インフルエンザワクチンにもmRNAが含まれている?【ファクトチェック】

インフルエンザワクチンにもmRNAが含まれている?【ファクトチェック】

「インフルエンザワクチンにもmRNAが含まれている」という言説が拡散しましたが、誤りです。投稿が引用する資料には臨床試験中と書かれており、現在使用されているインフルエンザワクチンにmRNAが使用されていることを示すものではありません。

検証対象

2023年11月9日、「インフルエンザワクチンにもmRNAが含まれている」という言説がX(旧Twitter)上で拡散した。投稿には「感染症予防用mRNAワクチンの臨床開発状況」という資料の画像も添付されている。

画像

このポストは2023年12月6日時点で4300回以上リポストされ、表示回数は130万回を超える。返信欄には、「恐ろしい〜😖」「私の職場で接種した人にモデルナアームが見られましたから、既に入っていると思います」などのコメントの一方、「臨床開発状況って言葉、知ってる?」「それは開発中のmRNAワクチンの一覧であって、今使われてる物ではありません」とソースとの整合性を指摘する声もある。

検証過程

厚生労働省のウェブサイトによると、2023年12月8日時点のインフルエンザのワクチンは「mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン」ではなく、「不活化ワクチン」だ。

不活化ワクチンは「感染力をなくした病原体や病原体を構成するタンパク質から」できている。mRNAワクチンは「ウイルスを構成するタンパク質の遺伝情報を投与し」、「体内でウイルスのタンパク質を作り、そのタンパク質に対する抗体が作られることで免疫を獲得」するものだ(厚労省サイト参照)。

拡散したXに添付された画像は、国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子医薬部サイトにある「感染症予防用mRNAワクチンの臨床開発状況(2023年12月12日更新)」。これを確認すると、mRNAのインフルエンザワクチンは複数あるが、いずれも開発段階はP1、P2、P3と記している。

同研究所によると、P1〜P3は臨床試験のPhase I〜Ⅲのことで、現在治験(臨床試験)が行われている段階を示す。したがって、現時点ではインフルエンザワクチンはmRNAワクチンではない。

なお、厚生労働省の資料によると、不活化ワクチンのインフルエンザワクチンを接種した場合でも、接種した部位に赤みや腫れ、痛みが出るなどの副反応が起こりうる。

判定

現在、使われているインフルエンザワクチンはmRNAを使っていない。まだ臨床試験の段階で承認されていないため、誤り。

あとがき

「インフルエンザワクチンにもmRNAが含まれている」という言説が拡散する背景には、新型コロナウイルス以来のmRNAワクチンに対する根強い不信感が背景にあります。

今回、資料が誤った形で引用された国立医薬品食品衛生研究所遺伝子医薬部は日本ファクトチェックセンター(JFC)の取材に「mRNAワクチンに限らず全ての医薬品は、国が定めた一定のルールに則って、品質・有効性・安全性が予測・評価される。この科学的なデータに基づき、医薬品を使用するリスクとベネフィットのバランスが勘案され、ベネフィットがリスクを上回ると判断された場合に承認される」と説明しています。

アメリカ疾病予防管理センター(CDC)や日本の厚労省などから、mRNAワクチンに関する新たな危険性の報告などは出ていません。一方で「アイスランド政府、国民の突然死急増を受けコロナワクチンを中止(そのような事実はないとJFCが検証済み)」などの誤った情報は次々と拡散していきます。不確かな情報をシェアしたり、信じたりしないように注意しましょう。

検証:住友千花
編集:藤森かもめ、宮本聖二、古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

岩屋外相「65歳以上の中国人はビザ不要に」と発言? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

岩屋外相「65歳以上の中国人はビザ不要に」と発言? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

岩屋毅外務大臣が「65歳以上の中国人はビザ不要に」と発言したかのような投稿が拡散しましたが、誤りです。拡散した投稿はまとめサイトのもので、実際に不要になるわけでも、岩屋外相がそう発言したわけでもありません。 検証対象 2025年5月7日、「【売国/岩屋】中国人65歳以上はビザ不要に!!」という投稿がXで拡散した。 この投稿は2025年5月12日現在、442万回以上の閲覧回数と8700件以上のリポストを獲得している。投稿について「マジでなんのために??」「いい加減にしてほしい」というコメントの一方で「パッと調べたところそのような記事は見当たらないんだけど」という指摘もある。 検証過程 拡散したのは掲示板サイトのスレッドタイトル 検証対象のリンクは、まとめサイト「ツイッター速報〜BreakingNews」の記事だ。タイトルは掲示板サイトおーぷん2ちゃんねるのスレッド「【売国/岩屋】中国人65歳以上はビザ不要に!! 」だ。 このスレッドには「もー!岩屋毅は許さない!中国人65歳以上はビザ不要にして!中国人専用の人間ドックを税金で開設!日本人の健康保険を

