「正確」か「誤り」かだけじゃない 「根拠不明」という“グレー判定”の難しさ【ファクトチェックの舞台裏】

「正確」か「誤り」かだけじゃない 「根拠不明」という“グレー判定”の難しさ【ファクトチェックの舞台裏】

日本ファクトチェックセンター(JFC)が検証作業の舞台裏を語るコラム。今回は、編集部でいつも悩む「判定のつけ方」。正確な情報ではないということははっきりしていても、「誤り」か「不正確」か「根拠不明」か...。最後まで悩んだ実例を紹介します。

JFCの判定は5段階

大手メディアの記事では、賛否が分かれるテーマで肯定派と否定派の意見を並べる「両論併記」がよく見られますが、ファクトチェックは客観的・科学的な根拠に基づき、その内容が事実として正しいのか誤りなのかを検証します。賛否の意見を書くものではありません。

JFCの判定は「正確」「ほぼ正確」「根拠不明」「不正確」「誤り」の5段階です。国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)に加盟している世界中のファクトチェック団体の判定基準を参考にしつつ、よりわかりやすくするため、評価を5段階に絞りました。

JFCのサイトより)

ファクトチェックでは「正確」か「誤り」かで意見が割れることはほぼありませんが、「誤り」「不正確」「根拠不明」の線引きは日常的に議論になります。

もちろん、JFCが独自の基準で判定しているため、それが絶対的な「正解」ではありません。同じ内容を別の組織が検証すれば、異なる結論になることはあります。

それでも編集部では、なるべく一次情報に当たり、リンクを貼って、検証過程まで公開することで、検証の透明性を保ち、読者自身がJFCの検証が正確かを再検証できるように努めています。特定の組織やイデオロギーを守るためではなく、より健全な情報空間に貢献したいからです。

判定で意見が分かれたら「あとがき」で説明

「慎重に判定するなら、『誤り』といい切らずに『根拠不明』でいいじゃないか」という意見も聞きます。けれども「根拠不明」というグレーな結論を連発すると、「『誤り』ではなく『根拠不明』ということは『正しい』可能性もある」と曲解されたり、新たな誤情報を生んだりする恐れもあります。

検証対象の中には、例えばXの投稿の前半部分が「誤り」で、後半部分が「正確」や「根拠不明」というケースも多々あります。こうした場合、スタッフによって検証対象の捉え方が異なるため、投稿の返信欄を参考にしつつ、読者がどのように受け止めるか、どこを検証対象にするのが適切かを議論しています。

そして、ただ判定を出すだけではなくて、その判定に至った経緯や編集部内での議論を「検証過程」や「あとがき」に書き、判定を補うように努めています。

データが無く、肯定も否定もできない→「根拠不明」

「根拠不明」と「不正確」に悩み、「根拠不明」にしたケースをご紹介します。2022年11月、「厚労省職員のワクチン接種率が10%」という情報が拡散しました。

JFC厚生労働省の職員のワクチン接種率が10%?【ファクトチェック】

厚労省に職員の接種率について取材したところ、「そもそもデータを取っていない」「事実ではありません。人事課でも把握していません」という回答でした。

厚労省がデータを取っていないということは、拡散していた「接種率10%」という数字には根拠がありません。一方で、その「10%」が誤っているという明確な根拠もありません。

編集部では「国内全体のワクチン接種率が80%を超えている中で、厚労省の職員が10%というのは常識的に考えにくい。『誤り』でいいのでは」という意見も出ましたが、誤りだと断定する根拠も無いため、「根拠不明」と判定しました。

データが存在せず、根拠も示されていない→「根拠不明」

2025年2月には「30歳の人が3回新型コロナワクチンを打ったら55歳までしか生きられないデータが出た」「新型コロナワクチンは人口削減ワクチンだ」と主張する投稿が拡散しました。

