インフルエンザの偽・誤情報は毎年、形を変えて広がる 国内外の検証に見る5つの手口【プレバンキング】

インフルエンザの偽・誤情報は毎年、形を変えて広がる 国内外の検証に見る5つの手口【プレバンキング】

秋が深まり、インフルエンザワクチンの接種シーズンが始まりました。この時期は、ワクチンや流行をめぐる偽・誤情報も毎年のように広がります。日本ファクトチェックセンター(JFC)は、インフルエンザワクチンに関する投稿を繰り返し検証してきました。似たような主張は、海外でも拡散しています。今回は、海外の事例も合わせて、5つの「手口」を紹介します。

この記事は、偽・誤情報の手口を知ることで、同様の情報を目にしたときに騙されにくくする「プレバンキング」という予防的な取り組みです。詳しくは、JFC用語解説「プレバンキング」をご覧ください。

広がりやすい5つの手口

1. 本物の資料の一部分を切り出して「危険」と主張

本物の医薬品の添付文書や研究論文の一部を切り取って、「危険だ」と主張する投稿です。

2025年9月、点鼻ワクチン「フルミスト」の添付文書に「劇薬」「ミトコンドリア脳筋症の症状悪化」と書かれていることを根拠に、「子供の命が危険」だという主張が拡散しました。記載は事実ですが、そもそもワクチンは原則「劇薬」に指定されています。「劇薬は用法・用量に注意が必要だ」という意味であって、人体に有害という意味ではないと専門家は説明しています。

JFC.”インフルエンザワクチン「フルミスト」は劇薬だから危険? ワクチンは劇薬指定が原則【ファクトチェック】”2025年12月23日 

米FactCheck.orgは2022年12月、「インフルエンザの点鼻ワクチンが溶連菌(A群レンサ球菌)感染を増やした」という言説を検証して「根拠がない」と判定しました。根拠として出回った2014年のマウスを使った研究は、別の菌(肺炎球菌)に関するもので、溶連菌ではありませんでした。この論文の著者自身が、「誤った解釈」と指摘しています。

FactCheck.org.”No Evidence Flu Vaccine Increases Strep A Infections, Contrary to Online Claims”2022年12月23日.

2. 死亡増加をワクチン接種と結び付ける

死亡者数とワクチン接種を強引に結び付けて恐怖心をあおる主張もたびたび拡散します。「接種後に起きた何らかの現象」と「ワクチン接種」を科学的な裏付けなしに結び付けて考えるのは危険です。

スペインのMalditaは2024年10月、インフルエンザワクチンが死亡を増やすという主張を検証して「誤り」と判定しています。「マドリードの高齢者施設で、インフルエンザワクチンが原因で、120人中97人が死亡した」という主張について、州保健当局が「入居者はまだ接種前だった」と確認しています。1918年のスペインかぜでインフルエンザワクチンが5000万人を死なせたという投稿もありましたが、当時インフルエンザワクチンはまだありませんでした。

Maldita.“Narrativas desinformadoras sobre la vacuna de la gripe: no aumenta el riesgo de muerte, gripe u otras infecciones” 2024年10月18日.

先述のFactCheck.orgが検証して「根拠がない」と判定した溶連菌の投稿も同じパターンです。「4週間前に点鼻インフルエンザワクチンを接種、今は溶連菌で死亡」という投稿に対し、WHOやCDC(米疾病予防管理センター)は、死亡者数の増加はインフルエンザなど呼吸器ウイルスの流行増加によるものではないかと指摘しています。

FactCheck.org.”No Evidence Flu Vaccine Increases Strep A Infections, Contrary to Online Claims”2022年12月23日.

3. 無関係の新型コロナと結びつける

2020年には「インフルエンザワクチンで新型コロナにかかりやすくなる」という主張が広がりました。根拠にされたのは、2017〜18年のコロナウイルスに関する研究です。PolitiFactはこの言説を2020年7月に検証し、研究は季節性の一般的なコロナウイルスについてで、COVID-19ではなく、インフルエンザワクチンとCovid-19発症リスク増加の関連を示していないとして「誤り」と判定しました。

Politifact”This 2017-18 flu season study does not include COVID-19”2020年7月16日

4. 公的機関や有名人の名前で「インフルエンザが大流行」と主張

流行期には、不安に乗じて偽の告知が出回ります。

フィリピンでは2025年10月、社会福祉開発省をかたるFacebookページが、インフルエンザのような症状の病気の増加を理由にしたロックダウンや休校・休業の偽画像を投稿しました。フィリピンのメディアVERA Filesによると、同省と保健省は、休校や休業の情報を否定しました。

VERA Files”FACT CHECK: Lockdown, class and work suspension advisories due to flu-like cases FAKE”2025年10月22日.

