安倍政権は歴代総理ワースト1位?【ファクトチェック】

安倍政権は歴代総理ワースト1位?【ファクトチェック】

「自民党政治と安倍政権の実績」というタイトルで安倍政権を批判する画像が、再び拡散しました。過去何度も繰り返された誤った情報です。小泉政権・鳩山政権時代にも類似した画像が拡散しており、政権批判でよく用いられる手法です。

検証対象

Twitterなどで拡散した「自民党政治と安倍政権の実績」と題する画像はこれだ。小泉政権、鳩山政権時代に拡散された画像と各項目が類似しており、誤った情報が含まれている。

画像

BuzzFeed Japanは2018年と2022年にファクトチェックをし、「虚偽画像が拡散」と報じている。しかし、この画像を拡散するTwitterアカウントのリプライ欄には、「やべ~この国終わってんじゃん」「これはひどい実績ですね 国葬にする理由がますますわからないな…」など、画像を信用するコメントがいまも散見される。

検証過程

JFCは、公式資料から12項目を検証をした。定義が曖昧であったり、公開資料では判然としなかったりした項目は検証から除いた。

1.「GDP下落率…歴代総理大臣ワースト1位」= 不正確


1995年度以降で、実質GDPの前年度比が最低だったのは2020年度自民党安倍・菅政権で-4.5%だった。名目GDPの前年度比が最低だったのは2008年度自民党福田(康)・麻生政権で-4.1%。また、就任時と離任時で名目GDPを比較すると、2007年度から2008年度にかけての自民党福田(康)政権で最も下落し、-4.1%だった。2012年度から2020年度にかけての第2次~4次自民党安倍政権では、就任時と離任時では7.2%上昇している。(内閣府「国民経済計算」)

2.「自殺者数…歴代総理大臣ワースト1位」= 誤り

1995年以降、自殺者数が最も多かったのは、2003年自民党小泉政権の3万4427人。(厚生労働省「自殺者数の年次推移」)

3.「失業率増加…歴代総理大臣ワースト1位」= 誤り

1977年以降、完全失業率が最も高かったのは、2002年自民党小泉政権で5.4%。第2次安倍政権の2012年から2019年にかけて、完全失業率はむしろ減少傾向にあった。(総務省統計局「年齢階級(10歳階級)別完全失業者数及び完全失業率」)

また、完全失業率のポイント上昇数が最も大きかったのは、2008年から2009年にかけての自民党麻生政権・民主党鳩山政権で1.1ポイントの上昇だった。

4.「倒産件数…歴代総理大臣ワースト1位」= 誤り

1980年以降、倒産件数が最も多かったのは、1984年自民党中曽根政権で2万841件。(中小企業庁「2016年版中小企業白書」「倒産の状況」)

5.「自己破産者数…歴代総理大臣ワースト1位」= 誤り

2012年以降、自己破産申立件数が最も多かったのは、2003年自民党小泉政権で24万2357件。(首相官邸「新里構成員提出資料」(2018)、「新里構成員提出資料」(2020))

6.「税収減…歴代総理大臣ワースト1位」= 誤り

1987年以降、税収の前年差が最も大きかったのは、2008年自民党福田(康)・麻生政権で6.7兆円減。(財務省「税収に関する資料」)

7.「地価下落率…歴代総理大臣ワースト1位」= 誤り

1975年以降、地価下落率が最も高かったのは、1975年自民党三木武夫政権で-9.2%。(国土交通省「変動率及び平均価格の時系列推移表」)

8.「民間の平均給与額…7年連続ダウン」= 誤り

第2次安倍政権2013年から2020年にかけての8年間、「平均給与額が7年連続ダウン」しているという事実はない。資料を見ると、2013年から2014年、2017年から2018年にかけてなどは、増加していることがわかる。
(国税庁「給与所得者数・給与額・税額」)

9.「出生率…日本史上最低」= 誤り

1947年以降、合計特殊出生率が最も低かったのは、2005年自民党小泉政権で1.26。(内閣府「令和3年度少子化の状況及び少子化への対処施策の概況」)

10.「犯罪検挙率…戦後最低」= 誤り

1956年以降、犯罪検挙率(刑法犯・危険運転致死傷・過失運転致死傷等)が最も低かったのは、2001年自民党森・小泉政権で38.8%。(令和3年版犯罪白書「資料1-1刑法犯 認知件数・発生率・検挙件数・検挙率・検挙人員」)

11.「所得格差…戦後最悪」= 誤り

所得格差(労働所得のジニ係数)は、2002年から2007年にかけて緩やかに上昇し、2007年から2017年にかけて緩やかに低下している。「戦後最悪」とは言えない。(内閣府「日本経済2021-2022 第3節格差の動向と課題」)

12.「高校生就職内定率…戦後最悪」= 誤り

1988年以降、高校生就職内定率が最も低いのは、2002年(3月卒)自民党小泉政権で89.7%。「戦後最悪」とは言えない。(厚生労働省「高校新卒者の求人倍率等の推移」)

判定

画像で触れている多くの項目が誤りであり、一部にはまったくの誤りとは言えない部分を含むとしても、全体として誤りと判定しました。

あとがき

こういった画像は時の政権を批判するために、何度も拡散してきました。自民党や民主党を問わずです。

画像
画像

JFCは、JFCファクトチェック指針で「意見ではなく事実に関して検証する」「言論・表現の自由を最大限尊重しつつ、提示されている事実が間違っていないかを評価する」と掲げています。

