外国人犯罪が急増? 日本の治安は悪化した? 専門家に聞くデータでわかること・わからないこと
「外国人によって日本の治安が悪化している」という趣旨の投稿は、SNS上で繰り返し拡散します。「外国人は不起訴だらけ」という検証済みの誤った情報もあれば、検証が難しいものもあります。
日本ファクトチェックセンター(JFC)は2025年7月に「外国人犯罪が急増している」という言説を検証し、「ミスリードで不正確」と判定しました。投稿者は2023年に検挙件数が増えているという犯罪白書のデータを引用して「急増」と主張していましたが、2020-22年は新型コロナによって外国人の新規入国者が激減しており、その説明が不十分で文脈を欠いていると判断したからです。
ただ、JFCは検証の際、公開されていた2024年の検挙件数のデータを見落としていました。これについて、2025年12月に外部から指摘を受けて記事を見直し、2026年1月に不正確という判定を撤回しました。
JFC”外国人犯罪が急増している? 【#参院選ファクトチェック】(訂正あり)”
判定を「正確」や「ほぼ正確」に変えなかったのは、どのデータを検証に使うかによって見え方が異なり、また、数字だけでは見えないものがあるからです。
改めて数字を確認しておくと、来日外国人の検挙件数は2023年は1万40件(前年比17.5%増)で、新型コロナ期に減っていたのがコロナ前の水準に戻った形でした。しかし、2024年は1万3405件(前年比33.5%増)。これは2010~11年と同じ水準で、コロナ前を大きく上回っています。
この数字だけを見ると「外国人犯罪が急増」という言説は「正確」「ほぼ正確」と言えそうです。

ただし、犯罪をめぐるデータは「検挙件数」だけではありません。
例えば、来日外国人の検挙件数は2022~24年で56.8%増えていますが、検挙人員(2024年6368人)の増加は同期間で27%です。この間、外国人新規入国者数は10倍の3402万人に増えています。
また、外国人だけでなく日本人を含む全体でも刑法犯の2024年の検挙件数287,273(前年比6.6%増)、検挙人員191,826(同4.7%増)と増えています。(以上、法務省”令和7年版 犯罪白書”)
来日外国人の検挙件数が2023,24年と2年連続で増えているのは、客観的な事実です。しかし、「外国人犯罪が『急増』」と言えるのかは、より広い分析が必要になります。JFCではこういう解釈の余地がある言説は編集部内で議論し、多くの場合、検証対象から外してきました。
ただ、今回に関しては一度出した判定を撤回するだけでは「外国人が増えて治安が悪化しているのか」という疑問だけが残ります。そのため、JFCは犯罪統計と移民政策の専門家に、それぞれの観点から解説をしてもらいました。
「目の前の数字だけでは、わからないこともある」 津島昌寛・龍谷大教授
犯罪白書などのデータから何が読み解けるのか。警察などの官庁統計やアンケート調査のデータを用いて犯罪現象を統計的に考察する「計量犯罪学」が専門の津島昌寛・龍谷大教授に聞きました。
外国人の犯罪率は日本人の1.72倍は本当か?
——津島教授は「『外国人の犯罪率は日本人の1.72倍』は本当か?」という記事で、警察庁が2025年11月に参議院内閣委員会で答弁した「昨年(2024年)の外国人の犯罪率は日本人の1.72倍」という数字について、年齢と性別の要素を加味すれば1.36倍になるという試算を出しました。この検証の狙いは何でしょう。
津島:警察庁が発表した数字には、いろんな前提があります。「外国人」は就労や留学などで長期滞在する人や永住者を合わせた「在留外国人」を指しており、観光などの短期滞在者は含まれていません。また犯罪率は「検挙人口比」を指しており、刑法および特別法に違反して検挙された人数を、在留外国人、日本人のそれぞれの母集団で割った数値です。また、特別法から入管法違反を除いています。
【用語解説】刑法と特別法とは
刑法とは、殺人、窃盗、詐欺などの犯罪とその刑罰を定める法律。特別法とは、覚せい剤取締法や道路交通法など刑法以外で特定の分野について定めた法律。
【用語解説】入管法とは
入管法(出入国管理及び難民認定法)とは、特別法の一つで日本に出入国するすべての人の管理や手続きに関する法律。日本人と外国人の検挙数などを比較する際は除外されるのが一般的。
その条件で比較すると、確かに「1.72倍」です。ただし、ここでは「年齢や性別」を考慮していません。在留外国人は学生や労働者など20~30代の男性が多い。犯罪学で言えば、犯罪を犯しやすいグループです。一方で日本人の母数には、犯罪を犯す可能性が低い子どもや高齢者、女性がたくさん含まれている。条件がかなり異なるのに比較するとおかしいですよね。そのため、年齢や性別の要素を入れて推計し、計算したら1.36倍となりました。
通報されない犯罪や短期滞在者による犯罪も考慮すべき
——外国人が犯罪を犯す確率は、1.72倍よりは低いけれど、日本人よりも高いと言えるのでしょうか。
津島:警察の統計は日々の業務をまとめた統計です。検挙数で言えば、犯罪が起きて、通報があり、受理して、捜査して、検挙してはじめて数字となります。そもそも通報がなければ犯罪が起きているかどうかもわかりません。今回使われている数字だけを見て、外国人の犯罪率が高いか低いかを判断するのは難しいです。
