開票率0%で当選確実と報道するゼロ打ちは不正選挙? 取材と統計学に基づく精度の高い予測【ファクトチェック】

開票率0%で当選確実と報道するゼロ打ちは不正選挙? 取材と統計学に基づく精度の高い予測【ファクトチェック】

報道機関選挙のゼロ打ち(開票率0%で「当選確実」と報じること)について「ゼロ打ちすんな、選挙まで不正すんな」「#ゼロ打ちやめろ #不正選挙反対」といった言説が複数拡散しましたが誤りです。これはメディア各社が取材や統計学に基づいて非常に精度の高い予測を報じているものです。

検証対象

2024年10月27日に投開票される衆議院選挙について、報道機関の「ゼロ打ち」を投票が操作される不正選挙の証拠であるとするような言説が複数投稿されている(例1例2例3)。

検証過程

選挙において開票率が0%の段階でメディアが「当選確実」と報じることを「ゼロ打ち」「ゼロ票当打ち」などと呼ぶ。選挙報道では一般的な手法だ。

担当記者が選挙前から選挙区でどの候補者が優位に立っているかを各陣営などに取材。世論調査や期日前投票と当日の出口調査(投票所から出てきた人に誰に投票したか聞くこと)などで、その選挙区で誰がどれだけリードしているかを予測する。

逆転不可能なほどに差が開いている場合には、投票が締め切られた段階で、開票がまだ進んでいなくても「ゼロ打ち」をする。ゼロ打ちをするほどの差が開いていない場合には、開票が進み、改めて逆転は不可能と判断された段階で当選確実を報じる。

テレビ各局は選挙特番で開票速報を流しており、各新聞社もネットで速報を流す。翌朝の朝刊にもできるだけ多くの選挙結果を掲載するためにも速報は重要視されている。

世論調査や出口調査では自分の投票先に関して嘘をついたり、答えなかったりする人もいる。各社はその影響も加味した上で、統計学的に逆転不可能なラインを計算している。そのため「当選確実」という報道がひっくり返ることは非常に珍しい。

同様の言説は選挙のたびに拡散しているため、日本ファクトチェックセンター(JFC)は複数の検証記事を公開している。

愛知県知事選で不正選挙があった?【ファクトチェック】
2月に投開票された愛知県知事選挙で「不正選挙の疑い」との言説が拡散していますが誤りです。「開票率・得票率0%の段階で『当選』と発表」を根拠とした主張ですが、これはメディアが事前の出口調査などで投票締め切りと同時に当選確実とみなす「ゼロ票当打ち」によるものです。 検証対象 2023年2月5日に投開票された愛知県知事選をめぐって、不正選挙だというツイートが拡散した。開票率・得票率0%で当選が発表されたことを不正の根拠としており、表示回数は41万回、リツイートは3000件を超えている(2月13日現在)。 このツイートにリンクがある同名のサイトの記事には「ネット上の反応」として、「大村知事は不正選挙によって当選したのではないか」「最初から出来レースだったのではないか」などの声が紹介されており、不正を疑う根拠として「開票率・得票率ともにまだ0%の段階で、大村知事の当選が決まったかのように『当選マーク』が表示」と指摘されている。 このツイートのリプライには「え 不正だったってま?」「なんとかジャンプって、大統領選でありましたね」「ムサシは怪しい」など、不正選挙説を信じ
大阪府知事選の当確が早すぎる、不正選挙?ゼロ票打ちによるもの【ファクトチェック】
4月9日投開票の大阪府知事選挙で「当確が早すぎる」「不正選挙の疑い」などの言説が拡散していますが、誤りです。「開票率・得票率0%の段階で『当選』と発表」という主張がなされていますが、これはメディアが事前の出口調査などで投票締め切りと同時に当選確実を報道する「ゼロ票当打ち」によるものです。 検証対象 2023年4月9日に投開票された大阪府知事選をめぐって、不正選挙だというツイートが拡散した(例1、例2)。 表示回数は「例1」が85万回・リツイートは2700件を超えている(4月10日現在)。 開票率0%の段階での当選確実の報道をめぐっては、これまでにも「不正選挙」「出来レース」などの情報が選挙のたびに出てくる。日本ファクトチェックセンター(JFC)では、2月の愛知県知事選挙でも同様の検証を実施した。 今回は、当選報道の仕組みについて、より詳しく解説する。 検証過程 大阪府知事選は2023年4月9日午後8時、投票締切と同時刻にNHKや毎日放送などが一斉に大阪維新の会の吉村洋文候補の当選を報じた。この段階では、開票作業は進んでいないが、これは不正選挙の根拠

判定

ゼロ打ちとは取材や世論調査・出口調査のデータをもとに、統計学を用いて予測している。よって、「ゼロ打ちは不正選挙」は誤りと判定した。

あとがき

報道機関の「ゼロ打ち」に対して「開票速報のための取材に力をいれるよりも、候補者はどういう人物か、どのような政策を訴えているかを深く分析して報じてほしい」という批判があります。

同じような意見は他国でも見られ、誰が勝つかの予想ばかりに力をいれる選挙報道を「Horse race journalism(競馬報道)」と呼びます。

このような批判は考慮されるべきものですが、一方で「開票率0%で当選確実と報道しているから不正選挙だ」という主張は完全な誤りです。不正選挙とゼロ打ちはなんの関係もありません。

