南アなど10か国の在留資格者を再入国禁止に? 2021年のコロナ禍の映像【ファクトチェック】

南アなど10か国の在留資格者を再入国禁止に? 2021年のコロナ禍の映像【ファクトチェック】

南アフリカなど10か国の在留資格を持つ外国人の再入国を禁止するかのような言説が拡散しましたが、誤りです。拡散した動画は2021年末、松野博一官房長官(当時)が、新型コロナウィルスの水際対策について説明しているものです。

検証対象

拡散した言説

2025年10月27日、「それが当たり前 今までの石破や岩屋のクズぶりが 分かる🤣‼️」という文言付きの動画がXで拡散した。

動画には「10カ国が対象 在留資格持つ外国人 再入国を禁止」とあり、首相官邸で松野官房長官が内容を説明している。

検証する理由

10月29日現在、投稿は3800回以上リポストされ、表示は89.7万件を超える。

投稿には「これ昔の動画ですよね?」「よくこんな数年前の動画持ってきたね」等の指摘もあるが、「今来ている外国人も減らしてください 子を産み選挙権を与えたら日本は終わります」「移民受け入れ反対運動を決行された全国の皆様もきっと喜んでいると思います」など同調のコメントが多数ある。

検証過程

動画は2021年の新型コロナ対策に関するニュース

拡散した動画は52秒で、NNNのニュース映像から切り出したものと見られる。

松野氏が官房長官を務めたのは、第1次~第2次岸田内閣 第2次改造内閣の2021年10月4日から2023年12月14日までだ(首相官邸”歴代内閣”)。この会見の内容は、首相官邸のウェブサイトで確認できる。

冒頭から2分20秒ごろ、松野氏は、新型コロナウィルス・オミクロン株で国内初の感染者が確認されたことへの対応を問われて、次のように回答している。

「南アフリカ等最も厳しい10日間の待機対象となっている現在10カ国の指定国・地域については、オミクロン株の発生を受け、予防的観点から、外国人の新規入国のみならず、在留資格を保持する外国人の再入国についても当分の間、特段の事情がない限り拒否することといたしました。このうちモザンビークおよびアンゴラについては必要な手続きを終え次第、可及的速やかに措置の対象といたします。引き続き強い危機感を持って状況の把握に努めるとともに、各国の感染状況を踏まえ、機動的にかつスピード感を持って必要な判断を行っていく考えであります」(首相官邸”内閣官房長官記者会見 令和3年12月1日(水)午前”)

拡散した動画は「オミクロン株の発生を受け、予防的観点から」という部分を省き、会見を短く編集している。

拡散した投稿を読むと、まるで石破茂前政権から交代した高市早苗政権が、南アなど10か国の在留資格を持つ外国人の再入国を禁止したかのような印象を受ける。しかし、根拠とされている動画は2021年当時のものだ。

医療費滞納外国人など再入国拒否へ

外国人の入国審査を厳しくする動きがあることは確かだ。

2025年6月、日経新聞は、政府が中長期滞在の外国人が医療費を滞納した場合、再度の入国を拒否できるようにする方針を示したと伝えている(日経新聞”医療費滞納の外国人、中長期滞在者も再入国拒否へ 関係閣僚会議”2025年6月6日)。

朝日新聞は、外国人の中長期の在留資格をめぐり、一定の社会保険料の未納や医療費の不払いがある場合、在留期間の更新などを認めない「厳格審査」を導入する方針を固め、出入国在留管理庁と厚生労働省が2027年6月までの導入をめざしていると報じた(朝日新聞”「ルール守らない外国人」強調する政府自民 国保未納など厳格審査へ”2025年6月9日)。

10月24日に所信表明演説した高市首相も、一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱には毅然と対応すると述べている(首相官邸”第219回国会における高市内閣総理大臣所信表明演説”)。

しかし、10月29日現在、政府が南アなど10か国の在留資格を持つ外国人の再入国を禁止するという情報はない。

判定

南アなど10か国の在留資格を持つ外国人の再入国が禁止になるかのような言説が拡散した。しかし拡散した動画は2021年末、新型コロナの水際対策について、松野官房長官(当時)が記者会見しているもので、2025年10月の発言ではない。よって、誤りと判定する。

出典・参考

首相官邸.”歴代内閣”.https://www.kantei.go.jp/jp/rekidainaikaku/index.html,(閲覧日2025年10月29日).

首相官邸.”内閣官房長官記者会見 令和3年12月1日(水)午前”.
https://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/202112/1_a.html,(閲覧日2025年10月29日).

日経新聞.”医療費滞納の外国人、中長期滞在者も再入国拒否へ 関係閣僚会議”2025年6月6日.
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA05DAC0V00C25A6000000/,(閲覧日2025年10月29日).

朝日新聞.”「ルール守らない外国人」強調する政府自民 国保未納など厳格審査へ”2025年6月9日.
https://digital.asahi.com/articles/AST691SD7T69UTIL003M.html,(閲覧日2025年10月29日).

首相官邸.”第219回国会における高市内閣総理大臣所信表明演説”.
https://digital.asahi.com/articles/AST691SD7T69UTIL003M.html,(閲覧日2025年10月29日).

