NHKは地震が起こるのを知っていたから対応が早い? 速報システムがある【ファクトチェック】

NHKは地震が起こるのを知っていたから対応が早い? 速報システムがある【ファクトチェック】

NHKがニュース番組放送中に地震があった際、キャスターが地震の原稿をすぐに読み始めたことについて「NHKは地震が起こることをあらかじめ知っていた」という投稿が拡散しましたが、誤りです。速報の仕組みが整えられています。

検証対象

2025年1月13日、「速報鳴ってから映像に見切れるFDフロアーディレクターが原稿渡すまでわずか11秒です。いくら何でも早過ぎやしませんかね😅」という投稿がXで拡散した。投稿に続くスレッドではこの地震が「人工地震」であるかのような主張もある。

2025年1月14日現在、この投稿は300件以上リポストされ、表示回数は35万件を超える。「確かに不自然なぐらい原稿渡されるまでが早い」と同調するコメントの一方、「日々相当な訓練をされてるんですね」というコメントもついている。

検証過程

動画はNHKニュースの切り取り

日本ファクトチェックセンター(JFC)が確認したところ、この動画は1月13日午後9時からのニュースウォッチ9。NHKプラスで見ることができ、拡散した動画は午後9時19分41秒から44秒間を切り取ったものだ。内容は改変されていない。

緊急地震速報は放送局に瞬時に届く

気象庁は、最大震度5弱以上または最大長周期地震動階級が3以上と予想された場合に緊急地震速報(警報)を発表する(気象庁「緊急地震速報(警報)の内容・発表条件」)。

災害対策基本法で指定公共機関になっているNHKは、情報を速やかに伝達するため、「放送で使うテロップやCG画像、アナウンサーが読む原稿などを瞬時に作成」する独自のシステムを使っている。「緊急地震速報のような速報性の高い情報は担当者の手を介さずに自動で放送される」という(NHKの技術2023)。

多くの報道機関では地震が発生した場合に備えた原稿(予定稿)を準備している。発生場所と震度や日時などを入れるだけで、すぐにニュースとして読めるものだ。また、発生直後に急にはいってくる原稿を落ち着いて読む訓練も積んでいる。

TBSなどでも、緊急地震速報を素早く伝えるAIアナウンサーなどの新技術が開発されている(TBSグル ープ統合報告書2024)。

人工地震は「非現実的」

人工地震説は繰り返し拡散する根強い陰謀論だ。しかし、専門家は震災級の地震を人工的に引き起こすことは「非現実的」と断言する。過去に5メガトンの核爆弾の実験でM6.9の規模の揺れが観測されたことがあるが、M9級となると「この1000倍の核爆弾が必要」だからだ。

地震は人工的な兵器?専門家が人工地震説を解説【ファクトチェック】
大きな地震が発生したり、震災からの節目の日を迎えたりするたびに「地震は人工的な兵器」というような人工地震説が拡散します。専門家は震災級の地震を人工的に起こすのは「非現実的」と否定しています。 検証対象 東日本大震災の発生した3月11日の節目に、1995年のニュース23の映像とともに「地震は地震兵器によるものだ」という情報(例1,例2)が拡散した。 映像ではオウム真理教元幹部で、1995年に刺殺された村井秀夫氏が「高度な製造能力を持った団体が毒ガスを散布した」「阪神大震災は大国による地震兵器で起きた」などと主張している。この映像は「ディープステート(闇の政府)が世界を操っている」などという陰謀論と関連付けて、何度も拡散している。中には70万件以上表示されたものもある。 リツイートやリプライでは「すごい。分かってたんだ・・・。」「これは、本当に有る事です」「コレで殺された?」などと同調する一方で、「人工地震は不可能」などと否定するコメントもある。 「ディープステートの存在をメディアで暴露してこの幹部が殺された」などと陰謀論を支持するコメントもある。 この

判定

NHKは地震速報を迅速に伝えるための通知システムや仕組みを整えている。また、人工地震説は専門家によって否定されている。したがって、誤りと判定する。

検証:リサーチチーム
編集:藤森かもめ、野上英文、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

横浜市長会見の過去映像は1年分しか保存しないように改悪された? 3か月→1年に延長【ファクトチェック】

横浜市長会見の過去映像は1年分しか保存しないように改悪された? 3か月→1年に延長【ファクトチェック】

「横浜市長の定例記者会見の過去映像が1年分しか視聴できないように改悪された」という情報が拡散しましたが、不正確です。以前は3か月分しか視聴できませんでしたが、2022年4月から過去1年分に期間を延長しています。 検証対象 7月28日、「横浜市長記者会見の過去映像が『直近1年』しか視聴できないように改悪されている」という投稿がXで拡散した。 8月1日現在、投稿は400回以上リポストされ、表示は2.7万件を超える。 投稿には「え!なんの告知もなく⁉️また隠蔽か」「スゲーな (褒めてませんよ)」というコメントや「最近ではなく、だいぶ前からアーカイブ残らない仕様です」「隠蔽なのか容量の問題なのか…」という指摘が寄せられている。 検証過程 公開されている記者会見映像は1年前まで 横浜市は月2回のペースで市長会見を開き、映像は公式サイトで開示している。サイトには「録画中継は、おおむね1年前の会見まで掲載しています。それ以前の会見の模様は『会見記録』をご覧ください」と書かれている(横浜市”市長記者会見インターネット中継”)。 「録画中継を視聴」をクリックする

