小池都知事に不利なことを言うと退場させられる? 誤情報の再拡散【ファクトチェック】

小池百合子都知事に不利なことを言うと議会を退場させられるという情報が拡散しました。この情報は過去にも拡散しましたが、不正確です。都議が委員会で一時退席を命じられたことは事実ですが、当事者は議事に参加できないという条例にそった対応で、小池都知事に不利な発言をしたからではありません。
検証対象
2025年9月6日、「女帝独裁者小池百合子に不利なことを言うとそれだけで退場させられる。東京都は本気で腐敗しきってる」という動画つき投稿が拡散した。

9月11日現在、この投稿は1.8万件以上リポストされ、表示回数は811万回を超える。投稿について「東京都議会は本当に腐ってますね」「一刻も早くリコールするべき」というコメントの一方で「既にファクトチェックされてデマ認定されてますよ」という指摘もある。
検証過程
拡散した動画の内容は
日本ファクトチェックセンター(JFC)は以前も「小池知事が都議会で自身に批判的な議員を退席させた」という同様の投稿を検証し、「不正確」と判定している(JFC.”小池百合子都知事が都議会で自身に批判的な議員を退席させた?【ファクトチェック】”)。
前回拡散した動画は57秒で、今回拡散した動画は1分13秒。ともに同じような構成だ。
動画には東京都議会の様子が映っており、まず、関口健太郎都議(立憲民主党)が以下のように発言している。「知事の答弁拒否率は76%」「耳障りの悪いことを言う議員の質問は排除するのか」
それに対して、小池都知事が苦笑するような表情をする様子が映り、場面が変わって政策企画局長が「適切に答弁しており、指摘には当たりません」と答える。
次に「関口議員が除斥することに賛成の方はご起立願います」と言う声とともに、多数の議員が起立する様子が映り、「表現の自由、言論の自由の侵害じゃないか!」と声を上げる関口都議に退席が命じられている。
前回拡散した動画と同じような構成になっており、関口都議が「不穏当な発言」を理由に退席させられたような印象を与える編集だ。
議会の実際の流れがどうだったのか、前回の検証を引用する。
関口都議の冒頭発言は2024年3月13日
都議会の会議録によると、関口都議は、2024年3月13日の予算特別委員会で、2024年2月に開かれた都議会の代表質問・一般質問で計28人が小池都知事に136問の質問をし、知事自ら答えたのは80問で56問は「答弁拒否」をしたと説明。「答弁拒否率41%どうお考えですか」と質問している。
関口都議はさらに「質問した28人のうち21人は知事の答弁率100%」と前置きした上で、「(その他の)7人の議員が知事へ質問したのは74問。このうち知事が答弁したのはたった18問」「知事の答弁拒否率76%」と追及。「知事に耳触りの悪いことをいう議員の質問は排除するのか」と重ねて質問した。
これらの質問に対し、都の政策企画局長は「二元代表制の下、議会においてはこれまでも、ご質問の趣旨に応じて執行機関側として適切に答弁しており、ご指摘には当たらないと思っております。地方自治法の逐条解説によりますと、議会の審議に必要な説明について職員等へ委任することは、執行機関側の任意であるとされております」などと答弁している。
関口都議が退席を求められたのは3月26日
拡散した動画後半にある関口都議の退席のシーンは2024年3月26日の予算特別委員会だ。JFCは会議録と録画を確認した。
内山委員長が関口都議に関して「不穏当な発言の取消しを求める動議が文書をもって提出されました」と発言し、「関口健太郎委員の除斥について採決を行います」と採決している。
起立多数と認めた内山委員長は「関口委員が除斥することに決定いたしました」と発言し、関口都議が「何が不穏当だよ、表現の自由、言論の自由の侵害じゃないか」と声を上げ、野次が飛び交うなか内山委員長が退席を求める様子が映っている。
関口都議の退席後、映像の10分ごろから菅原委員が動議の趣旨説明をしている。
趣旨説明では、政策企画局長の答弁した地方自治法の解釈を肯定した上で「関口健太郎委員の『答弁拒否』『答弁差別』『質疑の排除』なる発言は、東京都議会議長の議事整理権に基づく発言を許可する権限を否定するものであり、議会の品位を著しく損なう言動であり、不穏当発言として断じて容認できません」などと主張している。
「除斥」とは、ある事案やその当事者に関係する人をその事案に関する議事などから取り除くことなどを言う。
関口議員の退席の理由は
検証対象の動画では小池都知事に対して批判的な発言をしたことが関口都議の退席の理由であるかのような編集となっている。
しかし、予算特別委の録画映像によると関口都議が退席を命じられたのは「関口健太郎委員の不穏当な発言の取消しを求める動議」の採決の前だ。
JFCは2024年6月の検証の際に、関口都議の退席理由について東京都に確認している。都議会議会局議事部議事課は以下のように回答した。
「『関口健太郎委員の不穏当な発言の取消しを求める動議』の採決の前段として、都議会委員会条例18条に則り、本人に採決時席を外すべきか否かを諮って決した」
東京都議会委員会条例18条は次のように規定している。
「委員は、自己若しくは父母、祖父母、配偶者、子、孫若しくは兄弟姉妹の一身上に関する事件又は自己若しくはこれらの者の従事する業務に直接の利害関係のある事件については、その議事に参与することができない」(東京都."東京都議会委員会条例 第十八条")。
関口都議以外に退席を求められた事例があるかどうかを確認したところ、議事課はこう答えた。
「東京都議会委員会条例18条に該当する事件の際、議員の間で合意が取れていれば自然発生的に除斥になることもある。今回は除斥するべき・するべきではないという意見が双方あったため採決という形に至ったが、他の議員に対しても同様の除斥が行われることがある」
実際に、関口都議が退席を求められた2024年3月26日予算特別委では、福手ゆう子都議(日本共産党)に対して「福手ゆう子委員の虚偽の発言の取消しを求める動議」が提出され、採決に先立って福手都議も除斥されている。
議事課によると、除斥された関口都議は、自身に関する動議の採決後、次の議事から自席に戻っている。
判定
関口健太郎都議が予算特別委で除斥され、退席したのは事実。しかし、自身が関係する議事に加われないという都議会の条例に基づく手続きで、小池都知事に不利な発言をしたからではない。よって「小池百合子に不利なことを言うとそれだけで退場させられる」はミスリードで不正確と判定する。
出典・参考
東京都議会. “令和6年予算特別委員会(第3号) 本文 2024-03-13”. 東京都議会 会議録検索. 公開日 2024年3月26日. https://www.record.gikai.metro.tokyo.lg.jp/719166?Template=document&Id=19198#all:1 , (閲覧日 2025年9月11日).
東京都議会. “令和6年予算特別委員会(第6号) 本文 2024-03-26”. 東京都議会 会議録検索. 公開日 2024年3月26日. https://www.record.gikai.metro.tokyo.lg.jp/904859?Template=document&Id=19264#all:1 , (閲覧日 2025年9月11日).
東京都議会. “令和6年第1回定例会 録画映像”. 公開日 2024年3月26日.https://www.gikai.metro.tokyo.lg.jp/live/video/240326.html , (閲覧日 2025年9月11日).
東京都."東京都議会委員会条例 第十八条". https://www.reiki.metro.tokyo.lg.jp/reiki/reiki_honbun/g101RG00000078.html#e000000427 , (閲覧日 2025年9月11日).
検証:木山竣策
編集:古田大輔
判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。
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