イラン戦争をめぐってナフサは「確保」できているのか 専門家の「6月に詰む」という言葉の背景【ファクトチェック解説】

イラン戦争をめぐってナフサは「確保」できているのか 専門家の「6月に詰む」という言葉の背景【ファクトチェック解説】

イラン戦争でナフサや関連する石油化学製品が不足するなか、TBS報道特集が専門家の「6月には詰む」という見通しを報じました。これに対し、高市早苗首相はXで「事実誤認」と反論し、中間段階の製品も加えれば「国内需要の4ヶ月分が確保できる」と主張しました。しかし、その後もナフサ不足のニュースは国内外で続いています。問題の経緯をまとめ、専門家に発言の背景を取材しました。

身の回りの様々な製品の元となるナフサ

ナフサは石油から精製される液体で、ナフサからエチレンなどの「石油化学基礎製品」が作られます。それがプラスチック、合成繊維、合成ゴム、合成洗剤、塗料などの原料となる「石油化学誘導品」(中間製品)のもととなります。

最終的には、パソコン、携帯電話、テレビ、その他家電製品、自動車のバンパーやシートや内装、ワイシャツやスポーツ用品などの衣料品、塗料、橋脚の補強材など、身の回りの多くの製品で使われています(以上、石油連盟.”ナフサとは”)。

つまり、ナフサ不足は身の回りの多くの製品の不足に繋がります。

ナフサ供給の大半は中東から

2026年2月から続くアメリカとイスラエルによるイラン攻撃に対して、イランは原油などを運ぶ要所のホルムズ海峡を封鎖しました。

日本はナフサ全体の約4割を中東からの輸入に頼っています。また、国産ナフサの原料となる原油は約95%が中東からです。海峡封鎖によって、ナフサ不足への不安が高まりました(経済産業省.”ナフサの状況について”, 資源エネルギー庁.”第3節 一次エネルギーの動向”)。

3月29日、高市首相は物資の供給不安に関して、Xで発信しました。ナフサについては「他の国からの調達に切り替えるべく取り組んでいる」と述べました。

TBS報道特集「今の状況が続けば日本は6月に詰む」

4月4日、TBSが「報道特集」で、イラン攻撃に伴うエネルギー危機について報じました(TBS.”激化するイラン攻撃で続くエネルギー危機 石油不足が直撃で問われる日本政府の対応【報道特集】”)。

番組は石油の備蓄状況などとともに、ナフサ不足にも触れました。プラスチック製品の原料となるナフサ不足は医療器具の供給不足に繋がる危険性などを説明したうえで、資源エネルギー庁の有識者委員でもあるコネクトエネルギー合同会社CEOの境野春彦氏にインタビューしています。

経産省がナフサの調達元について、全体の16%を占める中東以外からの輸入について、2倍に増やす見通しを示していることについて、境野氏は以下のように指摘しました。

「倍になったところで、輸入は半分も満たしていないわけです。どこが安心なんだという話。間違いなく今の状況が続いたら、日本は6月に詰む。もう『ホルムズ海峡を通る』一択しかない」「需要に供給が追いつかなくなり、日本にとって深刻な影響が出るおそれがある」

高市首相が反論「国内需要4か月分を確保」

番組が放送された翌4月5日、高市首相はXに下記の投稿をしました。

-----

ナフサについては、既に調達済みの輸入ナフサと国内での精製2ヶ月分に加え、ポリエチレン等のナフサから作られる中間段階の化学製品(川中製品)の在庫2ヶ月分(ナフサ精製が仮にゼロであっても需要を満たす供給ができる期間)で、少なくとも国内需要4ヶ月分を確保しています。 

また、足下では、国内でのナフサ精製の継続(約110万kl/月相当 2024年平均)に加え、中東以外からのナフサ輸入量も倍増すること(約90万kl/月相当)によって、昨年の平均的な国内需要量(約280万kl/月)を満たすにあたっても、前記の川中製品の在庫(ナフサ換算で約560万kl)を使う量も減らすことができ、その在庫期間は半年以上に伸びます。

