ファクトチェックに使えるサイトやツール 公開情報を使いこなす【JFC講座 実践編7】

ファクトチェックに使えるサイトやツール 公開情報を使いこなす【JFC講座 実践編7】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。

実践編第6回は、公開されている情報に基づいた調査=OSINTについてでした。第7回はファクトチェックに役立つサイトやツールを紹介します。

(本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています)

ファクトチェックに役立つサイトやツール

理論編から繰り返し説明してきたようにファクトチェックは、検証する際の根拠を開示することが大前提です。

インターネット上には、公開情報を手に入れるのに役立つサイトやツールがたくさんあります。これまでに紹介したGoogle画像検索やInVID、Googleマップなどもそうですが、今回は主に資料探しに役立つサイトやツールを紹介したいと思います。

政府の公式データの活用

中央行政のオープンデータポータル「e-Gov」や政府統計の総合窓口「e-Stat」は、各省庁のデータを横断的に検索できる非常に便利なサイトです。

キーワードやカテゴリ、テーマごとに検索が可能で、信頼性の高い公的データを素早く見つけることができます。

これらのサイトは、海外でも同様のものがあり、アメリカのdata.govやイギリスのdata.gov.UKがその例です。

公式統計を活用した検証

実例をみていきます。

ネット上でよく見かける偽情報の一つに「ワースト1位リスト」があります。例えば、「自民党政治と安倍政権の実績」と題して、GDP下落率や自殺者、失業率増加が歴代総理のワースト1位だったと主張する画像が拡散しました。

安倍政権は歴代総理ワースト1位?【ファクトチェック】
「自民党政治と安倍政権の実績」というタイトルで安倍政権を批判する画像が、再び拡散しました。過去何度も繰り返された誤った情報です。小泉政権・鳩山政権時代にも類似した画像が拡散しており、政権批判でよく用いられる手法です。 検証対象 Twitterなどで拡散した「自民党政治と安倍政権の実績」と題する画像はこれだ。小泉政権、鳩山政権時代に拡散された画像と各項目が類似しており、誤った情報が含まれている。 BuzzFeed Japanは2018年と2022年にファクトチェックをし、「虚偽画像が拡散」と報じている。しかし、この画像を拡散するTwitterアカウントのリプライ欄には、「やべ~この国終わってんじゃん」「これはひどい実績ですね 国葬にする理由がますますわからないな…」など、画像を信用するコメントがいまも散見される。 検証過程 JFCは、公式資料から12項目を検証をした。定義が曖昧であったり、公開資料では判然としなかったりした項目は検証から除いた。 1.「GDP下落率…歴代総理大臣ワースト1位」= 不正確 1995年度以降で、実質GDPの前年度比が最

野党支持者であれば「与党はワースト1」、与党支持者であれば「野党はワースト1」という情報を拡散させがちですが、こういったリストの多くはデータの出典が明記されておらず、捏造されたものが多いです。

GDP下落率が最も大きかったのはいつか、自殺者数はどうか。こういった事例の検証には、公式統計の確認が不可欠です。

また、公式統計に問題がありそうな場合には、有識者への取材などさらなる検証が必要となります。

オープンデータ活用ハンドブック

ファクトチェックに役立つサイトは他にも多く存在します。

例えば、NHKで長く調査報道に携わり、現在はSlowNewsシニアコンテンツプロデューサーの熊田安伸さんが著した「記者のためのオープンデータ活用ハンドブック」は、取材やファクトチェックなどに活用できるサイトを網羅した決定版です。

Amazon.co.jp: 記者のためのオープンデータ活用ハンドブック : 熊田安伸: 本
Amazon.co.jp: 記者のためのオープンデータ活用ハンドブック : 熊田安伸: 本

私も理事を務めるデジタルジャーナリスト育成機構での連載「オープンデータ活用術」でも読むことができます。

これらでは、国や公的機関の統計だけでなく、企業やNPOなどの民間データやツールも活用する方法が紹介されています。

ファクトチェックのデータベース

ファクトチェックに特化したデータベースやツールもあります。

例えば、Googleが提供するFact Check Explorer(ファクトチェックエクスプローラー)は、世界中のファクトチェック記事をデータベース化しています。