先程も言ったように、警察庁が発表した今回の数字では短期滞在の外国人観光客を除いて計算しています。しかし、警察庁が毎年編纂している「犯罪統計書」では、観光客による日本滞在中の犯罪について数値を公表していません。在留資格を持たず、3ヶ月以内の滞在中に犯罪を犯して検挙された人は、それほど多くはないでしょう。しかし、母数は年間4000万人と巨大です。これらも考慮すると、また違った数字になります。
——SNSでは「外国人によって治安が悪化した」という投稿が目立ちます。
津島:法務省の「犯罪被害実態調査」という統計があります。警察に通報されず、認知されていないもの(暗数)を含めて、どれだけの犯罪が起きているかをアンケート(全国規模の標本調査)で調べるもので、4年ごとに実施します。その調査では、国民に対して体感治安についても尋ねています。
「2年前と比較して犯罪は増えたと思いますか」という質問に対して、「日本全体」では「とても増えた」と答える人が多いのに、「居住地域」では「同じくらい」と答える人が多い。つまり、身の回りの治安が悪化していなくても、メディアなどから得た印象で「日本の治安は悪化している」と思いがちなのです。
——テレビで外国人が犯罪を犯して逮捕されたというニュースが流れ、SNSで「外国人犯罪が急増」という投稿が大量にある。これらが心理的に影響するのでしょうか。
津島:大半の日本人は外国人との接触をもっていません。したがって、伝聞に振り回されやすい。だからこそ、冷静に数字を見る必要がありますし、また、数字だけではわからないこともあります。
数字の背景を理解し、質と量が揃ったデータで分析する
——警察庁も国会の答弁で「1.72倍」という数字について「正確に比較することができる統計数字を特定することは困難」「単純に比較することは困難」と繰り返し言っています。けれども、SNS投稿では「1.72倍」という数字が独り歩きします。
津島:その数字がどういうデータや計算から出てきたのかを確かめる必要があります。そのためには、発信者にも、情報の受け手にも、メディアリテラシーやデータサイエンスの基礎的な知識が必要になります。
——編著者の1人となっている「数学嫌いのための社会統計学」では、非常に基礎的な統計の用語から、実際にどのような計算で分析していくかというプロセスまで解説していますね。
津島:自分で計算してみないと、何をどのように確認すればよいのか、誤っていても、どこで間違っているのかがわかりません。数字で社会を理解するためには、自分で計算もしてみてどういう作業が必要か理解しないといけない。
もう一つ重要なのは、目の前の数字だけではわからないこともあると理解することです。犯罪白書の統計だけではなく、通報されなかった事件(暗数)をアンケートでどのように把握するか。短期滞在者や在留資格別の犯罪件数はどうなのか。詳細なデータの収集・公表・分析が、今後の政策にも活きるでしょう。
大事なことはデータの量だけではありません。当事者の声や外国人と接している人たちへのインタビュー調査など、質的なデータを集めることも重要です。質と量がそろえば、より深い分析が可能になります。
「積極的介入で防ぐ体感治安の悪化」橋本直子・ICU准教授
検挙数などのデータだけでは把握できない「体感治安の悪化」は、どのように解消できるのか。元国連職員で、国際難民法・国際刑事法などが専門の橋本直子ICU准教授に聞きました。
犯罪統計だけでは見えない体感治安の悪化
——「外国人によって治安が悪化する」という言説を、どう考えますか。
橋本:様々な研究がありますが「直接的な因果関係は認められない」という考え方が、国際的に見て主流です。来日外国人の検挙件数が過去2年増加に転じたのは確かですが、来日外国人も激増しました。外国人によるどのような犯罪が日本人と比較してどれだけ増えて治安に影響しているかを調べるには、より細かい分析が必要です。
例えば、外国人の犯罪で明らかに増えているのは「窃盗」です。2024年には永住者や在日米軍などを除く来日外国人の検挙の67.9%を占めました。もちろん窃盗なら良いというわけではありませんが、殺人や強盗や不同意性交のような「凶悪犯罪」がものすごい勢いで増えているというわけではありません。
——統計上の数字だけでなく、体感的な治安の悪化を訴える人たちもいます。
橋本:言葉が通じなかったり、見た目が違ったりするだけで警戒心を持ってしまう人がいます。また、日本人としての「暗黙の了解」を守ってもらえないことに対する苛立ちも、「治安の悪化」という感情に混ざっているのではないでしょうか。
日本には、電車の中は静かにする、列を作る、温泉の入り方などの行動様式があります。それを守らない人を見ると、犯罪とまではいかなくても「平穏を乱されている」と感じて、体感治安の悪化につながりがちです。
「犯罪ではないから」と軽く考えるのではなく、日本の文化や規範を外国人により理解してもらい、生活様式を合わせてもらうことで、期待のすれ違いを防げる面があるのではないかと思います。
迷惑行為を防ぐためには
——「外国人は危険だ」「ひどいことをしている」という投稿が、ショート動画などでSNSに大量拡散しています。生成AIで作ったディープフェイクなどもありますが、実際に問題を起こす外国人がいることも事実です。