 加えて、現在、その川中製品の世界からの新たな調達も強化しようとしています。

 したがって、当該報道にある「日本は6月には供給が確保できなくなる」という指摘は事実誤認であり、そのようなことはありません。

 これからも、国民生活と経済活動に影響を生じることのないよう、安定供給の確保に全力で取り組んでまいります。

--(引用ここまで)--

6日には、木原稔官房長官も記者会見で「『日本は6月には供給が確保できなくなる』という情報がありますが、これは誤ったものと認識をしています」と話しました(首相官邸X公式アカウント.”ナフサ関連の誤った情報について”)。

TBS報道特集「6月に詰む」発言を補足

翌7日、TBSは報道特集のX公式アカウントで、境野氏の発言を補足する発信をしました。

「4月4日に放送した前半の特集の中で、ナフサの供給をめぐって、専門家の『間違いなく今の状況が続いたら6月には詰むんですよ、日本』という発言をお伝えしました。これは『需要に供給が追いつかなくなり、日本にとって深刻な影響が出る恐れがある』という趣旨での発言でした。番組としても、その趣旨を適切にお伝えすることができなかったと考え、補足させていただきます。石油やナフサの供給をめぐる問題については引き続き取材を続け、番組でお伝えして参ります(X)。

つまり、高市政権が反論した「6月に詰む」という部分について、「需要に供給が追いつかなくなり、日本にとって深刻な影響が出る恐れがある」という趣旨だったという説明です。

どちらの発言が正しい?

ソーシャルメディア上では、TBSや境野氏に対して「でっち上げ」や「日本のナフサ供給不安を煽るデマ」などの批判が出ています。

「6月に詰む」という言葉を「6月に供給が確保できなくなる」という意味だととらえると、6月に供給がゼロになるわけではないので、政府の発信が正しいと受け取れます。

一方で、「6月に詰む」の意味を「需要に供給が追いつかなくなり、深刻な影響が出る恐れがある」という意味にとらえれば、誤っているとは言えません。

中東情勢は刻々と状況が変わり、各国の交渉も続くため、6月の段階でどうなっているかは、現時点では確定的なことはわかりません。現状で、ナフサや関連する石油化学製品は足りているのか見ていきます。

4か月分確保で安心?

経産省の石油統計でナフサの在庫量を見てみると、2026年1月で、国内向け販売308万6861㎘に対して在庫は138万5515kl(約0.45ヶ月分)にまで落ち込んでいます(経産省.”石油統計(確報)”)。

高市首相は「ナフサ2ヶ月分と川中製品(中間製品)2ヶ月分を合わせて、計4ヶ月分の在庫を確保している」と説明していました。

日経新聞は7日、高市首相の発信に関連して「ナフサ、高市首相『在庫4カ月』で安心? 状況改善でも一部化学品は不足」という記事を公開しています。

記事では、ナフサについて、三井化学がアメリカやアフリカなどからの調達によって「6月初旬までは稼働維持できる分を確保している」と答えるなど、「中長期での安定調達を確約出来たとはいえないが、緊急かつ短期的な原料確保は進みつつある」と伝えています。

一方で、政府が「2か月分ある」と主張する中間材料について「計算上で何か月と言えても製品ごとには異なり、供給網を細かく見ていく必要がある」(素材大手幹部)というコメントも書かれています。一例として、日経はシンナーを挙げて「原料逼迫で自助努力ではどうしようもない」(日本ペイントホールディングス)という声を伝えています(以上、日経新聞”ナフサ、高市首相『在庫4カ月』で安心? 状況改善でも一部化学品は不足”)。

国内でナフサや関連品の値上げ相次ぐ

実際には、ナフサや関連品の不足による値上げや生産調整は起きています。

ロイターは3月27日には「ナフサ不足で医療機器が出荷困難の可能性、透析・手術用の品目 4━8月にかけて=関係者」という記事で「ナフサの供給不足がこのまま深刻化した場合、緊急性の高い医療機器が品目によって​は4月半ばから8月ごろにかけて不足に陥る可能性がある」と報じました。記事では不足する製品として、人工透析に使うチューブ、手術中に使用する廃液容器などを挙げています。

4月6日には、高機能樹脂や合成繊維などを手がける大手化学メーカー「クラレ」がナフサ価格の高騰や物流の混乱を受けて原材料価格が急上昇した影響で、20%の値上げを発表しました(クラレ.”イソプレンケミカル関連製品の価格改定について”)。

