ファクトチェック最大の武器「高度な検索」は何にでも使える【JFC講座 実践編2】

ファクトチェック最大の武器「高度な検索」は何にでも使える【JFC講座 実践編2】

日本ファクトチェックセンター(JFC)のファクトチェック講座です。

実践編第1回は、検証の基礎となる「対象の特定」と「過程の公開」についてでした。第2回は検証の最大の武器である「検索」です。

(本編は動画でご覧ください。この記事は概要をまとめています)

プロのように検索せよ

世界中で公開されているファクトチェック講座で、必ず取り上げられるのが「高度な検索の方法」です。

誰でも検索はしたことがあるでしょう。しかし、信頼性の高い情報を効率的に見つけるための手法をきちんと学んだことがある人は少ないのでは。

検索はファクトチェックだけでなく、仕事や生活や学業のあらゆる場面で役にたちます。プロの検索方法を解説します。

アメリカのNews Literacy Projectが公開している「プロのようにGoogle検索するための8つのコツ」

ファクトチェックの5つの要素

検索の仕方を学ぶ前に、何を検索すればいいのか理解するために「ファクトチェックの5つの要素」を紹介します。アメリカのRumor Guardが紹介している方法論です。

  1. 真偽 - 検証対象が本物かどうか確認します。AI技術の発達で、画像や動画の捏造が簡単になっているため、真偽の確認が重要です。
  2. 発信源 - 情報の発信者を確認します。偽情報や誤情報を発信するサイトも多いです。
  3. 証拠 - 言説を裏打ちする証拠があるかどうかを確認します。根拠が不明な言説も多いです。
  4. 文脈 - 言説が正しい文脈で発信されているか確認します。東日本大震災の写真を使って別の地震の写真とするケースもあります。
  5. 推論 - 論理的なチェックが重要です。例えば、ビル・ゲイツが逮捕されたという情報は、もし本当なら世界中のメディアが報道するはずです。

検索の基本的な仕組み

次に検索の基本的な仕組みについてです。

ここでは、世界で最も利用されている検索サービスであるGoogleを例に解説します。他の検索サービスでも、共通点は多いです。

Googleは自動的に世界中のサイトの情報を収集し、検索窓に入力された言葉(「クエリ」と言います)に最も関連性が高い情報を独自のアルゴリズム(計算手法、理論編3を参照)で表示します。

これらの基本的な仕組みについて、Googleは解説するページを公開しているので、そちらも見ておくと良いでしょう。

検索結果の上位に出てくるのは

Googleは検索結果の上位に出てくるページの要因として、以下のものを挙げています。

検索クエリと情報の関連性、コンテンツの質(専門性や信頼性)、ユーザビリティ(ユーザーが利用しやすいか)、文脈(ユーザーの位置情報や過去の検索履歴など)です。

Googleは日々、ユーザーにとって価値の高い検索結果が上位に並ぶようにアルゴリズムを改良していますが、完璧ではありません。常に「正しい」情報が検索結果の上位にあるわけではないことに注意が必要です。

広告に注意

検索結果の一番上に「スポンサー」という表記のあるページが出てくることがあります。これには要注意です。

通常のGoogleのアルゴリズムによる検索結果の表示ではなく、広告主がGoogleに代金を払って掲載している「広告」だからです。

広告だから間違っているわけではありませんが、Googleのアルゴリズムが「質が高い」と判断して表示しているわけではありません。

実際に水道工事などで検索して出てきた「スポンサー」のページから工事を依頼したら高額請求をされた、という事例もあります。

効率的な検索の3つのコツ

信頼性の高い情報を効率よく探すための3つのコツを紹介します。組み合わせる、サーチオペレーターを使う、何度も試す、です。

具体例として「遺族年金廃止」の言説を検証した方法を紹介します。

遺族年金を廃止?【ファクトチェック】
「遺族年金廃止とか馬鹿じゃないの?」という言説が拡散し、Xのトレンドにも入りましたが誤りです。引用されたNHKの記事は2023年7月のもので、遺族厚生年金受給の男女差について2025年に向けて議論を始めるという内容です。 検証対象 2024年4月23日、「遺族年金廃止とか馬鹿じゃないの?」という言説が拡散した。その後、遺族年金を巡って様々な投稿が拡散し、Xで「遺族年金」がトレンド入りした(例1、例2)。 投稿には、2023年7月のNHKの記事「『遺族厚生年金』再来年の制度改正に向け議論へ 厚労省審議会」のリンクがついている。 拡散したポストは4月30日現在で5500件以上リポストされ、表示回数は55万回を超える。遺族年金について「頭おかしい」「なんでこんなことになるんだ」というコメントの一方で「選挙前の不安煽り」という投稿もある。 検証過程 遺族年金とは 遺族年金とは、一家の生計の中心者である被保険者が死亡した時、その人によって生計を維持していた遺族に支給される年金だ。「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」があり、亡くなった人の年金加入状況や、受けと

