毎年16億円の税金が「救う会」へ流れている? 政府「公金の支出はない」【ファクトチェック】

毎年16億円の税金が「救う会」へ流れている? 政府「公金の支出はない」【ファクトチェック】

毎年16億円の税金が「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)」に支出されていると主張する投稿が拡散しましたが、誤りです。救う会全国協議会や加盟組織が公表する決算報告には公金による収入があったことを示す記述はありません。政府の拉致問題対策本部も公金支出を否定しています。

検証対象

2025年2月26日、「拉致問題は茶番劇です 血税から毎年 16億円 搾取」と主張する投稿が拡散した。

投稿は2000件以上のリポストと170万件以上のインプレッションを獲得している。「毎年16億円って何に消費されてるの?被害者家族で集まって食事会ですかね?」「一種の拉致被害ビジネスになっておるのなら、ソレはソレで解決しないほうが、イイよなあ」などのコメントがつく一方で、「どこからの情報ですか?」「陰謀論」などの指摘もある。

検証過程

「救う会」とは

拡散した投稿で名指しされた「救う会」とは「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会」のことだ。

1997年3月、拉致被害者の家族によって「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)」が結成された。「救う会」はそれに呼応して各地に設立された支援組織をまとめるために1998年4月に結成された民間団体だ(救う会)。

「救う会」は「家族会」と共に首相に面会したり合同会議を開くなど連携して活動しているものの、別の団体だ。

全国協議会と加盟組織の決算

「救う会」は、公式サイトで全国協議会と加盟する地方組織の決算を毎年公表している。

全国協議会2024年度決算によれば、同年度の当期収入は約2900万円。その内訳はカンパによる「支援金」が約2300万円、「救う会」が販売しているブルーリボンバッジによる支援金が約280万円、その他に集会やセミナーによる収入や資料頒布などによる雑収入などが計上されている。前期繰越収支差額は約5900万円で、2024年度の収入合計は約8800万円だ。

公開されている加盟組織決算報告で最新のものは2023年度、決算報告に記載がある22の加盟組織の収入は、いずれも支援金・寄付金や会費、事業やバッジ販売による収入で、約3.6万円(青年の会)~約190万円(埼玉)。前年度繰越金は最も多い群馬で約110万円だ。

「救う会」の決算報告には公費による収入の項目は見受けられず、また、16億円の収入が毎年あることも示されていない。

内閣官房の拉致問題対策本部に取材

日本ファクトチェックセンター(JFC)は、内閣官房・拉致問題対策本部事務局に取材した。

「救う会」全国協議会・加盟団体や「家族会」へ政府からの支出があるか、また「16億円」という金額に心当たりがあるかなどを質問したところ、「当該団体に対して、公金を支出している事実はありません」と回答があった。

JFCは「救う会」全国協議会事務局へも取材を申し込んだが、回答は得られなかった。

検証対象の主張には根拠が示されていない

「救う会」は決算を公開していて、そこに公費からの収入や16億円の収入は記載されていないことから、仮に検証対象の主張が真実であるならば「救う会」の決算が虚偽ということになる。しかし、検証対象の主張には根拠が一切示されていない。

拡散した投稿に対してJFC編集長の古田大輔が主張の根拠をXのリプライ機能で質問したが、投稿者から3月7日時点で回答は得られていない。今後、回答があれば速やかに追記する。

判定

毎年16億円の税金が「救う会」に支出されているとの主張は誤り。「救う会」全国協議会・加盟組織の決算の内容と大幅に乖離がある上に、16億円に関する根拠が一切示されていない。政府の拉致問題対策本部も「救う会」全国協議会・加盟組織や「家族会」への公金支出を否定している。

検証:リサーチチーム
編集:宮本聖二、藤森かもめ、野上英文、古田大輔

判定基準などはJFCファクトチェック指針をご参照ください。

毎週、ファクトチェック情報をまとめて届けるニュースレター登録(無料)は、上のボタンから。また、QRコード(またはこのリンク)からLINEでJFCをフォローし、気になる情報を質問すると、AIが関連性の高いJFC記事をお届けします。詳しくはこちら

