ピラミッド上空に2373年に一度、水星・金星・土星が並ぶ? 10年以上前から拡散する合成画像【ファクトチェック】

ピラミッド上空に2373年に一度、水星・金星・土星が並ぶ? 10年以上前から拡散する合成画像【ファクトチェック】

エジプトのピラミッド上空で水星・金星・土星が並んでいる画像が拡散しましたが、合成画像で実際のものではありません。10年以上前から世界中で拡散しており、「いままさに起こっている」という主張も含めて誤りです。

検証対象

2025年1月13日、「ギザ(エジプト)のピラミッドの上空に水星、金星、土星が見える。これは2373年に1度起こる現象です」「今まさに起こっているのです...」というコメントと共に、三つのピラミッドの上空に、三つの星が並んでいる画像を添付した投稿がXで拡散した。

この投稿は39万件を超える閲覧と1900件以上のリポストを獲得している。

投稿者はリプライで「これ2373年は本当かどうかわからないけど惑星が一列に並ぶ現象が起こるって投稿がありました!」と追加で投稿。他のユーザーが同様の画像を載せたコメントもある。一方で、「理屈で考えたら不自然なことが分かるやろう。(笑)」などの指摘もある。

検証過程

この画像はどこで撮影されたのか

ピラミッドが3つ並んだ画像は、エジプト・ギザのピラミッド群だ。

左側のピラミッドが比較的小さく、手前に見えることから、クフ王・カフラー王・メンカウラー王が3つのピラミッドを下記画像の赤い矢印の方向に向かって撮影したものだと思われる。

Googleマップより、クフ王のピラミッドの周辺

2025年に撮影されたものか

検証対象の画像をTinEyeで画像検索したところ、最も古い同様の画像は2008年に見つかった。ただし、画像に写っているのはピラミッドだけで、星は写っていない。なお、これらのサイトには現在アクセスできない。

2012年9月ごろから、ピラミッド上空に3つの星が写った画像が見つかる。

星がない画像は2008年ごろ、星がある画像は2012年ごろからネット上で出回っており、2025年1月に撮影された画像ではない。

また、ピラミッドの位置や角度などが一致していることから、ピラミッドの画像に後から星が加えられた画像と見られる。

繰り返し拡散、ファクトチェック済み

この画像を用いて「2373年に一度3つの惑星がギザ上空で並ぶ」と主張する投稿は、細部が微妙に変わりつつ、言語を問わず全世界で繰り返し拡散している。

世界各国の報道機関・ファクトチェック団体がそれらの投稿を検証し、「偽物」や「誤り」と判定している(AFPAAPSnopes)。

AFP通信は、Facebookで拡散した「2012年12月3日にこの現象が起こる」という主張を検証し、「画像は偽物」と判定。スペイン・カナリア諸島にあるテネリフェ科学宇宙博物館長の話として、同日にギザ上空に3つの惑星が現れるのは昼間のため、拡散した画像にはならないなどと伝えている。

AAP通信も同じ主張を検証し、「誤り」と判定。研究者らが、惑星の位置関係や色合いの矛盾を指摘している。

Snopesは2024年11月に同じ画像を用いて「今夜この現象が起こる」とXで拡散した主張を検証し、「偽物」と判定した。投稿者が捏造画像だと認めたことを伝えた上で、英国グリニッジ王立天文台や米国のオールド・ドミニオン大学などの天文学者の見解を紹介。古くからある捏造画像であること、3つの惑星の明るさや色合いが実際とは異なるといったコメントを掲載している。

一方で、NASAの広報担当者は3つの惑星が並ぶことについて「比較的一般的な現象で、1年間に複数回起こり得るため、理論的にはギザ上空で夜間に観測できる可能性も充分あり、数千年に一度のような極めて珍しいものではない」と回答したという。

判定

ギザのピラミッド上空で水星・金星・土星が並んでいる様子を写した画像は合成されたフェイク画像だ。10年以上前から世界中で拡散しており、「いままさに起こっている」という主張を含めて誤り。ただし、ギザ上空で3つの惑星が並ぶ現象はありうる。

検証:リサーチチーム
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

プレジデントが「コロナワクチンで50万人死んでいる」と掲載? 記事の内容は正反対【ファクトチェック】

プレジデントが「コロナワクチンで50万人死んでいる」と掲載? 記事の内容は正反対【ファクトチェック】

プレジデント社が「コロナワクチンで50万人死んだ」と報じたと主張する投稿がXで拡散しましたが、誤りです。記事は、SNSで拡散したワクチン反対派の意見を検証し、専門家の「論理の飛躍がある」「科学的根拠が不十分」などの意見を元に、拡散した投稿と正反対の内容です。 検証対象 8月25日、「プレジデントによるとコロナワクチンで50万人死んでる!すごい猛毒を日本政府が勧めた!」という投稿がXで拡散した。 8月27日現在、投稿は3300回以上リポストされ、表示は38.4万件を超える。投稿には「毒殺が普通に行われるのか 普段食べてるものも怪しい」「ワクチン2回打ちましたが、3回目打ったら死ぬんじゃないかと思い辞めました」や「文章読めます?内容真逆ですけど」という指摘もある。 検証過程 拡散した投稿のリンクはPRESIDENT Onlineが2025年1月18日に公開した記事だ(PRESIDENT Online”『コロナワクチンで50万人が死亡』『日本で人体実験している』…反ワク派の主張を専門家と徹底検証した結果”)。 SNSで拡散した「超過死亡数の大半はワクチンが

