ユースファクトチェック選手権優勝の大学生チームが語る検証能力を鍛える鍵 「普段の生活でも使える能力ばかり」

ユースファクトチェック選手権優勝の大学生チームが語る検証能力を鍛える鍵 「普段の生活でも使える能力ばかり」

高校生や大学生ら若者世代を対象に情報検証スキルを競う「ユースファクトチェック選手権」。日本、台湾、タイ、インド、モンゴルの各国内大会を勝ち上がった計25チームによる世界大会が12月13日に開かれ、日本から参加したチームが優勝しました。

選手権はGoogleが運営していた前身の大会を引き継ぐ形で、アジアのファクトチェック団体が協力して昨年から開催。日本では日本ファクトチェックセンター(JFC)とメディア情報リテラシー教育に取り組む学生スタートアップ「Classroom Adventure」が共催しています。

75チーム194人が参加した国内大会を首位で勝ち抜き、世界大会では昨年上位を独占した台湾のチームを抑えて優勝したチーム「YAYO-SAN」の2人、札幌大谷大1年の渡辺魁哩さん(20)と北海道大2年の千葉蛍太さん(20)に検証スキルを鍛える秘訣と大会の感想を聞きました。

昨年大会の経験活かし、生成AIで「自主練」

昨年の大会に「軽いノリで参加した」という渡辺さんが、今度は本気でやってみようと誘ったのが、高校の同級生の千葉さんでした。

教育学を専攻する千葉さんは「普段からTikTokで流れてくるAI動画とか詐欺広告を調べるのがクセ」。音楽を学ぶ渡辺さんは「Xで『@Grok ファクトチェックして』という言葉を見てはじめてファクトチェックという言葉を知った」と振り返ります。

大会で出される問題は「記事の中から間違いを探す」「写真が撮影された場所を見つけ出して関連情報を調べる」「動画の中で生成AIで加工された部分を指摘する」など。

本格的にファクトチェックについて学んでいたわけではない二人ですが、対策は万全。「JFCのファクトチェック講座の動画を見た」というだけでなく「お互いに生成AIで作った画像を送り合って間違いを指摘したり、撮影場所を当てるクイズを出し合ったりしてました」(渡辺)

難問にも「普段の生活でも使える能力ばかり」

11月29日の国内大会で優勝して臨んだ世界大会。「資料が英語だし、Googleマップや画像検索など様々な手法を駆使しないと解けませんでした」(千葉)

関連資料を調べて記事の中にある誤りを見つける問題
建物を特定し、実際の写真と比べてAI加工を見破る問題

「2人で大まかな部分を調べ、選択肢別に手分けして深掘りする」という役割分担で、国内大会に続いて世界大会も全問正解で優勝。同じく全問正解だった台湾チームを解答スピードで上回りました。

2人は大会を「楽しみながら学べた」と振り返ります。

「大会で必要だったのは、普段の生活でも使える能力ばかり。サーチオペレーターを使った検索力だったり、画像の検索だったり」(渡辺)

「TikTokを見ててちょっと調べて見るような普段からの『クセ』が役立った。大学の授業で地域の外国人に関して誤った情報が広がっている状況を学んでた。そういうファクトチェックにも役立つ」(千葉)

広い世代に学びを広げるために

「高校や大学の教育にも、楽しみながら学べるこういうイベントを取り入れて欲しい」と2人は語ります。また、若い世代だけではなく、高年齢層に課題があるのではないかという指摘もありました。

「若い世代はスマホを使い慣れている。情報の検索とか画像の検索とかを日常的にやれるのは、スマホに慣れているから。スマホを使えることがファクトチェックをやるうえでもポイントになるので、上の世代にもそういったことを学ぶ場が必要では」(千葉)


検証スキルとクリティカルシンキングの重要性(古田の視点)

ユースファクトチェック選手権のクイズは、渡辺さんも指摘した通り、「普段の生活でも使える能力ばかり」です。

怪しい部分を特定し、根拠となる情報を素早く探す検索能力、画像や動画を検索するツールや手法、生成AIの描写の矛盾を見抜くコツ。これらを知っているだけでなく、素早く使いこなす。

計8問の回答時間は各2~5分でした。短すぎると感じた参加者もいるでしょうが、実際の生活を考えてみてください。あなたはSNSで流れてくる真偽が不確かな情報の中身を確認するのに、一つにつきどれだけの時間を使いますか?

ほとんどの情報を1秒も確認せずに「そうなんだ」と受け入れたり、シェアしたりしていませんか?

能登半島地震の際に「身動きが取れない。助けてくれ」というような投稿がXに相次ぎました。救助要請を広げようとたくさんシェアされた投稿もありました。しかし、投稿主を確認してみると、他に日本語の投稿がない。そんな人が、その瞬間に突然能登にいて、流暢な日本語で助けを求めるでしょうか?

投稿アカウントを見れば一瞬で確認できるのに、それすらせずに思わず信じてシェアしてしまう。これが問題です。JFCは設立から3年で約900本の検証をしてきましたが、その多くは、選手権で使うような手法さえ知っていれば、数分でおかしいと気づける内容でした。

JFCでは年に1度の選手権以外にも記事や動画で無料で公開している「JFCファクトチェック講座」を通じて、実践的なメディア情報リテラシー教育に取り組んでいます。

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

また、教員担当者向けには講師養成講座も実施しています。

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は12月20日(土)午後2時~3時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1220.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知

その中で私が強調しているのは「ファクトチェックスキルは重要だが、それよりもまず、クリティカルシンキングを身につけること」です。選手権でもキックオフイベントでこのことを説明しました。

クリティカルシンキングは直訳で「批判的思考」、本質的には「吟味する思考」です。ある情報を見たときに、それを瞬間的に肯定したり、否定したりするのではなく、しっかりと吟味する。

この思考方法がなければ、ファクトチェックスキルを身に着けても「自分が気に入らない情報を検証してやろう」という短絡的な方向に進みがちです。これでは自分のバイアス(偏り)を強化してしまう危険性があります。

自分がある情報を「いいな」と共感するときに、「なぜ自分は共感したんだろう。バイアスのせいじゃないか」と自分自身をも吟味する。そのようなクリティカルシンキングを身に着けたうえで、ファクトチェックをしていくことが、幅広く、信頼性の高い情報の活用に結びついていくでしょう。


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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地震発生後に大量の生成AI動画、「ディープフェイク」は一般化 透かしや細部の確認など見分け方のコツも解説【ファクトチェック】

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