残念ながら、日本語での記事はまだほとんど収録されていませんが、英語など各国言語でのファクトチェック記事を探すことができます。

新型コロナやワクチン、ロシアのウクライナへの侵略、イスラエルとパレスチナの戦争、地球温暖化など、国際的な話題や世界共通の関心事に関する偽・誤情報は国境を超えます。

日本でも、福島第一原発からの処理水の海洋放出に関して、最初に中国語で拡散した偽・誤情報が日本語に翻訳されたり、各国言語で広がったりしました。

検証する側も国境を超えた協力が不可欠で、こういったデータベースもその助けになります。

日本語のサイトやツール

日本語のファクトチェック記事のリストとしては、NPOのファクトチェック・イニシアチブ(FIJ)が提供するファクトチェックナビがあります。

これは国内の様々なメディアや団体のファクトチェック記事や偽・誤情報に関するニュース記事へのリンクを新着順に表示するものです。

国内のファクトチェック記事の多くはJFCが配信しているので、JFCサイトの「ファクトチェック記事一覧」を参考にするのも良いでしょう。

ファクトチェックとは
ファクトチェックを直訳すると「事実の検証」ですが、その説明だけだと、報道など様々な分野で実施されている「事実確認」「裏とり」などとの違いがわかりにくくなります。 ここでは一般的なファクトチェックのルールについて「ファクトチェックとは何か」で解説します。また、日本ファクトチェックセンター(JFC)の指針や記事一覧、ファクトチェックの具体的な手法を解説する講座もご参照ください。 JFCファクトチェック記事一覧 JFCが2022年10月の発足から公開してきたファクトチェック記事の一覧です。 ファクトチェック - 日本ファクトチェックセンター (JFC)ファクトチェックとは事実の検証です。日本ファクトチェックセンター(JFC)では、検証対象・検証過程・判定を明示し、読者も検証を独自に確認できるように検証の根拠へのリンクを貼り、情報源を明らかにしています。 詳細はAbout JFCのファクトチェック指針をご参照ください。日本ファクトチェックセンター (JFC)古田大輔 JFCファクトチェック動画一覧 JFCが公開しているファクトチェック動画アカウントです。過去に開いたシン

また、JFCは公式LINEアカウントでユーザーからの質問を受け付けています。気になる情報について問い合わせると、AIがその質問に関連しそうな記事をJFCのデータベースから探して返信します。

関連する記事がない場合は、今後のJFCの検証対象選びの参考にさせていただきます。

調査報道に役立つツール一覧

世界で最も有名なオンライン調査報道組織であるBellingcatは、使用しているツールの一覧を「Bellingcat’s Online Investigation Toolkit」として公開しています。

画像や動画の検証、ソーシャルメディア関連の調査、ジオロケーション、飛行機や船舶の調査など、様々な分野のオンライン調査に役立つツールを網羅しています。

次回はファクトチェックと調査報道の違い

ここまで紹介したツールやサイトは、ファクトチェックだけでなく、調査報道や研究にも役立ちます。

次回は、よく質問される「ファクトチェックと調査報道の違い」について解説します。

アンケートにご協力を

動画を見た方は、ぜひ簡単なアンケートにご協力ください。 https://forms.gle/QdVa9A5v3RDnfBW59


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

増え続ける政治系偽情報への対応は/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

増え続ける政治系偽情報への対応は/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

選挙運動に関する各党協議会に招かれ、衆議院議員会館で選挙に関わる偽情報の広がりや外国からの情報操作の現状について話しました。 政治に関する偽・誤情報は以前からありましたが、2024年からさらに増えました。理由は東京都知事選、総選挙、兵庫県知事選と注目の選挙が続き、しかも、YouTubeなど動画で選挙や政治に関する情報を見る人が増えたからです。 あるトピックが見られるとわかれば、そのトピックの動画をつくる人は増えます。見る人が増えれば、ソーシャルメディアのアルゴリズムはその動画をより多くの人に届けるようになります。こうして需要と供給のスパイラルが加速します。 「選挙運動に関する偽情報」と言っても、そういった情報は選挙のときだけに流れているわけではありません。ソーシャルメディア上には、常に根拠不明な動画が拡散し、そこには海外からのものと見られる不自然な投稿の急増なども見られます。しかも、それは日本語に限りません。 各党協議会では、法的な規制の是非やファクトチェック団体への支援などに関する質疑もありました。どのような議論をするにしろ、対応を急ぐ必要があります。AIの発展や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
地震のたびに拡散する「人工地震説」や「地震予知」は何が間違っているのか 専門家が解説