また、国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)が掲げる「非党派性と公正性」を尊重しており、どの党派に関するものであれ、ファクトに関して疑わしいものがあれば、検証していきます。

検証:金子祥子
編集:野上英文、古田大輔

訂正

12番目の項目について、引用する資料を誤っていたため、引用リンクと記述を訂正しました。12番目の項目と全体が「誤り」とする判定結果はそのままです。

検証手法や判定基準などに関する解説は、JFCサイトのファクトチェック指針をご参照ください。

「ファクトチェックが役に立った」という方は、シェアやいいねなどで拡散にご協力ください。誤った情報よりも、検証した情報が広がるには、みなさんの力が必要です。

X(Twitter)FacebookYouTubeInstagramなどのフォローもよろしくお願いします。またこちらのQRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、真偽が気になる情報について質問すると、AIが関連性の高い過去のJFC記事をお届けします。詳しくはこちらの記事を

もっと見る

米大統領選挙後も続く偽・誤情報、日本にも波及【今週のファクトチェック】

米大統領選挙後も続く偽・誤情報、日本にも波及【今週のファクトチェック】

トランプ氏が勝利したアメリカ大統領選が終わっても、アメリカの政治やトランプ氏に関わる偽・誤情報の拡散は続いています。そして、それらはアメリカ国内だけではなく、日本を含む他国にも広がっています。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 JFCからのニュース JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月30日で、お申し込みはこちら。 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 JFCファクトチェック講師養成講座 11月の申込はこちら日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
トランプ氏の当選確実で「ワクチン禁止法」と「向精神薬禁止法」が成立? まとめサイトによるもの 【ファクトチェック】

トランプ氏の当選確実で「ワクチン禁止法」と「向精神薬禁止法」が成立? まとめサイトによるもの 【ファクトチェック】

米大統領選で、ドナルド・トランプ前大統領の当選が確実になったことに関連して、「ワクチン禁止法」と「向精神薬禁止法」が成立する見通しだという投稿が拡散しましたが、誤りです。拡散した投稿はまとめサイトのXアカウントで、見出しは掲示板サイトのスレッドタイトルを引用しているだけです。 検証対象 2024年11月7日、「米国、トランプ当選確実で『ワクチン禁止法』と『向精神薬禁止法』が成立する見通し」という投稿が拡散した。投稿にはまとめサイトのURLが添付されている。 2024年11月8日現在、この投稿は2800件以上リポストされ、表示回数は40万件を超える。投稿について「ロバート・ケネディJrさんに大いに期待」「精神疾患を抱えた自分にはちょっと辛すぎます」というコメントがつく一方で「現時点では誤解を招くもの」というコミュニティノートによる指摘もある。 検証過程 まとめサイトと添付記事の内容が不一致 検証対象のリンクは、まとめサイト「Tweeter Breaking News-ツイッ速!」の記事だ。掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「米国、トランプ当選確実で「

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
トランプ次期大統領が就任後の計画を発表? 過去の動画を改変【ファクトチェック】

トランプ次期大統領が就任後の計画を発表? 過去の動画を改変【ファクトチェック】

アメリカのトランプ次期大統領が2025年の就任後の計画「プロジェクト2025」として「サブウェイの豚ロースサンドイッチが5ドル」「マクドナルドのマックリブを一年中提供」などと発言したとする動画が拡散しましたが、誤りです。過去の動画を改変したものです。 検証対象 2024年11月7日、「ドナルド・トランプ大統領は2025年1月20日の就任直後のプロジェクト2025について次のように演説した」という英文とともに、動画付き言説が拡散した。 動画ではトランプ氏が「愛国者の皆さん、プロジェクト2025について少しお話ししたいと思います」「サブウェイの豚ロースサンドイッチは5ドルになります」「マクドナルドではマックリブが一年中提供されることになる」「今こそ、アメリカを再び偉大にする取り組みを始める時です」など英語で話している。 2024年11月8日現在、この投稿は560件以上リポストされ、表示回数は41万件を超える。投稿について「信じそうになった」「たとえそれが風刺であっても、あなたはフェイクニュースを広めています」というコメントが付いている。 検証過程 プロ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
小中高生の自殺がはじめて500人超。原因1位は「親の貧困による生活苦」?【ファクトチェック】

小中高生の自殺がはじめて500人超。原因1位は「親の貧困による生活苦」?【ファクトチェック】

「小中高生の自殺者数が初の500人超え、原因1位は『親の貧困による生活苦』」という言説が拡散しましたが、誤りです。拡散した投稿はまとめサイトのXアカウントで、見出しは掲示板サイトのスレッドタイトルを引用しているだけです。厚生労働省は主な原因として「家庭問題」「学業不振」「友人関係」などを挙げています。 検証対象 2024年10月29日、「小中高生の自殺者数が初の500人超え、遺書に書かれた原因1位は「親の貧困による生活苦」😰」という投稿が拡散した。この投稿は10月30日現在、323万回以上の閲覧回数と9300件以上のリポストを獲得している。 投稿はまとめサイト「ツイッター速報〜BreakingNews」によるものだ。 検証過程 まとめサイトと添付記事の内容が不一致 検証対象の投稿に添付されたリンクはまとめサイト「Tweeter Breaking News-ツイッ速!」の記事だ。引用元はテレビ朝日の記事と毎日新聞の記事、そして、掲示板サイト5ちゃんねるのスレッド「小中高生の自殺者数が初の500人超え、遺書に書かれた原因1位は『親の貧困による生活苦』

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)