総合化学メーカーの旭化成も7日、ナフサ由来原料値上げによる影響でウレタン樹脂原料の値上げを発表しています(日本経済新聞.”旭化成、ナフサ由来原料値上げ”)。

日経新聞は12日にも「ナフサ高騰、旭化成系は住宅値上げ 建材メーカー4割が在庫に影響」という記事を配信し、「建材メーカーの4割が3カ月後の在庫に影響が出ると予測」「ナフサが原料のシンナー不足により、塗装関連商品で5月中旬ごろから欠品が生じそうな状況」(三井ホーム)などと伝えています。

さらに13日には「TOTO、ユニットバスの受注を停止 ホルムズ封鎖で材料ナフサ不足」と報じました。政権の発信にも関わらず、ナフサ不足はすでに健在化しています。

ナフサを巡る動きは海外でも

韓国やシンガポールでも、ナフサ不足に対する動きが活発になっています。

ナフサ需要の45%を輸入に依存する韓国は、国内の需給を優先させるため、3月27日から5カ月間にわたり、すべてのナフサ輸出を原則的に制限する措置をとりました。また、買い占め、売り惜しみも禁止しました(日本貿易振興機構.”韓国政府、ナフサ輸出制限などを実施”)。

原油の多くを中東からの輸入に頼るシンガポールでは、ナフサを原料とする医療機器の価格高騰を懸念する声が広がっています。現地の医療サプライヤーからは「コストが約50%増加する可能性がある」との指摘も出ています。

こうした事態に対し、シンガポール保健省は「公立医療機関では十分な備蓄を維持しており、調達ルートも多様化しているため、現時点で医療物資の不足はない」と声明を出し、供給の安定性を強調しています(CNA.”Middle East tensions push up cost of key plastics ingredient used in medical supplies”)。

境野氏に聞く 問題の本質は

日本ファクトチェックセンター(JFC)は報道特集で「6月には詰む」と発言した境野氏に4月10日、改めて取材しました。

4か月分在庫があるのに不足するのはなぜ?

Q 政府は「ナフサ在庫2か月分+川中製品2か月分で合計4か月分を確保した」と発表している一方で、製品が不足しているという声が広がっています。

境野氏: 政府が主張する「4か月分」という数字はあくまで計算上のものです。川中製品2か月分と言っても、ナフサからできる石油化学製品はエチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエンなどたくさんある。そこからプラスチックや合成繊維や合成ゴムや塗料など、膨大な中間製品をつくります。

何がどれだけ確保されているのか、詳細は経産省でも把握することが困難でしょう。まだ4月ですが、実際にシンナーが不足して工事を中止した、病院でゴム手袋などの入手が難しくなっているなどの声を聞くようになっています。

「2か月分の在庫は計算上の数字」

Q つまり、計4か月分在庫があっても、不足する製品もあるということですか。

境野氏: ナフサ在庫が2か月分あるというのも、各国との交渉で積み上げられた数字で、日本に届いていない分があります。まだ原油の状態で、ナフサに精製していないものもある。

実際に国内にあるナフサは0.5か月分です。だからこそ、石油化学メーカーはエチレンプラントを半分近く稼働停止しました。

「世界中で始まる争奪戦」

Q 政府は中東以外からの調達を倍にし、供給不足を埋めようとしています。

境野氏: 経産省が発表した資料を見てみましょう。日本ではこれまで月約280万klのナフサが供給されていました。そのうち左下に書かれている①の110万kl/月が国内精製、②約45万kl/月が中東以外からの輸入、③約120万kl/月が中東からの輸入です。

このうち③がホルムズ海峡の封鎖でゼロになりました。120万kl/月の不足分について、②の「中東以外からの45万kl/月」を2倍の90万kl/月にしても補い切れません。だから、政府は⑥の「川中製品の調達の強化」と⑦の「川中製品の在庫の活用」をすることで、従来の月280万klを満たそうとしています。

経産省資料などをもとにJFC作成

Q 月75万klは川中製品の在庫と調達強化で補う計算ですね。

境野氏: 在庫はいずれなくなります。調達を強化しようにも、日本だけでなく世界中でナフサ不足が起こる中での争奪戦になります。どこまで製品調達ができるのかはわかりません。