By リサーチ チーム
全国の新聞社が始める「ファクトチェック」/さっそく嵐のなりすまし/目立つトランプ発言の捏造など【今週のファクトチェック】

全国の新聞社が始める「ファクトチェック」/さっそく嵐のなりすまし/目立つトランプ発言の捏造など【今週のファクトチェック】

2024年の兵庫県知事選の轍を踏まないようにと、全国の新聞社が独自の「ファクトチェック」を始めています。活動終了を発表した嵐に便乗するなりすましアカウントが続々と。その他、トランプ発言を捏造して拡散させる手法が蔓延しています。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのお知らせ JFCファクトチェック講師養成講座はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月18日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
トランプ大統領が日本のメディアを危険指定? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

トランプ大統領が日本のメディアを危険指定? まとめサイトによるもの【ファクトチェック】

「トランプ大統領が日本のメディアを危険指定した」という投稿が拡散しましたが、誤りです。拡散した投稿はまとめサイトのXアカウントで、見出しは掲示板サイトのスレッドタイトルを引用しているだけです。 検証対象 2025年5月8日、「トランプ大統領が日本のメディアを危険指定」という投稿が拡散した。 2025年5月9日現在、この投稿は8400件以上リポストされ、表示回数は252万回を超える。投稿について「はい当然です」「どんどんやってください」というコメントがついている。 検証過程 まとめサイトと添付記事の内容が不一致 検証対象のリンクは、まとめサイト「TweeterBreakingNews-ツイッ速!」の記事だ。 タイトルは掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「【日米】トランプ大統領、日本メディアを「危険指定」[R7/5/08]」で、掲示板サイトの反応をまとめたYouTube動画「【衝撃】トランプ、日本メディアを『危険指定』」が引用元だとしている。 動画は2025年5月7日に投稿された。「トランプ大統領は時事通信と共同通信を危険な通信社2社に指定した、と

By 木山竣策
トランプ大統領が「行方不明の10兆円が日本の財務省に関係している」と暴露? そのような事実や発言はない【ファクトチェック】

トランプ大統領が「行方不明の10兆円が日本の財務省に関係している」と暴露? そのような事実や発言はない【ファクトチェック】

トランプ大統領が「行方不明の10兆円が日本の財務省に関係していると暴露した」という情報が拡散しましたが、誤りです。トランプ氏のSNSにも、ホワイトハウスの公式サイトにもそのような発信はなく、報道もありません。 検証対象 「トランプ大統領が、行方不明の10兆円が日本の財務省に関係していると暴露した」などと主張するショート動画がFacebook、インスタグラム、TikTokなど複数のプラットフォームで拡散している(例1、例2、例3)。 この動画をもとにした投稿はXでもシェアされ、2025年5月9日現在、リポスト1万回以上、表示は563万回を超えている。 X投稿には「財務省マジで解体させられる」「逮捕間近っぽいな」などのコメントのほか「何でトランプさんがそんな事知ってるんだ!絶対ウソ」という指摘もある。 検証過程 拡散した動画の内容は FacebookやXなどでも転載されて広く拡散した動画は、トランプ氏の写真などを組み合わせた映像に、テロップとナレーションが入っている。ナレーションは以下の通りだ。 「トランプ氏が驚きの暴露を行いました。それは行方不明

By 根津 綾子

ファクトチェック講座

トランプ大統領が「行方不明の10兆円が日本の財務省に関係している」と暴露? そのような事実や発言はない【ファクトチェック】

トランプ大統領が「行方不明の10兆円が日本の財務省に関係している」と暴露? そのような事実や発言はない【ファクトチェック】

トランプ大統領が「行方不明の10兆円が日本の財務省に関係していると暴露した」という情報が拡散しましたが、誤りです。トランプ氏のSNSにも、ホワイトハウスの公式サイトにもそのような発信はなく、報道もありません。 検証対象 「トランプ大統領が、行方不明の10兆円が日本の財務省に関係していると暴露した」などと主張するショート動画がFacebook、インスタグラム、TikTokなど複数のプラットフォームで拡散している(例1、例2、例3)。 この動画をもとにした投稿はXでもシェアされ、2025年5月9日現在、リポスト1万回以上、表示は563万回を超えている。 X投稿には「財務省マジで解体させられる」「逮捕間近っぽいな」などのコメントのほか「何でトランプさんがそんな事知ってるんだ!絶対ウソ」という指摘もある。 検証過程 拡散した動画の内容は FacebookやXなどでも転載されて広く拡散した動画は、トランプ氏の写真などを組み合わせた映像に、テロップとナレーションが入っている。ナレーションは以下の通りだ。 「トランプ氏が驚きの暴露を行いました。それは行方不明

By 根津 綾子
JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月18日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)