定

気候変動が実際に発生しており、その原因は人間活動であることについて、圧倒的多数の研究が一致している。「気候変動は疑似科学で危機は存在しない」という言説は誤り。

あとがき

誤情報/偽情報は何度も繰り返して拡散する傾向があります。今回は全く同じ内容の記事を異なるサイトが発信しましたが、同じような言説を違う個人や組織が異なるプラットフォームから発信することが増えています。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

沖縄県知事選をめぐり早くも拡散する怪情報/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

沖縄県知事選をめぐり早くも拡散する怪情報/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

8月27日に告示される沖縄県知事選をめぐり、早くも怪情報が飛び交っています。沖縄の地元メディアはファクトチェックを開始。日本ファクトチェックセンターもネット上で広がる様々な情報をモニターしています。関連記事をご覧ください。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 今週のお知らせ JFC運営・監査両委員会の報告書を公開しました 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、運営委員会と監査委員会による年次報告書(2025年4月〜2026年3月分)を公開しました。 JFCは独立性を保ってファクトチェックに取り組むため、設置規定に基づき、有識者で構成する運営委員会が、編集部がファクトチェックガイドラインに則って公正な検証をしているかを確認しています。 また、監査委員会(監査委員会運営規程)が、編集部と運営委員会を含む全体のガバナンスが適正かを確認しています。両委員会はその結果を報告書にまとめ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
熊本地震は「人工地震」? 波形は普通の地震【ファクトチェック】

熊本地震は「人工地震」? 波形は普通の地震【ファクトチェック】

熊本県を震源とする地震が2026年7月28日に発生したことを受け、「波形を見る限り人工地震」「今回の熊本地震の波形も人工地震の波形」などと主張する投稿が拡散しましたが、誤りです。専門家は「人工的な揺れの波形ではない」と説明しています。 検証対象 拡散した言説 2026年7月29日、「熊本地震ですが、波形を見る限り、人工地震であることは確実です」と主張する投稿がXで拡散した。 検証する理由 熊本地震や人工地震など複数のキーワードを組み合わせてソーシャル分析ツール「Meltwater」で調べると、今回の熊本地震の波形だという画像を添付した投稿は他にも拡散している(例1,2)。 拡散した投稿には「バカなこと言うのやめろ、恥ずかしいわ」「こういう都市伝説脳の奴ら、日本から出て行ってほしい」などの指摘もある一方、「日付からして人工地震の可能性は高いでしょうね」や「前回の熊本地震も人工地震の様ですし今回も波形からその様ですね」など、真に受けた反応もあるため検証する。 検証過程 「人工的な爆発の波形」? 例1には、「先程の熊本震度7の地震ですが、防災科

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
JFCはプレバンキングと詐欺対策を強化します サイトのメニューも変更

JFCはプレバンキングと詐欺対策を強化します サイトのメニューも変更

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、偽・誤情報が広がる「前」にその手口を知らせる予防的な取り組み「プレバンキング」と、オンライン詐欺への注意喚起に一層力を入れていきます。あわせて、サイト上部のメニュー(グローバルナビ)に「プレバンキング」と「詐欺対策」の項目を新設しました。 予防的な対策としての「プレバンキング」 JFCはこれまで、拡散した情報を検証して判定するファクトチェック(デバンキング)を活動の柱としてきました。しかし、偽・誤情報は大量かつ高速に広がり、検証は後追いにならざるを得ません。 一方で、災害のたびに繰り返される「人工地震」や選挙のたびに広がる「不正選挙」などのように、同じ手口の偽・誤情報が形を変えて何度も拡散しています。手口そのものをあらかじめ知っておけば、初めて見る投稿でも「これはよくあるパターンだ」と気づきやすくなります。 こうした考え方に基づき、JFCは今後、これまでにファクトチェックしてきた手口を題材にした【プレバンキング】記事を継続的に公開していきます。第1回は「『地震雲』や『人工地震』は本当?

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
高校野球チケット「譲ります」で被害多発 県警「正規ルートで購入を」【詐欺注意】

高校野球チケット「譲ります」で被害多発 県警「正規ルートで購入を」【詐欺注意】

甲子園で開催中の全国高校野球選手権大会をめぐり、SNSで「チケット譲ります」などと投稿し、電子マネーで代金をだまし取る詐欺被害が相次いでいます。兵庫県警は「チケット詐欺多発中」と注意喚起し、正規ルートで購入するように呼びかけています。 「詐欺られた」との投稿が相次ぐ 2026年8月中旬ごろから、「詐欺られた」「甲子園チケット詐欺られた」といった投稿がX(旧Twitter)上で相次いでいる(例1、例2)。 被害を訴える投稿から、詐欺を図ったとみられるアカウントを確認すると、短時間のうちに音楽ライブや甲子園のチケットなど、様々なチケットの取引を持ちかけている。 兵庫県警も注意喚起 兵庫県警のX公式アカウント「兵庫県警察安全安心情報」は8月12日、「SNSで『高校野球のチケット譲ります』などと投稿し、電子マネー等で代金をだまし取る詐欺事件が連続発生しています」「チケットは正規のルートで購入しましょう」と投稿している。 相談があったという「転売チケットであると指摘され入場できなかった」ケースや「代金を支払ったがチケットが届かず連絡が取れなくなった」ケースを紹

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は9月27日(日)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 日本ファクトチェックセンター(JFC) ファクトチェック講師養成講座 9月27日(日)開催分日本ファクトチェックセンター(JFC)による講師養成講座です。 講師養成講座(オンラインで90分)を受講いただいた後、修了課題を提出された方には、教室や職場などで利用可能な教材の提... powered by Peatix : More than a ticket.Peatix 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や騙されない人の行動

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)