遺族年金を廃止するという言説が根拠としてあげていたのはNHKの記事でした。しかし、記事には厚労省の審議会が「制度改正」の議論を進めているとしか書いていません。

では、NHKの記事にある厚労省の審議会の資料を検索しましょう。

1.組み合わせる

NHKの記事には厚労省の審議会の正式名称が書いていません。審議会はたくさんあるので「厚労省 審議会 遺族厚生年金」で検索してみます。

そうすると、厚労省だけでなくNHKなど報道機関のニュースが出てきます。

2.サーチオペレーターを使う

「サーチオペレーター」は日本語で「検索演算子」。これを使うことで検索結果を効率的に絞り込むことができます。

厚労省の公式資料を探したいときは、厚労省のサイトの情報に絞って検索したいですよね。そういうときは「site:mhlw.go.jp 厚労省 審議会 遺族厚生年金」と検索すると、検索結果が厚労省のサイト(mhlw.go.jp)の中のものだけに絞られます。

「site:」がサーチオペレーターと呼ばれるもので、あるサイトに絞って検索するこの手法は「ドメイン検索」と呼ばれます。ネット上の住所であるURLの中の一部を指します。例えば、日本なら「jp」、日本政府関係の組織なら「go.jp」、厚労省なら「mhlw.go.jp」です。

ドメイン検索を使って厚労省だけでなく、日本政府の発信する情報を調べたいなら「site:go.jp」、地方公共団体なら「site:lg.jp」など、効率的に検索結果を絞り込めます。

また、時期を絞りたければ「after:」「before:」を使います。今回はNHK記事が出た前後の審議会について調べたいので「site:mhlw.go.jp 厚労省 審議会 遺族厚生年金 after:2023-07-01 before:2023-08-01」。これで目的の資料が見つかります。

3.何度も試す

検索1回で目的の資料が見つかることは稀です。今回も最初は言葉の組み合わせだけ。次にドメイン検索をし、さらに日付指定検索で絞り込みました。

関係がありそうな言葉で絞り込んだり、不必要な検索結果を消していったり。何度も繰り返して目的の情報を見つけましょう。

サーチオペレーターの例

サーチオペレーターにはたくさんの種類があります。

「site:」「after:」「before:」の他にファイル形式を指定する「filetype:」、URLの中に入っている文字列を指定する「inurl:」などは使用頻度が高いです。

これらを使うことで効率的に検索ができます。他にも様々なサーチオペレーターがあるので、検索で調べてみて、自分なりの使い方も考えてみてください。

次回は画像検索

次回は画像の検証について。SNSで目をひく画像はすぐに拡散しますが、事実とは限りません。検証のために必要な便利なツールや手法を解説します。

アンケートにご協力を

動画を見た方は、ぜひ簡単なアンケートにご協力ください。 https://forms.gle/QdVa9A5v3RDnfBW59


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

フランス入国の優先レーンから日本が外された? 大使館が否定【ファクトチェック】

「フランス入国の際の優先レーンから日本が外されたようだ」という情報が拡散しましたが、誤りです。2025年4月30日現在、日本は優先レーンの対象国です。 検証対象 2025年4月19日、埼玉県戸田市議・河合ゆうすけ氏が「フランスに入国する際、イミグレーションの優先レーンから日本が外されたようだ。日本のパスポートを持った中国人(帰化した人)が増えたからではないかと言われている」などと主張する投稿がXで拡散した。投稿には、フランス・パリの空港と思われる画像が添付されている。 投稿は4月30日現在、3700回以上リポストされ、表示回数は112万を超える。投稿には「治安だけは良かったのにその治安もパァ」「自公政権のお陰ですね」などのコメントのほか、「根拠がない」というコミュニティーノートの指摘もある。 検証対象の投稿が拡散するひと月ほど前にも、同様の投稿があった(2025年3月19日)。「フランスに入国しようとしたら優先自動ゲートが開かず、担当者に文句を言ったら『日本だけ撤廃した。向こうの中国人の列に並んで』と言われた」などという内容で「虚偽のポストの疑い」というコ