2025年12月には、英国がインフルエンザウィルス(サブクレードK)の流行でロックダウンや授業を中止し、マスク着用を義務化するという投稿が広がりました。Malditaは、流行は事実だが、英国政府はロックダウンも、マスク着用の義務化もしていないとして「偽情報」と判定しています。これは、一部の真実に偽の「情報」を上乗せすることで、拡散を促すパターンです。

Maldita”A 12 de diciembre, Reino Unido alerta sobre la "súper gripe" H3N2, pero no decreta cierres ni el uso obligatorio de mascarilla”2025年12月12日

5. 「開発中」を「もう使われている」にすり替える

「新しい技術」「見慣れない専門用語」に対する不安を煽る手法もあります。代表例が、新型コロナワクチンでも話題になった「mRNA」を使った投稿です。JFCは2022年10月、「今年のインフルエンザワクチンはmRNA」という投稿を検証して「誤り」と判定しました。まだ臨床試験の段階で、接種は始まっていなかったためです。

2023年12月にも、国立医薬品食品衛生研究所が公開した開発中のmRNAワクチンの一覧表を添付して、国内ですでに接種が始まっているかのような投稿が拡散しました。これについてJFCは「誤り」と判定しました。2025年10月にも「今年からmRNAになった」という投稿が拡散しましたが、厚労省は「接種開始の予定などは現在のところまったくない」と否定し、JFCは「誤り」と判定しました。

JFC.”今年のインフルエンザワクチンはmRNA?【ファクトチェック】”2022年10月13日JFC.”インフルエンザワクチンにもmRNAが含まれている?【ファクトチェック】”2023年12月14日JFC.”今年からインフルエンザワクチンはmRNAに? まだ承認されていない【ファクトチェック】”2025年10月3日

英Full Factも2023年1月、同じ主張を検証し、当時の英国のワクチンはmRNA方式ではないと報じています。

Full Fact.”Current flu vaccines don’t use mRNA technology”2023年1月24日

mRNAインフルエンザワクチンの実用化が進んでいることは事実です。米国では2026年8月、FDAがモデルナのmRNAインフルエンザワクチンを50歳以上向けに承認しました(FDA”MFLUSIVA”)。

ただし、「mRNAは危険だ」と科学的な根拠なしに決めつけることはできません。また、承認され、実際に使われているかは、国や時期によって異なります。「どこの国の、いつの段階の話か」「公的機関や専門機関は科学的にどう説明しているか」を確かめることが大切です。

見分ける方法

・添付文書や論文の画像は、元の資料を確認する。
・「接種のあとに大勢死亡」という話は、公式発表で時系列や因果関係を確かめる。
・ロックダウンや休校の告知は、保健当局や自治体の公式サイトで確認する。
・「今年から」「もう入っている」という主張は、公的機関で承認状況を確認する。

出典・参考

JFC.”インフルエンザワクチン「フルミスト」は劇薬だから危険? ワクチンは劇薬指定が原則【ファクトチェック】”2025年12月23日. https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/health/factcheck-flumist-harmful-to-humans/,

FactCheck.org.”No Evidence Flu Vaccine Increases Strep A Infections, Contrary to Online Claims”2022年12月23日.
https://www.factcheck.org/2022/12/scicheck-no-evidence-flu-vaccine-increases-strep-a-infections-contrary-to-online-claims/

Maldita.“Narrativas desinformadoras sobre la vacuna de la gripe: no aumenta el riesgo de muerte, gripe u otras infecciones” 2024年10月18日
https://maldita.es/malditaciencia/20241018/narrativas-desinformadoras-vacuna-gripe/,

FactCheck.org.”No Evidence Flu Vaccine Increases Strep A Infections, Contrary to Online Claims”2022年12月23日.
https://www.factcheck.org/2022/12/scicheck-no-evidence-flu-vaccine-increases-strep-a-infections-contrary-to-online-claims/,

Politifact”This 2017-18 flu season study does not include COVID-19”2020年7月16日.
https://politifact.com/factchecks/2020/jul/16/facebook-posts/2017-18-flu-season-study-does-not-include-covid-19/

VERA Files”FACT CHECK: Lockdown, class and work suspension advisories due to flu-like cases FAKE”2025年10月22日.
https://verafiles.org/articles/fact-check-lockdown-class-and-work-suspension-advisories-due-to-flu-like-cases-fake

Maldita”A 12 de diciembre, Reino Unido alerta sobre la "súper gripe" H3N2, pero no decreta cierres ni el uso obligatorio de mascarilla”2025年12月12日.
https://maldita.es/malditaciencia/20251212/reino-unido-decreta-cierres-como-en-la-pandemia-covid-19-por-la-supergripe-h3n2/

JFC.”今年のインフルエンザワクチンはmRNA?【ファクトチェック】”2022年10月13日.
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/health/this-years-influenza-vaccine-mrna-false/,
JFC.”インフルエンザワクチンにもmRNAが含まれている?【ファクトチェック】”2023年12月14日.
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/health/mrna-in-influenza-vaccine-false/,
JFC.”今年からインフルエンザワクチンはmRNAに? まだ承認されていない【ファクトチェック】”2025年10月3日.
https://www.factcheckcenter.jp/fact-check/health/false-from-this-year-the-influenza-vaccine-has-switched-to-mrna/,

Full Fact.”Current flu vaccines don’t use mRNA technology”2023年1月24日.
https://fullfact.org/health/mrna-not-in-flu-vaccines/,

FDA”MFLUSIVA”.
https://www.fda.gov/vaccines-blood-biologics/vaccines/mflusiva,

執筆:根津綾子
編集:藤森かもめ、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

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