検証:根津綾子
編集:古田大輔、藤森かもめ


判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

もっと見る

AIの「回答のばらつき」と「政治的バイアス」をどう防ぐ? 【GlobalFact2026報告③】

AIの「回答のばらつき」と「政治的バイアス」をどう防ぐ? 【GlobalFact2026報告③】

国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の「グローバル・ファクト2026」では、ファクトチェックへのAIの活用やリスクについて、多くのパネル討論が開かれました。中でも、AIの信頼性に関する議論は、ファクトチェッカーたちが最も危機感を募らせたテーマの一つです。AIはどの程度信用できるのか。登壇者たちが報告したAIの問題点と、改善に向けた取り組みを紹介します。 世界最大のファクトチェッカー「AI」を監視せよ 同一プロンプトなのに、日によって変わる回答 英国のファクトチェック団体Full Factは、AIが提示する情報の信頼性について、独自に分析した結果を発表しました。登壇したのは、団体のCEO・Chris Morris氏と、AI部門責任者Andrew Dudfield氏です。 Full Factは2009年創設。2025年の総収入305万ポンド(約6億円)規模の非営利団体で、活動資金は個人の寄付や財団、テック企業などからの資金でまかなっています。政治家の発言やネット上の誤情報を多数検証してきた実績がありますが、2025年、主要な資金源の一つだったGoog

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
詐欺対策ボットからディープフェイク判定まで、偽・誤情報対策におけるAI活用【GlobalFact2026報告②】

詐欺対策ボットからディープフェイク判定まで、偽・誤情報対策におけるAI活用【GlobalFact2026報告②】

国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の「グローバル・ファクト2026」で、注目を集めたテーマの一つがAIです。偽情報を大量に生み出す「脅威」であると同時に、ファクトチェックを支える「味方」にもなる。そうしたAIの二面性を象徴するような報告や議論が、随所で交わされました。 詐欺対策からヘイトスピーチ監視まで、現場で進むAI活用 3日間にわたる会議の中で、初日から、AIを活用した成功例が次々と報告されました。特に印象的だった3つの事例を紹介します。  オンライン詐欺対策にAIチャットボット インドのファクトチェック団体The Quintからは、オンライン詐欺対策用に開発したAIチャットボット「Scamguard」の紹介がありました。 The Quintは、インドで発生しているオンライン詐欺の手口をまとめたデータベースをつくり、そのデータベースとWhatsAppなどのメッセージアプリをつないだチャットボットを作成。不審なメッセージを受け取ったユーザーが、アプリのチャットボットに転送すると、ボットが詐欺の見分け方や政府の窓口の情報などを案内する仕組みを

By 根津 綾子(Ayako Nezu)
GlobalFact報告記事1/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

GlobalFact報告記事1/JFC記事・動画や関連記事【今週のファクトチェック】

6月に開催された国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)の年次総会GlobalFact2026について、報告記事の第一弾を公開しました。 ファクトチェックや情報環境を取り巻く問題の全体的な状況について、登壇者らの声を引用しています。今後、AIや認知戦など個別のトピックについても報告記事を書いていきます。ご期待ください。 ✉️日本ファクトチェックセンター(JFC)がこの1週間に出した記事を中心に、その他のメディアも含めて、ファクトチェックや偽情報関連の情報をまとめました。同じ内容をニュースレターでも配信しています。登録はこちら。 今週のお知らせ JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら 日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は7月25日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 日本ファクトチェックセンター(JFC) ファクトチェック講師

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
ファクトチェックという「公共財」をどう支えるか ビジネスへの活用策は【GlobalFact2026報告①】

ファクトチェックという「公共財」をどう支えるか ビジネスへの活用策は【GlobalFact2026報告①】

世界のファクトチェッカーが集まる「GlobalFact 2026」が6月17〜19日、リトアニアのヴィリニュスで開かれ、約80カ国から300人超が参加しました。テーマは、AIをはじめとするテクノロジー、海外からの影響工作、オンライン詐欺、そしてファクトチェックの持続可能性など、多岐にわたりました。 日本ファクトチェックセンター(JFC)から5年連続で参加している筆者(古田)らが、登壇者たちの言葉を交えて報告します。初回は、ファクトチェック業界が直面する資金不足とその対策についてです。 IFCN代表が語る「検閲批判」や「ビジネスモデルの切り崩し」 主催した国際ファクトチェックネットワーク(IFCN)のAngie Drobnic Holan代表は、開会挨拶で業界への逆風を次のように述べました。 「私たちは公平で非党派的であろうと最大限努めても、偏向していると非難されてきた」「私たちのビジネスモデルは切り崩されている。AIが生成する要約や、正確性に投資せず注目(アテンション)だけで利益を得る独占的プラットフォームによって」(PolitiFact”At Globa

By 古田大輔(Daisuke Furuta)

ファクトチェック講座

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は7月25日(土)午後4時~5時30分で、お申し込みはこちら。 日本ファクトチェックセンター(JFC) ファクトチェック講師養成講座 7月25日(土)開催分日本ファクトチェックセンター(JFC)による講師養成講座です。 講師養成講座(オンラインで90分)を受講いただいた後、修了課題を提出された方には、教室や職場などで利用可能な教材の提... powered by Peatix : More than a ticket.Peatix 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

理論から実践まで学べるJFCファクトチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験

By 古田大輔(Daisuke Furuta)
JFCファクトチェッカー認定試験

JFCファクトチェッカー認定試験

日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や騙されない人の行動

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)