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
超高齢者の社会保障不正、戸籍制度がある日本ではあり得ない? 問題は日本でも【ファクトチェック】

超高齢者の社会保障不正、戸籍制度がある日本ではあり得ない? 問題は日本でも【ファクトチェック】

「トランプ政権が社会福祉コストを精査したら、記録上で200歳以上が数万人もいた。戸籍制度が完備してる日本ではあり得ない」などという言説がXで拡散しましたが、不正確です。トランプ氏が演説でふれた200超歳の高齢者の記録は1041人分。また、亡くなった人が戸籍上生存したままになっている「高齢者所在不明問題」は日本でも起きています。 検証対象 2025年4月24日、「トランプ政権でDOGEが社会福祉コストの精査を行ったら、記録上で200歳以上が数万人もいたという話は、戸籍制度が完備してる日本ではあり得ないこと」という投稿がXで拡散した。 投稿は2025年4月28日現在、1万回以上リポストされ、表示は308万件を超える。投稿には「母が亡くなった時戸籍を取り寄せたら、江戸時代末期まで遡った記録が送られてきて驚いた」「ほんと、そう。無くすべきではない」などのコメントのほか、「日本でも何年か前にそういう事ありましたよ」という指摘もある。 検証過程 トランプ氏「220~229歳が1039人」 第2次トランプ政権は、財政赤字の削減を目指し、社会保障費の削減に取り組ん

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
文京区の中学校はクラスの半分が中国人? 外国籍の生徒割合は約4%【ファクトチェック】

文京区の中学校はクラスの半分が中国人? 外国籍の生徒割合は約4%【ファクトチェック】

東京都文京区では中学校のクラスの半分が中国人だという情報が拡散していますが、誤りです。文京区教育委員会によると、文京区立中学校の外国籍生徒の割合は約4%です。 検証対象 2025年4月19日、「文京区では中学校のクラスの半分が中国人」という投稿が拡散した。 この投稿は1万件以上リポストされ、表示回数は124万回を超える。投稿について「都内は恐ろしい状況なんだ」「マジでやばいでしょ」というコメントの一方で「どこの中学校の話をされてるんですか?」という指摘もある。 検証過程 東京都文京区の人口は2025年4月1日現在、23万5380人(前月比298人増)。そのうち中国人を含む外国人全体の人口は1万5821人(前月比17人減)で6.7%だ(文京区「人口統計資料」)。 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、文京区教育委員会学務課に取材した。 文京区内に10ある区立中学校の外国籍の生徒について、学務課学事係は「国別の人数は把握しておりません。外国籍生徒の総数は104人で、これは全生徒2,341人の約4%です(令和6年5月1日現在)。そのため、特定の国籍の

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
維新の会が大阪万博跡地の使用権を中国に売った? 跡地の開発事業者は未定【ファクトチェック】

維新の会が大阪万博跡地の使用権を中国に売った? 跡地の開発事業者は未定【ファクトチェック】

元プロレスラーの前田日明氏が「維新の会が大阪万博の跡地の使用権を中国に売った」と話す動画が拡散しましたが、誤りです。万博終了後の跡地利用の開発事業者はまだ決まっておらず、現在提案のある企業は「中国ではない」と吉村洋文大阪府知事が否定しています。前田氏のチャンネルの動画は削除されましたが、切り出し動画の拡散が続いています。 検証対象 2025年3月、元プロレスラーの前田日明氏が「維新の会が大阪万博の跡地の使用権を中国に売った」と語る動画が拡散した(例1、例2、例3)。 これらの動画は、前田氏が自身のYouTubeチャンネルで公開した動画から切り出したものだ。元動画は2025年4月24日現在、削除されている。 前田氏が「大阪の維新の党が中国に万博の跡地の使用権を今後60年間売ってお金にした」などと語る部分が切り出されたショート動画は、YouTubeだけでなくTikTokやXなどで拡散を続けている。 検証過程 現在は削除されている前田氏の元動画は3月23日に投稿され、タイトルは「万博の跡地は中国のものになる」だった。以下のように語っていた。 「ある仕事で

By 宮本聖二

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は5月28日(日)午後2時~3時半で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0518.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどのよう

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)