橋本:中長期で住む人には日本語学習やオリエンテーション受講を義務化する。短期旅行者にもビザ(やJESTA)申請前になんらかのガイダンス動画を見てもらうような取り組みが広がれば、迷惑行為を防ぐことにつながります。国籍を問わず犯罪を行う人を取り締まるのは当然ですが、体感治安の悪化を防ぐための対策も必要ではないでしょうか。
「そもそも、外国人を受け入れなければ良い」という人もいます。そういう人には、いま日本でどれだけの外国人が生活し、様々な仕事の現場や社会保障制度を支えているのか、現実を見てほしいと思います。
アメリカの映画に「A day without a Mexican(メキシコ人がいなくなる日)」という作品があります。アメリカの様々な産業で働く中南米出身の移民がいなくなったら、社会が回らなくなるという話です。日本も、もし外国人がいなくなったらどうなるか。
野放図に外国人を受け入れろという話では全くありません。日本に住み、働いたり、学んだりする外国人を日本社会にどう取り込んでいくのか、どう「包摂社会」を作っていくのかが問われているのです。
【参考】「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)
※外国人労働者は2024年10月末時点で約230万人で、届出が義務化された2007年以降で最多。日本の総就業者数の約3.4%に。製造業や宿泊・飲食業や農業などの分野や時期や職種によっては、その割合はさらに高くなる。
「移民政策を取らない」のに増え続ける外国人
——日本政府は「移民政策は取らない」という立場にもかかわらず、長期滞在する在留外国人や短期の訪日外国人は増えています。
橋本:「移民」の定義について、国連事務総長は「通常の居住国以外の国に移動し、少なくとも12ヶ月間その国に居住する人」を推奨していますが、国際的に定まっているわけではありません。欧州連合(EU)は「EU域外から来て3ヶ月」を目安にしています。
日本の場合、国内法には定義がありません。自民党は2016年に「入国の時点で永住権を持っている人」としました。しかし、新規入国時点で永住権を持っている外国人は日本の入管法上、原則的にいません。ほとんど存在しないからこそ「移民政策もいらない」という逆算的な論理になります。
——実際には永住者や技能実習、特定技能、留学生など、長期滞在の外国人は増え続けて400万人(総人口の3.2%)を超えています。
【参考】令和7年6月末現在における在留外国人数について
※外国人の中長期在留者数と特別永住者を合わせた在留外国人数は2025年6月末時点で395万6619人で過去最多を更新した。
橋本:国際的な定義でいう「12ヶ月の居住」を超える外国人を日本は既にたくさん受け入れているので、「移民政策ではない」という自民党の論理は矛盾しています。
移民政策というと「永住外国人を無制限にどんどん受け入れる政策」というイメージがありますが、実際にはそうではありません。どういう外国人を、どういう目的でどういう条件でどれだけ受け入れて、その受け皿をどう整えるか、というのが移民政策です。
日本は90年代から受け入れルートを拡大してきました。日本の労働力不足を補うために、拡充してきた技能実習や特定技能などの制度もそうです。
それでも政府与党が「移民政策はとらない」と主張するのは「労働力として来た人たちは出稼ぎなので、いつか母国へ帰る、だから日本語教育などもいらない」という中途半端な姿勢を維持するためでしょう。選挙で、保守派支持層の票が逃げるのを避けるためでもあると思います。
欧州で広がるノルウェー型の受け入れ
——「出稼ぎ」という論理では中長期的な受け入れ体制の充実が難しいのでは。
橋本:政策だけでなく、市民として受け入れるしかない、という日本人側の覚悟もできません。多くの産業は、人手不足で外国人がいないと成り立たなくなっていますし、社会保障制度も同じです。そのため、受け入れルートはどんどん増える。なのに「移民政策はとらない」という建前があるため、現実と政策が乖離しています。
移民の受け入れ方は様々です。例えば、スウェーデンは従来は極めて寛容で、受け入れ後の自由度も高かった。ただ、そうなると言語の習得などが進まず、特に二世などが社会に馴染みにくくなりました。
一方、ノルウェーは「中長期的に住むなら言語を学びましょう」と移民の生活に介入する。おせっかいかもしれないけれど、社会への統合は進みます。そのため、欧州ではノルウェー型が広がりつつあります。
あとがき
JFCはファクトチェック組織として、情報の真偽検証を専門としつつ、メディア情報リテラシーの普及のために、現代の情報環境を理解するための解説記事も配信しています。
一方で、新聞社などの報道機関のような「社説」や「論説」などのオピニオン記事は原則的に書いていません。非党派性と公正性を保ち、あらゆる言説について客観的な検証をし、また、オピニオンに基づいてファクトチェックをしているという誤解を避けるためです。
今回の記事に関しても「外国人の受け入れ拡大を求める」というオピニオン記事ではありません。外国人と治安の話題に関して、客観的なデータやその読み解き方を共有するためのものです。
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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