JFC新型コロナワクチンで寿命が短くなる? 根拠不明のデータ【ファクトチェック】

新型コロナワクチンの一般への接種が世界で始まったのは、2020年12月8日の英国からでした。世界で接種が始まってから4年ほどしか経っていない時点で、25年後のデータを取るのは不可能です。

また、拡散した投稿は、獣医を名乗る男性の話を根拠としていますが、男性は論文のタイトルや掲載誌名などを示していませんでした。類似の情報は、過去に世界中で何度も検証され、各国のファクトチェック団体などが「根拠不明」や「誤り」と判定しています。この時もJFCは、データが存在しない点を重視して「根拠不明」と判定しました。

公的データや取材も考慮→「根拠不明」

2025年6月には「大阪万博の会場でレジオネラ菌入り殺虫剤をまいたため、子どもたちに肺炎の症状が出て学級閉鎖が相次いでいる」という情報が拡散しました。

JFC万博を訪れた子どもたち、肺炎で学級閉鎖が相次ぐ? そのような事実は確認できない【ファクトチェック】

JFCの調べで、製薬会社が万博協会に虫よけスプレーや殺虫剤を提供したことや、万博会場でレジオネラ属菌が検出されたことなどは、事実であることを確認しました。

また、製薬会社や大阪・関西万博感染症情報解析センターにも取材をしました。ただ、関係者の説明だけでは、自らに不利な情報を開示しない可能性があるため、不十分です。

そこで、大阪府感染症情報センターがレジオネラ症について公開している過去10年分のデータや、大阪市教育委員会の「(大阪市内の学校で学級閉鎖は)概ね例年通りの発生状況だ」という回答を組み合わせて、「根拠不明」と判定しました。

このように、客観的・科学的な一次情報が存在しなかったり、主張を裏づける証拠が不十分だったり、部分的に事実があっても、全体を証明する根拠が欠けている場合は「根拠不明」と判断しています。

新聞社とJFCで判定が分かれた事例

新聞社とJFCで判定が分かれた事例もあります。2025年8月、40年前に起きた日本航空123便墜落事故について、「自衛隊に撃ち落とされた」という主張が、事故機の「完全版ボイスレコーダー」と称する動画とともに拡散しました。

JFC”日航123便墜落事故で機長が「被弾したぞ」と発言? 記録も音声も根拠もなし【ファクトチェック】

JFCは、国が公開している航空事故調査委員会の記録や、拡散した動画を調べた上で、根拠不明と判定しました。判定を「誤り」とせず、「根拠不明」にしたのは、以下のような理由です。

1.航空事故調査委員会の記録にも、拡散者が主張する「完全版ボイスレコーダー」にも「被弾した」という発言はなかった。
2.一方で「自衛隊に撃ち落とされていない」ということを、JFCが客観的・科学的に証明することが難しい。

JFCが配信する8日前、朝日新聞は「日航機墜落、『自衛隊ミサイル誤射説』をファクトチェック→『誤り』」という記事を配信しました。こちらの判定は記事の見出しにある通り、「誤り」でした。根拠はJFCも参照した事故調の記録などでした。

同じ記録を見ても、判定結果がわかれることはあります。政府は事故原因の調査結果を公開しており、「自衛隊が撃ち落とした」という新たな証拠も無い。これらを踏まえて、「誤り」と判定するか、「根拠不明」と判定するか。

JFCは記事の中に判定の根拠となる資料へのリンクを掲載しています。ぜひ実際に資料をご覧いただき、ご自身が判定を考える手がかりにしていただければと思います。

出典・参考

International Fact-Checking Network. ”Empowering fact-checkers worldwide”.  https://www.poynter.org/ifcn/ (閲覧日2025年7月9日)

日本ファクトチェックセンター.”JFCファクトチェック指針”. https://www.factcheckcenter.jp/guidelines/ (閲覧日2025年7月9日).