ファクトチェックやメディア情報リテラシーについて学びたい方は、こちらの無料講座をご覧ください。ファクトチェッカー認定試験や講師養成講座も提供しています。

理論から実践まで学べるJFCファクチェック講座 20本の動画と記事を一挙紹介
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、YouTubeで学ぶ「JFCファクトチェック講座」を公開しました。誰でも無料で視聴可能で、広がる偽・誤情報に対して自分で実践できるファクトチェックやメディアリテラシーの知識を学ぶことができます。 理論編と実践編の中身 理論編では、偽・誤情報の日本での影響を調べた2万人調査の紹介や、間違った情報を信じてしまう背景にある人間のバイアス、大規模に拡散するSNSアルゴリズムなどを解説しています。 実践編では、画像や動画や生成AIなど、偽・誤情報をどのように検証したら良いかをJFCが検証してきた事例から具体的に学びます。 JFCファクトチェッカー認定試験を開始 2024年7月29日から、これらの内容について習熟度を確認するJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。誰でもいつでも受験可能です(2024年度中は受験料1000円、2025年度から2000円)。 合格者には様々な技能をデジタル証明するオープンバッジ・ネットワークを活用して、JFCファクトチェッカーの認定証を発行します。 JFCファクトチェッカー認定試験
JFCファクトチェッカー認定試験 教材と申し込みはこちら
日本ファクトチェックセンター(JFC)はJFCファクトチェッカー認定試験を開始します。YouTubeで公開しているファクトチェック講座から出題し、合格者に認定証を授与します。 拡散する偽・誤情報から身を守るために 偽・誤情報の拡散は増える一方で、皆さんが日常的に使用しているSNSや動画プラットフォームに蔓延しています。偽広告や偽サイトへのリンクなどによる詐欺被害も広がっています。 JFCが国際大学グロコムと実施した2万人を対象とする調査では、実際に拡散した偽・誤情報を51.5%の割合で「正しいと思う」と答え、「誤っている」と気づけたのは14.5%でした。 自分が目にする情報に大量に間違っているものがある。そして、誰もが持つバイアスによって、それが自分の感覚に近ければ「正しい」と受け取る傾向がある。インターネットはその傾向を増幅する。 だからこそ、ファクトチェックやメディアリテラシーに関する知識が誰にとっても必須です。 JFCファクトチェック講座と認定試験 JFCファクトチェック講座(YouTube, 記事)は、2万人調査を元に偽・誤情報の拡散経路や
JFCファクトチェック講師養成講座 申込はこちら
日本ファクトチェックセンター(JFC)は、ファクトチェックやメディア情報リテラシーに関する講師養成講座を月に1度開催しています。講座はオンラインで90分間。修了者には認定バッジと教室や職場などで利用可能な教材を提供します。 次回の開講は12月22日で、お申し込みはこちら。 https://jfcyousei1222.peatix.com/event/4221579/view 受講条件はファクトチェッカー認定試験に合格していること。講師養成講座は1回の受講で修了となります。 受講生には教材を提供 デマや不確かな情報が蔓延する中で、自衛策が求められています。「気をつけて」というだけでは、対策になりません。最初から騙されたい人はいません。誰だって気をつけているのに、誤った情報を信じてしまうところに問題があります。 JFCが国際大学グロコムと協力して実施した「2万人調査」では実に51.5%の人が誤った情報を「正しい」と答えました。一般に思われているよりも、人は騙されやすいという事実は、様々な調査で裏打ちされています。 JFCではこれらの調査をもとに、具体的に

もっと見る

黄砂は中国の農業が引き起こしている? 無関係な動画【ファクトチェック】

黄砂は中国の農業が引き起こしている? 無関係な動画【ファクトチェック】

多数のトラクターが砂塵を巻き上げながら走っている動画と共に「黄砂は中国の人工的なテロ」と主張する投稿が拡散しましたが、誤りです。拡散した動画はブラジルの農業風景を映したもので、中国は関係ありません。動画はこれまでにも世界中で違う文脈で拡散しています。 検証対象 2025年3月13日、「黄砂🇨🇳って人工的なテロだったんだね…」と書かれた投稿が拡散した。多数のトラクターが砂塵や土埃のようなものを巻き上げながら走っている様子が映った動画が添付されている。 投稿は約1500件のリポストと約17万件のインプレッションを獲得している。「日本に飛来するようにわざとやってます⁉」「もしかしてワタシの持病の粉塵アレルギーや気管支喘息ももしかしてコレの所為?」などのコメントが付く一方で、フェイクを指摘する声もある。 検証過程 過去に中国とは別の文脈で拡散した動画 日本ファクトチェックセンター(JFC)が投稿に添付された動画の一部をGoogle画像検索で調べたところ、同じ動画を使ったYouTube動画やXの投稿がヒットした(投稿1、投稿2、投稿3)。 これらの投稿