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
殺人事件の谷本容疑者は元中国籍? 投稿者は様々な事件事故に「関係者」としてコメント【ファクトチェック】

殺人事件の谷本容疑者は元中国籍? 投稿者は様々な事件事故に「関係者」としてコメント【ファクトチェック】

神戸市のマンションで24歳の女性が刺殺された事件で、逮捕された谷本将志容疑者が元は中国籍だったという投稿がXで拡散しましたが、根拠不明です。谷本容疑者の国籍に関する情報は報道や公式発表などでは確認できません。また、拡散したアカウントはこれまで別の事件事故などでも関係者を名乗って根拠不明の情報を投稿し続けています。 検証対象 8月23日、「私は彼(谷本容疑者)と同じ会社で働いています」「もともと中国籍で谷将(コクショウ)と名乗ってました 10年ほど前に日本に帰化し現在の名前となってます」などと主張する投稿がXで拡散した。 8月26日現在、投稿は6100回以上リポストされ、表示は538.7万件を超える。投稿には「中国籍、韓国籍犯罪率高すぎ。要らん」「簡単に帰化出来るのも問題だけど やはり通名制度は狂っている!」や、「この人の他のポスト見たけど嘘っぽい気がする。疑った方が良いと思う」などの指摘もある。 検証過程 谷本容疑者が元中国籍という情報はない 神戸市のマンションで24歳の女性が刃物で刺されて殺害された事件で、8月22日、35歳の会社員・谷本将志容疑

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
日本の4市がアフリカ諸国のものになり、移民が流入? 「ホームタウン」制度への誤解 【ファクトチェック】(追記あり)

日本の4市がアフリカ諸国のものになり、移民が流入? 「ホームタウン」制度への誤解 【ファクトチェック】(追記あり)

山形県長井市など日本の4市がアフリカ諸国の「ホームタウン」に認定され、海外でも報道されたことをきっかけに「日本は山形県長井市をタンザニアに与える」「アフリカからの移民を日本に定住させるための特別ビザ制度を創設」などの情報が拡散しましたが、誤りです。「ホームタウン」認定は、交流強化を目指すものですが、特別にビザを発行したり、日本の土地や権利を譲渡したりするものではありません。 検証対象 8月24日、「日本は、山形県長井市をタンザニアに与える」「外務省は、長井市ほか3つの市をアフリカ人に与えることを提案」という投稿が拡散した。 投稿には「THE TANZANIA TIMES」「Japan Dedicates Nagai City To Tanzania」と書かれたスクリーンショットが添付されている。 8月25日現在、この投稿は2万件以上リポストされ、表示回数は403万回を超える。投稿について「外国人に譲らないで頂きたい」「本当にふざけている」というコメントの一方で「長井市がタンザニアになるわけないでしょ」という指摘もある。 千葉県木更津市についても、BBCの

By 木山竣策
人手不足のファクトチェック業界におけるAI活用/JFC検証5本、動画など【今週のファクトチェック】

人手不足のファクトチェック業界におけるAI活用/JFC検証5本、動画など【今週のファクトチェック】

ファクトチェックに限らずジャーナリズム業界全体が苦しんでいるのが、収入の低下です。購読収入も広告収入も寄付も伸びず、人員削減が世界中で止まりません。情報消費の中心が動画に移っていく中で、テキスト主体だったメディアも対応を迫られますが、人的なリソースが不足しています。 対策の一つとして注目されるのがAIです。自分たちの記事を読み込ませ、そこから音声や動画をAIに作成させる。ウェブサイトの信頼性格付けサービスNewsGuardが作るポッドキャストはGoogleのAI「NotebookLM」で、台本作りからAI音声による読み上げまで自動化しています(NewsGuard"Commentary: AI Made This Podcast — But We Made Sure it Got it Right")。 日本ファクトチェックセンター(JFC)が始めたポッドキャストも、同じ手法です。NotebookLMにJFCの1週間分のファクトチェック記事とJFCに関する基本的な情報をアップロードし、2人のAIパーソナリティが1週間の誤情報とその検証について対話する内容になっています。

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は9月20日(土)午後2時~3時15分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei0920.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にどの

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

JFCファクトチェッカー認定試験  教材と申し込みはこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)