Q 韓国が輸出制限をするなど、まさに争奪戦です。⑤の中東以外からの輸入を倍にすることは可能でしょうか。

境野氏: わかりません。たとえ達成したとしても、達成し続けるのは非常に難しいでしょう。

「不安を煽った」という批判には

Q 政府が「確保している」と言うのに対し、「6月に詰む」などの発言は不安を煽っているという批判があります。

境野氏 :「詰む」という言葉に注目が集まって、私のところにも直接様々な批判が来ています。しかし、私が番組で解説した「需要に供給が追いつかなくなり、日本にとって深刻な影響が出る恐れがある」という言葉は、国の公的な資料に基づく発言です。何も間違っていない。

不安を煽ったというよりも、経産省の資料を見て不安にならないほうがおかしいと思います。明らかに不足するからこそ、関係者も必死に調達の強化に動いているわけです。

対策は「ホルムズ海峡の通行一択」

Q 対策は「ホルムズ海峡の通行一択」と主張していました。他に道はないでしょうか。

境野氏: 残念ながらありません。④のナフサ国内精製月110万klの維持は原料の原油がなければ不可能で、その95%は中東からの輸入です。原油に関しても争奪戦です。現状で根本的に供給不足を解決するには、ホルムズ海峡の通行一択です。

今まで、原油も、製品としてのナフサも中東に依存してきました。オイルショックを経て長期契約が生まれ、さらに中東産原油に合わせる形で、日本の石油業界と石油化学業界は今日まで発展してきました。

これを簡単に供給ルートの多様化で片づけることは出来ない。今後については、中東情勢の安定化と戦後の湾岸諸国復興への支援による信頼関係強化、これが日本に課せられた使命だと思います。

経済産業省の見解は

JFCは、国の供給見通しについて、経産省素材産業課に問い合わせています。返信があり次第、追記します。

出典・参考

石油連盟.”ナフサとは”.https://www.paj.gr.jp/statis/faq/74 ,(閲覧日2026年4月14日)

経済産業省.”ナフサの状況について”.https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/material_industry/pdf/260326.pdf ,(閲覧日2026年4月14日)

資源エネルギー庁.”第3節 一次エネルギーの動向”.https://www.enecho.meti.go.jp/about/energytrends/202506/html/s-1-3.html ,(閲覧日2026年4月14日)

TBS.”激化するイラン攻撃で続くエネルギー危機 石油不足が直撃で問われる日本政府の対応【報道特集】”.https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2579048 ,(閲覧日2026年4月14日)

首相官邸X公式アカウント.”ナフサ関連の誤った情報について”.https://x.com/kantei/status/2041057278644859053 ,(閲覧日2026年4月14日)

経済産業省.”石油統計(確報)”.https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/sekiyuka/index.html ,(閲覧日2026年4月14日)

日経新聞”ナフサ、高市首相『在庫4カ月』で安心? 状況改善でも一部化学品は不足”,https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC067AL0W6A400C2000000/ ,(閲覧日2026年4月14日)

ロイター”ナフサ不足で医療機器が出荷困難の可能性、透析・手術用の品目 4━8月にかけて=関係者”.https://jp.reuters.com/markets/commodities/HJNOEZOE4RPQXNDYBVOA3CXZMA-2026-03-27/ ,(閲覧日2026年4月14日)

クラレ.”イソプレンケミカル関連製品の価格改定について”.https://www.kuraray.com/jp-ja/news/2026/0406_2/ ,(閲覧日2026年4月14日)

日本経済新聞.”旭化成、ナフサ由来原料値上げ”.https://www.nikkei.com/nkd/company/article/?DisplayType=1&ng=DGKKZO95515060X00C26A4TB1000&scode=3407&ba=1 ,(閲覧日2026年4月14日)

日本経済新聞.”ナフサ高騰、旭化成系は住宅値上げ 建材メーカー4割が在庫に影響”.https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0361U0T00C26A4000000/ ,(閲覧日2026年4月14日)

日本貿易振興機構.”韓国政府、ナフサ輸出制限などを実施(韓国、中東)”.https://www.jetro.go.jp/biznews/2026/03/3ccf30f9b75b36da.html ,(閲覧日2026年4月14日)

CNA.”Middle East tensions push up cost of key plastics ingredient used in medical supplieshttps://www.channelnewsasia.com/singapore/middle-east-naphtha-supply-cost-rise-plastics-ingredient-medical-supplies-6018026 ,(閲覧日2026年4月14日)

検証:木山竣策
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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