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
カムチャツカ地震による日本の津波の映像? 2017年南アフリカで撮影【ファクトチェック】

カムチャツカ地震による日本の津波の映像? 2017年南アフリカで撮影【ファクトチェック】

2025年7月30日にロシアのカムチャツカ半島沖で発生した地震に関連し、「日本の津波だ」という動画が拡散しましたが、誤りです。この動画は2017年、南アフリカ共和国で撮影されたものです。 検証対象 7月30日、「Tsunami in Japan(日本の津波)」という動画がThreadsで拡散した。 投稿には海岸に波が押し寄せ、人が避難する様子が映っている。7月31日現在、この投稿は6000件以上のいいねを獲得し、表示回数は71万回を超える。 検証過程 7月30日午前8時25分ごろ、ロシアのカムチャツカ半島付近を震源とするマグニチュード8.7の巨大地震が発生した。気象庁は北海道から和歌山県にかけての太平洋沿岸に津波警報を発表した(気象庁. “令和7年7月30日08時25分頃のカムチャツカ半島付近の地震について”)。 動画は2017年に南アフリカで撮影 拡散した動画をGoogleレンズで検索すると、2017年に南アフリカ共和国のダーバンで発生した津波の映像が見つかる。建物の位置、木の位置などが拡散した動画と一致している。 この動画は、2023年にも

By 木山竣策
Mrs. GREEN APPLEのライブ音漏れ映像? 音声が加工された動画【ファクトチェック】

Mrs. GREEN APPLEのライブ音漏れ映像? 音声が加工された動画【ファクトチェック】

バンド「Mrs. GREEN APPLE」のライブ騒音問題に関連して、「ミセスの音漏れが想像を超えてくる」という動画が拡散しましたが、実際の映像ではなく、誤りです。音漏れがあったことは事実ですが、音声が加工された動画が実際の映像のように拡散しています。 検証対象 2025年7月29日、「ミセスの音漏れめっちゃ聞こえた」という動画付き投稿が拡散した。 動画には会場は映っていないが、夜景の中で大音量の曲が響いている。2025年7月29日現在、この投稿は300件以上リポストされ、表示回数は144万回を超える。 投稿について「そりぁ問題になるわ」「いくら何でもやばすぎじゃない?」というコメントの一方で「違う動画見たけどこんなに聴こえてない」という指摘もある。 検証過程 Mrs. GREEN APPLEのライブと騒音 2025年7月26、27日に横浜市の横浜山下ふ頭特設会場でバンド「Mrs. GREEN APPLE」のライブが開催され、会場から漏れた音が問題視された。 所属事務所は28日に「当日の風向きにより想定以上に広範囲に音が拡散し、周辺にお住まいの

By 木山竣策
外国人は6親等まで扶養控除があるのに日本人には無い? 控除の範囲は同じ【ファクトチェック】

外国人は6親等まで扶養控除があるのに日本人には無い? 控除の範囲は同じ【ファクトチェック】

税金の負担を軽くする扶養控除について、外国人は海外居住の6親等まで対象なのに、日本人の子どもには控除が無いという情報が拡散しましたが誤りです。日本人も外国人も納税者は、国籍に関係なく6親等までが対象です。 検証対象 2025年7月26日、「外国人は海外居住の6親等まで扶養控除があるのに日本人の子供には扶養控除がないのはなぜなのか!」という投稿が拡散した。 投稿には画像が添付され、「日本の子どもたちを税制で差別します 財務省」と書かれている。 7月28日現在、この投稿は2200件以上リポストされ、表示回数は134万回を超える。投稿について「制度設計したやつ馬鹿」「政府が日本人よりも外国人を優遇してる」というコメントの一方で「6親等は日本人も同じ」という指摘もある。 検証過程 前提として、出入国在留管理庁のウェブサイト「税金」によると、外国人でも、日本国内で働いて得た収入がある人は、原則として所得税を納める必要がある。 扶養控除とは 国税庁によると、扶養控除とは、納税の際に、扶養している家族(扶養親族)がいると受けられる所得控除のことだ。控除によっ

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は8月23日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfckoushiyousei0823.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)