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
兵庫県百条委、告発7つを全否定? テレビ画像を加工【ファクトチェック】

兵庫県百条委、告発7つを全否定? テレビ画像を加工【ファクトチェック】

兵庫県・斎藤元彦知事に関する県議会の百条委員会が、告発された7項目全てを否定したという情報が拡散しましたが、誤りです。根拠とされたテレビ画像は加工されています。 検証対象 2025年3月9日、「7つの告発」という見出しに、「職員へのパワハラ」「不当な解任で理事長急死」など、斉藤知事に対する告発の7項目が書かれ、いずれもバツ印と「否」の文字がついているテレビ番組と思われる画像の投稿が拡散した。「百条委員会ってやる意味あったの?」という文言がついている。 3月14日現在、46万以上の閲覧と280あまりのリポストがついて、「結論ありきでホント酷かった」「ないですよね…微塵も」「時間と税金の無駄遣い委員会」などのコメントがついている。一方、コミュニティノートが付き「加工された画像」だと指摘している。 検証過程 画像はサンデージャポンの一場面 拡散した画像の右上には爆笑問題の太田光さんらが映っており、TBS「サンデージャポン」のように見える。拡散した投稿のリプ欄にはサンデージャポンの該当箇所と思われる動画をつけた投稿もある。 この動画を見ると、拡散した画像

By 宮本聖二
新型コロナワクチンで寿命が短くなる? 根拠不明のデータ【ファクトチェック】

新型コロナワクチンで寿命が短くなる? 根拠不明のデータ【ファクトチェック】

新型コロナワクチンで寿命が短くなることを示したデータがあるという情報が拡散しましたが、根拠不明です。同じような情報が過去に世界でたびたび拡散していますが、いずれも「根拠不明」と判定されています。 検証対象 2025年2月12日ごろから、30歳の人が3回新型コロナワクチンを打ったら55歳までしか生きられないデータが出たという主張や、新型コロナワクチンは人口削減ワクチンだなどと言う投稿がXで複数拡散した(例1、例2)。 投稿は、多いものは3000回以上リポストされ、表示は269.3万回を超える。投稿には「そもそも政府がグレートリセットって発言されてます」「3回打たされた小中学生はどうなるんだろう…」などのコメントのほか「統計出せるほど年数経ってませんがね」「どうやってデータ取ったんだよ笑」という批判もある。 検証過程 新型コロナワクチンの接種から約4年しか経っていない 検証対象は、「30歳の人が3回コロナワクチンを打ったら55歳までしか生きられないデータが出た」「統計が出ている」などと主張する。同ワクチンの一般人への接種が始まったのは英国が初めてで、2

By 日本ファクトチェックセンター(JFC)
菅元首相がワクチン注射を誤魔化した? 映像の角度によるもの【ファクトチェック】

菅元首相がワクチン注射を誤魔化した? 映像の角度によるもの【ファクトチェック】

菅義偉元首相が「刺すと引っ込む針」を使ってワクチン接種を誤魔化したという情報が拡散しましたが、誤りです。拡散した動画では注射針が消えたように見える場面がありますが、別の映像では針がはっきりと映っています。 検証対象 2025年3月3日、菅元首相(当時)が2021年3月16日に新型コロナのワクチン接種をする動画とともに「日本国民のみなさん、まだ騙されたままですか? 首相を含め政府関係者が、インチキなAIR接種をしてることに気づきましょう」という投稿が拡散した。 この動画を見ると注射の針が消えているように見える場面がある。そこを指摘して「刺すと引っ込む針ですね」「生物兵器であることを知ってて、わざわざ自分から打つわけないでしょ」などのコメントがついている。この投稿は910万の閲覧と2500を超えるリポストがある。 検証過程 拡散した動画の内容は 投稿につけられた動画は15秒。マスク姿の菅氏が注射を受けている。医者が注射を取り出すと針が飛び出たように見える。これが「刺すと引っ込む針」「AIR注射」などと批判が出る根拠となっている。 動画の左上にはテレビ

By 宮本聖二