地震のたびに拡散する「人工地震説」や「地震予知」は何が間違っているのか 専門家が解説

大きな地震が起きるたびにインターネット上では「人工地震だ」とか「予知されていた」「次の地震は〇月〇日」などの情報が拡散します。科学的な根拠はなく、これまでに日本ファクトチェックセンター(JFC)は何度も「誤り」と検証してきました。次の拡散を防ぐために、JFCは東京大学地震研究所/情報学環・学際情報学府の酒井慎一教授に改めて解説してもらいました。 地震予知は可能? Q「30年以内に地震が発生する確率は何十%」といった長期的な予測は政府も公表します。一方で、大きな地震が起きると「巨大地震は予知されていた」とか「次の地震は〇月〇日」など、日付や場所を特定した「予言」が拡散します。このようなピンポイントの地震予知は現代の科学で可能なのでしょうか。 できません。地震のメカニズムは、今でも多くのことが分かっていません。多くの人はプレート(岩盤)同士が押し合い、跳ね返ったり壊れたりして地震が起こると考えていますが、実際はもっと複雑です。地震は地下にある断層面にそって、岩盤同士が急激にズレることで起こります。断層面はでこぼこしており、触れ合っている岩盤と岩盤が摩擦力で固着し

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
伊東市長選挙は不正選挙だった? 画像は市議選、選挙不正の根拠なし【ファクトチェック】

伊東市長選挙は不正選挙だった? 画像は市議選、選挙不正の根拠なし【ファクトチェック】

2025年12月14日投開票の伊東市長選挙をめぐり、開票作業で不正があったと示唆する画像付きの投稿が拡散していますが、誤りです。根拠とされた画像はそもそも市長選ではなく市議選のもの。伊東市選挙委員会は開票作業について「不正はなかったと認識している」と話しています。 検証対象 検証する投稿 12月15日、「伊東市長選挙は不正選挙が行われていた?」という画像付き投稿が拡散した。画像には、票が積み上げられた画像と共に「TVで放送された卓上に積み上がっている票束の高さと選挙管理委員会から発表の票数差に不安を抱きました」と書かれている。 検証する理由 この投稿は戸田市議会議員の河合ゆうすけ氏によるもので、12月18日現在、290件以上リポストされ、表示回数は23万回を超える。 「あると思います」「不正しちゃってるね…」と同調するコメントがつく一方で「意に沿わない結果は何でも不正なのか」という指摘もある。 検証過程 伊東市長選と拡散した画像 伊東市長選挙は、学歴詐称疑惑で2度の不信任決議を受けた田久保真紀前市長の失職に伴い14日に投開票され、田久保氏

By 木山竣策(Shunsaku Kiyama)
ユースファクトチェック選手権優勝の大学生チームが語る検証能力を鍛える鍵 「普段の生活でも使える能力ばかり」

ユースファクトチェック選手権優勝の大学生チームが語る検証能力を鍛える鍵 「普段の生活でも使える能力ばかり」

高校生や大学生ら若者世代を対象に情報検証スキルを競う「ユースファクトチェック選手権」。日本、台湾、タイ、インド、モンゴルの各国内大会を勝ち上がった計25チームによる世界大会が12月13日に開かれ、日本から参加したチームが優勝しました。 選手権はGoogleが運営していた前身の大会を引き継ぐ形で、アジアのファクトチェック団体が協力して昨年から開催。日本では日本ファクトチェックセンター(JFC)とメディア情報リテラシー教育に取り組む学生スタートアップ「Classroom Adventure」が共催しています。 75チーム194人が参加した国内大会を首位で勝ち抜き、世界大会では昨年上位を独占した台湾のチームを抑えて優勝したチーム「YAYO-SAN」の2人、札幌大谷大1年の渡辺魁哩さん(20)と北海道大2年の千葉蛍太さん(20)に検証スキルを鍛える秘訣と大会の感想を聞きました。 昨年大会の経験活かし、生成AIで「自主練」 昨年の大会に「軽いノリで参加した」という渡辺さんが、今度は本気でやってみようと誘ったのが、高校の同級生の千葉さんでした。 教育学を専攻する千葉

By 古田大輔(Daisuke Furuta)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は1月24日(土)午後2時~3時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0124.peatix.com 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのような知識

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)