“厚生労働省の職員のワクチン接種率が10%?【ファクトチェック】”.日本ファクトチェックセンター. 2022年12月16日
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/health/mhlw-staff-vaccination-rate-uncertain/ .閲覧日2025年7月9日

“新型コロナワクチンで寿命が短くなる? 根拠不明のデータ【ファクトチェック】”.日本ファクトチェックセンター. 2025年3月13日
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/health/fact-check-health-no-evidence-covid-vaccines-shorten-life-expectancy/ .閲覧日2025年7月9日

“万博を訪れた子どもたち、肺炎で学級閉鎖が相次ぐ? そのような事実は確認できない【ファクトチェック】”.日本ファクトチェックセンター. 2025年7月2日
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/health/fact-check-health-no-evidence-covid-vaccines-shorten-life-expectancy/ .閲覧日2025年7月9日

”日航123便墜落事故で機長が「被弾したぞ」と発言? 記録も音声も根拠もなし【ファクトチェック】”.日本ファクトチェックセンター.2025年8月19日
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/affairs/baseless-jal123-fake-voice-recorder/ .閲覧日2025年9月3日

”日航機墜落、「自衛隊ミサイル誤射説」をファクトチェック→「誤り」.朝日新聞.2025年8月11日
https://www.asahi.com/articles/AST8815RHT88UTIL03FM.html .閲覧日2025年9月3日

編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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イオンモール熊本の爆発はテロ? 現時点で未解明、漏洩したLPガスに着火した可能性も【ファクトチェック】

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2026年7月28日に発生した熊本地震の後、嘉島町のイオンモール熊本で起きた爆発事故をめぐり「テロだ」と主張する投稿が拡散しましたが、根拠不明です。経済産業省は漏洩したLPガスに着火した可能性に言及していますが、現時点で未解明です。イオンは8月5日、外部専門家らによる事故調査委員会を設置すると発表しました。 検証対象 拡散した言説 2026年8月2日、イオンモール熊本の爆発がテロによるものだと主張する投稿がXで拡散した。 検証する理由 8月5日現在、投稿は600回以上リポストされ、表示は19万件を超える。 同様の情報の拡散量を調べるため、「熊本」「イオンモール」「爆発」「テロ」など複数のキーワードを組み合わせてソーシャル分析ツールMeltwaterで調べると、総投稿数は8月5日までに約9900件あった(例1,2,3)。拡散のほとんどはXだ。 これらの投稿は根拠を示していないが、「ガス爆発には見えないね」「これは 熊本を略奪する為のテロですよ」など、投稿を真に受けたり、同調する反応が多い。「デマまたは不確定な情報を流すな」や「陰謀論だよ」などの指摘

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イオンモール熊本の爆発は「ガスコージェネレーション」が原因? 経産省「設置していない」【ファクトチェック】

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熊本地震後にイオンモール熊本で発生した爆発について、「ガスコージェネレーションシステムが原因だ」とする投稿がXで拡散しましたが、誤りです。経済産業省は「ガスコージェネレーションやガス発電機は設置していないことを確認している」と発表し、LPガスが原因だった可能性が高いと説明しています。またイオンは5日、事故原因を調べる事故調査委員会を設置すると発表しました。 検証対象 拡散した投稿 イオンモール熊本で発生した爆発を受けて、Xでは、都市ガスを燃料としてガスエンジンやガスタービンで発電し、排熱を冷暖房などに利用する「ガスコージェネレーション」が原因だとする投稿が拡散した(例1、例2)。  検証する理由 ソーシャルリスニングツールMeltwaterで調べると、これらの投稿の表示回数は少なくとも合計194万回を超えている。爆発の原因をめぐって、さまざまな根拠不明の情報が飛び交っているため検証する。 検証過程 イオンモール熊本の爆発 2026年7月28日午後16時27分ごろ、熊本県で震度7の地震が発生した。午後6時ごろ、嘉島町のショッピングセンター「イ

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