検証:木山竣策
編集:古田大輔


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

TikTokで拡散するAI生成によるクマ被害の偽動画に注意【ファクトチェック】

TikTokで拡散するAI生成によるクマ被害の偽動画に注意【ファクトチェック】

日本のクマ被害が深刻化していることをうけ、熊による被害を映した動画がTikTokで多数拡散しています。しかし、その中にはAIで生成された現実のものではない映像が多数混じっています。 熊が人を襲う動画が多数拡散 2025年10月、TikTokで「クマが柴犬くわえ逃走 どう対策」という動画が拡散した。 TikTokには、ほかにも「熊vsアルファード」などクマによる被害を撮影したような動画が複数拡散している(例1、例2、例3)。 動画には「熊射殺すべき」「怖い」というコメントの一方で「いくらAIでもやっていいことと悪いことがある」という指摘もある。 クマ被害の増加 近年、日本各地で深刻なクマ被害が相次いでいる。2025年度、クマに襲われて死亡した人は2025年10月30日現在で全国で12人にのぼり、過去最多の被害となっている(時事通信.”相次ぐクマ被害、対応限界も 市街地出没急増で苦慮―自治体”、環境省”クマに関する各種情報・取組”)。 被害の拡大に伴って、ソーシャルメディアにクマ関連の動画をアップする人が増えている。 AI生成のウォーターマーク

By 木山竣策
米トランプ大統領「サナエをイジメた奴はアメリカを敵に回す」と野党に警告? まとめサイトによる誤り【ファクトチェック】

米トランプ大統領「サナエをイジメた奴はアメリカを敵に回す」と野党に警告? まとめサイトによる誤り【ファクトチェック】

米トランプ大統領が「サナエをイジメた奴はアメリカ合衆国を敵に回すという事だ」と日本の野党に警告したかのような投稿が拡散しましたが、誤りです。トランプ氏がそのような発言をしたという情報も報道もありません。 検証対象 拡散した言説 2025年10月28日、「トランプ大統領 日本の野党に警告『サナエをイジメた奴はアメリカ合衆国を敵に回すという事だ』」という投稿がXで拡散した。 検証する理由 10月31日現在、この投稿は4900回以上リポストされ、表示は147万件を超える。 投稿には「これ本当ですか❓」等の指摘もあるが、「高市首相自体高支持率 更にトランプ大統領のバック 鬼に金棒」「素晴らしい👍正直トランプはジャイアンかよってずっと思ってたけど、弁えてたんだと見直した」など同調のコメントも多い。 検証過程 投稿はまとめサイトによるもの 参照記事に該当する記述なし 検証対象のリンクは、まとめサイト「Tweeter Breaking News —ツイッ速!」の記事だ。タイトルは掲示板サイト2ちゃんねるのスレッド「トランプ大統領 日本の野党に警告『サ

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
宮城県知事選、期日前投票数が前回の31倍なのに投票率が低いのは不正? 「衆院とのダブル選」という特殊事情【ファクトチェック】

宮城県知事選、期日前投票数が前回の31倍なのに投票率が低いのは不正? 「衆院とのダブル選」という特殊事情【ファクトチェック】

宮城県知事選について「期日前投票が前回の31倍だったのに、当日の投票率の低さは不自然」「不正選挙」などの言説が拡散しましたが、ミスリードで不正確です。期日前投票の最初の3日間に投票した有権者数は前回の31倍でしたが、前回は投票日が衆院選と重なるダブル選挙でした。知事選は選挙期間が17日間、衆院選は12日間。「31倍」だったのは、知事選のみの投票期間である最初の3日間のデータで、今回とは比較条件が大きく異なります。期日前投票の総数は、前回の約1割増にとどまっており、不正選挙を示すデータとは言えません。 検証対象 拡散した言説 2025年10月26日から27日頃にかけて、26日投開票の宮城県知事選で、「期日前投票が前回の31倍だったのに、当日の投票率の低さは不自然ではないか」と、選挙で不正があったのではないかと示唆する趣旨の言説が拡散した(例1,2,3)。 検証する理由 選挙で不正があったのではという指摘は国政選挙のたびに拡散する。今回の宮城県知事選は異例の注目を集めたことで、不正選挙の指摘も出た。 検証過程 期日前投票最初の3日で「前回の31倍

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
安倍元首相が日本の年収を下げていた? グラフの読み間違い【ファクトチェック】

安倍元首相が日本の年収を下げていた? グラフの読み間違い【ファクトチェック】

「安倍元首相が日本の年収を下げていた」という文言とともにグラフ付きの画像が拡散しましたが、誤りです。グラフで年収が下がっていると強調されている時期は小泉純一郎政権です。第一次や、第二次安倍政権発足以降の年収はともに上昇傾向にありました。 検証対象 2025年10月27日、「【悲報】安倍晋三、凄まじい勢いで日本人の平均年収を下げていたことが判明wwww」という画像つき投稿が拡散した。 10月30日現在、この投稿は削除されているが、同じ画像を使った投稿が拡散している。 検証過程 画像のグラフは 画像のグラフをGoogleレンズで検索すると、2011年3月2日に「ITmedia ビジネスオンライン」が投稿した「コツコツお金を貯める人が、減っている理由」という記事がみつかる。拡散したグラフは、この記事に添付された内容と同じだ。 記事は「1998年を境に日本の平均年収が減少し、コツコツと貯金する人も減っている」と書いている。拡散したグラフは「ビジネスパーソンの平均年収(横軸は年、出典:年収ラボ)」というタイトルで記事内で紹介され、1998年以降にビジネスパ

By 木山竣策

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は11月28日(土)午後5時~6時30分で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1128.peatix.com/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的にど

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)